事業再生ADRとは?利用条件やメリットをわかりやすく解説

事業再生ADRとは?利用条件やメリットをわかりやすく解説

「事業再生ADRとは何か?」

「自社の経営を立て直すために、どのような手続きを踏めばいいのか?」

「取引先に迷惑をかけずに再建したい」

など、多くの疑問や不安があることでしょう。

経営が苦境に立たされている企業にとって、事業再生の道を模索することは避けて通れない課題です。特に、多額の債務を抱え、倒産の危機に瀕している企業にとっては、迅速かつ効果的な解決策が求められます。

そんな時に有効な手段の一つが「事業再生ADR(Alternative Dispute Resolution)」です。

この記事では、事業再生ADRの基本的な概念から、その利用条件、具体的なメリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。

事業再生ADRとは裁判外手続きで事業再生を図る制度

事業再生ADR(Alternative Dispute Resolution)は、裁判外で企業の再建を図るための有効な手段です。迅速かつ公正な手続きが可能であり、第三者機関の関与によって透明性と信頼性が確保されます。

手続きが非公開で行われるため、企業の信用低下を防ぎながら再建を進めることが可能です。

以下に、事業再生ADRについて解説します。

  • 事業再生ADRと民事再生の違いは?
  • 事業再生ADRを利用するための条件
  • 事業再生ADRは事実上大企業のみが利用する制度

事業再生ADRと民事再生の違いは?

事業再生ADRと民事再生は、いずれも企業再建のための手段ですが、その手続き方法と公表の有無に大きな違いがあります。

事業再生ADRは非公開の手続きであり、企業の信用を保ちながら柔軟に再建を進められます。一方、民事再生は裁判所の介入があり、手続きが公表されるため、社会的な影響が大きいです。

事業再生ADRは非公開で行われるため、手続きの事実が公表されず、企業の信用やブランドイメージが損なわれるリスクを回避できます。民事再生は裁判所の関与が必要であり、手続きの開始が公表されるため、企業の信用低下や取引先への影響が大きくなる可能性があります。

事業再生ADRでは、債権者と債務者が直接交渉するため、各当事者のニーズに応じた柔軟な解決策を見つけやすいです。民事再生では裁判所が介入するため、法律に基づいた厳格な手続きが求められ、手続きが複雑になり、迅速な解決が難しい場合があります。

事業再生ADRは手続き費用が比較的高額であり、特に審査料や業務委託料が発生しますが、非公開で迅速に進むため、長期的なコスト削減が期待できます。

民事再生は裁判所手続きが必要なため、弁護士費用や裁判費用がかかり、手続きが長期化する可能性があり、その間の運転資金の確保が課題です。

事業再生ADRと民事再生は、それぞれ異なる特徴を持つ再建手段です。

事業再生ADRを利用するための条件

事業再生ADRを利用するための条件

事業再生ADRを利用するには、特定の条件を満たす必要があります。

これらの条件は、企業の経営状況や再生計画の実現可能性を判断するために設定されています。

  1. 過剰債務の状況企業が過剰債務を抱えており、自力での再生が困難であることが必要です。
  2. 事業の将来性企業が技術や人材などの事業基盤を有し、事業に収益性と将来性があることが求められます。
  3. 信用力の低下リスク民事再生法や会社更生法などの法的整理手続きによる信用力の低下が懸念される場合、事業再生ADRが選択されます。
  4. 債権者の利益事業再生ADRによって、債権者が破産手続きよりも多く回収できる可能性があることが求められます。
  5. 事業再生計画の実現可能性手続実施者選任予定者の意見や助言に基づき、公正かつ経済的合理性を有する事業再生計画案を策定できることが必要です。

条件をクリアすることで、企業は事業再生ADRを通じて効果的な再建を目指せます。

事業再生ADRは事実上大企業のみが利用する制度

事業再生ADRは、法的再生と私的再生の中間に位置する手続きで、企業が経営危機に直面した際の再建手段の一つです。

しかし、事実上、大企業のみが利用する制度となっています。これは、高額な手続き費用や複雑な手続きが中小企業にとって大きな負担となるためです。

事業再生ADRの手続きには、一般的に多額の費用がかかり、審査料や業務委託料、報酬金など総額で数百万円以上の費用が発生します。このため、経営が厳しい中小企業には負担が大きく、利用が難しい状況です。

また、第三者機関の関与により公正かつ透明な手続きが行われますが、その分手続きが複雑で時間がかかります。中小企業には、こうした手続きに対応するためのリソースが不足している場合が多いです。

事業再生ADRは、高額な手続き費用や複雑な手続きのため、事実上大企業のみが利用できる制度となっています。

しかし、公正かつ透明な手続きによって企業再建を支援する有効な手段であり、適切な準備と支援を受けることで成功の可能性が高まります。

事業再生ADRの6つのメリット

事業再生ADRの6つのメリット

事業再生ADRは、企業が裁判外で再生を図るための手続きで、多くのメリットがあります。特に、透明性と効率性を高めることで企業の再建を支援し、債権者との信頼関係を築きやすくすることが特徴です。

以下に事業再生ADRの6つのメリットを解説します。

  • 事業再生ADRを利用している事実は公表されない
  • 従来どおり円滑な商取引を継続することができる
  • 債権者が放棄した債権は損金算入が可能
  • 第三者機関がサポートするので公平性や信頼性がある
  • 運転資金に充てるつなぎ融資が受けやすくなる
  • 企業再生税制等の税制優遇がある

事業再生ADRを利用している事実は公表されない

事業再生ADRを利用する場合、その手続きは公表されません。これにより、企業の信用低下や風評被害を避け、経営再建をスムーズに進めることが可能です。

事業再生ADRは裁判外での手続きであり、法的手続きとは異なり、公表義務がありません。法的整理の場合、手続きの開始が公告されるため、企業の信用が低下するリスクがあります。

しかし、事業再生ADRは非公開で進められるため、このリスクを回避できます。公表されないことで、企業の取引先や顧客に対する不安を最小限に抑え、事業価値の維持が可能なため、再建後の事業継続が円滑になります。

再建を目指す企業にとって、事業再生ADRは有効な選択肢と言えるでしょう。

従来どおり円滑な商取引を継続することができる

事業再生ADRを利用することで、従来の商取引を円滑に継続することが可能です。

私的整理と同じく、債権者と金融債務者の間で行われるため、取引先に知られずに進められるからです。手続きが非公開で進行するため、上場会社の上場維持が可能であり、取引先や顧客に対する不安や影響を最小限に抑えられます。

法的整理手続きと異なり、事業再生ADRでは商取引債権者に対する返済が停止されないため、通常の取引を継続でき、取引先からの信頼を維持しやすくなります。

また、手続きが迅速に進行するため、商取引における影響を最小限に抑えることが可能です。

債権者が放棄した債権は損金算入が可能

事業再生ADRを利用すると、債権者が放棄した債権は損金算入が可能となり、債権者にとって税務上の大きなメリットがあります。これにより、債権者が再建計画に協力しやすくなり、企業の再生が円滑に進む可能性が高まります。

事業再生ADRでは、債権者が放棄した債権を損金として税務上の損失に計上することが可能です。

私的整理の手続きでは個別に税務署の判断を仰ぐ必要がありますが、事業再生ADRでは一律に損金算入が認められるため、税務上の不確実性が排除されます。

損金算入が認められることで、債権者は税負担を軽減でき、企業の再生がスムーズに進む可能性が高まります。

第三者機関がサポートするので公平性や信頼性がある

事業再生ADRは、裁判外の手続きを通じて企業の再生を支援する制度であり、第三者機関のサポートによって公平性と信頼性が確保されています。

事業再生ADRには、公認会計士や弁護士などの専門家が関与しており、企業の財務状況や事業計画を詳細に分析し、最適な再生計画の提案が可能です。

公正取引委員会や経済産業省などの監督下で運営されるため、公平性が担保されています。第三者機関の専門的なサポートにより、多くの企業がこの制度を利用して経営の立て直しに成功しています。

運転資金に充てるつなぎ融資が受けやすくなる

事業再生ADRを活用することにより、企業は運転資金に充てるつなぎ融資を受けやすくなり、再建手続き中の事業継続が安定し、再建計画の実行が円滑に進むことが期待できます。

この制度には、中小企業基盤整備機構が提供する債務保証や事業再生円滑化関連保証といった支援措置が設けられています。事業再生ADRから法的整理へ移行する場合でも、特定認証紛争解決事業者のサポートにより、手続きがスムーズです。

中小企業基盤整備機構や事業再生円滑化関連保証などの支援措置により、金融機関からの融資が円滑に進むため、再建計画の実行が安定します。

事業再生ADRを活用することで、企業は信用力を保ちながら、必要な運転資金を確保し、再建計画を成功に導けます。

企業再生税制等の税制優遇がある

事業再生ADRを利用することで、企業は企業再生税制などの税制優遇を受けられ、経済的負担を軽減し、再生計画を実行しやすくなります。事業再生ADRを通じて得られる債務免除益や評価損益は、特定の税制優遇措置の対象となります。

債権者からの債務免除益は通常課税対象ですが、事業再生ADRを利用することで、これらの利益を損金として計上することが可能です。

また、債権者も債権放棄を行う場合、その損失を損金として計上することが認められ、税務上の負担が軽減されるため、債権者にとってもメリットがあります。

事業再生ADRは、企業にとって税制優遇措置を受けるための重要な手段です。

企業再生税制の適用により、債務免除益や評価損益の課税負担を軽減し、企業の再生計画をスムーズに実行できます。

事業再生ADRの3つのデメリット

事業再生ADRには多くのメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。

主なデメリットとしては、債権者全員の同意が必要であることや手続きが複雑で時間がかかること、手続きのコストが高いことが挙げられます。

以下に、事業再生ADRの3つのデメリットを解説します。

  • 債権者全員の同意が必要である
  • 私的整理と比べて手続きの難易度が高い
  • 規模にもよるが費用が数百万と高額になりやすい

債権者全員の同意が必要である

事業再生ADRは、債権者全員の同意が必要であり、同意が得られない場合は手続きを進められません。これが事業再生ADRの大きなデメリットの一つです。

事業再生ADRは、私的整理の一形態であり、法的手続きを経ずに債務者と債権者の合意に基づいて進行します。そのため、債権者全員の同意が不可欠です。

債権者が多数存在する場合、その全員から同意を得るのは難易度が高いです。各債権者が異なる立場や意見を持つため、全員の同意を得ることがしばしば困難となります。

法的再生手続きでは、裁判所の関与により強制力が働くため、全会一致の必要はありませんが、事業再生ADRはあくまで合意に基づくため、全員の同意が必須です。

私的整理と比べて手続きの難易度が高い

事業再生ADRは、私的整理と比べて手続きの難易度が高いです。これは、事前準備の複雑さや必要な書類の多さ、第三者機関の介入などが要因です。

事業再生ADRを利用するには、詳細な事業計画や財務情報を提出する必要があります。これには、資産評価、損益計画、債務弁済計画などが含まれます。

経済産業省の認定を受けた第三者機関が介入するため、手続きの公正性は高まりますが、同時に手続きが煩雑化し、高額なコストも必要です。

規模にもよるが費用が数百万と高額になりやすい

事業再生ADRは、規模にもよりますが、手続きにかかる費用が数百万円と高額になりやすい点が大きなデメリットです。このため、特に中小企業にとっては負担が大きく、利用のハードルが高くなります。

事業再生ADRの手続きには審査料や報酬金が必要です。例えば、事前審査料は一律50万円(税別)で、その他の業務委託金や中間金、報酬金は債権者数や債務額に応じて設定されます。

公正な第三者機関が介入するため、弁護士や事業再生実務家協会への依頼料も必要です。

事前準備としてデューデリジェンス(財務調査)や詳細な事業再生計画の策定が必要で、これらの作業も専門家に依頼する必要があり、費用がさらに増加します。

参考:法務省「かいけつサポート事業者ガイドブック」P30

事業再生ADRの手続きの主な流れをポイントごとに解説

事業再生ADRの手続きの主な流れ

事業再生ADRは、経営が困難な企業が裁判外で債権者との合意を通じて再建を目指す手続きです。

この手続きは、詳細な事前準備から始まり、債権者会議を経て最終的な再生計画の実行まで一連のステップを含みます。

以下に、事業再生ADRの手続きの主な流れをポイントごとに解説します。

  • 事前の申請準備
  • 事業再生実務家協会に利用申請
  • 事業再生計画の作成
  • 債権者会議による協議・決議
  • 全債権者による事業再生計画の同意
  • 事業再生計画の遂行

事前の申請準備

事業再生ADRの手続きの成功には、事前の申請準備が非常に重要です。

適切な書類の作成とデューディリジェンスの実施が、手続きのスムーズな進行と再生計画の承認に繋がります。
デューディリジェンスは、企業の財務状況や事業内容を詳細に分析するプロセスです。

これにより、過剰債務の状況や事業の収益性、再生の可能性を客観的に把握できます。

事前準備段階で作成する主な書類には、「資産評価」「清算貸借対照表」「損益計画」「弁済計画」「再生計画案」などがあります。

これらの書類は、債権者との協議を円滑に進めるための基礎資料です。

顧問弁護士や外部の専門家の協力を得て、適切な書類を作成することが推奨されます。

事業再生実務家協会に利用申請

事業再生ADRの手続きを進行させるには、まず事業再生実務家協会に利用申請を提出する必要があります。

適切な書類と情報を準備し、申請を通して承認を得ることが重要です。

事業再生ADRは、公正な第三者機関である事業再生実務家協会によって運営されます。

申請が受理されると、正式な手続きが開始され、債権者との交渉が進行します。

事業再生計画の作成

事業再生ADRを成功させるためには、詳細かつ現実的な事業再生計画を作成することが不可欠です。

計画は債権者の信頼を得るための重要な要素であり、適切に準備されていないと、債権者からの同意を得るのが難しくなります。

事業再生計画には、企業の財務状況を詳細に分析した情報が必要です。これには「資産評価」「収益予測」「キャッシュフロー計画」などが含まれます。

正確なデータに基づいた計画は、債権者にとって信頼性の高いものとなります。

債権者会議による協議・決議

事業再生ADRの手続きにおいて、債権者会議による協議と決議は、再生計画の実行における最も重要なステップの一つです。

債権者会議は、すべての債権者が平等に参加し、再生計画について意見を述べる機会を提供するため、計画の透明性と公正性が確保されます。

債権者会議で合意された再生計画は法的拘束力を持つため、実行の確実性が高まります。

これは、債権者の権利を守りながら、再生計画の実行をスムーズに進めるために重要です。

全債権者による事業再生計画の同意

事業再生ADRの手続きでは、再生計画の実行にはすべての債権者の同意が必要です。同意が得られない場合、再生計画は成立しません。

債権者が多数存在する場合、全員から同意を得るのは難易度が高くなります。特に、債権者ごとに異なる利害や意見があるため、合意形成には多大な努力が必要です。

債権者会議で全員の同意が得られた場合、その合意は法的拘束力を持ち、再生計画の実行が確実になるため、計画の進行が保証されます。

事業再生計画の遂行

事業再生ADRの最終段階である事業再生計画の遂行は、企業の再建において最も重要なプロセスです。

計画の具体性と現実性、第三者機関の監督、そして継続的なモニタリングを通じて、計画の実行が効果的に行われます。

企業はこの段階で、計画に基づいた具体的な行動を実行し、債権者の信頼を維持しつつ、経営の健全化を目指します。

事業再生ADRに成功した事例

事業再生ADRは、企業が経営破綻を回避し、再建を成功させるための有効な手段です。実際の成功事例を通じて、事業再生ADRの具体的な取り組みと効果を確認できます。

以下に、事業再生ADRに成功した事例を紹介します。

曙ブレーキ工業の事業再生ADR成功事例

曙ブレーキ工業株式会社は、事業再生ADRを活用して経営危機からの再建に成功した代表的な事例です。

金融機関からの債務免除と新たな資金調達により、同社は事業再生を実現しました。

曙ブレーキ工業は、自動車、自動二輪、鉄道車両向けのブレーキおよび関連部品の研究開発や製造、販売を手がける企業です。しかし、北米での生産混乱による業績悪化と過剰債務により、経営危機に陥りました。

2019年1月に事業再生ADRを申請し、取引金融機関との協議を経て、約560億円の債務免除を受けることで財務負担を大幅に軽減。さらに、JISファンドからの約200億円の新規出資を受けることで、再建に必要な運転資金を確保して、事業の継続と再建計画の実行が可能となりました。

曙ブレーキ工業は、北米での不採算事業の整理や国内工場の再編を進め、テネシー州とサウスカロライナ州の工場を閉鎖し、国内4工場の縮小と生産移管を行いました。

再生計画の一環として、曙ブレーキ工業は新規ビジネスの獲得や生産最適化を推進し、持続可能な成長を目指しています。また、電動化や地球環境問題に対応した新製品の開発にも注力しています。

参考:曙ブレーキ工業「経営方針:中期経営計画」「経営方針:対処すべき課題」

事業再生ADRに関するよくある質問

事業再生ADRは、企業が経営破綻を避け、再建を目指すための重要な手段です。以下に、事業再生ADRに関するよくある質問をまとめました。

事業再生ADR手続は株価に影響しますか?

事業再生ADRの手続きは原則として非公開で行われるため、通常は株価に直接的な影響を与えません。しかし、手続きの進行状況や最終的な結果が市場に伝わることで、間接的に株価に影響を与える可能性があります。

 

事業再生ADRとは?利用条件やメリットをわかりやすく解説

事業再生ADRとは?利用条件やメリットをわかりやすく解説

「事業再生ADRとは何か?」

「自社の経営を立て直すために、どのような手続きを踏めばいいのか?」

「取引先に迷惑をかけずに再建したい」

など、多くの疑問や不安があることでしょう。

経営が苦境に立たされている企業にとって、事業再生の道を模索することは避けて通れない課題です。特に、多額の債務を抱え、倒産の危機に瀕している企業にとっては、迅速かつ効果的な解決策が求められます。

そんな時に有効な手段の一つが「事業再生ADR(Alternative Dispute Resolution)」です。

この記事では、事業再生ADRの基本的な概念から、その利用条件、具体的なメリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。

事業再生ADRとは裁判外手続きで事業再生を図る制度

事業再生ADR(Alternative Dispute Resolution)は、裁判外で企業の再建を図るための有効な手段です。迅速かつ公正な手続きが可能であり、第三者機関の関与によって透明性と信頼性が確保されます。

手続きが非公開で行われるため、企業の信用低下を防ぎながら再建を進めることが可能です。

以下に、事業再生ADRについて解説します。

  • 事業再生ADRと民事再生の違いは?
  • 事業再生ADRを利用するための条件
  • 事業再生ADRは事実上大企業のみが利用する制度

事業再生ADRと民事再生の違いは?

事業再生ADRと民事再生は、いずれも企業再建のための手段ですが、その手続き方法と公表の有無に大きな違いがあります。

事業再生ADRは非公開の手続きであり、企業の信用を保ちながら柔軟に再建を進められます。一方、民事再生は裁判所の介入があり、手続きが公表されるため、社会的な影響が大きいです。

事業再生ADRは非公開で行われるため、手続きの事実が公表されず、企業の信用やブランドイメージが損なわれるリスクを回避できます。民事再生は裁判所の関与が必要であり、手続きの開始が公表されるため、企業の信用低下や取引先への影響が大きくなる可能性があります。

事業再生ADRでは、債権者と債務者が直接交渉するため、各当事者のニーズに応じた柔軟な解決策を見つけやすいです。民事再生では裁判所が介入するため、法律に基づいた厳格な手続きが求められ、手続きが複雑になり、迅速な解決が難しい場合があります。

事業再生ADRは手続き費用が比較的高額であり、特に審査料や業務委託料が発生しますが、非公開で迅速に進むため、長期的なコスト削減が期待できます。

民事再生は裁判所手続きが必要なため、弁護士費用や裁判費用がかかり、手続きが長期化する可能性があり、その間の運転資金の確保が課題です。

事業再生ADRと民事再生は、それぞれ異なる特徴を持つ再建手段です。

事業再生ADRを利用するための条件

事業再生ADRを利用するための条件

事業再生ADRを利用するには、特定の条件を満たす必要があります。

これらの条件は、企業の経営状況や再生計画の実現可能性を判断するために設定されています。

  1. 過剰債務の状況企業が過剰債務を抱えており、自力での再生が困難であることが必要です。
  2. 事業の将来性企業が技術や人材などの事業基盤を有し、事業に収益性と将来性があることが求められます。
  3. 信用力の低下リスク民事再生法や会社更生法などの法的整理手続きによる信用力の低下が懸念される場合、事業再生ADRが選択されます。
  4. 債権者の利益事業再生ADRによって、債権者が破産手続きよりも多く回収できる可能性があることが求められます。
  5. 事業再生計画の実現可能性手続実施者選任予定者の意見や助言に基づき、公正かつ経済的合理性を有する事業再生計画案を策定できることが必要です。

条件をクリアすることで、企業は事業再生ADRを通じて効果的な再建を目指せます。

事業再生ADRは事実上大企業のみが利用する制度

事業再生ADRは、法的再生と私的再生の中間に位置する手続きで、企業が経営危機に直面した際の再建手段の一つです。

しかし、事実上、大企業のみが利用する制度となっています。これは、高額な手続き費用や複雑な手続きが中小企業にとって大きな負担となるためです。

事業再生ADRの手続きには、一般的に多額の費用がかかり、審査料や業務委託料、報酬金など総額で数百万円以上の費用が発生します。このため、経営が厳しい中小企業には負担が大きく、利用が難しい状況です。

また、第三者機関の関与により公正かつ透明な手続きが行われますが、その分手続きが複雑で時間がかかります。中小企業には、こうした手続きに対応するためのリソースが不足している場合が多いです。

事業再生ADRは、高額な手続き費用や複雑な手続きのため、事実上大企業のみが利用できる制度となっています。

しかし、公正かつ透明な手続きによって企業再建を支援する有効な手段であり、適切な準備と支援を受けることで成功の可能性が高まります。

事業再生ADRの6つのメリット

事業再生ADRの6つのメリット

事業再生ADRは、企業が裁判外で再生を図るための手続きで、多くのメリットがあります。特に、透明性と効率性を高めることで企業の再建を支援し、債権者との信頼関係を築きやすくすることが特徴です。

以下に事業再生ADRの6つのメリットを解説します。

  • 事業再生ADRを利用している事実は公表されない
  • 従来どおり円滑な商取引を継続することができる
  • 債権者が放棄した債権は損金算入が可能
  • 第三者機関がサポートするので公平性や信頼性がある
  • 運転資金に充てるつなぎ融資が受けやすくなる
  • 企業再生税制等の税制優遇がある

事業再生ADRを利用している事実は公表されない

事業再生ADRを利用する場合、その手続きは公表されません。これにより、企業の信用低下や風評被害を避け、経営再建をスムーズに進めることが可能です。

事業再生ADRは裁判外での手続きであり、法的手続きとは異なり、公表義務がありません。法的整理の場合、手続きの開始が公告されるため、企業の信用が低下するリスクがあります。

しかし、事業再生ADRは非公開で進められるため、このリスクを回避できます。公表されないことで、企業の取引先や顧客に対する不安を最小限に抑え、事業価値の維持が可能なため、再建後の事業継続が円滑になります。

再建を目指す企業にとって、事業再生ADRは有効な選択肢と言えるでしょう。

従来どおり円滑な商取引を継続することができる

事業再生ADRを利用することで、従来の商取引を円滑に継続することが可能です。

私的整理と同じく、債権者と金融債務者の間で行われるため、取引先に知られずに進められるからです。手続きが非公開で進行するため、上場会社の上場維持が可能であり、取引先や顧客に対する不安や影響を最小限に抑えられます。

法的整理手続きと異なり、事業再生ADRでは商取引債権者に対する返済が停止されないため、通常の取引を継続でき、取引先からの信頼を維持しやすくなります。

また、手続きが迅速に進行するため、商取引における影響を最小限に抑えることが可能です。

債権者が放棄した債権は損金算入が可能

事業再生ADRを利用すると、債権者が放棄した債権は損金算入が可能となり、債権者にとって税務上の大きなメリットがあります。これにより、債権者が再建計画に協力しやすくなり、企業の再生が円滑に進む可能性が高まります。

事業再生ADRでは、債権者が放棄した債権を損金として税務上の損失に計上することが可能です。

私的整理の手続きでは個別に税務署の判断を仰ぐ必要がありますが、事業再生ADRでは一律に損金算入が認められるため、税務上の不確実性が排除されます。

損金算入が認められることで、債権者は税負担を軽減でき、企業の再生がスムーズに進む可能性が高まります。

第三者機関がサポートするので公平性や信頼性がある

事業再生ADRは、裁判外の手続きを通じて企業の再生を支援する制度であり、第三者機関のサポートによって公平性と信頼性が確保されています。

事業再生ADRには、公認会計士や弁護士などの専門家が関与しており、企業の財務状況や事業計画を詳細に分析し、最適な再生計画の提案が可能です。

公正取引委員会や経済産業省などの監督下で運営されるため、公平性が担保されています。第三者機関の専門的なサポートにより、多くの企業がこの制度を利用して経営の立て直しに成功しています。

運転資金に充てるつなぎ融資が受けやすくなる

事業再生ADRを活用することにより、企業は運転資金に充てるつなぎ融資を受けやすくなり、再建手続き中の事業継続が安定し、再建計画の実行が円滑に進むことが期待できます。

この制度には、中小企業基盤整備機構が提供する債務保証や事業再生円滑化関連保証といった支援措置が設けられています。事業再生ADRから法的整理へ移行する場合でも、特定認証紛争解決事業者のサポートにより、手続きがスムーズです。

中小企業基盤整備機構や事業再生円滑化関連保証などの支援措置により、金融機関からの融資が円滑に進むため、再建計画の実行が安定します。

事業再生ADRを活用することで、企業は信用力を保ちながら、必要な運転資金を確保し、再建計画を成功に導けます。

企業再生税制等の税制優遇がある

事業再生ADRを利用することで、企業は企業再生税制などの税制優遇を受けられ、経済的負担を軽減し、再生計画を実行しやすくなります。事業再生ADRを通じて得られる債務免除益や評価損益は、特定の税制優遇措置の対象となります。

債権者からの債務免除益は通常課税対象ですが、事業再生ADRを利用することで、これらの利益を損金として計上することが可能です。

また、債権者も債権放棄を行う場合、その損失を損金として計上することが認められ、税務上の負担が軽減されるため、債権者にとってもメリットがあります。

事業再生ADRは、企業にとって税制優遇措置を受けるための重要な手段です。

企業再生税制の適用により、債務免除益や評価損益の課税負担を軽減し、企業の再生計画をスムーズに実行できます。

事業再生ADRの3つのデメリット

事業再生ADRには多くのメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。

主なデメリットとしては、債権者全員の同意が必要であることや手続きが複雑で時間がかかること、手続きのコストが高いことが挙げられます。

以下に、事業再生ADRの3つのデメリットを解説します。

  • 債権者全員の同意が必要である
  • 私的整理と比べて手続きの難易度が高い
  • 規模にもよるが費用が数百万と高額になりやすい

債権者全員の同意が必要である

事業再生ADRは、債権者全員の同意が必要であり、同意が得られない場合は手続きを進められません。これが事業再生ADRの大きなデメリットの一つです。

事業再生ADRは、私的整理の一形態であり、法的手続きを経ずに債務者と債権者の合意に基づいて進行します。そのため、債権者全員の同意が不可欠です。

債権者が多数存在する場合、その全員から同意を得るのは難易度が高いです。各債権者が異なる立場や意見を持つため、全員の同意を得ることがしばしば困難となります。

法的再生手続きでは、裁判所の関与により強制力が働くため、全会一致の必要はありませんが、事業再生ADRはあくまで合意に基づくため、全員の同意が必須です。

私的整理と比べて手続きの難易度が高い

事業再生ADRは、私的整理と比べて手続きの難易度が高いです。これは、事前準備の複雑さや必要な書類の多さ、第三者機関の介入などが要因です。

事業再生ADRを利用するには、詳細な事業計画や財務情報を提出する必要があります。これには、資産評価、損益計画、債務弁済計画などが含まれます。

経済産業省の認定を受けた第三者機関が介入するため、手続きの公正性は高まりますが、同時に手続きが煩雑化し、高額なコストも必要です。

規模にもよるが費用が数百万と高額になりやすい

事業再生ADRは、規模にもよりますが、手続きにかかる費用が数百万円と高額になりやすい点が大きなデメリットです。このため、特に中小企業にとっては負担が大きく、利用のハードルが高くなります。

事業再生ADRの手続きには審査料や報酬金が必要です。例えば、事前審査料は一律50万円(税別)で、その他の業務委託金や中間金、報酬金は債権者数や債務額に応じて設定されます。

公正な第三者機関が介入するため、弁護士や事業再生実務家協会への依頼料も必要です。

事前準備としてデューデリジェンス(財務調査)や詳細な事業再生計画の策定が必要で、これらの作業も専門家に依頼する必要があり、費用がさらに増加します。

参考:法務省「かいけつサポート事業者ガイドブック」P30

事業再生ADRの手続きの主な流れをポイントごとに解説

事業再生ADRの手続きの主な流れ

事業再生ADRは、経営が困難な企業が裁判外で債権者との合意を通じて再建を目指す手続きです。

この手続きは、詳細な事前準備から始まり、債権者会議を経て最終的な再生計画の実行まで一連のステップを含みます。

以下に、事業再生ADRの手続きの主な流れをポイントごとに解説します。

  • 事前の申請準備
  • 事業再生実務家協会に利用申請
  • 事業再生計画の作成
  • 債権者会議による協議・決議
  • 全債権者による事業再生計画の同意
  • 事業再生計画の遂行

事前の申請準備

事業再生ADRの手続きの成功には、事前の申請準備が非常に重要です。

適切な書類の作成とデューディリジェンスの実施が、手続きのスムーズな進行と再生計画の承認に繋がります。
デューディリジェンスは、企業の財務状況や事業内容を詳細に分析するプロセスです。

これにより、過剰債務の状況や事業の収益性、再生の可能性を客観的に把握できます。

事前準備段階で作成する主な書類には、「資産評価」「清算貸借対照表」「損益計画」「弁済計画」「再生計画案」などがあります。

これらの書類は、債権者との協議を円滑に進めるための基礎資料です。

顧問弁護士や外部の専門家の協力を得て、適切な書類を作成することが推奨されます。

事業再生実務家協会に利用申請

事業再生ADRの手続きを進行させるには、まず事業再生実務家協会に利用申請を提出する必要があります。

適切な書類と情報を準備し、申請を通して承認を得ることが重要です。

事業再生ADRは、公正な第三者機関である事業再生実務家協会によって運営されます。

申請が受理されると、正式な手続きが開始され、債権者との交渉が進行します。

事業再生計画の作成

事業再生ADRを成功させるためには、詳細かつ現実的な事業再生計画を作成することが不可欠です。

計画は債権者の信頼を得るための重要な要素であり、適切に準備されていないと、債権者からの同意を得るのが難しくなります。

事業再生計画には、企業の財務状況を詳細に分析した情報が必要です。これには「資産評価」「収益予測」「キャッシュフロー計画」などが含まれます。

正確なデータに基づいた計画は、債権者にとって信頼性の高いものとなります。

債権者会議による協議・決議

事業再生ADRの手続きにおいて、債権者会議による協議と決議は、再生計画の実行における最も重要なステップの一つです。

債権者会議は、すべての債権者が平等に参加し、再生計画について意見を述べる機会を提供するため、計画の透明性と公正性が確保されます。

債権者会議で合意された再生計画は法的拘束力を持つため、実行の確実性が高まります。

これは、債権者の権利を守りながら、再生計画の実行をスムーズに進めるために重要です。

全債権者による事業再生計画の同意

事業再生ADRの手続きでは、再生計画の実行にはすべての債権者の同意が必要です。同意が得られない場合、再生計画は成立しません。

債権者が多数存在する場合、全員から同意を得るのは難易度が高くなります。特に、債権者ごとに異なる利害や意見があるため、合意形成には多大な努力が必要です。

債権者会議で全員の同意が得られた場合、その合意は法的拘束力を持ち、再生計画の実行が確実になるため、計画の進行が保証されます。

事業再生計画の遂行

事業再生ADRの最終段階である事業再生計画の遂行は、企業の再建において最も重要なプロセスです。

計画の具体性と現実性、第三者機関の監督、そして継続的なモニタリングを通じて、計画の実行が効果的に行われます。

企業はこの段階で、計画に基づいた具体的な行動を実行し、債権者の信頼を維持しつつ、経営の健全化を目指します。

事業再生ADRに成功した事例

事業再生ADRは、企業が経営破綻を回避し、再建を成功させるための有効な手段です。実際の成功事例を通じて、事業再生ADRの具体的な取り組みと効果を確認できます。

以下に、事業再生ADRに成功した事例を紹介します。

曙ブレーキ工業の事業再生ADR成功事例

曙ブレーキ工業株式会社は、事業再生ADRを活用して経営危機からの再建に成功した代表的な事例です。

金融機関からの債務免除と新たな資金調達により、同社は事業再生を実現しました。

曙ブレーキ工業は、自動車、自動二輪、鉄道車両向けのブレーキおよび関連部品の研究開発や製造、販売を手がける企業です。しかし、北米での生産混乱による業績悪化と過剰債務により、経営危機に陥りました。

2019年1月に事業再生ADRを申請し、取引金融機関との協議を経て、約560億円の債務免除を受けることで財務負担を大幅に軽減。さらに、JISファンドからの約200億円の新規出資を受けることで、再建に必要な運転資金を確保して、事業の継続と再建計画の実行が可能となりました。

曙ブレーキ工業は、北米での不採算事業の整理や国内工場の再編を進め、テネシー州とサウスカロライナ州の工場を閉鎖し、国内4工場の縮小と生産移管を行いました。

再生計画の一環として、曙ブレーキ工業は新規ビジネスの獲得や生産最適化を推進し、持続可能な成長を目指しています。また、電動化や地球環境問題に対応した新製品の開発にも注力しています。

参考:曙ブレーキ工業「経営方針:中期経営計画」「経営方針:対処すべき課題」

事業再生ADRに関するよくある質問

事業再生ADRは、企業が経営破綻を避け、再建を目指すための重要な手段です。以下に、事業再生ADRに関するよくある質問をまとめました。

事業再生ADR手続は株価に影響しますか?

事業再生ADRの手続きは原則として非公開で行われるため、通常は株価に直接的な影響を与えません。しかし、手続きの進行状況や最終的な結果が市場に伝わることで、間接的に株価に影響を与える可能性があります。