会社清算時の残余財産とは?分配方法や会計処理についてわかりやすく解説

破産手続きの開始や株主総会決議により会社が解散する際、残余財産の分配が伴う場合があります。
残余財産分配とは、会社に残った財産を株主に分配する手続きです。残余財産の分配は、税金や会計の結果にも影響を与えるため、処理を間違わないようにする必要があります。
この記事では、残余財産の分配方法や会計処理について、わかりやすく説明します。
会社の解散に伴う手順や手続きについて知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
会社清算時の残余財産とは債務の支払い後に残った資産
残余(ざんよ)財産とは、会社の解散後に残った財産を指します。
解散する際、会社は債権の回収および債務の弁済を済ませる必要があります。そして、債権の回収と債務の弁済後に会社に残った財産が残余財産です。
通常、残余財産の分配先は株主です。
株主は会社の所有者であり、会社に帰属する財産を受け取る権利(残余財産分配請求権)を有するからです。
会社の清算時において、残った財産を株主に帰属させる手続きを残余財産の分配と言います。
残余財産の分配は株式会社のみならず、その他の種類の会社(合名会社・合資会社・合同会社)でも行われますが、本記事では株式会社に焦点を当てて解説します。
残余財産の分配額は保有株式数によって決まる

残余財産の分配額は、保有株式数によって決まります。
会社の発行済み株式が1,000株あるとしましょう。株主は、A・Bの2人で、それぞれ、800株、200株を保有しています。
この場合、残余財産の分配は、Aに80%、Bに20%の割合で実行されます。会社法は、株式の内容と数に応じて株主を取り扱うことを、ルールとしているからです(株主平等の原則)。
このように、財産の分配額は、頭割りではなく保有株式数に応じて決まります。
ただし、種類株式を発行している会社では、異なる結論になる可能性があります(後述)。
残余財産における種類株式について
前述の通り、通常の残余財産の分配は、保有株式数に応じて実行されます。
しかし、会社が種類株式を発行している場合は、必ずしも保有株式数に応じて残余財産の分配がされるわけではありません。
種類株式が発行されている場合は、株式の内容に従って分配がされます。
例えば、優先株式(100株)と普通株式(500株)の、2種類の株式が発行されているとしましょう。
残余財産の総分配額は1,000万円です。
株式の内容は次のように定められています。
- 優先株式は普通株式よりも優先的に分配される
- 優先株式は1株あたり100万円の分配がされる
上記の場合、優先株式を保有する株主に分配される残余財産は、総額で1,000万円になります。
計算式は次の通りです。
優先株式100株 × 10万円 = 1,000万円
対して、普通株式を保有する株主に分配される残余財産は0円となります。残余財産の総額1,000万円から、優先株式に割り当てられる1,000万円を控除した結果、普通株式に割り当てられる残余財産が0円以下となったからです。
このように、解散する会社が種類株式を発行している場合は、保有する株式の内容に沿って、残余財産の分配が行われます。
残余財産の分配はいつ?タイミングを解説
残余財産が分配されるのは、残余財産がいくらあるか確定したときです。
財産分配の額が確定するのは、債権の回収と債務の弁済の、双方の手続きが完了した時点です。つまり、残余財産分配のタイミングは、債権の回収と債務の弁済、双方の手続きの完了後になります。
ただし、債務の確定に時間を要する状況下に限っては、債務の弁済を待たずして残余財産の分配ができます。
もっとも、債務弁済前に残余財産の分配を実行するためには、返済できる分の財産を会社に留保しておかなければなりません。返済できる程度のお金を会社に残しておかなければ、債務確定時に支払うお金が無くなり、債権者が損害を被るからです。
会社の解散・清算においては、債権者保護の視点が大切になります。
残余財産の現物分配も可能
残余財産の分配は、現金で分配するのが基本ですが、現物分配も可能です。
現物分配とは、現金以外の資産で残余財産を分配する方法です。
現物の具体例としては、次の項目が考えられます。
- 不動産
- 株式
- 機械設備
- オフィス機器
- 車両(自動車・輸送車等)
- 商品在庫
現物分配は、会社の資産を有効活用できる点で、メリットのある分配方法と言えます。
しかし、現物分配を行うにあたっては、株主の意向について配慮しなければなりません。
無条件に、現物での分配ができるわけではなく、株主が現物分配と金銭分配の、いずれかを選べるようにする必要があります。具体的には、金銭での分配を選択できる期間を設けて、金銭での分配を受けられる機会を株主に与えるようにします。
その他にも、基準以下の株式しか持たない株主に対する取り扱い等、現物分配を行うにあたっては、いくつかの手続きが伴うので注意しましょう。
残余財産の分配における税金や会計処理方法
残余財産の分配があった場合の、税金や会計処理の方法について解説します。
残余財産の分配時に伴う税金や会計の処理は、ケースごとに処理の手順が異なるため、理解が難しい部分です。
まずは、次の2つのケースに分けて考えましょう。
- 残余財産の分配を株主に行ったケース
- 子会社から残余財産の分配を受けたケース
残余財産の分配を株主に行ったケースは、通常通りの処理手順で、税金や会計の処理が行われます。
一方、子会社から残余財産の分配を受けたケースは、次の2つのパターンに分けて整理する必要があります。
- 解散したのが100%子会社であるケース
- 解散したのが100%子会社「以外」であるケース
上記2パターンのうち、100%子会社のケースは、通常とは異なる流れで税金処理がされるため注意が必要です。
残余財産の分配を株主に行ったケース
残余財産を株主に対して分配したケースを解説します。
ポイントとなるのは、みなし配当配当の判断です。みなし配当が発生する場合に限り、所得税の納税処理が必要になります。
ここで紹介するケースは、税金処理の基本となる部分なので、しっかり確認しましょう。
残余財産の分配を行った会社に課税なし
会社から株主へと、残余財産の分配が行われた場合、課税されるのは株主側です。分配を行った会社は課税されません。
財産の分配で経済的利益を得たのは、株主であって会社ではないからです。
利益を受けた側が税金を支払うのが、課税の基本的な考え方です。
贈与契約においては、贈与税が課税されるのは贈与者ではなく贈与を受けた側です。残余財産の分配も同様に、財産を分配をした会社ではなく、財産の分配を受けた株主が課税対象者になります。
株主に残余財産が分配されたケースでは、会社に課税されない点を、前提事実として押さえておきましょう。
出資金を超えるみなし配当は課税対象
前述の通り、残余財産の分配があった場合、財産の分配を受けた株主が所得税の源泉徴収対象者となります。
しかし、財産の分配があったからといって、必ずしも課税が行われるわけではありません。課税が問題になるのは、みなし配当に該当する場合のみです。
本来的な配当ではないものの、配当があったと同視できる場合、みなし配当として、配当があったものとして扱われます。
具体的には「分配額 > 出資額」となる場合のみ、みなし配当が認められます。
出資額が分配額を上回るとなる場合は、配当があったとはみなされません。「出資額 > 分配額」の場合は、出資金の範囲内で払い戻しがされたに過ぎず、実質的に株主に利益が発生したわけではないからです。
このように、残余財産の分配における課税を考える際は、みなし配当に該当するかの確認が必要です。みなし配当に該当しない限り、分配を受けたとしても、株主に所得税は課税はされません。
みなし配当の計算方法
みなし配当の計算方法を紹介します。
前述の通り、会社から株主に対して残余財産の分配が行われた場合、所得税の源泉徴収対象者となるのは株主側です。
また、実際に課税が問題になるのは、分配額が出資額を上回った場合に限ります。
みなし配当の計算にあたっては、まず上記の2点を確認しましょう。
その上で、みなし配当に該当する場合は、次のように課税額を計算します。
(分配額 – 出資額)× 20.42%
具体例で考えてみましょう。
会社が解散し、会社から株主に対して8,000万円の残余財産が分配されたとします。資本金の額等(=出資金)は6,000万円です。
この場合、計算式は次の通りです。
8,000万円 – 6,000万円× 20.42% = 408万4,000円
所得税額は408万4,000円で、この金額を源泉所得税として納税することになります。
株主は、源泉徴収後の7591万6,000円(8,000万円 – 408万4,000円)を受け取る形になります。
子会社から残余財産の分配を受けたケース
親会社が子会社から残余財産の分配を受けるケースについて解説します。
子会社が解散して、その親会社が残余財産の分配を受ける場合は、その子会社が完全子会社か否かで税金や会計の処理が異なります。
完全子会社とは、その親会社が100%出資している場合の子会社です。子会社の発行済み株式の100%を親会社が保有する場合、その子会社は完全子会社になります。
100%子会社のケース
100%子会社が親会社に残余財産の分配を行う場合、通常とは異なる税金の処理がされます。
100%子会社のケースでは、株式消滅損益について、税金と会計で処理のされ方に違いがあるからです。
会計上は「残余財産分配額 – 帳簿価額」の差額により発生する、株式消滅損あるいは株式消滅益を計上します。
しかし、税務上は、「残余財産分配額 – 帳簿価額」の差額は問題となりません。「子会社株式の帳簿価額=譲渡対価」として処理されるため、差額分が生じず、みなし配当が発生しないのです。
ただし、株式消滅損益を計上しない代わりとして、資本金等の額の処理が必要です。株式消滅益が発生すれば資本金等の増加になりますし、株式消滅損が発生すれば、資本金等の減少になります。
例えば、帳簿価額5,000万円の子会社が解散し、その親会社が6,000万円の残余財産を受けたとしましょう。
この場合、プラス1,000万円の差額が発生するため、会計処理においては1,000万円を株式消滅益として計上します。
一方、税務上においては、1,000万円を株式消滅益として計上しません。株式消滅益を計上しない代わりに、資本金等の額を1,000万円増加させます。
このように100%子会社のケースは、みなし配当が問題にならず、株式消滅損益を計上しない点が特徴的です。
100%子会社以外のケース
100%子会社「以外」のケースでは、通常通りの残余財産分配と同様に考えます。
つまり、みなし配当に該当する限り、課税処理が必要です。
残余財産の分配は資本の払い戻しと扱われ、払い戻した資本金額を超過した金額については、利益積立金額の減少として処理されます。そして、この利益積立金額が減少した部分が、みなし配当額になるのです。
また、100%子会社のケースと異なり、税金と会計処理で違う動きをすることはありません。
現物で残余財産の分配を行ったケース
残余財産の分配は、現金のみならず、現物で行うこともできます。
現物分配の場合、どの時点の価値を現物分配の価値とみなすかが問題になりますが、この点については「残余財産確定時の時価」が基準となります。
不動産が現物分配された場合は、残余財産確定時の時価で不動産が売却されたものとして、譲渡損益を計上するのです。
例えば、帳簿価額5,000万円の子会社株式が解散し、親会社が時価4,000万円の不動産を現物分配として受け取ったとしましょう。
この場合、差額分である1,000万円の株式消滅損が発生したとして、税金・会計の処理がされます。
ただし、解散する会社が100%子会社の場合は、通常とは別の税金処理が行われます。
100%子会社が解散し現物分配が行われた場合は「子会社株式の帳簿価額=譲渡対価」として扱われるからです。
現物分配された不動産の時価が4,000万円でも、税務上は、帳簿価額と同じ金額(=5,000万円)として処理されます。
現物分配の税金と会計処理を考えるにあたっては、「残余財産確定時の時価」を現物の価値として扱う点がポイントです。その上で、現物分配においても、100%子会社か否かによって税金処理のされ方が異なる点に注意しましょう。
会社清算時の残余財産の分配までの主な流れ
会社を解散して、残余財産の分配をすることになった場合の、全体的な流れを確認しましょう。
- 解散の決議と清算人の選任
- 2週間以内に解散の登記
- 税務署等に解散の届出
- 財産目録と貸借対照表の作成
- 清算の公告と債権者への催告
- 債権の取り立てと債務の弁済
- 残余財産の分配
- 清算事務の終了
- 清算結了登記
残余財産の分配手順で注意したいのは、期間制限です。解散登記と清算結了の登記には、2週間の期間制限が設けられています。
また、清算の公告と債権者の催促も重要なポイントです。会社の清算手続きは、全体を通して、債権者保護の意識が求められます。
解散の決議と清算人の選任
会社の解散は、2つの手順を踏むことからスタートします。
- 会社の解散決議
- 清算人の選任
解散決議は特別決議によって行われ、決議の要件は次の通りです。
- 株主総会で決議(書面決議でもOK)
- 議決権の過半数を有する株主が出席
- 出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成
清算人は、清算事務を担う者で、通常は会社の代表取締役が清算人に選ばれます。清算人の選任方法は複数ありますが、株主総会で選任するのが一般的です。
清算人選任の株主総会は普通決議で足りますが、解散決議と別個に開く必要はありません。解散決議をする株主総会で、清算人決議を併せて行うのでも構いません。
2週間以内に解散の登記
解散決議が有効に成立した後は、解散の登記と清算人の登記をします。
解散が決まり次第、必要書類を揃えて、解散登記と清算人の選任登記を申請しましょう。
解散登記には期限が設けられており、解散から2週間以内に登記を申請する必要があります。期間経過後でも登記の申請はできますが、登記の懈怠に対しては罰則の適用(会社法976条)もあり得ます。
解散登記の内容は、次の通りです。
- 申請先:本店所在地を管轄する法務局
- 登記の内容:解散及び清算人の選任
- 登録免許税:3万9,000円(解散&清算人の選任)
必要書類は、次の通りです。
- 登記申請書
- 定款
- 株主総会議事録(解散及び清算人の選任を決議したもの)
- 株主リスト(決議要件を満たすことを示す書面)
- 清算人の就任承諾書
- 印鑑届出書
- 印鑑証明書(清算人個人のもの)
上記書面は、株主総会で清算人を選任した場合の一般的な書面です。必要書面は、清算人の選任方法によって違いが生じるため、詳細は法務局や司法書士に確認しましょう。
税務署等に解散の届出
登記の次に必要となるのは解散の届出で、届出先は次の通りです。
- 税務署
- 都道府県税事務所
- 市区町村役場
届出の際に準備しなければならない書類は、次の2点です。
- 異動届出書
- 登記事項証明書
登記事項証明書は、法務局の窓口で交付されます。解散登記が完了した段階で、登記事項証明書を取得しておきましょう。その後の手続きがスムーズになります。
財産目録と貸借対照表の作成
清算人は、会社の資産や負債を調査し、財産目録と貸借対照表を作成します。
財産目録は、資産と負債で構成される一覧表です。例えば、現金や売掛金は資産、借入金や買掛金は負債に分類されます。
貸借対照表は資産と負債の概要を示す書面で、通常は、財産目録をベースとして作成します。
作成した財産目録と貸借対照表は、株主総会の承認を受けなければなりません。
清算の公告と債権者への催告
解散にあたっては、清算の公告と債権者の催告をしなければなりません。
会社の解散及び清算は、債権者に影響を与えるため、その事実を周知する必要があるからです。
公告は債権者に債権の存在を申し出るよう呼びかける手続きで、具体的には、官報にその旨を掲載する形で行います。官報は国が発行する機関紙で、国が発行する新聞のようなものです。
解散する会社が公告をすることで、会社の債権者に、債権回収の機会が与えられます。
しかし、実際は、官報を逐一チェックしている債権者は少ないです。
そこで、解散する会社は、債権者に対して個別に通知をすることになっています。この債権者にする個別の通知を、催告と言います。
公告のみならず催告が必要になる理由は、債権者の保護を手厚くするためです。
債権未回収のまま会社(=債務者)が消滅すると、債権者は経済的損失を被ってしまいます。それゆえ、会社法は債権者に対する個別の催告を求め、債務未弁済のまま会社を解散できないようにしているのです。
なお、公告は2か月以上の期間を定めて行う必要があり、2か月の起算日は公告日の翌日になるとされています。
また、債権者がいないと思われる場合でも、原則、公告は必要です。公告を怠ると、罰則の適用(第976条第2号)もあり得るため注意しましょう。
債権の取り立てと債務の弁済
残余財産分配の前提として、債権の取り立てと債務の弁済を済ませる必要があります。
債権は第三者に請求できる権利で、貸付金、売掛金が具体例です。債務は相手に第三者に負う義務で、借入金や買掛金が具体例です。
未回収の債権ゼロ、未払いの債務ゼロの状態にしましょう。
なお、債務の弁済時期には注意する必要があります。公告(官報掲載)をしている間は、債務の弁済をしてはいけないルールになっています。債権者が確定していない内に、特定の債権者にのみ弁済してしまうと、ほかの債権者にとって不公平な結果を招く可能性があるからです。
例えば、公告期間中に債権者として申し出たAがいたとして、公告期間が終わらない間にAのみに弁済すると、後に債権者として登場したB、Cは不利益を被る可能性があります。
Aに返済した段階で、会社財産がゼロになると、B、Cは債権を回収できないまま泣き寝入りすることになります。このような結果は、債権者にとって不公平であるため、公告期間中の返済は禁止されているのです。
残余財産の分配
債権の回収と債務の弁済を完了させ、財産が残った場合、残余財産の分配手続きを取ることになります。
財産分配に関する手続きは、前述の通りです。
分配先の株主に所得税が発生する場合は、会社が源泉徴収を行い、税務署に納めなければなりません。
また、100%子会社が行う残余財産には注意が必要です。通常とは異なる税金の処理がされます。
清算事務の終了
清算事務(債権回収・債務弁済から残余財産分配までの一連の事務手続き)が終了したタイミングで、清算事務報告書を株主総会に提出します。
株主総会で、清算事務報告書に対する承認が得られると、会社の消滅が決まります。
清算結了登記
清算事務の終了が株主総会で決定された後は、清算結了登記をします。
清算結了の登記をもって、会社は正式に消滅します。
清算結了登記が未了のままだと、会社の消滅が確定しません。清算結了の登記を怠ると、法人税が徴収されたり、相続税負担の原因になったりといった不利益が発生する可能性があります。
また、清算結了の登記には期間制限が設けられています。清算結了登記は、株主総会で決算報告が承認がされてから2週間以内となっています。
清算結了登記の内容は、次の通りです。
- 申請先:本店所在地を管轄する法務局
- 登記の内容:清算の結了
- 登録免許税:2,000円
必要書類は、次の通りです。
- 登記申請書
- 株主総会議事録(決算報告の承認がされた決議)
- 決算報告書
- 株主リスト(決議要件を満たすことを示す書面)
決算報告報告書の内容が債務超過である場合、清算結了の登記は受理されません。債務超過であれば、破産や特別清算等の手続きを取る必要があります。
会社清算時の残余財産とは?分配方法や会計処理についてわかりやすく解説

破産手続きの開始や株主総会決議により会社が解散する際、残余財産の分配が伴う場合があります。
残余財産分配とは、会社に残った財産を株主に分配する手続きです。残余財産の分配は、税金や会計の結果にも影響を与えるため、処理を間違わないようにする必要があります。
この記事では、残余財産の分配方法や会計処理について、わかりやすく説明します。
会社の解散に伴う手順や手続きについて知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
会社清算時の残余財産とは債務の支払い後に残った資産
残余(ざんよ)財産とは、会社の解散後に残った財産を指します。
解散する際、会社は債権の回収および債務の弁済を済ませる必要があります。そして、債権の回収と債務の弁済後に会社に残った財産が残余財産です。
通常、残余財産の分配先は株主です。
株主は会社の所有者であり、会社に帰属する財産を受け取る権利(残余財産分配請求権)を有するからです。
会社の清算時において、残った財産を株主に帰属させる手続きを残余財産の分配と言います。
残余財産の分配は株式会社のみならず、その他の種類の会社(合名会社・合資会社・合同会社)でも行われますが、本記事では株式会社に焦点を当てて解説します。
残余財産の分配額は保有株式数によって決まる

残余財産の分配額は、保有株式数によって決まります。
会社の発行済み株式が1,000株あるとしましょう。株主は、A・Bの2人で、それぞれ、800株、200株を保有しています。
この場合、残余財産の分配は、Aに80%、Bに20%の割合で実行されます。会社法は、株式の内容と数に応じて株主を取り扱うことを、ルールとしているからです(株主平等の原則)。
このように、財産の分配額は、頭割りではなく保有株式数に応じて決まります。
ただし、種類株式を発行している会社では、異なる結論になる可能性があります(後述)。
残余財産における種類株式について
前述の通り、通常の残余財産の分配は、保有株式数に応じて実行されます。
しかし、会社が種類株式を発行している場合は、必ずしも保有株式数に応じて残余財産の分配がされるわけではありません。
種類株式が発行されている場合は、株式の内容に従って分配がされます。
例えば、優先株式(100株)と普通株式(500株)の、2種類の株式が発行されているとしましょう。
残余財産の総分配額は1,000万円です。
株式の内容は次のように定められています。
- 優先株式は普通株式よりも優先的に分配される
- 優先株式は1株あたり100万円の分配がされる
上記の場合、優先株式を保有する株主に分配される残余財産は、総額で1,000万円になります。
計算式は次の通りです。
優先株式100株 × 10万円 = 1,000万円
対して、普通株式を保有する株主に分配される残余財産は0円となります。残余財産の総額1,000万円から、優先株式に割り当てられる1,000万円を控除した結果、普通株式に割り当てられる残余財産が0円以下となったからです。
このように、解散する会社が種類株式を発行している場合は、保有する株式の内容に沿って、残余財産の分配が行われます。
残余財産の分配はいつ?タイミングを解説
残余財産が分配されるのは、残余財産がいくらあるか確定したときです。
財産分配の額が確定するのは、債権の回収と債務の弁済の、双方の手続きが完了した時点です。つまり、残余財産分配のタイミングは、債権の回収と債務の弁済、双方の手続きの完了後になります。
ただし、債務の確定に時間を要する状況下に限っては、債務の弁済を待たずして残余財産の分配ができます。
もっとも、債務弁済前に残余財産の分配を実行するためには、返済できる分の財産を会社に留保しておかなければなりません。返済できる程度のお金を会社に残しておかなければ、債務確定時に支払うお金が無くなり、債権者が損害を被るからです。
会社の解散・清算においては、債権者保護の視点が大切になります。
残余財産の現物分配も可能
残余財産の分配は、現金で分配するのが基本ですが、現物分配も可能です。
現物分配とは、現金以外の資産で残余財産を分配する方法です。
現物の具体例としては、次の項目が考えられます。
- 不動産
- 株式
- 機械設備
- オフィス機器
- 車両(自動車・輸送車等)
- 商品在庫
現物分配は、会社の資産を有効活用できる点で、メリットのある分配方法と言えます。
しかし、現物分配を行うにあたっては、株主の意向について配慮しなければなりません。
無条件に、現物での分配ができるわけではなく、株主が現物分配と金銭分配の、いずれかを選べるようにする必要があります。具体的には、金銭での分配を選択できる期間を設けて、金銭での分配を受けられる機会を株主に与えるようにします。
その他にも、基準以下の株式しか持たない株主に対する取り扱い等、現物分配を行うにあたっては、いくつかの手続きが伴うので注意しましょう。
残余財産の分配における税金や会計処理方法
残余財産の分配があった場合の、税金や会計処理の方法について解説します。
残余財産の分配時に伴う税金や会計の処理は、ケースごとに処理の手順が異なるため、理解が難しい部分です。
まずは、次の2つのケースに分けて考えましょう。
- 残余財産の分配を株主に行ったケース
- 子会社から残余財産の分配を受けたケース
残余財産の分配を株主に行ったケースは、通常通りの処理手順で、税金や会計の処理が行われます。
一方、子会社から残余財産の分配を受けたケースは、次の2つのパターンに分けて整理する必要があります。
- 解散したのが100%子会社であるケース
- 解散したのが100%子会社「以外」であるケース
上記2パターンのうち、100%子会社のケースは、通常とは異なる流れで税金処理がされるため注意が必要です。
残余財産の分配を株主に行ったケース
残余財産を株主に対して分配したケースを解説します。
ポイントとなるのは、みなし配当配当の判断です。みなし配当が発生する場合に限り、所得税の納税処理が必要になります。
ここで紹介するケースは、税金処理の基本となる部分なので、しっかり確認しましょう。
残余財産の分配を行った会社に課税なし
会社から株主へと、残余財産の分配が行われた場合、課税されるのは株主側です。分配を行った会社は課税されません。
財産の分配で経済的利益を得たのは、株主であって会社ではないからです。
利益を受けた側が税金を支払うのが、課税の基本的な考え方です。
贈与契約においては、贈与税が課税されるのは贈与者ではなく贈与を受けた側です。残余財産の分配も同様に、財産を分配をした会社ではなく、財産の分配を受けた株主が課税対象者になります。
株主に残余財産が分配されたケースでは、会社に課税されない点を、前提事実として押さえておきましょう。
出資金を超えるみなし配当は課税対象
前述の通り、残余財産の分配があった場合、財産の分配を受けた株主が所得税の源泉徴収対象者となります。
しかし、財産の分配があったからといって、必ずしも課税が行われるわけではありません。課税が問題になるのは、みなし配当に該当する場合のみです。
本来的な配当ではないものの、配当があったと同視できる場合、みなし配当として、配当があったものとして扱われます。
具体的には「分配額 > 出資額」となる場合のみ、みなし配当が認められます。
出資額が分配額を上回るとなる場合は、配当があったとはみなされません。「出資額 > 分配額」の場合は、出資金の範囲内で払い戻しがされたに過ぎず、実質的に株主に利益が発生したわけではないからです。
このように、残余財産の分配における課税を考える際は、みなし配当に該当するかの確認が必要です。みなし配当に該当しない限り、分配を受けたとしても、株主に所得税は課税はされません。
みなし配当の計算方法
みなし配当の計算方法を紹介します。
前述の通り、会社から株主に対して残余財産の分配が行われた場合、所得税の源泉徴収対象者となるのは株主側です。
また、実際に課税が問題になるのは、分配額が出資額を上回った場合に限ります。
みなし配当の計算にあたっては、まず上記の2点を確認しましょう。
その上で、みなし配当に該当する場合は、次のように課税額を計算します。
(分配額 – 出資額)× 20.42%
具体例で考えてみましょう。
会社が解散し、会社から株主に対して8,000万円の残余財産が分配されたとします。資本金の額等(=出資金)は6,000万円です。
この場合、計算式は次の通りです。
8,000万円 – 6,000万円× 20.42% = 408万4,000円
所得税額は408万4,000円で、この金額を源泉所得税として納税することになります。
株主は、源泉徴収後の7591万6,000円(8,000万円 – 408万4,000円)を受け取る形になります。
子会社から残余財産の分配を受けたケース
親会社が子会社から残余財産の分配を受けるケースについて解説します。
子会社が解散して、その親会社が残余財産の分配を受ける場合は、その子会社が完全子会社か否かで税金や会計の処理が異なります。
完全子会社とは、その親会社が100%出資している場合の子会社です。子会社の発行済み株式の100%を親会社が保有する場合、その子会社は完全子会社になります。
100%子会社のケース
100%子会社が親会社に残余財産の分配を行う場合、通常とは異なる税金の処理がされます。
100%子会社のケースでは、株式消滅損益について、税金と会計で処理のされ方に違いがあるからです。
会計上は「残余財産分配額 – 帳簿価額」の差額により発生する、株式消滅損あるいは株式消滅益を計上します。
しかし、税務上は、「残余財産分配額 – 帳簿価額」の差額は問題となりません。「子会社株式の帳簿価額=譲渡対価」として処理されるため、差額分が生じず、みなし配当が発生しないのです。
ただし、株式消滅損益を計上しない代わりとして、資本金等の額の処理が必要です。株式消滅益が発生すれば資本金等の増加になりますし、株式消滅損が発生すれば、資本金等の減少になります。
例えば、帳簿価額5,000万円の子会社が解散し、その親会社が6,000万円の残余財産を受けたとしましょう。
この場合、プラス1,000万円の差額が発生するため、会計処理においては1,000万円を株式消滅益として計上します。
一方、税務上においては、1,000万円を株式消滅益として計上しません。株式消滅益を計上しない代わりに、資本金等の額を1,000万円増加させます。
このように100%子会社のケースは、みなし配当が問題にならず、株式消滅損益を計上しない点が特徴的です。
100%子会社以外のケース
100%子会社「以外」のケースでは、通常通りの残余財産分配と同様に考えます。
つまり、みなし配当に該当する限り、課税処理が必要です。
残余財産の分配は資本の払い戻しと扱われ、払い戻した資本金額を超過した金額については、利益積立金額の減少として処理されます。そして、この利益積立金額が減少した部分が、みなし配当額になるのです。
また、100%子会社のケースと異なり、税金と会計処理で違う動きをすることはありません。
現物で残余財産の分配を行ったケース
残余財産の分配は、現金のみならず、現物で行うこともできます。
現物分配の場合、どの時点の価値を現物分配の価値とみなすかが問題になりますが、この点については「残余財産確定時の時価」が基準となります。
不動産が現物分配された場合は、残余財産確定時の時価で不動産が売却されたものとして、譲渡損益を計上するのです。
例えば、帳簿価額5,000万円の子会社株式が解散し、親会社が時価4,000万円の不動産を現物分配として受け取ったとしましょう。
この場合、差額分である1,000万円の株式消滅損が発生したとして、税金・会計の処理がされます。
ただし、解散する会社が100%子会社の場合は、通常とは別の税金処理が行われます。
100%子会社が解散し現物分配が行われた場合は「子会社株式の帳簿価額=譲渡対価」として扱われるからです。
現物分配された不動産の時価が4,000万円でも、税務上は、帳簿価額と同じ金額(=5,000万円)として処理されます。
現物分配の税金と会計処理を考えるにあたっては、「残余財産確定時の時価」を現物の価値として扱う点がポイントです。その上で、現物分配においても、100%子会社か否かによって税金処理のされ方が異なる点に注意しましょう。
会社清算時の残余財産の分配までの主な流れ
会社を解散して、残余財産の分配をすることになった場合の、全体的な流れを確認しましょう。
- 解散の決議と清算人の選任
- 2週間以内に解散の登記
- 税務署等に解散の届出
- 財産目録と貸借対照表の作成
- 清算の公告と債権者への催告
- 債権の取り立てと債務の弁済
- 残余財産の分配
- 清算事務の終了
- 清算結了登記
残余財産の分配手順で注意したいのは、期間制限です。解散登記と清算結了の登記には、2週間の期間制限が設けられています。
また、清算の公告と債権者の催促も重要なポイントです。会社の清算手続きは、全体を通して、債権者保護の意識が求められます。
解散の決議と清算人の選任
会社の解散は、2つの手順を踏むことからスタートします。
- 会社の解散決議
- 清算人の選任
解散決議は特別決議によって行われ、決議の要件は次の通りです。
- 株主総会で決議(書面決議でもOK)
- 議決権の過半数を有する株主が出席
- 出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成
清算人は、清算事務を担う者で、通常は会社の代表取締役が清算人に選ばれます。清算人の選任方法は複数ありますが、株主総会で選任するのが一般的です。
清算人選任の株主総会は普通決議で足りますが、解散決議と別個に開く必要はありません。解散決議をする株主総会で、清算人決議を併せて行うのでも構いません。
2週間以内に解散の登記
解散決議が有効に成立した後は、解散の登記と清算人の登記をします。
解散が決まり次第、必要書類を揃えて、解散登記と清算人の選任登記を申請しましょう。
解散登記には期限が設けられており、解散から2週間以内に登記を申請する必要があります。期間経過後でも登記の申請はできますが、登記の懈怠に対しては罰則の適用(会社法976条)もあり得ます。
解散登記の内容は、次の通りです。
- 申請先:本店所在地を管轄する法務局
- 登記の内容:解散及び清算人の選任
- 登録免許税:3万9,000円(解散&清算人の選任)
必要書類は、次の通りです。
- 登記申請書
- 定款
- 株主総会議事録(解散及び清算人の選任を決議したもの)
- 株主リスト(決議要件を満たすことを示す書面)
- 清算人の就任承諾書
- 印鑑届出書
- 印鑑証明書(清算人個人のもの)
上記書面は、株主総会で清算人を選任した場合の一般的な書面です。必要書面は、清算人の選任方法によって違いが生じるため、詳細は法務局や司法書士に確認しましょう。
税務署等に解散の届出
登記の次に必要となるのは解散の届出で、届出先は次の通りです。
- 税務署
- 都道府県税事務所
- 市区町村役場
届出の際に準備しなければならない書類は、次の2点です。
- 異動届出書
- 登記事項証明書
登記事項証明書は、法務局の窓口で交付されます。解散登記が完了した段階で、登記事項証明書を取得しておきましょう。その後の手続きがスムーズになります。
財産目録と貸借対照表の作成
清算人は、会社の資産や負債を調査し、財産目録と貸借対照表を作成します。
財産目録は、資産と負債で構成される一覧表です。例えば、現金や売掛金は資産、借入金や買掛金は負債に分類されます。
貸借対照表は資産と負債の概要を示す書面で、通常は、財産目録をベースとして作成します。
作成した財産目録と貸借対照表は、株主総会の承認を受けなければなりません。
清算の公告と債権者への催告
解散にあたっては、清算の公告と債権者の催告をしなければなりません。
会社の解散及び清算は、債権者に影響を与えるため、その事実を周知する必要があるからです。
公告は債権者に債権の存在を申し出るよう呼びかける手続きで、具体的には、官報にその旨を掲載する形で行います。官報は国が発行する機関紙で、国が発行する新聞のようなものです。
解散する会社が公告をすることで、会社の債権者に、債権回収の機会が与えられます。
しかし、実際は、官報を逐一チェックしている債権者は少ないです。
そこで、解散する会社は、債権者に対して個別に通知をすることになっています。この債権者にする個別の通知を、催告と言います。
公告のみならず催告が必要になる理由は、債権者の保護を手厚くするためです。
債権未回収のまま会社(=債務者)が消滅すると、債権者は経済的損失を被ってしまいます。それゆえ、会社法は債権者に対する個別の催告を求め、債務未弁済のまま会社を解散できないようにしているのです。
なお、公告は2か月以上の期間を定めて行う必要があり、2か月の起算日は公告日の翌日になるとされています。
また、債権者がいないと思われる場合でも、原則、公告は必要です。公告を怠ると、罰則の適用(第976条第2号)もあり得るため注意しましょう。
債権の取り立てと債務の弁済
残余財産分配の前提として、債権の取り立てと債務の弁済を済ませる必要があります。
債権は第三者に請求できる権利で、貸付金、売掛金が具体例です。債務は相手に第三者に負う義務で、借入金や買掛金が具体例です。
未回収の債権ゼロ、未払いの債務ゼロの状態にしましょう。
なお、債務の弁済時期には注意する必要があります。公告(官報掲載)をしている間は、債務の弁済をしてはいけないルールになっています。債権者が確定していない内に、特定の債権者にのみ弁済してしまうと、ほかの債権者にとって不公平な結果を招く可能性があるからです。
例えば、公告期間中に債権者として申し出たAがいたとして、公告期間が終わらない間にAのみに弁済すると、後に債権者として登場したB、Cは不利益を被る可能性があります。
Aに返済した段階で、会社財産がゼロになると、B、Cは債権を回収できないまま泣き寝入りすることになります。このような結果は、債権者にとって不公平であるため、公告期間中の返済は禁止されているのです。
残余財産の分配
債権の回収と債務の弁済を完了させ、財産が残った場合、残余財産の分配手続きを取ることになります。
財産分配に関する手続きは、前述の通りです。
分配先の株主に所得税が発生する場合は、会社が源泉徴収を行い、税務署に納めなければなりません。
また、100%子会社が行う残余財産には注意が必要です。通常とは異なる税金の処理がされます。
清算事務の終了
清算事務(債権回収・債務弁済から残余財産分配までの一連の事務手続き)が終了したタイミングで、清算事務報告書を株主総会に提出します。
株主総会で、清算事務報告書に対する承認が得られると、会社の消滅が決まります。
清算結了登記
清算事務の終了が株主総会で決定された後は、清算結了登記をします。
清算結了の登記をもって、会社は正式に消滅します。
清算結了登記が未了のままだと、会社の消滅が確定しません。清算結了の登記を怠ると、法人税が徴収されたり、相続税負担の原因になったりといった不利益が発生する可能性があります。
また、清算結了の登記には期間制限が設けられています。清算結了登記は、株主総会で決算報告が承認がされてから2週間以内となっています。
清算結了登記の内容は、次の通りです。
- 申請先:本店所在地を管轄する法務局
- 登記の内容:清算の結了
- 登録免許税:2,000円
必要書類は、次の通りです。
- 登記申請書
- 株主総会議事録(決算報告の承認がされた決議)
- 決算報告書
- 株主リスト(決議要件を満たすことを示す書面)
決算報告報告書の内容が債務超過である場合、清算結了の登記は受理されません。債務超過であれば、破産や特別清算等の手続きを取る必要があります。