会社清算時に不動産は売却できる?方法や注意点を詳しく解説

会社を廃業したいが、廃業時には不動産の売却などどのような手続きをする必要があるのか、よくわからないので、不安に思っている経営者もいるのではないでしょうか。
不動産を売却する場合には、名義変更や登記が絡んでくるので、苦手意識を持っている人もいることでしょう。
会社清算時や廃業時には、不動産の売却など保有資産の清算手続きや登記が必要になります。
そこで、この記事では、会社清算時に不動産は売却できるのかについて解説するとともに、不動産の売却方法や売却する際の注意点を詳しく解説します。
目次
会社清算や廃業時には法人名義の不動産も処分する必要あり
会社清算や廃業時には、法人名義の不動産を処分する必要があります。
会社清算とは、会社が解散後、会社が所有している不動産や債権・債務、現金などの財産を処分することです。
そのため、会社の清算や廃業時には、法人名義の不動産を処分する必要があるのです。
ここでは、抵当権の設定の有無による法人名義の不動産の処分などについて、解説します。
抵当権が設定されていない場合そのまま売却が可能

抵当権が設定されていない場合、法人名義の不動産はそのまま売却が可能です。
「抵当権を設定する」とは、事業資金などを借りる場合、法人名義の不動産に担保権を設定することをいいます。
事業資金の返済が難しい場合、事業資金の債権者である銀行などの金融機関(抵当権者)は、担保権を設定した不動産を差し押さえることが可能です。
差し押さえた不動産は競売によって売却され、その売却益が返済費用に充てられます。
抵当権が設定されている法人名義の不動産は、このように銀行などの金融機関に差し押さえられるおそれがあることから、抵当権が設定されているかどうかは、とても重要なのです。
そのため、抵当権が設定されていない法人名義の不動産はそのまま売却できます。
抵当権が設定されている場合は金融機関の承認が必要

抵当権が設定されている場合は、金融機関の承認が必要です。
というのは、金融機関は法人名義の不動産を担保として事業資金などを融資しているため、返済が困難になった場合、その不動産を差し押さえられる抵当権者だからです。
債権者であり抵当権者でもある金融機関の承認により、抵当権を外すことができ、不動産を売却できます。
そのため、抵当権付き不動産については、金融機関の承認が必要なのです。
清算結了前に法人名義の不動産を売却する必要あり
会社は、清算結了前に法人名義の不動産を売却する必要があります。
法人名義の不動産が残っている場合、清算結了できないからです。
清算結了とは、会社の財産をすべて処分し、会社を完全に消滅させることをいいます。
不動産の名義を変更する場合、法務局で所有権移転登記を申請します。
同じように清算結了したら、清算結了登記することにより、法人は完全に消滅します。
しかし、清算結了後に法人名義の不動産が残っていることがあります。
この場合、清算結了登記を抹消して、再度清算人を選任し、残っている法人名義の不動産を処分しなければなりません。
このように法人名義の不動産などの見落としがあると、余計な費用がかかるだけでなく、手間や時間もかかるため、清算結了前に見落としがないかよく確認しましょう。
会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法
会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法として、3つの方法を解説します。
また、みなし解散された法人名義の不動産を売却する方法についても解説します。
第三者の買主を探して法人名義の不動産を売却する

会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法として、第三者の買主を探して売却する方法が挙げられます。
要は普通の売却ですが、第三者の買主がなかなか見つからないことがあるため、時間がかかる場合があります。
会社の解散から1年以上経過しても、清算が終了しない場合には、1年ごとに確定申告が必要です。
そのため、第三者の買主が何年も見つからない場合は、清算中も確定申告をしなければなりません。
第三者の買主が見つかったとして、いくらで売却するのかは売主次第ですが、早めに売却したい人は安く売って、高めに売りたい人は慎重に検討する必要があります。
第三者の買主はなかなか見つからない可能性がありますが、早く処分したいか、慎重に処分したいかは人それぞれです。
経営者が法人名義の不動産を買い取る

経営者が法人名義の不動産を買い取ることも、会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法の1つです。
法人名義の不動産を経営者が買い取ることは、法的に問題ありません。
ただし、注意点があります。
法人名義の不動産を経営者があまりにも安い価格で買い取ってしまうと、「みなし贈与」とみなされるおそれがあります。
「社会通念上著しく低い価格」で経営者が法人名義の不動産を買い取ってしまうと、実質的に贈与となることがあるからです。
さらに、贈与によって経営者に実質的利益が生じる場合も、みなし贈与とみなされます。
この場合、贈与税の申告漏れが指摘されるとともに、ペナルティとして延滞税を納める必要が生じます。
このようにあまりにも安い価格で経営者が法人名義の不動産を買い取ると、債権者や株主から不満やクレームが来ることもあります。
このようにみなし贈与とみなされないためにも、経営者が法人名義の不動産を買い取る場合には、適正な価格で買い取らなければなりません。
会社の事業ごと法人名義の不動産を売却する

会社の事業ごと法人名義の不動産を売却することも、会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法です。
法人名義の不動産とともに会社清算や廃業時の事業を売却する方法であるため、それほど需要がないというデメリットがあります。
一方で、会社の事業ごと法人名義の不動産を売却すると、清算手続きが不要になるというメリットがあります。
この方法は、法人名義の不動産を売却するよりもハードルが高いといえます。
みなし解散された法人名義の不動産を売却する方法
みなし解散された法人名義の不動産を売却するには、どうすればいいのでしょうか。
結論からいうと、みなし解散された会社が法人名義の不動産を売却するには、みなし解散となったあと、もしくはみなし解散の予告から3年以内に会社の継続手続きをする必要があります。
次の条件を満たした場合、会社は解散したものとみなされます。
- 登記を12年以上変更していない株式会社(休眠会社)
- みなし解散の予告から2ヶ月が経過したとき
1つ目の条件は、会社の役員の変更など本来すべき登記変更手続きをせずに12年以上放置している法人は、休眠会社とみなされるという意味です。
休眠会社とみなされた株式会社は、法務局による官報への公告後、2ヶ月が経過すると、解散したものとみなされます。
しかし、官報公告から3年以内であれば、株主総会の決議によって、株式会社を継続することができます。
逆にいうと、官報公告から3年を超えると、会社は継続できず、解散が決まります。
会社法第472条
参照:会社法 | e-Gov法令検索
第四百七十二条 休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したものをいう。以下この条において同じ。)は、法務大臣が休眠会社に対し二箇月以内に法務省令で定めるところによりその本店の所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、その二箇月の期間の満了の時に、解散したものとみなす。ただし、当該期間内に当該休眠会社に関する登記がされたときは、この限りでない。
2 登記所は、前項の規定による公告があったときは、休眠会社に対し、その旨の通知を発しなければならない。
会社清算や廃業時に建物を売却する流れ

会社清算や廃業時に建物を売却する流れは、次のとおりです。
それぞれについて、解説します。
会社の解散を決議し清算人を選任
会社清算や廃業時に建物を売却するには、まず、会社の解散を決議し清算人を選任しなければなりません。
会社の解散の決議と清算人の選任は、株主総会の決議で行います。
会社の解散は特別決議に対して、清算人の選任は普通決議です。
会社が解散するとともに、取締役は退任します。
会社の解散を決議し清算人を選任したら、2週間以内に会社の解散登記と清算人選任登記を法務局に申請する必要があります。
清算人には、次の3つの職務がありますので、引き続き解説します。
- 土地や建物などの保有資産を売却
- 債権の取立と債務の返済
- 残余財産の確定と分配を行う
土地や建物などの保有資産を売却
株主総会で清算人を選任し登記が済んだら、清算人により清算手続きが開始されます。
金額が大きいのが、土地や建物などの保有資産の売却です。
土地や建物によっては、思わぬ売却益を得られることがあるからです。
ただし、土地や建物の不動産は、なかなか買い手が見つからないこともあるので、予想以上に時間がかかることもあります。
清算手続きにそれほど時間をかけたくない場合、多少価格が安くても、土地や建物を売却してしまうのがポイントです。
一方、清算手続きに時間がかかっても、できるだけ多く売却益を得たいという人は、時間をかけて保有資産を売却する必要があります。
土地や建物などの保有資産を売却したら、名義変更をしなければなりません。
名義変更をするには、法務局で不動産の名義変更登記をする必要があります。
債権の取立と債務の返済
土地や建物などの保有資産を売却するほかに、清算人がやる必要があるのは、債権の取立てと債務の返済です。
ここでいう債権とは、貸付金や売掛金、未収金など金銭の支払いを求める権利です。
一方、債務とは、借入金や買掛金、未払金などの金銭を返済する(支払う)義務です。
そのため、清算手続きとして債権の支払いを求め、回収するとともに、債務を返済したり支払ったりする必要があります。
廃業時は、取引先も債権を回収できるか不安になるものなので、できるだけ早く債務の返済をするようにしましょう。
また、土地や建物などの保有資産を売却により得たお金は、債務の弁済に回します。
残余財産の確定と分配を行う
清算人は土地や建物などの保有資産を売却し、債権を取り立てて債務を返済したら、残余財産を確定し分配を行います。
残余財産には、現金だけでなく不動産などの現物も含まれます。
残余財産は、株主に分配されます。
現金は1株あたりいくらになるのかを計算し、その結果をもとに株主に分配されます。
また、現物として不動産を分配する場合は、会社から株主に名義変更しなければなりません。
不動産の名義変更の方法や必要書類
土地や建物などの保有資産を売却する場合、不動産の名義変更が必要になります。
不動産の名義変更をするには、法務局で登記をする必要があります。
この登記のことを「所有権移転登記」といいます。
名義変更とは、所有権を移転する行為であるからです。
不動産の名義変更がされる代表的なケースが、不動産売買をするケースです。
不動産の名義変更の方法は、次のとおりです。
- 売買契約書・登記申請書を作成する
- (不動産の所在地を管轄する)法務局に登記申請する
- 法務局から登記識別情報を受け取る
登記識別情報とは、登記済証(権利証)の代わりに発行される書類で、不動産の所有者に発行されます。
不動産の名義変更に必要な書類は、次のとおりです。
- 売買があったことを証明する書類(売買契約書など)
- 本人確認書類
- 不動産を売却した人の印鑑証明書
- 不動産購入者の住民票
- 登記識別情報か登記済証(権利証)
- 固定資産評価証明書
不動産の名義変更をする場合、所有権移転登記が必要になり、登録免許税がかかります。
登録免許税は、固定資産税評価額の2%です。
ただし、土地の売買については、1.5%に軽減されます(適用期限:令和8(2026)年3月31日)。
会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点
会社清算や廃業時に不動産を処分する場合、主な注意点が4つあります。
それぞれについて、解説します。
固定資産税の負担がある
会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点として、固定資産税の負担があることが挙げられます。
清算人が残余財産を確定する際に、固定資産税を考慮に入れることを忘れてはいけません。
固定資産税とは、土地や家屋の所有者に課せられる税金です。
不動産売買をする場合、固定資産税は「毎年1月1日現在の所有者」に対して課税されます。
そのため、売主か買主かではなく、毎年1月1日に対象不動産の所有者かどうかで納税義務者が決まります。
例えば、2月1日に不動産を売却した場合、売主が固定資産税を負担します。
そのため、売買契約時には、不動産価格に固定資産税が上乗せされます。
すぐに不動産が売却できない場合もある
すぐに不動産が売却できない場合もあることも、会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点の1つです。
不動産は土地か建物か、立地などによって、資産価値が異なるため、すぐに売却できるかどうかが違ってくるからです。
例えば、駅に近く、集客しやすい不動産は、すぐに売却できる可能性が高いのに対して、駅から遠く、周囲にスーパーやコンビニなどがない不動産は資産価値が低いため、売却できる可能性は低いです。
また、土地よりも建物のほうが売却できないことが多いです。
なぜなら、建物は使用者や用途によって、建物の仕様が異なっているからです。
さらに、建物付き土地を売買する場合、建物を取り壊して更地にした上で土地を引き渡すという条件がある場合、なかなか売れないことがあります。
土地を更地にするには、かなりのコストがかかるからです。
清算するにあたっては、この点も考慮に入れなければなりません。
節税するために不動産売却のタイミングに注意する
節税するため不動産売却のタイミングに注意することも、会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点の1つです。
不動産売却のタイミングによって、節税できることがあるからです。
法人税は、益金と損金の差額に対して課税されるため、益金と損金の差額が大きいほど法人税が高くなる一方で、差額が小さいほど法人税は低くなります。
法人税を節税するために、不動産売却のタイミングを図る場合、解散事業年度と清算事業年度のどちらの期間に不動産売却をするかを検討します。
解散事業年度とは、通常の事業年度開始の日(4月1日)から解散の日までを1事業年度とした年度のことです。
一方、清算事業年度とは、解散した日の翌日(清算手続開始日)から始まる1事業年度のことです。
ただし、残余財産が確定した日に清算事業年度は終了となります。
不動産を売却するタイミングとしては、解散事業年度と清算事業年度のどちらかを選択する必要があります。
その際、考慮すべきは、売却益・売却損が発生するかどうかです。
① 不動産の売却益が発生する場合
株式会社は、不動産の売却益が発生する場合、赤字が多い事業年度に不動産売却をすれば、節税できる可能性が高いです。
なぜなら、不動産の売却益と赤字分の損失を相殺できるからです。
② 不動産の売却損が発生する場合
不動産の売却損が発生する場合、利益が多い事業年度に不動産売却をすれば、節税できる可能性が高くなります。
不動産の売却損と利益を相殺できるからです。
いずれも、法人税には益金と損金の差額が大きいほど高くなり、差額が小さいほど低くなるという特徴があるからです。
清算結了後に法人名義の不動産が見つかった場合
会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点として、清算結了後に法人名義の不動産が見つかった場合が挙げられます。
この場合、法人名義の不動産を処分していなかった、あるいは法人名義の不動産を処分したものの、名義変更をし忘れたケースが考えられます。
この場合、既に清算結了の登記は終了し、会社は消滅しています。
そのため、誰が法人名義の不動産の処分や名義変更をするかが問題になります。
① 法人名義の不動産を処分していなかったケース
そもそも法人名義の不動産の処分をしていなかった場合、清算結了登記はできないことになるため、清算結了登記を抹消しなければなりません。
そのため、処分をし忘れた不動産について、清算手続きをやり直す必要があり、清算人を選任して、清算人が清算結了登記を抹消します。
その後、法人名義の不動産を処分して、法務局で名義変更するため、不動産移転登記をします。
すべての手続きが終わったら、清算結了登記をすれば、会社は消滅します。
② 法人名義の不動産を処分したものの、名義変更をし忘れたケース
このケースでは、実際に法人名義の不動産の処分は終わっているため、不動産の名義変更、すなわち不動産移転登記のみをしなければなりません。
清算結了登記は間違っていないため、抹消する必要はありません。
そのため、清算手続きをやり直す必要はなく、清算人を選任する必要もありません。
では、誰が不動産の名義変更を行うのかというと、清算人だった人が行います。
清算人だった人が、不動産移転登記をすれば、名義変更は終了です。
会社清算時に不動産は売却できる?方法や注意点を詳しく解説

会社を廃業したいが、廃業時には不動産の売却などどのような手続きをする必要があるのか、よくわからないので、不安に思っている経営者もいるのではないでしょうか。
不動産を売却する場合には、名義変更や登記が絡んでくるので、苦手意識を持っている人もいることでしょう。
会社清算時や廃業時には、不動産の売却など保有資産の清算手続きや登記が必要になります。
そこで、この記事では、会社清算時に不動産は売却できるのかについて解説するとともに、不動産の売却方法や売却する際の注意点を詳しく解説します。
目次
会社清算や廃業時には法人名義の不動産も処分する必要あり
会社清算や廃業時には、法人名義の不動産を処分する必要があります。
会社清算とは、会社が解散後、会社が所有している不動産や債権・債務、現金などの財産を処分することです。
そのため、会社の清算や廃業時には、法人名義の不動産を処分する必要があるのです。
ここでは、抵当権の設定の有無による法人名義の不動産の処分などについて、解説します。
抵当権が設定されていない場合そのまま売却が可能

抵当権が設定されていない場合、法人名義の不動産はそのまま売却が可能です。
「抵当権を設定する」とは、事業資金などを借りる場合、法人名義の不動産に担保権を設定することをいいます。
事業資金の返済が難しい場合、事業資金の債権者である銀行などの金融機関(抵当権者)は、担保権を設定した不動産を差し押さえることが可能です。
差し押さえた不動産は競売によって売却され、その売却益が返済費用に充てられます。
抵当権が設定されている法人名義の不動産は、このように銀行などの金融機関に差し押さえられるおそれがあることから、抵当権が設定されているかどうかは、とても重要なのです。
そのため、抵当権が設定されていない法人名義の不動産はそのまま売却できます。
抵当権が設定されている場合は金融機関の承認が必要

抵当権が設定されている場合は、金融機関の承認が必要です。
というのは、金融機関は法人名義の不動産を担保として事業資金などを融資しているため、返済が困難になった場合、その不動産を差し押さえられる抵当権者だからです。
債権者であり抵当権者でもある金融機関の承認により、抵当権を外すことができ、不動産を売却できます。
そのため、抵当権付き不動産については、金融機関の承認が必要なのです。
清算結了前に法人名義の不動産を売却する必要あり
会社は、清算結了前に法人名義の不動産を売却する必要があります。
法人名義の不動産が残っている場合、清算結了できないからです。
清算結了とは、会社の財産をすべて処分し、会社を完全に消滅させることをいいます。
不動産の名義を変更する場合、法務局で所有権移転登記を申請します。
同じように清算結了したら、清算結了登記することにより、法人は完全に消滅します。
しかし、清算結了後に法人名義の不動産が残っていることがあります。
この場合、清算結了登記を抹消して、再度清算人を選任し、残っている法人名義の不動産を処分しなければなりません。
このように法人名義の不動産などの見落としがあると、余計な費用がかかるだけでなく、手間や時間もかかるため、清算結了前に見落としがないかよく確認しましょう。
会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法
会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法として、3つの方法を解説します。
また、みなし解散された法人名義の不動産を売却する方法についても解説します。
第三者の買主を探して法人名義の不動産を売却する

会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法として、第三者の買主を探して売却する方法が挙げられます。
要は普通の売却ですが、第三者の買主がなかなか見つからないことがあるため、時間がかかる場合があります。
会社の解散から1年以上経過しても、清算が終了しない場合には、1年ごとに確定申告が必要です。
そのため、第三者の買主が何年も見つからない場合は、清算中も確定申告をしなければなりません。
第三者の買主が見つかったとして、いくらで売却するのかは売主次第ですが、早めに売却したい人は安く売って、高めに売りたい人は慎重に検討する必要があります。
第三者の買主はなかなか見つからない可能性がありますが、早く処分したいか、慎重に処分したいかは人それぞれです。
経営者が法人名義の不動産を買い取る

経営者が法人名義の不動産を買い取ることも、会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法の1つです。
法人名義の不動産を経営者が買い取ることは、法的に問題ありません。
ただし、注意点があります。
法人名義の不動産を経営者があまりにも安い価格で買い取ってしまうと、「みなし贈与」とみなされるおそれがあります。
「社会通念上著しく低い価格」で経営者が法人名義の不動産を買い取ってしまうと、実質的に贈与となることがあるからです。
さらに、贈与によって経営者に実質的利益が生じる場合も、みなし贈与とみなされます。
この場合、贈与税の申告漏れが指摘されるとともに、ペナルティとして延滞税を納める必要が生じます。
このようにあまりにも安い価格で経営者が法人名義の不動産を買い取ると、債権者や株主から不満やクレームが来ることもあります。
このようにみなし贈与とみなされないためにも、経営者が法人名義の不動産を買い取る場合には、適正な価格で買い取らなければなりません。
会社の事業ごと法人名義の不動産を売却する

会社の事業ごと法人名義の不動産を売却することも、会社清算や廃業時に法人名義の不動産を売却する方法です。
法人名義の不動産とともに会社清算や廃業時の事業を売却する方法であるため、それほど需要がないというデメリットがあります。
一方で、会社の事業ごと法人名義の不動産を売却すると、清算手続きが不要になるというメリットがあります。
この方法は、法人名義の不動産を売却するよりもハードルが高いといえます。
みなし解散された法人名義の不動産を売却する方法
みなし解散された法人名義の不動産を売却するには、どうすればいいのでしょうか。
結論からいうと、みなし解散された会社が法人名義の不動産を売却するには、みなし解散となったあと、もしくはみなし解散の予告から3年以内に会社の継続手続きをする必要があります。
次の条件を満たした場合、会社は解散したものとみなされます。
- 登記を12年以上変更していない株式会社(休眠会社)
- みなし解散の予告から2ヶ月が経過したとき
1つ目の条件は、会社の役員の変更など本来すべき登記変更手続きをせずに12年以上放置している法人は、休眠会社とみなされるという意味です。
休眠会社とみなされた株式会社は、法務局による官報への公告後、2ヶ月が経過すると、解散したものとみなされます。
しかし、官報公告から3年以内であれば、株主総会の決議によって、株式会社を継続することができます。
逆にいうと、官報公告から3年を超えると、会社は継続できず、解散が決まります。
会社法第472条
参照:会社法 | e-Gov法令検索
第四百七十二条 休眠会社(株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したものをいう。以下この条において同じ。)は、法務大臣が休眠会社に対し二箇月以内に法務省令で定めるところによりその本店の所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、その二箇月の期間の満了の時に、解散したものとみなす。ただし、当該期間内に当該休眠会社に関する登記がされたときは、この限りでない。
2 登記所は、前項の規定による公告があったときは、休眠会社に対し、その旨の通知を発しなければならない。
会社清算や廃業時に建物を売却する流れ

会社清算や廃業時に建物を売却する流れは、次のとおりです。
それぞれについて、解説します。
会社の解散を決議し清算人を選任
会社清算や廃業時に建物を売却するには、まず、会社の解散を決議し清算人を選任しなければなりません。
会社の解散の決議と清算人の選任は、株主総会の決議で行います。
会社の解散は特別決議に対して、清算人の選任は普通決議です。
会社が解散するとともに、取締役は退任します。
会社の解散を決議し清算人を選任したら、2週間以内に会社の解散登記と清算人選任登記を法務局に申請する必要があります。
清算人には、次の3つの職務がありますので、引き続き解説します。
- 土地や建物などの保有資産を売却
- 債権の取立と債務の返済
- 残余財産の確定と分配を行う
土地や建物などの保有資産を売却
株主総会で清算人を選任し登記が済んだら、清算人により清算手続きが開始されます。
金額が大きいのが、土地や建物などの保有資産の売却です。
土地や建物によっては、思わぬ売却益を得られることがあるからです。
ただし、土地や建物の不動産は、なかなか買い手が見つからないこともあるので、予想以上に時間がかかることもあります。
清算手続きにそれほど時間をかけたくない場合、多少価格が安くても、土地や建物を売却してしまうのがポイントです。
一方、清算手続きに時間がかかっても、できるだけ多く売却益を得たいという人は、時間をかけて保有資産を売却する必要があります。
土地や建物などの保有資産を売却したら、名義変更をしなければなりません。
名義変更をするには、法務局で不動産の名義変更登記をする必要があります。
債権の取立と債務の返済
土地や建物などの保有資産を売却するほかに、清算人がやる必要があるのは、債権の取立てと債務の返済です。
ここでいう債権とは、貸付金や売掛金、未収金など金銭の支払いを求める権利です。
一方、債務とは、借入金や買掛金、未払金などの金銭を返済する(支払う)義務です。
そのため、清算手続きとして債権の支払いを求め、回収するとともに、債務を返済したり支払ったりする必要があります。
廃業時は、取引先も債権を回収できるか不安になるものなので、できるだけ早く債務の返済をするようにしましょう。
また、土地や建物などの保有資産を売却により得たお金は、債務の弁済に回します。
残余財産の確定と分配を行う
清算人は土地や建物などの保有資産を売却し、債権を取り立てて債務を返済したら、残余財産を確定し分配を行います。
残余財産には、現金だけでなく不動産などの現物も含まれます。
残余財産は、株主に分配されます。
現金は1株あたりいくらになるのかを計算し、その結果をもとに株主に分配されます。
また、現物として不動産を分配する場合は、会社から株主に名義変更しなければなりません。
不動産の名義変更の方法や必要書類
土地や建物などの保有資産を売却する場合、不動産の名義変更が必要になります。
不動産の名義変更をするには、法務局で登記をする必要があります。
この登記のことを「所有権移転登記」といいます。
名義変更とは、所有権を移転する行為であるからです。
不動産の名義変更がされる代表的なケースが、不動産売買をするケースです。
不動産の名義変更の方法は、次のとおりです。
- 売買契約書・登記申請書を作成する
- (不動産の所在地を管轄する)法務局に登記申請する
- 法務局から登記識別情報を受け取る
登記識別情報とは、登記済証(権利証)の代わりに発行される書類で、不動産の所有者に発行されます。
不動産の名義変更に必要な書類は、次のとおりです。
- 売買があったことを証明する書類(売買契約書など)
- 本人確認書類
- 不動産を売却した人の印鑑証明書
- 不動産購入者の住民票
- 登記識別情報か登記済証(権利証)
- 固定資産評価証明書
不動産の名義変更をする場合、所有権移転登記が必要になり、登録免許税がかかります。
登録免許税は、固定資産税評価額の2%です。
ただし、土地の売買については、1.5%に軽減されます(適用期限:令和8(2026)年3月31日)。
会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点
会社清算や廃業時に不動産を処分する場合、主な注意点が4つあります。
それぞれについて、解説します。
固定資産税の負担がある
会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点として、固定資産税の負担があることが挙げられます。
清算人が残余財産を確定する際に、固定資産税を考慮に入れることを忘れてはいけません。
固定資産税とは、土地や家屋の所有者に課せられる税金です。
不動産売買をする場合、固定資産税は「毎年1月1日現在の所有者」に対して課税されます。
そのため、売主か買主かではなく、毎年1月1日に対象不動産の所有者かどうかで納税義務者が決まります。
例えば、2月1日に不動産を売却した場合、売主が固定資産税を負担します。
そのため、売買契約時には、不動産価格に固定資産税が上乗せされます。
すぐに不動産が売却できない場合もある
すぐに不動産が売却できない場合もあることも、会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点の1つです。
不動産は土地か建物か、立地などによって、資産価値が異なるため、すぐに売却できるかどうかが違ってくるからです。
例えば、駅に近く、集客しやすい不動産は、すぐに売却できる可能性が高いのに対して、駅から遠く、周囲にスーパーやコンビニなどがない不動産は資産価値が低いため、売却できる可能性は低いです。
また、土地よりも建物のほうが売却できないことが多いです。
なぜなら、建物は使用者や用途によって、建物の仕様が異なっているからです。
さらに、建物付き土地を売買する場合、建物を取り壊して更地にした上で土地を引き渡すという条件がある場合、なかなか売れないことがあります。
土地を更地にするには、かなりのコストがかかるからです。
清算するにあたっては、この点も考慮に入れなければなりません。
節税するために不動産売却のタイミングに注意する
節税するため不動産売却のタイミングに注意することも、会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点の1つです。
不動産売却のタイミングによって、節税できることがあるからです。
法人税は、益金と損金の差額に対して課税されるため、益金と損金の差額が大きいほど法人税が高くなる一方で、差額が小さいほど法人税は低くなります。
法人税を節税するために、不動産売却のタイミングを図る場合、解散事業年度と清算事業年度のどちらの期間に不動産売却をするかを検討します。
解散事業年度とは、通常の事業年度開始の日(4月1日)から解散の日までを1事業年度とした年度のことです。
一方、清算事業年度とは、解散した日の翌日(清算手続開始日)から始まる1事業年度のことです。
ただし、残余財産が確定した日に清算事業年度は終了となります。
不動産を売却するタイミングとしては、解散事業年度と清算事業年度のどちらかを選択する必要があります。
その際、考慮すべきは、売却益・売却損が発生するかどうかです。
① 不動産の売却益が発生する場合
株式会社は、不動産の売却益が発生する場合、赤字が多い事業年度に不動産売却をすれば、節税できる可能性が高いです。
なぜなら、不動産の売却益と赤字分の損失を相殺できるからです。
② 不動産の売却損が発生する場合
不動産の売却損が発生する場合、利益が多い事業年度に不動産売却をすれば、節税できる可能性が高くなります。
不動産の売却損と利益を相殺できるからです。
いずれも、法人税には益金と損金の差額が大きいほど高くなり、差額が小さいほど低くなるという特徴があるからです。
清算結了後に法人名義の不動産が見つかった場合
会社清算や廃業時に不動産を処分するときの注意点として、清算結了後に法人名義の不動産が見つかった場合が挙げられます。
この場合、法人名義の不動産を処分していなかった、あるいは法人名義の不動産を処分したものの、名義変更をし忘れたケースが考えられます。
この場合、既に清算結了の登記は終了し、会社は消滅しています。
そのため、誰が法人名義の不動産の処分や名義変更をするかが問題になります。
① 法人名義の不動産を処分していなかったケース
そもそも法人名義の不動産の処分をしていなかった場合、清算結了登記はできないことになるため、清算結了登記を抹消しなければなりません。
そのため、処分をし忘れた不動産について、清算手続きをやり直す必要があり、清算人を選任して、清算人が清算結了登記を抹消します。
その後、法人名義の不動産を処分して、法務局で名義変更するため、不動産移転登記をします。
すべての手続きが終わったら、清算結了登記をすれば、会社は消滅します。
② 法人名義の不動産を処分したものの、名義変更をし忘れたケース
このケースでは、実際に法人名義の不動産の処分は終わっているため、不動産の名義変更、すなわち不動産移転登記のみをしなければなりません。
清算結了登記は間違っていないため、抹消する必要はありません。
そのため、清算手続きをやり直す必要はなく、清算人を選任する必要もありません。
では、誰が不動産の名義変更を行うのかというと、清算人だった人が行います。
清算人だった人が、不動産移転登記をすれば、名義変更は終了です。