第三者破産とは?要件・費用について徹底解説

第三者破産とは?要件・費用について徹底解説

破産手続は、債務者自身ではなく第三者(債権者)が申し立てることもできます。この債権者による破産申立てのことを第三者破産ということがありますが、多くの場合、債務者の破産は債権者にとって不利益となるため、第三者破産が利用されるケースは多くありません。

しかし、債務者の全ての財産を調査したり、不良債権を損金処理したりするために第三者破産が役に立つケースもあります。

今回は、第三者破産の要件、手続きの流れ、費用について触れたうえ、第三者破産のメリットとデメリットについて解説します。第三者破産を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

第三者破産とは債権者が破産を申し立てること

第三者破産とは、借金を抱える債務者自身ではなく債権者が申し立てる破産手続きのことです。

破産は借金の免除を目的とする手続きであるため、通常は債務者が申し立てをおこないます。しかし、債務者がいつまで経っても返済も破産もしない状況が続くと、債権を抱え続ける債権者にとって大きな不利益となる場合があります。

そこで、破産法では、例外的なケースとして第三者破産の制度を認めているのです。

ここでは、第三者破産を申し立てるための要件、手続きの流れ、手続きにかかる費用について解説します。

第三者破産を申し立てる2つの要件について

第三者破産を申し立てるには、次の2つの要件を満たす必要があります(破産法18条2項)。

  1. 債権の存在の疎明
  2. 破産手続の開始原因の疎明

疎明」とは、その事実の証明まではできなくても、裁判所に一応確からしいと思わせる程度の状態、又はそのような状態に至らせるための証拠資料の提出等をすることを言います。

(破産手続開始の申立て)第18条 債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。2 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。

参照:破産法|e-Gov法令検索

1. 債権の存在の疎明

第三者破産の申し立ては、債権者に認められるものなので、債務者に対する債権の存在が前提となります。

第三者破産の申し立てをする債権者は、借用書や取引の記録などで、自身が債務者の債権者であることの疎明をしなくてはなりません。

債権の存在の疎明については、申し立てをする債権者自身の債権を疎明すれば足りるため、疎明資料の準備はそれほど難しいことではないでしょう。

2. 破産手続の開始原因の疎明

破産手続を開始するには、債務者が個人の場合は「支払不能」(破産法15条1項)、債務者が法人の場合は「支払不能又は債務超過」の状態にあることが必要です(同法16条1項)。

支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」のことを言います(同法2条11項)。債務超過は、法人破産に特有の開始原因です。債務超過とは、「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」(同法16条1項)のことで、貸借対照表で言えば、「資産の部」の額よりも「負債の部」の額の方が多い状態を言います。

破産開始原因を疎明するには、債務者の資産、負債の状態を明らかにしなくてはなりません。通常の破産手続では、債務者自身が資料を準備するので難しい要件ではありませんが、第三者破産の場合、債権者が債務者の資産、負債にかかわる資料を集めるのは難しい場合があります。

債権者が債務者の負債を調べる方法の一例としては、債務者に協力を求めるか、公開情報である不動産登記を閲覧する方法が挙げられます。債務者が不動産を所有している場合には、不動産登記で抵当権の設定の有無を確認できるので、そこから負債の内容を疎明できるでしょう。

ただし、抵当権設定登記から読み取れるのは、設定の年月日や設定当初の被担保債務の額であって、その後の返済状況や残債務までは分からないため、債権者が申立てをする時点においても相当額の債務が残っていること等が分かる資料も用意することが必要と思われます。

また、債権者が債務者の資産を調べるには、財産開示手続を利用することもできますが、財産開示手続を利用するには、債務者に対し訴訟を提起して請求認容判決を得るなどして、「債務名義」を得ておくことが必要となる点には注意が必要です。

なお、「支払不能」要件については、支払停止(=支払能力の欠如により、弁済期の到来した債務につき、一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に明示的又は黙示的に示す行為)があれば、「支払不能」の状態にあることが法律上推定されます(同法15条2項)。債務者の代理人弁護士が債権者一般に債務整理の通知を発する行為、借入先の金融機関に支払猶予を求める行為、事業所や店舗を閉鎖し廃業する行為等が支払停止に当たるとされているため、これらの外部的な行為があったことを示すことにより、「支払不能」の状態にあることを示すことも可能と考えられます。

第三者破産を申し立る手続きの流れを解説

第三者破産を申し立てる必要書類と費用

第三者破産を申し立てるには、次の書類を準備する必要があります。

  • 破産申立書
  • 債権の存在の疎明資料
  • 破産手続の開始原因の疎明資料

第三者破産では、債権者一覧表や財産目録を準備する必要はありませんが、債務者の協力を得られなければ破産手続の開始原因の疎明資料を準備するのは大変な作業となるでしょう。

第三者破産手続の管轄裁判所は、債務者の住所地を管轄する裁判所です。申し立てをする債権者が大阪に居住している場合でも、債務者の住所地が東京のときには東京地方裁判所で申し立てをしなくてはなりません。

第三者破産の手続では、開始決定の前に債権者・債務者それぞれの審尋がおこなわれます。その後、債務者の財産について保全処分がおこなわれ、破産手続の開始決定がされます。

破産手続の開始決定以降の手続を主導するのは、裁判所に選任された破産管財人です。破産管財人は、債務者の資産・負債を調査したうえで、換価処分・配当をおこないます。債務者の資産の状況によっては、1円も配当されずに手続が終結することもあります。

第三者破産を申し立てる費用は100万円以上

第三者破産の申し立てにかかる費用は、次3つです。

  • 収入印紙代
  • 郵便切手代
  • 予納金

収入印紙代は、債権者による申立ての場合は20,000円です。郵便切手代(予納郵券)は、東京地裁では6,000円です。

第三者破産の申し立てで大きな負担となるのが予納金です。予納金の額は、申し立てをする裁判所や債務総額によって変わります。

東京地方裁判所では、債務者が法人の場合、負債総額が5,000万円未満のときは予納金の額は70万円、1億円未満のときには100万円、5億円未満のときには200万円となっています。

参照:破産事件の手続費用一覧|東京地裁民事第20部

なお、第三者破産の申し立てについては、債権者自身が進めるのは難しいため弁護士に依頼することになるでしょう。弁護士に依頼する際には、弁護士費用も発生します。法人の第三者破産を申し立てる際の弁護士費用相場としては、申立ての対象となる法人の規模によっても異なりますが、最低でも50万円程度、一般的には100万円以上となる場合が多いでしょう。

第三者破産のメリットは債権者の負担が一部でも減らせる

第三者破産のメリット

債務者が破産すると債権が免除されてしまうため、破産は債権者のメリットとはならないことが多いでしょう。しかし、第三者破産には、次の2つのメリットがあります。

  1. 不良債権を損金処理して法人税・消費税の負担が減る
  2. 債務者による不当な財産処分に対抗できる

第三者破産では、債権の回収は見込めませんが、債権者の負担を一部でも減らすことはできます。以下、2つのメリットについて詳しく見ていきましょう。

不良債権を損金処理して法人税・消費税の負担が減る

第三者破産のケースにおいて、債権者が債務者に対して有する債権は、回収不能な不良債権となっています。会計処理のルールでは、債権回収の有無にかかわらず、債権が発生した時点で全額を売上として計上しなければなりません。

たとえば、1億円の債権のうち、5,000万円が回収不能の状態になっていても、売上としては1億円を計上して、それに対する法人税・消費税を納める必要があります。

債務者が破産した場合には、回収不能となった債権を損金処理できます。損金処理をした場合には、会計上、その額を費用として計上することができます。

先ほどの例では、5,000万円を損金処理できるので、その分だけ法人税・消費税の負担を減らすことができます。

また、不良債権を損金処理すると、貸借対照表から不良債権を消すことができます。会社の資産として不良債権が計上されている状態では、取引先からの信頼を失う可能性もあるため、損金処理によって貸借対照表の健全化を図ることは重要です。

債務者による不当な財産処分に対抗できる

第三者破産の申し立てをおこなうと、債務者の財産は全て破産管財人に管理されることになります。破産管財人が選任されると、自分以外の債権者だけに弁済をおこなう、親族に財産を贈与するなど債務者による不当な財産処分はできなくなります。

また、債権者が債務者の財産を見つけられないときでも、破産管財人の調査によって債務者の全財産を把握することが可能です。

そのため、債務者が財産を隠し持っていたときや、不当に財産を処分したり一部の債権者のみに弁済をしたりしていたときには、破産管財人による調査や否認権の行使、換価処分、配当によって、一定の債権を回収できる可能性もあります。

第三者破産のデメリットは債権者の時間・費用負担

第三者破産のデメリットを解説

第三者破産は、通常は債務者自身がおこなう破産手続を債権者が主導しなければならないため、デメリットも多くあります。第三者破産のデメリットには、次の3つが挙げられます。

  1. 裁判所へ納付する与納金が高額である
  2. 裁判所への手続きや審尋に時間がかかる
  3. 全ての債権を回収するのは難しい

第三者破産をするには、債権者自身が時間と費用をかけなければならず、そのうえ債権の回収も期待できません。以下、3つのデメリットについて詳しく解説します。

裁判所へ納付する与納金が高額である

第三者破産を申し立てるには、最低でも50万円を越える予納金を裁判所へ納付しなくてはなりません。しかも、予納金は債権者が準備しなければならず、債務者に支払いを求めることもできません。

予納金の額は、債務の額に応じて変動しますが、予納金の額を算定する「債務の額」は、債務者の全ての債務が基準となります。たとえば、第三者破産を申し立てる債権者の債権が1,000万円であっても、債務者が総額2億円の債務を抱えているときには、2億円に応じた予納金が必要です。

第三者破産を申し立てる際は、予納金や弁護士費用を支払ってでも、債務者を破産させるメリットがあるかについて十分に検討する必要があるでしょう。

裁判所への手続きや審尋に時間がかかる

第三者破産は、通常の破産手続きに比べて手続きや審尋に時間がかかります。

第三者破産で大きな負担となるのが、破産手続の開始原因の疎明資料を準備することです。債務者の資産や負債についての資料を、債務者本人ではなく債権者が準備するのは大変な作業となります。

資産調査の方法の1つとして財産開示手続を利用するには債務名義が必要となるため、債権の支払いを求める通常の訴訟で判決を得ることが前提となります。

また、債務者等から資料提供を受けられず、所有不動産もない場合には、申立てを行う債権者以外の債務者の債権を調査する手段がほとんどありません。

さらに、第三者破産を申し立てた後も、債務者が協力的ではないために余計に時間がかかるケースも多いでしょう。第三者破産では、債務者の意思にかかわらず破産手続きが開始されます。破産する意思のない債務者に、破産管財人への積極的な協力を求めるのは難しいでしょう。

第三者破産を申し立てる際は、手続きの終結までにかなりの時間がかかることを覚悟しておくべきでしょう。資料の準備を開始してから手続きが終結するまでに1年以上かかるケースも珍しくありません。

全ての債権を回収するのは難しい

第三者破産では、破産管財人が債務者の全ての財産を換価処分して、債権者に配当します。

債権者への配当は、申し立てをした債権者が優先されるのではなく、各債権者の債権額に応じて平等におこなわれます。

支払不能、債務超過の状態にある債務者が、全ての債務を弁済できることはなく、配当ではほとんど債権を回収できないのが実情です。

債権の回収を目的とする場合には、第三者破産をしても満足のできる結果は得られないでしょう。

第三者破産に関するよくある質問に回答

ここでは、第三者破産に関する次の2つの質問に回答します。

  • 第三者破産は個人に対しても申し立てできるのか?
  • 第三者破産の申し立てにかかる費用は誰が負担する?

それぞれについて詳しい内容を見ていきましょう。

第三者破産は個人に対しても申し立てできるのか?

第三者破産は、債務者が個人の場合でも申し立てできます。

破産法18条1項は、「債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。」と規定するのみで、債務者が個人である場合と法人である場合を区別していません。そのため、債務者が個人であっても、債権の存在と破産開始原因の疎明という要件を満たせば第三者破産の申し立てができます。

債務者が個人の場合、破産手続の開始原因の疎明は、債務者の支払不能についてのみで、債務者の債務超過は疎明の対象とはなりません。

第三者破産の申し立てにかかる費用は誰が負担する?

第三者破産の申し立てにかかる収入印紙代、郵便切手代、予納金、弁護士費用は、全て債権者が負担します。

破産手続が終わったあとでも債務者から費用を回収することはできませんので、第三者破産の申し立てをする際は、費用対効果について十分に検討する必要があるでしょう。

監修者

久富 達也(ひさとみ たつや)先生

福岡県弁護士会

弁護士法人Nexill&Partners

第三者破産とは?要件・費用について徹底解説

第三者破産とは?要件・費用について徹底解説

破産手続は、債務者自身ではなく第三者(債権者)が申し立てることもできます。この債権者による破産申立てのことを第三者破産ということがありますが、多くの場合、債務者の破産は債権者にとって不利益となるため、第三者破産が利用されるケースは多くありません。

しかし、債務者の全ての財産を調査したり、不良債権を損金処理したりするために第三者破産が役に立つケースもあります。

今回は、第三者破産の要件、手続きの流れ、費用について触れたうえ、第三者破産のメリットとデメリットについて解説します。第三者破産を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

第三者破産とは債権者が破産を申し立てること

第三者破産とは、借金を抱える債務者自身ではなく債権者が申し立てる破産手続きのことです。

破産は借金の免除を目的とする手続きであるため、通常は債務者が申し立てをおこないます。しかし、債務者がいつまで経っても返済も破産もしない状況が続くと、債権を抱え続ける債権者にとって大きな不利益となる場合があります。

そこで、破産法では、例外的なケースとして第三者破産の制度を認めているのです。

ここでは、第三者破産を申し立てるための要件、手続きの流れ、手続きにかかる費用について解説します。

第三者破産を申し立てる2つの要件について

第三者破産を申し立てるには、次の2つの要件を満たす必要があります(破産法18条2項)。

  1. 債権の存在の疎明
  2. 破産手続の開始原因の疎明

疎明」とは、その事実の証明まではできなくても、裁判所に一応確からしいと思わせる程度の状態、又はそのような状態に至らせるための証拠資料の提出等をすることを言います。

(破産手続開始の申立て)第18条 債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。2 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。

参照:破産法|e-Gov法令検索

1. 債権の存在の疎明

第三者破産の申し立ては、債権者に認められるものなので、債務者に対する債権の存在が前提となります。

第三者破産の申し立てをする債権者は、借用書や取引の記録などで、自身が債務者の債権者であることの疎明をしなくてはなりません。

債権の存在の疎明については、申し立てをする債権者自身の債権を疎明すれば足りるため、疎明資料の準備はそれほど難しいことではないでしょう。

2. 破産手続の開始原因の疎明

破産手続を開始するには、債務者が個人の場合は「支払不能」(破産法15条1項)、債務者が法人の場合は「支払不能又は債務超過」の状態にあることが必要です(同法16条1項)。

支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」のことを言います(同法2条11項)。債務超過は、法人破産に特有の開始原因です。債務超過とは、「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」(同法16条1項)のことで、貸借対照表で言えば、「資産の部」の額よりも「負債の部」の額の方が多い状態を言います。

破産開始原因を疎明するには、債務者の資産、負債の状態を明らかにしなくてはなりません。通常の破産手続では、債務者自身が資料を準備するので難しい要件ではありませんが、第三者破産の場合、債権者が債務者の資産、負債にかかわる資料を集めるのは難しい場合があります。

債権者が債務者の負債を調べる方法の一例としては、債務者に協力を求めるか、公開情報である不動産登記を閲覧する方法が挙げられます。債務者が不動産を所有している場合には、不動産登記で抵当権の設定の有無を確認できるので、そこから負債の内容を疎明できるでしょう。

ただし、抵当権設定登記から読み取れるのは、設定の年月日や設定当初の被担保債務の額であって、その後の返済状況や残債務までは分からないため、債権者が申立てをする時点においても相当額の債務が残っていること等が分かる資料も用意することが必要と思われます。

また、債権者が債務者の資産を調べるには、財産開示手続を利用することもできますが、財産開示手続を利用するには、債務者に対し訴訟を提起して請求認容判決を得るなどして、「債務名義」を得ておくことが必要となる点には注意が必要です。

なお、「支払不能」要件については、支払停止(=支払能力の欠如により、弁済期の到来した債務につき、一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に明示的又は黙示的に示す行為)があれば、「支払不能」の状態にあることが法律上推定されます(同法15条2項)。債務者の代理人弁護士が債権者一般に債務整理の通知を発する行為、借入先の金融機関に支払猶予を求める行為、事業所や店舗を閉鎖し廃業する行為等が支払停止に当たるとされているため、これらの外部的な行為があったことを示すことにより、「支払不能」の状態にあることを示すことも可能と考えられます。

第三者破産を申し立る手続きの流れを解説

第三者破産を申し立てる必要書類と費用

第三者破産を申し立てるには、次の書類を準備する必要があります。

  • 破産申立書
  • 債権の存在の疎明資料
  • 破産手続の開始原因の疎明資料

第三者破産では、債権者一覧表や財産目録を準備する必要はありませんが、債務者の協力を得られなければ破産手続の開始原因の疎明資料を準備するのは大変な作業となるでしょう。

第三者破産手続の管轄裁判所は、債務者の住所地を管轄する裁判所です。申し立てをする債権者が大阪に居住している場合でも、債務者の住所地が東京のときには東京地方裁判所で申し立てをしなくてはなりません。

第三者破産の手続では、開始決定の前に債権者・債務者それぞれの審尋がおこなわれます。その後、債務者の財産について保全処分がおこなわれ、破産手続の開始決定がされます。

破産手続の開始決定以降の手続を主導するのは、裁判所に選任された破産管財人です。破産管財人は、債務者の資産・負債を調査したうえで、換価処分・配当をおこないます。債務者の資産の状況によっては、1円も配当されずに手続が終結することもあります。

第三者破産を申し立てる費用は100万円以上

第三者破産の申し立てにかかる費用は、次3つです。

  • 収入印紙代
  • 郵便切手代
  • 予納金

収入印紙代は、債権者による申立ての場合は20,000円です。郵便切手代(予納郵券)は、東京地裁では6,000円です。

第三者破産の申し立てで大きな負担となるのが予納金です。予納金の額は、申し立てをする裁判所や債務総額によって変わります。

東京地方裁判所では、債務者が法人の場合、負債総額が5,000万円未満のときは予納金の額は70万円、1億円未満のときには100万円、5億円未満のときには200万円となっています。

参照:破産事件の手続費用一覧|東京地裁民事第20部

なお、第三者破産の申し立てについては、債権者自身が進めるのは難しいため弁護士に依頼することになるでしょう。弁護士に依頼する際には、弁護士費用も発生します。法人の第三者破産を申し立てる際の弁護士費用相場としては、申立ての対象となる法人の規模によっても異なりますが、最低でも50万円程度、一般的には100万円以上となる場合が多いでしょう。

第三者破産のメリットは債権者の負担が一部でも減らせる

第三者破産のメリット

債務者が破産すると債権が免除されてしまうため、破産は債権者のメリットとはならないことが多いでしょう。しかし、第三者破産には、次の2つのメリットがあります。

  1. 不良債権を損金処理して法人税・消費税の負担が減る
  2. 債務者による不当な財産処分に対抗できる

第三者破産では、債権の回収は見込めませんが、債権者の負担を一部でも減らすことはできます。以下、2つのメリットについて詳しく見ていきましょう。

不良債権を損金処理して法人税・消費税の負担が減る

第三者破産のケースにおいて、債権者が債務者に対して有する債権は、回収不能な不良債権となっています。会計処理のルールでは、債権回収の有無にかかわらず、債権が発生した時点で全額を売上として計上しなければなりません。

たとえば、1億円の債権のうち、5,000万円が回収不能の状態になっていても、売上としては1億円を計上して、それに対する法人税・消費税を納める必要があります。

債務者が破産した場合には、回収不能となった債権を損金処理できます。損金処理をした場合には、会計上、その額を費用として計上することができます。

先ほどの例では、5,000万円を損金処理できるので、その分だけ法人税・消費税の負担を減らすことができます。

また、不良債権を損金処理すると、貸借対照表から不良債権を消すことができます。会社の資産として不良債権が計上されている状態では、取引先からの信頼を失う可能性もあるため、損金処理によって貸借対照表の健全化を図ることは重要です。

債務者による不当な財産処分に対抗できる

第三者破産の申し立てをおこなうと、債務者の財産は全て破産管財人に管理されることになります。破産管財人が選任されると、自分以外の債権者だけに弁済をおこなう、親族に財産を贈与するなど債務者による不当な財産処分はできなくなります。

また、債権者が債務者の財産を見つけられないときでも、破産管財人の調査によって債務者の全財産を把握することが可能です。

そのため、債務者が財産を隠し持っていたときや、不当に財産を処分したり一部の債権者のみに弁済をしたりしていたときには、破産管財人による調査や否認権の行使、換価処分、配当によって、一定の債権を回収できる可能性もあります。

第三者破産のデメリットは債権者の時間・費用負担

第三者破産のデメリットを解説

第三者破産は、通常は債務者自身がおこなう破産手続を債権者が主導しなければならないため、デメリットも多くあります。第三者破産のデメリットには、次の3つが挙げられます。

  1. 裁判所へ納付する与納金が高額である
  2. 裁判所への手続きや審尋に時間がかかる
  3. 全ての債権を回収するのは難しい

第三者破産をするには、債権者自身が時間と費用をかけなければならず、そのうえ債権の回収も期待できません。以下、3つのデメリットについて詳しく解説します。

裁判所へ納付する与納金が高額である

第三者破産を申し立てるには、最低でも50万円を越える予納金を裁判所へ納付しなくてはなりません。しかも、予納金は債権者が準備しなければならず、債務者に支払いを求めることもできません。

予納金の額は、債務の額に応じて変動しますが、予納金の額を算定する「債務の額」は、債務者の全ての債務が基準となります。たとえば、第三者破産を申し立てる債権者の債権が1,000万円であっても、債務者が総額2億円の債務を抱えているときには、2億円に応じた予納金が必要です。

第三者破産を申し立てる際は、予納金や弁護士費用を支払ってでも、債務者を破産させるメリットがあるかについて十分に検討する必要があるでしょう。

裁判所への手続きや審尋に時間がかかる

第三者破産は、通常の破産手続きに比べて手続きや審尋に時間がかかります。

第三者破産で大きな負担となるのが、破産手続の開始原因の疎明資料を準備することです。債務者の資産や負債についての資料を、債務者本人ではなく債権者が準備するのは大変な作業となります。

資産調査の方法の1つとして財産開示手続を利用するには債務名義が必要となるため、債権の支払いを求める通常の訴訟で判決を得ることが前提となります。

また、債務者等から資料提供を受けられず、所有不動産もない場合には、申立てを行う債権者以外の債務者の債権を調査する手段がほとんどありません。

さらに、第三者破産を申し立てた後も、債務者が協力的ではないために余計に時間がかかるケースも多いでしょう。第三者破産では、債務者の意思にかかわらず破産手続きが開始されます。破産する意思のない債務者に、破産管財人への積極的な協力を求めるのは難しいでしょう。

第三者破産を申し立てる際は、手続きの終結までにかなりの時間がかかることを覚悟しておくべきでしょう。資料の準備を開始してから手続きが終結するまでに1年以上かかるケースも珍しくありません。

全ての債権を回収するのは難しい

第三者破産では、破産管財人が債務者の全ての財産を換価処分して、債権者に配当します。

債権者への配当は、申し立てをした債権者が優先されるのではなく、各債権者の債権額に応じて平等におこなわれます。

支払不能、債務超過の状態にある債務者が、全ての債務を弁済できることはなく、配当ではほとんど債権を回収できないのが実情です。

債権の回収を目的とする場合には、第三者破産をしても満足のできる結果は得られないでしょう。

第三者破産に関するよくある質問に回答

ここでは、第三者破産に関する次の2つの質問に回答します。

  • 第三者破産は個人に対しても申し立てできるのか?
  • 第三者破産の申し立てにかかる費用は誰が負担する?

それぞれについて詳しい内容を見ていきましょう。

第三者破産は個人に対しても申し立てできるのか?

第三者破産は、債務者が個人の場合でも申し立てできます。

破産法18条1項は、「債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。」と規定するのみで、債務者が個人である場合と法人である場合を区別していません。そのため、債務者が個人であっても、債権の存在と破産開始原因の疎明という要件を満たせば第三者破産の申し立てができます。

債務者が個人の場合、破産手続の開始原因の疎明は、債務者の支払不能についてのみで、債務者の債務超過は疎明の対象とはなりません。

第三者破産の申し立てにかかる費用は誰が負担する?

第三者破産の申し立てにかかる収入印紙代、郵便切手代、予納金、弁護士費用は、全て債権者が負担します。

破産手続が終わったあとでも債務者から費用を回収することはできませんので、第三者破産の申し立てをする際は、費用対効果について十分に検討する必要があるでしょう。

監修者

久富 達也(ひさとみ たつや)先生

福岡県弁護士会

弁護士法人Nexill&Partners