債務超過とは?その原因や解消方法をわかりやすく解説

会社を経営するにあたっては、さまざまなリスクが伴います。
中でも「倒産」は最大のリスクではありますが、そこに至るまでにはさまざまな要因が伴うのです。
赤字という言葉はよく耳にしますが、経営者や事業主が抱えるリスクの1つに「債務超過」と呼ばれる状況があるのをご存じでしょうか。
そこで今回は、債務超過とはどのようなリスクであるのかについて解説します。
目次
債務超過とは負債が資産を上回り返済が困難な状態

ビジネスにおける「債務超過」とは、会社の資産総額と負債総額を比較した際に、負債の金額のほうが大きい状態のことです。
言い換えると「純資産がマイナスの状態」のことであり、経営者・個人事業主にとって可能な限り早めに解消したい状態でもあります。
通常、債務超過に陥っただけでは、すぐに会社は倒産することはありません。
しかし、債務超過の状態が続いていると会社にとってさまざまなデメリットが発生し、それが原因で倒産に追い込まれてしまうケースが多いです。
債務超過は経営の状態が健全ではないケースが多く、すぐにでも対策を講じて財務体制と収益の状態を改善する必要があります。
場合によっては経営方針などの理由で一時的に許容内の債務超過に陥ることもありますが、それでも計画通りに経営が進められなければ債務超過状態が続き、事業の継続が困難になるケースも珍しくありません。
この後に解説する「赤字状態が続く」や「資金ショートが続く」と比較すると、まだ倒産のリスクはそこまで高くないと言えるかもしれません。
しかし、経営の責任者として自社の財務状態は常に把握しておき、債務超過のリスクは可能な限り回避し、もし債務超過であることが判明したら事業の存続のためにも早めに手を打っておくべきことは変わりありません。
赤字との違いは?債務超過につながるため早めに解消しよう

会社の経営状態が良くない状態として広く知られている「赤字」という状態がありますが、厳密には赤字と債務超過は別物です。
赤字とは、要するに収支がマイナスの状態であり、これが続くと債務超過のリスクを高めることになります。
たとえば、50円で仕入れた商品を100円で販売できれば差額の50円が利益になりますが、売れないため40円まで値引きして売れた場合は差額の10円が損失となります。
通常、ビジネスは最終的に利益を出すことを見越して行動するわけですが、費用の高騰などで収益が目減りすれば、最終的に損失を出すことになってしまい、これがいわゆる赤字と呼ばれる状態です。
赤字と債務超過の大きな違いは、その状況を判断するために比較する数値の違いにあります。
赤字は利益のプラス・マイナスを数値化するため、比較するのは「収入」と「費用」です。
一方で債務超過は財務状態の問題になりますので、比較するのは「資産」と「負債」となります。
簿記の話でいえば、赤字は「損益計算書」から判断し、債務超過は「貸借対照表」により判断するのです。
数値自体は別の判断基準ではありますが、会社が赤字状態が続いてしまうと純資産を減らす要因となりますので、最終的には債務超過のリスクを高める原因になります。
赤字自体も会社の倒産リスクを高める要因となりますので、早めに業績を回復させるための対策を講じることが重要です。
資金ショートとの違いは?倒産の可能性が大きく緊急性が高い
先ほど「資金ショートが最も倒産のリスクが高い」という話をしましたが、資金ショートも債務超過とは異なる状態です。
「資金ショート」とは、会社が使える現金などの資産が、事業の継続に必要な金額を満たしていない状態のことを言います。
ビジネスにおいては、会社はさまざまな資産を保有・運用することで、事業の継続を維持しています。
とくに現金などの資産は重要であり、取引先への買掛金の支払いや、金融機関から受けた融資の返済などに充てる必要があるため、ある程度の金額を常に維持しておく必要があるのです。
しかし、取引先の売掛金が予定通りに回収できなかったり、固定費などの費用が予定よりも高騰するなどの理由により、当初の予定よりも現金などの資産が足りなくなってしまう状況に陥ることは決して珍しくありません。
もし、取引先への掛金の支払いが遅れれば今後の取引にも影響する可能性がありますし、融資の返済が遅れれば今後の融資が難しくなる可能性が高くなります。
このように、関係各所への支払いが滞るほどに会社の資金が足りないと、仮に直近で黒字を達成していても事業の継続が困難になり、いわゆる「黒字倒産」という事態に陥る可能性があるのです。
黒字倒産については別記事で詳しく解説しておりますので、そちらもご覧になってください。
債務超過と資金ショート及び黒字倒産は別の概念ではありますが、債務超過に陥っている以上は資産がしている状態である可能性もありますので、まったくの無関係というわけではありません。
債務超過のデメリットは資金繰りの悪循環

債務超過は赤字や資金ショートと比較すると、まだ倒産のリスクはそこまで高くないと評価できます。
しかし、だからといって債務超過に陥っている状態を把握してそれを放置することは経営者として問題がありますし、債務超過の状態が続けば事業の継続に大きな支障をきたすリスクは高いです。
では、具体的に債務超過が会社にとってどのようなデメリットをもたらすのかについて、4つの理由に分けて解説します。
金融機関から融資を受けられなくなってしまう
会社が債務超過の状態になり、とくにその状態が継続している場合、金融機関からの融資を受けられなくなる可能性が高いです。
ビジネスは自己資金だけで事業資金を賄えないケースが多く、必要な事業資金を銀行などの金融機関からの融資で賄うケースが多く見られます。
そもそも金融機関が法人や個人事業主に融資する理由は、将来的な事業の成長を見越して、利息込みで返済を受けることで利息分の利益を発生させることにあります。
そのため、金融機関は事業への融資にあたっては事業計画書の提出などを求めて、事業の成長などの将来性を評価したうえで、リスクを考慮して融資限度額を決めるのです。
そのため、債務超過の状態が知られてしまうと、金融機関は資金の出し渋りをします。
これは当然のことであり、債務超過が続いている以上、財務状態だけでなく収支の状態も良くないと判断できるため、事業の将来性は評価できません。
そのため、金融機関は既存の融資分の回収を優先するため、追加での融資を受けることは難しくなってしまいます。
これは既存の取引金融機関だけでなく、新規の金融機関においても貸借対照表などのデータから事業の現状と将来性が悪く評価されるため、融資を受けられない可能性が高まるのです。
取引先からの信用を失ってしまう
債務超過の状態が知られてしまうと、取引先からの信用を失う原因になる可能性があります。
前述のとおり、債務超過とは「資産よりも負債のほうが多い状態」のことです。
具体的な貸借のバランスは会社ごとに異なるでしょうが、債務超過に陥っている以上は「資産が少ない」と思われてもおかしくありません。
また、新規に取引先を開拓するにあたって、相手から財務状況などを確認される可能性もあります。
現状では現金などの資産がそこまで少なくないと判断されても、債務超過が続いていることで業績も良くない状況であると判断される可能性があるため、そのうち倒産するのではないかと思われれば取引したくないと判断されるでしょう。
基本的にビジネスの継続には取引先との継続的な取引を維持することが必要不可欠であり、債務超過により取引先との関係が悪化することは事業の継続に大きな悪影響を与える可能性が高くなります。
その結果、収支の状況が悪化してそれが財務状態にも悪影響を及ぼし、債務超過の状態を解消するのが難しくなって最終的に倒産してしまうという流れになってしまうのです。
倒産のリスクが高まる
債務超過の状態が長く続いてしまうと、最終的に会社が倒産してしまうリスクが高まることになる可能性があります。
債務超過の状態であること自体は、それだけでは会社がすぐに倒産する原因にならないケースも多いです。
しかし、債務超過状態が続くのは純資産がマイナスの状態が続く原因である業績が良くない状態が続いているためなので、最終的には資金ショートを起こして倒産してしまうというケースは珍しくありません。
起業したばかりの場合や設備投資などで一時的に大きな出費をした場合など、債務超過になることを見越して事業を進め、債務超過を解消する見込みがあれば別ですが、とくに何も対策せずに債務超過が続けば事業の継続に大きな支障をきたす可能性が高いです。
金融機関からの資金調達が難しくなり、取引先への支払いが滞れば取引中止に追い込まれる可能性がありますので、債務超過を甘く見ていると倒産の憂き目が現実的なものになります。
債務超過の状態が1年間続くと上場廃止基準に該当
債務超過の状態を改善しないまま1年が経過してしまうと、証券取引所における「上場廃止基準」に該当し、市場での自社株の取引ができなくなってしまいます。
証券取引所に自社の株式を上場することができれば、市場で自社株が取引されて株価にも影響します。
しかし、一度上場しても特定の条件に該当することが認められた場合、上場廃止となってしまうのです。
日本取引所グループのホームページにおいて、上場廃止となる条件が公開されていますが、債務超過はこのうち「上場維持基準への不適合」に該当します。
さて、「上場廃止になる」とはどういうことかといえば、上場した取引所においてその銘柄の取引が終了するという意味です(上場廃止決定後すぐにではありませんが)。
株式自体が効力をすべて失うという意味ではありませんが、取引所でその銘柄の売買ができないため、株主が自分で取引相手を見つける必要があります。
また、債務超過に陥り上場廃止になってしまった株式の多くは、上場していたときと比べると株価は大きく下落しているケースが多いです。
上場廃止になった会社としても、取引所を通じて投資家から資金を集めることができなくなってしまうため、資金調達の方法が限られてしまう点は大きなデメリットになります。
なお、上場廃止基準を解消(この場合であれば債務超過を解消)すれば再上場も不可能ではありませんが、新規上場の場合と比較して審査基準が厳しくなるため、再上場のハードルは高いと言わざるを得ません。
債務超過の判断基準となるのは貸借対照表!個人事業主も作成しよう
債務超過とは、会社の総資産と総負債を比較して、負債のほうが多い状態のことです。
つまり、自社が債務超過であるかどうかを判断するためには、自社の資産状況と負債状況を正確に計算・把握しておく必要があります。
一般的な企業の場合や、個人事業主でも「青色申告」を利用する場合、貸借対照表の作成は必須であるため、直近の貸借対照表を参照すれば自社が債務超過状態であるかどうかはすぐに計算できます。
一方で「白色申告」をする個人事業主には貸借対照表の作成義務はありません。
ですが、自社の財務状態を把握することは健全なキャッシュフローを維持することにもつながり、資金ショートのリスクを抑えられるため、義務ではない場合でも貸借対照表を作成・管理しておくことをおすすめします。
貸借対照表は資産から負債を引いた数値を見る
債務超過であるかどうかを確認するために、いちいち自社の資産と負債の状態を一から確認することは合理的ではありません。
そのため、必要なタイミングで自社の資産・負債の状態を把握するためには、貸借対照表を参照するのが手っ取り早いです。
貸借対照表には各資産項目と負債項目およびその項目の金額が掲載されており、合計金額も掲載されているのでその金額を比較すればすぐに純資産がプラスかマイナスかを判断できます。
貸借対照表を作成していない個人事業主の場合は、事業規模にもよりますが資産と負債の状態を一から確認して計算する必要があるため、債務超過であるかどうかを確認するために多くの手間と時間を必要とすることになるでしょう。
会社の全財産「資産」
ここからは少し「簿記」の知識について触れることになりますが、債務超過であるかどうかを判断するために必要な各項目について簡単に解説していきます。
まずは「資産」です。
ビジネスにおける資産とは、その会社が保有する金銭的価値のあるすべての項目のことをいいます。
たとえば「現金」「売掛金」「不動産」「有価証券」のように、有形無形を問わず金銭的な価値を持つすべての項目を合計してください。
ただし、貸借対照表に掲載されている資産の項目の中には、実態とズレている金額が掲載されているケースもあります。
たとえば、すでに回収が困難だと判断されている売掛金や貸付金、時価との評価額が異なる金額が掲載されている有価証券や不動産などです。
こうした資産を実態価格に評価し直すと、実は債務超過だったというケースも珍しくありませんので、債務超過であるかどうかを正しく計算するためにはこうした項目の評価方法について注意してください。
返さないといけないお金「負債」
次に見るのは「負債」です。
負債とは一般人にとっても同じように借金としての性質がある項目であり、将来的に返済する義務が発生するものとなります。
たとえば「借入金」「買掛金」「支払手形」など、何らかの形で返済する必要が出てくる項目を合計します。
詳しくは簿記・会計の分野になるので割愛しますが、負債の項目の中には貸倒引当金のように借金としての性質と異なるイメージの勘定科目もあり、会計担当が取り扱いを間違えてしまう項目も少なくありません。
こうした扱いを見直すと、当初の想定よりも負債総額が大きくなり、実は債務超過であったというケースも十分に考えられます。
使いやすい会計ソフトを導入するなどして正しく仕訳を行い、資産と負債の扱いを正しく行うことで自社の財務状態を適切に把握しましょう。
返す必要のない財産「純資産」
最後は「純資産」です。
純資産とは、資産総額から負債総額を差し引いて残ったプラスの金額であり、純資産がプラスであれば問題ありませんが、マイナスの場合(負債のほうが多い)は債務超過であると判断します。
考え方としては、現状で自社が返済義務のある借金をすべて自社の資産で返済してしまい、残った資産であるため「返済義務のない財産」という性質があるのです。
純資産の割合が大きいほど、財務状況が安定しており、資金ショートなどの倒産リスクの高い状態を回避することができます。
ただし、「純資産が多いこと」と「業績が良好であること」は別問題であり、純資産は多いけれど業績は赤字であるというケースは珍しくありません。
赤字状態が続くと最終的に会社の資産を減少させてしまい、債務超過に陥る可能性がありますので、財務状況を健全に維持することはもちろん重要ですが、業績についてもきちんと管理することも重要です。
債務超過はなぜ起こる?よくある事例を解説
債務超過は決して珍しい状況というわけではありませんが、事業の健全な継続のためには避けるべき事態ではあります。
では、なぜ会社が債務超過状態に陥ってしまうのか、よくあるケースをいくつか解説します。
すぐに倒産しないと赤字続きを改善しない
前述のとおり、債務超過に陥ってもすぐに会社が倒産してしまうというわけではありません。
倒産というものは基本的に「事業の継続が困難になってしまった」という状態を指しており、負債のほうが多いというだけでは速やかに事業継続ができなくなるというわけではないのです。
とはいえ、何度も触れていますが債務超過が続くと最終的には倒産に至るリスクを高めることになりますので、できるだけ速やかに何らかの対策を講じて実行に移す必要があります。
しかし、経営者の中には倒産するような状況ではないことから、仮に自社が赤字状態であったとしても軽視して、業績の改善に向けた対策を講じないケースも珍しくありません。
赤字が続けば資産が減って負債が増えてしまいますので、いつまで経っても債務超過を解消することができないのです。
この姿勢は経営者として問題がありますが、自社の将来性を楽観的に評価してしまうと、どうしても本腰を入れて改革を進めようとしないケースが見られます。
赤字体質は抜本的な改革が必要不可欠なので、倒産を現実的に考えられないと債務超過のリスクを回避することは難しいでしょう。
設備投資失敗や固定費にかかるお金が増えてしまった
ビジネスでは、最終的に利益をあげるためにさまざまな理由で支出を余儀なくされます。
たとえば、商品を自社生産するための工場などの設備投資や、その工場を建てるために建設会社などの業者に支払う費用、そのほかにも電気代や店舗の賃料などの固定費も無視できません。
設備投資により回収できる利益や、必要になる固定費などの費用については、事前にシミュレーションすることによってある程度の金額は事前に計算できるでしょう。
しかし、世の中そこまで何もかも事前に計算して、その通りに事が進むというわけではありません。
たとえば、せっかく設備投資しても、当初の予定通りの利益が出ない失敗例は珍しくありません。
また、固定費についてもエネルギーコストや人件費の高騰などにより、当初の想定よりも費用が高額になってしまい、利益を圧迫してしまうケースも多いです。
このように、予定外に利益を圧迫したり、設備投資のために行った借入を十分に返済できないと、資産を減らして負債を増やす流れになってしまいますので、債務超過のリスクを高めることになります。
資本金が少ない会社は要注意!赤字補填ができない
債務超過に陥りやすい会社や個人事業主の特徴として、その1つに「資本金が少ない」というケースが挙げられます。
昨今では少額の資本金でも起業できるようになっているため、大企業のように億単位で資本金を投入することなく事業を始めるケースが多くなりました。
ビジネスが軌道に乗れば問題ありませんが、資本金が少額であることは「赤字の補填ができない」ことです。
たとえば、資本金を200万で起業したとします。
起業直後は利益が出ないケースも多いので、仮に年間で50万円の赤字が発生したとしても、4年間は債務超過にならない計算になるのです。
もし、これが資本金50万円でスタートしたとすれば、最初の1年目で債務超過寸前の状態になります。
個人で起業する場合はなかなか資本投入できないケースも多いのですが、債務超過のリスクを少しでも減らすためには、可能な限り多くの資本金を準備して備えておくことが重要なのです。
実務に忙殺されて経理を疎かにする
債務超過を回避したり、すでに債務超過になっているのであればそれを解消するためには、経営者の適切な判断が欠かせません。
しかし、少人数で事業を回している会社の場合だと、経営責任者が実務の多くを担当しており、経理や財務といった部分にまで手が回らないほど忙殺されているケースも多いです。
たとえば、赤字体質で債務超過ギリギリの状態であれば、赤字事業を縮小・撤退して黒字化を目指し、不要な設備等を売却することで現金を確保して負債を圧縮するといった経営判断がオーソドックスな選択肢となります。
ですが、経営判断に必要な経理のデータを経営者が把握できていないと、こうした債務超過や赤字を回避するために必要な経営判断ができず、知らないうちに財務や業績が悪化して倒産のリスクを高めてしまうのです。
もちろん、経営者が本来の役割である経営判断メインのワークフローを確立するためには、それを実現するための人手を確保すれば良いのですが、人件費が膨れ上がることを懸念してなかなか雇用に踏み切れないというケースも珍しくありません。
結果、赤字体質や債務超過が悪化して余計に雇用を増やすどころの話ではなくなってしまい、最終的に倒産への道を一歩ずつ歩んでしまうことになるのです。
財務体質の改善が債務超過解消への近道
債務超過が続けば、事業の継続は難しくなります。
長期的な会社の成長を望むのであれば、債務超過のリスクを回避するための対策を講じる必要があるのです。
債務超過を回避し、すでに債務超過であればそれを解消するためには、財務体質を改善するのが一番の方法となります。
では、会社の財務体質を改善するためには、どういった経営判断が必要になるのでしょうか。
売上を増やしコストを削減し利益を改善する
最も合理的でシンプルな方法としては「売上アップ」と「コスト削減」の2本の柱です。
売上が増えれば資産が増えることになりますので、債務超過のリスクは抑えられます。
ただし、いくら売上が多くても利益を確保できなければ赤字になるリスクがありますので、きちんと利益を確保できる体質を維持することも重要です。
そのためにも、発生するコストをいかにして抑えられるかという点は無視できません。
たとえば製造業であれば、原材料の仕入れ先を価格の安いところに変更したり、従業員の配置を合理化することで人件費を抑えるなど、さまざまな部分でコストカットの余地があります。
こうして売上アップとコストカットを実現することができれば、その分だけ利益を確保することができて資産が増え、債務超過のリスクを回避できるのです。
資金調達や増資する
債務超過のリスクは「資産が少ない」ことにも由来しますので、何らかの方法で資金調達を行い、その方法を長期にわたって継続的に利用できる体制を確立することも重要です。
資金が潤沢にあればそれを負債の返済に充てて負債を縮小し、債務超過の原因である負債の肥大化を防いで債務超過のリスクを抑えることができます。
ただし、資金ショートのリスクはこれで抑えられますが、金融機関からの借入で資金調達する場合は負債項目の借入金も増加することになりますので、これだけでは債務超過のリスクはそこまで抑えることができません。
そのため、より現実的な方法としては「増資」により純資産を増やすという選択肢があります。
経営者自身の保有資産で増資できればそれでも良いのですが、それが難しい場合には第三者に出資を依頼して自社の株主になってもらうという方法があります。
とくに効果的なのが、経営に強い人物に出資を依頼して株主になってもらい、そのうえで自社の経営に参画してもらうことでより質の高い経営判断ができるようになるという構図です。
純資産が増えればその分だけ赤字の際に補填して債務超過のリスクを回避できるうえ、経営のプロに参加してもらうことで自社のビジネスの合理化・効率化が進み、利益を出すことで赤字体質から脱却して自社の成長につながるでしょう。
DES(デット・エクイティ・スワップ)を行う
少し難しい話ではありますが「DES(デット・エクイティ・スワップ)」を行うことで負債を減らして資本を増やすという方法があります。
DESとは、簡単に言えば債権者が保有する債務と自社の株式を交換することにより、債務を縮小しつつ資本を増やす方法です。
債権者にとっては、回収が難しいと見える債権を、将来的に配当を得られたり株価が上昇する可能性がある株式に交換することにより、利益を得られる可能性があるというメリットがあります。
債権者・債務者双方にとってメリットがある方法ではありますが、税制上の問題があったり、手続きが面倒だったりするため、簡単な方法ではありません。
この方法を模索する場合は税理士に相談するなどして、現実的に実行可能な方法であるのか、実行する場合はどのようにすればスムーズに手続きを進められるのかといったアドバイスを受けておきましょう。
債務者と交渉して債務減額や免除をお願いする
成功確率はそこまで高くありませんが、負債を縮小する目的として「債務減額」「債務免除」について交渉するといった方法もあります。
たとえば、買掛金がある業者に対してこれらの交渉を行う場合、相手業者が損金算入によって節税効果を得られる場合や、付き合いの長い業者である場合には、交渉に応じてもらえる可能性は十分にあると言えるでしょう。
借入金がある金融機関の場合はハードルが高いのですが、「地域の雇用に貢献している」「倒産すると取引先の連鎖倒産のリスクがある」といった事情がある場合には、減額や免除に応じてくれる可能性はあります。
基本的に債権者にとってデメリットの大きい交渉となりますので、失敗することを前提として交渉を依頼してみましょう。
M&Aによる売却を検討する
経営権を手放す覚悟があるのであれば、「M&A」により会社を他社に売却するという選択肢もあります。
会社を売却することで多くの場合は経営権が相手企業に移りますが、売却により現金や株式を取得することができ、交渉次第ではありますが自社の雇用を維持することも可能です。
債務超過している会社であっても、業績自体は決して悪くなかったり、ビジネス向けのノウハウがある会社の場合だと、買い手が付く可能性は十分にあります。
また、経営権が相手企業に移るため、後継者問題で悩んでいる経営者はその問題も一緒に解消できる点がメリットです。
会社再生法を適用するのは最終手段
債務超過に陥った会社が選択できる手段として、最終手段の1つともいえるのが「会社更生法の適用」です。
「会社更生法」とは、会社の事業を継続しつつ、債務整理を進めて会社を再建するための手続きについて定められている法律となります。
破産手続きで会社を清算する場合、最終的に法人格は消滅してしまいますが、会社更生や民事再生の場合は法人格を残したまま事業の再生を進められる点が大きなメリットです。
ただし、会社更生法の適用は株式会社にしか認められておらず、さらに経営陣は総退陣しなければならないといったデメリットもありますので、他の方法を模索しつつ、どうしても選択肢がない場合の最終手段であると念頭に置いて検討してください。
債務超過とは?その原因や解消方法をわかりやすく解説

会社を経営するにあたっては、さまざまなリスクが伴います。
中でも「倒産」は最大のリスクではありますが、そこに至るまでにはさまざまな要因が伴うのです。
赤字という言葉はよく耳にしますが、経営者や事業主が抱えるリスクの1つに「債務超過」と呼ばれる状況があるのをご存じでしょうか。
そこで今回は、債務超過とはどのようなリスクであるのかについて解説します。
目次
債務超過とは負債が資産を上回り返済が困難な状態

ビジネスにおける「債務超過」とは、会社の資産総額と負債総額を比較した際に、負債の金額のほうが大きい状態のことです。
言い換えると「純資産がマイナスの状態」のことであり、経営者・個人事業主にとって可能な限り早めに解消したい状態でもあります。
通常、債務超過に陥っただけでは、すぐに会社は倒産することはありません。
しかし、債務超過の状態が続いていると会社にとってさまざまなデメリットが発生し、それが原因で倒産に追い込まれてしまうケースが多いです。
債務超過は経営の状態が健全ではないケースが多く、すぐにでも対策を講じて財務体制と収益の状態を改善する必要があります。
場合によっては経営方針などの理由で一時的に許容内の債務超過に陥ることもありますが、それでも計画通りに経営が進められなければ債務超過状態が続き、事業の継続が困難になるケースも珍しくありません。
この後に解説する「赤字状態が続く」や「資金ショートが続く」と比較すると、まだ倒産のリスクはそこまで高くないと言えるかもしれません。
しかし、経営の責任者として自社の財務状態は常に把握しておき、債務超過のリスクは可能な限り回避し、もし債務超過であることが判明したら事業の存続のためにも早めに手を打っておくべきことは変わりありません。
赤字との違いは?債務超過につながるため早めに解消しよう

会社の経営状態が良くない状態として広く知られている「赤字」という状態がありますが、厳密には赤字と債務超過は別物です。
赤字とは、要するに収支がマイナスの状態であり、これが続くと債務超過のリスクを高めることになります。
たとえば、50円で仕入れた商品を100円で販売できれば差額の50円が利益になりますが、売れないため40円まで値引きして売れた場合は差額の10円が損失となります。
通常、ビジネスは最終的に利益を出すことを見越して行動するわけですが、費用の高騰などで収益が目減りすれば、最終的に損失を出すことになってしまい、これがいわゆる赤字と呼ばれる状態です。
赤字と債務超過の大きな違いは、その状況を判断するために比較する数値の違いにあります。
赤字は利益のプラス・マイナスを数値化するため、比較するのは「収入」と「費用」です。
一方で債務超過は財務状態の問題になりますので、比較するのは「資産」と「負債」となります。
簿記の話でいえば、赤字は「損益計算書」から判断し、債務超過は「貸借対照表」により判断するのです。
数値自体は別の判断基準ではありますが、会社が赤字状態が続いてしまうと純資産を減らす要因となりますので、最終的には債務超過のリスクを高める原因になります。
赤字自体も会社の倒産リスクを高める要因となりますので、早めに業績を回復させるための対策を講じることが重要です。
資金ショートとの違いは?倒産の可能性が大きく緊急性が高い
先ほど「資金ショートが最も倒産のリスクが高い」という話をしましたが、資金ショートも債務超過とは異なる状態です。
「資金ショート」とは、会社が使える現金などの資産が、事業の継続に必要な金額を満たしていない状態のことを言います。
ビジネスにおいては、会社はさまざまな資産を保有・運用することで、事業の継続を維持しています。
とくに現金などの資産は重要であり、取引先への買掛金の支払いや、金融機関から受けた融資の返済などに充てる必要があるため、ある程度の金額を常に維持しておく必要があるのです。
しかし、取引先の売掛金が予定通りに回収できなかったり、固定費などの費用が予定よりも高騰するなどの理由により、当初の予定よりも現金などの資産が足りなくなってしまう状況に陥ることは決して珍しくありません。
もし、取引先への掛金の支払いが遅れれば今後の取引にも影響する可能性がありますし、融資の返済が遅れれば今後の融資が難しくなる可能性が高くなります。
このように、関係各所への支払いが滞るほどに会社の資金が足りないと、仮に直近で黒字を達成していても事業の継続が困難になり、いわゆる「黒字倒産」という事態に陥る可能性があるのです。
黒字倒産については別記事で詳しく解説しておりますので、そちらもご覧になってください。
債務超過と資金ショート及び黒字倒産は別の概念ではありますが、債務超過に陥っている以上は資産がしている状態である可能性もありますので、まったくの無関係というわけではありません。
債務超過のデメリットは資金繰りの悪循環

債務超過は赤字や資金ショートと比較すると、まだ倒産のリスクはそこまで高くないと評価できます。
しかし、だからといって債務超過に陥っている状態を把握してそれを放置することは経営者として問題がありますし、債務超過の状態が続けば事業の継続に大きな支障をきたすリスクは高いです。
では、具体的に債務超過が会社にとってどのようなデメリットをもたらすのかについて、4つの理由に分けて解説します。
金融機関から融資を受けられなくなってしまう
会社が債務超過の状態になり、とくにその状態が継続している場合、金融機関からの融資を受けられなくなる可能性が高いです。
ビジネスは自己資金だけで事業資金を賄えないケースが多く、必要な事業資金を銀行などの金融機関からの融資で賄うケースが多く見られます。
そもそも金融機関が法人や個人事業主に融資する理由は、将来的な事業の成長を見越して、利息込みで返済を受けることで利息分の利益を発生させることにあります。
そのため、金融機関は事業への融資にあたっては事業計画書の提出などを求めて、事業の成長などの将来性を評価したうえで、リスクを考慮して融資限度額を決めるのです。
そのため、債務超過の状態が知られてしまうと、金融機関は資金の出し渋りをします。
これは当然のことであり、債務超過が続いている以上、財務状態だけでなく収支の状態も良くないと判断できるため、事業の将来性は評価できません。
そのため、金融機関は既存の融資分の回収を優先するため、追加での融資を受けることは難しくなってしまいます。
これは既存の取引金融機関だけでなく、新規の金融機関においても貸借対照表などのデータから事業の現状と将来性が悪く評価されるため、融資を受けられない可能性が高まるのです。
取引先からの信用を失ってしまう
債務超過の状態が知られてしまうと、取引先からの信用を失う原因になる可能性があります。
前述のとおり、債務超過とは「資産よりも負債のほうが多い状態」のことです。
具体的な貸借のバランスは会社ごとに異なるでしょうが、債務超過に陥っている以上は「資産が少ない」と思われてもおかしくありません。
また、新規に取引先を開拓するにあたって、相手から財務状況などを確認される可能性もあります。
現状では現金などの資産がそこまで少なくないと判断されても、債務超過が続いていることで業績も良くない状況であると判断される可能性があるため、そのうち倒産するのではないかと思われれば取引したくないと判断されるでしょう。
基本的にビジネスの継続には取引先との継続的な取引を維持することが必要不可欠であり、債務超過により取引先との関係が悪化することは事業の継続に大きな悪影響を与える可能性が高くなります。
その結果、収支の状況が悪化してそれが財務状態にも悪影響を及ぼし、債務超過の状態を解消するのが難しくなって最終的に倒産してしまうという流れになってしまうのです。
倒産のリスクが高まる
債務超過の状態が長く続いてしまうと、最終的に会社が倒産してしまうリスクが高まることになる可能性があります。
債務超過の状態であること自体は、それだけでは会社がすぐに倒産する原因にならないケースも多いです。
しかし、債務超過状態が続くのは純資産がマイナスの状態が続く原因である業績が良くない状態が続いているためなので、最終的には資金ショートを起こして倒産してしまうというケースは珍しくありません。
起業したばかりの場合や設備投資などで一時的に大きな出費をした場合など、債務超過になることを見越して事業を進め、債務超過を解消する見込みがあれば別ですが、とくに何も対策せずに債務超過が続けば事業の継続に大きな支障をきたす可能性が高いです。
金融機関からの資金調達が難しくなり、取引先への支払いが滞れば取引中止に追い込まれる可能性がありますので、債務超過を甘く見ていると倒産の憂き目が現実的なものになります。
債務超過の状態が1年間続くと上場廃止基準に該当
債務超過の状態を改善しないまま1年が経過してしまうと、証券取引所における「上場廃止基準」に該当し、市場での自社株の取引ができなくなってしまいます。
証券取引所に自社の株式を上場することができれば、市場で自社株が取引されて株価にも影響します。
しかし、一度上場しても特定の条件に該当することが認められた場合、上場廃止となってしまうのです。
日本取引所グループのホームページにおいて、上場廃止となる条件が公開されていますが、債務超過はこのうち「上場維持基準への不適合」に該当します。
さて、「上場廃止になる」とはどういうことかといえば、上場した取引所においてその銘柄の取引が終了するという意味です(上場廃止決定後すぐにではありませんが)。
株式自体が効力をすべて失うという意味ではありませんが、取引所でその銘柄の売買ができないため、株主が自分で取引相手を見つける必要があります。
また、債務超過に陥り上場廃止になってしまった株式の多くは、上場していたときと比べると株価は大きく下落しているケースが多いです。
上場廃止になった会社としても、取引所を通じて投資家から資金を集めることができなくなってしまうため、資金調達の方法が限られてしまう点は大きなデメリットになります。
なお、上場廃止基準を解消(この場合であれば債務超過を解消)すれば再上場も不可能ではありませんが、新規上場の場合と比較して審査基準が厳しくなるため、再上場のハードルは高いと言わざるを得ません。
債務超過の判断基準となるのは貸借対照表!個人事業主も作成しよう
債務超過とは、会社の総資産と総負債を比較して、負債のほうが多い状態のことです。
つまり、自社が債務超過であるかどうかを判断するためには、自社の資産状況と負債状況を正確に計算・把握しておく必要があります。
一般的な企業の場合や、個人事業主でも「青色申告」を利用する場合、貸借対照表の作成は必須であるため、直近の貸借対照表を参照すれば自社が債務超過状態であるかどうかはすぐに計算できます。
一方で「白色申告」をする個人事業主には貸借対照表の作成義務はありません。
ですが、自社の財務状態を把握することは健全なキャッシュフローを維持することにもつながり、資金ショートのリスクを抑えられるため、義務ではない場合でも貸借対照表を作成・管理しておくことをおすすめします。
貸借対照表は資産から負債を引いた数値を見る
債務超過であるかどうかを確認するために、いちいち自社の資産と負債の状態を一から確認することは合理的ではありません。
そのため、必要なタイミングで自社の資産・負債の状態を把握するためには、貸借対照表を参照するのが手っ取り早いです。
貸借対照表には各資産項目と負債項目およびその項目の金額が掲載されており、合計金額も掲載されているのでその金額を比較すればすぐに純資産がプラスかマイナスかを判断できます。
貸借対照表を作成していない個人事業主の場合は、事業規模にもよりますが資産と負債の状態を一から確認して計算する必要があるため、債務超過であるかどうかを確認するために多くの手間と時間を必要とすることになるでしょう。
会社の全財産「資産」
ここからは少し「簿記」の知識について触れることになりますが、債務超過であるかどうかを判断するために必要な各項目について簡単に解説していきます。
まずは「資産」です。
ビジネスにおける資産とは、その会社が保有する金銭的価値のあるすべての項目のことをいいます。
たとえば「現金」「売掛金」「不動産」「有価証券」のように、有形無形を問わず金銭的な価値を持つすべての項目を合計してください。
ただし、貸借対照表に掲載されている資産の項目の中には、実態とズレている金額が掲載されているケースもあります。
たとえば、すでに回収が困難だと判断されている売掛金や貸付金、時価との評価額が異なる金額が掲載されている有価証券や不動産などです。
こうした資産を実態価格に評価し直すと、実は債務超過だったというケースも珍しくありませんので、債務超過であるかどうかを正しく計算するためにはこうした項目の評価方法について注意してください。
返さないといけないお金「負債」
次に見るのは「負債」です。
負債とは一般人にとっても同じように借金としての性質がある項目であり、将来的に返済する義務が発生するものとなります。
たとえば「借入金」「買掛金」「支払手形」など、何らかの形で返済する必要が出てくる項目を合計します。
詳しくは簿記・会計の分野になるので割愛しますが、負債の項目の中には貸倒引当金のように借金としての性質と異なるイメージの勘定科目もあり、会計担当が取り扱いを間違えてしまう項目も少なくありません。
こうした扱いを見直すと、当初の想定よりも負債総額が大きくなり、実は債務超過であったというケースも十分に考えられます。
使いやすい会計ソフトを導入するなどして正しく仕訳を行い、資産と負債の扱いを正しく行うことで自社の財務状態を適切に把握しましょう。
返す必要のない財産「純資産」
最後は「純資産」です。
純資産とは、資産総額から負債総額を差し引いて残ったプラスの金額であり、純資産がプラスであれば問題ありませんが、マイナスの場合(負債のほうが多い)は債務超過であると判断します。
考え方としては、現状で自社が返済義務のある借金をすべて自社の資産で返済してしまい、残った資産であるため「返済義務のない財産」という性質があるのです。
純資産の割合が大きいほど、財務状況が安定しており、資金ショートなどの倒産リスクの高い状態を回避することができます。
ただし、「純資産が多いこと」と「業績が良好であること」は別問題であり、純資産は多いけれど業績は赤字であるというケースは珍しくありません。
赤字状態が続くと最終的に会社の資産を減少させてしまい、債務超過に陥る可能性がありますので、財務状況を健全に維持することはもちろん重要ですが、業績についてもきちんと管理することも重要です。
債務超過はなぜ起こる?よくある事例を解説
債務超過は決して珍しい状況というわけではありませんが、事業の健全な継続のためには避けるべき事態ではあります。
では、なぜ会社が債務超過状態に陥ってしまうのか、よくあるケースをいくつか解説します。
すぐに倒産しないと赤字続きを改善しない
前述のとおり、債務超過に陥ってもすぐに会社が倒産してしまうというわけではありません。
倒産というものは基本的に「事業の継続が困難になってしまった」という状態を指しており、負債のほうが多いというだけでは速やかに事業継続ができなくなるというわけではないのです。
とはいえ、何度も触れていますが債務超過が続くと最終的には倒産に至るリスクを高めることになりますので、できるだけ速やかに何らかの対策を講じて実行に移す必要があります。
しかし、経営者の中には倒産するような状況ではないことから、仮に自社が赤字状態であったとしても軽視して、業績の改善に向けた対策を講じないケースも珍しくありません。
赤字が続けば資産が減って負債が増えてしまいますので、いつまで経っても債務超過を解消することができないのです。
この姿勢は経営者として問題がありますが、自社の将来性を楽観的に評価してしまうと、どうしても本腰を入れて改革を進めようとしないケースが見られます。
赤字体質は抜本的な改革が必要不可欠なので、倒産を現実的に考えられないと債務超過のリスクを回避することは難しいでしょう。
設備投資失敗や固定費にかかるお金が増えてしまった
ビジネスでは、最終的に利益をあげるためにさまざまな理由で支出を余儀なくされます。
たとえば、商品を自社生産するための工場などの設備投資や、その工場を建てるために建設会社などの業者に支払う費用、そのほかにも電気代や店舗の賃料などの固定費も無視できません。
設備投資により回収できる利益や、必要になる固定費などの費用については、事前にシミュレーションすることによってある程度の金額は事前に計算できるでしょう。
しかし、世の中そこまで何もかも事前に計算して、その通りに事が進むというわけではありません。
たとえば、せっかく設備投資しても、当初の予定通りの利益が出ない失敗例は珍しくありません。
また、固定費についてもエネルギーコストや人件費の高騰などにより、当初の想定よりも費用が高額になってしまい、利益を圧迫してしまうケースも多いです。
このように、予定外に利益を圧迫したり、設備投資のために行った借入を十分に返済できないと、資産を減らして負債を増やす流れになってしまいますので、債務超過のリスクを高めることになります。
資本金が少ない会社は要注意!赤字補填ができない
債務超過に陥りやすい会社や個人事業主の特徴として、その1つに「資本金が少ない」というケースが挙げられます。
昨今では少額の資本金でも起業できるようになっているため、大企業のように億単位で資本金を投入することなく事業を始めるケースが多くなりました。
ビジネスが軌道に乗れば問題ありませんが、資本金が少額であることは「赤字の補填ができない」ことです。
たとえば、資本金を200万で起業したとします。
起業直後は利益が出ないケースも多いので、仮に年間で50万円の赤字が発生したとしても、4年間は債務超過にならない計算になるのです。
もし、これが資本金50万円でスタートしたとすれば、最初の1年目で債務超過寸前の状態になります。
個人で起業する場合はなかなか資本投入できないケースも多いのですが、債務超過のリスクを少しでも減らすためには、可能な限り多くの資本金を準備して備えておくことが重要なのです。
実務に忙殺されて経理を疎かにする
債務超過を回避したり、すでに債務超過になっているのであればそれを解消するためには、経営者の適切な判断が欠かせません。
しかし、少人数で事業を回している会社の場合だと、経営責任者が実務の多くを担当しており、経理や財務といった部分にまで手が回らないほど忙殺されているケースも多いです。
たとえば、赤字体質で債務超過ギリギリの状態であれば、赤字事業を縮小・撤退して黒字化を目指し、不要な設備等を売却することで現金を確保して負債を圧縮するといった経営判断がオーソドックスな選択肢となります。
ですが、経営判断に必要な経理のデータを経営者が把握できていないと、こうした債務超過や赤字を回避するために必要な経営判断ができず、知らないうちに財務や業績が悪化して倒産のリスクを高めてしまうのです。
もちろん、経営者が本来の役割である経営判断メインのワークフローを確立するためには、それを実現するための人手を確保すれば良いのですが、人件費が膨れ上がることを懸念してなかなか雇用に踏み切れないというケースも珍しくありません。
結果、赤字体質や債務超過が悪化して余計に雇用を増やすどころの話ではなくなってしまい、最終的に倒産への道を一歩ずつ歩んでしまうことになるのです。
財務体質の改善が債務超過解消への近道
債務超過が続けば、事業の継続は難しくなります。
長期的な会社の成長を望むのであれば、債務超過のリスクを回避するための対策を講じる必要があるのです。
債務超過を回避し、すでに債務超過であればそれを解消するためには、財務体質を改善するのが一番の方法となります。
では、会社の財務体質を改善するためには、どういった経営判断が必要になるのでしょうか。
売上を増やしコストを削減し利益を改善する
最も合理的でシンプルな方法としては「売上アップ」と「コスト削減」の2本の柱です。
売上が増えれば資産が増えることになりますので、債務超過のリスクは抑えられます。
ただし、いくら売上が多くても利益を確保できなければ赤字になるリスクがありますので、きちんと利益を確保できる体質を維持することも重要です。
そのためにも、発生するコストをいかにして抑えられるかという点は無視できません。
たとえば製造業であれば、原材料の仕入れ先を価格の安いところに変更したり、従業員の配置を合理化することで人件費を抑えるなど、さまざまな部分でコストカットの余地があります。
こうして売上アップとコストカットを実現することができれば、その分だけ利益を確保することができて資産が増え、債務超過のリスクを回避できるのです。
資金調達や増資する
債務超過のリスクは「資産が少ない」ことにも由来しますので、何らかの方法で資金調達を行い、その方法を長期にわたって継続的に利用できる体制を確立することも重要です。
資金が潤沢にあればそれを負債の返済に充てて負債を縮小し、債務超過の原因である負債の肥大化を防いで債務超過のリスクを抑えることができます。
ただし、資金ショートのリスクはこれで抑えられますが、金融機関からの借入で資金調達する場合は負債項目の借入金も増加することになりますので、これだけでは債務超過のリスクはそこまで抑えることができません。
そのため、より現実的な方法としては「増資」により純資産を増やすという選択肢があります。
経営者自身の保有資産で増資できればそれでも良いのですが、それが難しい場合には第三者に出資を依頼して自社の株主になってもらうという方法があります。
とくに効果的なのが、経営に強い人物に出資を依頼して株主になってもらい、そのうえで自社の経営に参画してもらうことでより質の高い経営判断ができるようになるという構図です。
純資産が増えればその分だけ赤字の際に補填して債務超過のリスクを回避できるうえ、経営のプロに参加してもらうことで自社のビジネスの合理化・効率化が進み、利益を出すことで赤字体質から脱却して自社の成長につながるでしょう。
DES(デット・エクイティ・スワップ)を行う
少し難しい話ではありますが「DES(デット・エクイティ・スワップ)」を行うことで負債を減らして資本を増やすという方法があります。
DESとは、簡単に言えば債権者が保有する債務と自社の株式を交換することにより、債務を縮小しつつ資本を増やす方法です。
債権者にとっては、回収が難しいと見える債権を、将来的に配当を得られたり株価が上昇する可能性がある株式に交換することにより、利益を得られる可能性があるというメリットがあります。
債権者・債務者双方にとってメリットがある方法ではありますが、税制上の問題があったり、手続きが面倒だったりするため、簡単な方法ではありません。
この方法を模索する場合は税理士に相談するなどして、現実的に実行可能な方法であるのか、実行する場合はどのようにすればスムーズに手続きを進められるのかといったアドバイスを受けておきましょう。
債務者と交渉して債務減額や免除をお願いする
成功確率はそこまで高くありませんが、負債を縮小する目的として「債務減額」「債務免除」について交渉するといった方法もあります。
たとえば、買掛金がある業者に対してこれらの交渉を行う場合、相手業者が損金算入によって節税効果を得られる場合や、付き合いの長い業者である場合には、交渉に応じてもらえる可能性は十分にあると言えるでしょう。
借入金がある金融機関の場合はハードルが高いのですが、「地域の雇用に貢献している」「倒産すると取引先の連鎖倒産のリスクがある」といった事情がある場合には、減額や免除に応じてくれる可能性はあります。
基本的に債権者にとってデメリットの大きい交渉となりますので、失敗することを前提として交渉を依頼してみましょう。
M&Aによる売却を検討する
経営権を手放す覚悟があるのであれば、「M&A」により会社を他社に売却するという選択肢もあります。
会社を売却することで多くの場合は経営権が相手企業に移りますが、売却により現金や株式を取得することができ、交渉次第ではありますが自社の雇用を維持することも可能です。
債務超過している会社であっても、業績自体は決して悪くなかったり、ビジネス向けのノウハウがある会社の場合だと、買い手が付く可能性は十分にあります。
また、経営権が相手企業に移るため、後継者問題で悩んでいる経営者はその問題も一緒に解消できる点がメリットです。
会社再生法を適用するのは最終手段
債務超過に陥った会社が選択できる手段として、最終手段の1つともいえるのが「会社更生法の適用」です。
「会社更生法」とは、会社の事業を継続しつつ、債務整理を進めて会社を再建するための手続きについて定められている法律となります。
破産手続きで会社を清算する場合、最終的に法人格は消滅してしまいますが、会社更生や民事再生の場合は法人格を残したまま事業の再生を進められる点が大きなメリットです。
ただし、会社更生法の適用は株式会社にしか認められておらず、さらに経営陣は総退陣しなければならないといったデメリットもありますので、他の方法を模索しつつ、どうしても選択肢がない場合の最終手段であると念頭に置いて検討してください。