第二会社方式とは?スキームや活用できる支援制度を解説

深刻な資金難や経営不振に悩む中小企業では、「倒産」の文字が頭をよぎってしまうこともあるでしょう。
しかし、事業再生の道を選択すれば会社を倒産させることなく事業のみを継承することも可能です。
特に第二会社方式の場合、抱えている負債や税金を軽減しながら事業を引き継げることが多いので注目しておきましょう。
本記事では、第二会社方式という制度について詳しく解説します。
第二会社方式におけるスキームやメリット・デメリット、活用できる支援制度にも触れるのでご参考ください。
目次
第二会社方式とは利益が出る事業だけを分離し会社を再生すること

第二会社方式とは、債務超過になった企業のなかから将来性の高い事業だけを抜き出し、別の会社(第二会社)を設立する手法です。
不採算事業のある既存会社は消滅させ、将来性の高い事業だけを継続させるのが特徴であり、企業再生手法のひとつとして活用されるようになりました。
中小企業庁でも、第二会社方式について以下の通り定義されているので確認してみましょう。
「第二会社方式」とは財務状況が悪化している中小企業の収益性のある事業を事業譲渡や会社分割により切り離し、他の事業者(第二会社)に承継させるとともに、不採算部門は旧会社に残し特別清算又は破産手続を通して金融機関より過剰債務相当額の放棄を受けることにより、事業の再生を図る再生手法の一つです。この第二会社方式は中小企業の事業再生に有効な再生手法です。
引用:中小企業庁「中小企業承継事業再生計画に係るQ&A」
なお、不採算事業を持つ既存会社の消滅は、特別清算または破産手続きのいずれかにするのが一般的です。
特別清算 | 破産 | |
---|---|---|
対象 | 株式会社のみ | 全ての法人 |
申立人 | 債権者、清算人、監査役、株主 | 債権者、債務者、取締役、清算人 |
同意の必要性 | 株主、債権者の同意が必要 | 不要 |
権利の違い | 否認権なし(財産管理処分権は清算人に帰属) | 否認権あり(財産管理処分権は破産管財人に帰属) |
いずれも債務超過に陥った企業の清算をする法的手続きであり、裁判所を利用するのが特徴です。
ただし、破産手続きは全ての法人が対象であるのに対し、特別清算は株式会社のみが対象である点に注意しましょう。
破産手続きに債権者の同意は不要である一方、特別清算では債権者の同意が必須である点も大きな違いです。
一見すると特別清算の方が面倒に感じられますが、その分会社が選任した清算人が財産の管理処分を実施できるなどメリットもあります。
第二会社方式で用いられるスキーム
法人を対象とするM&A等では株式譲渡や株式交換も実施されていますが、第二会社方式の場合は対象が「事業」となっているため注意しましょう。
そのため、第二会社方式で用いるスキームは2つに限定されています。
取引対象 | スキーム(手法) |
---|---|
事業 | ・会社分割 ・事業譲渡 |
法人(株式) |
・株式譲渡 ・第三者割当増資 ・株式交換 ・株式交付 ・共同株式移転 ・合併 |
以下では、事業を取引対象とする第二会社方式におけるスキームとして、「会社分割」と「事業譲渡」について解説します。
会社分割

第二会社方式における会社分割とは、既存会社における優良事業のみを新しい会社に継承する方式です。
いわゆる「包括承継」であるため契約の引継ぎ等に手間がかからず、スピーディーな手続きができるのがポイントです。
会社分割では消費税非課税となるため、登録免許税や不動産所得税の軽減措置が受けられる節税対策としてもおすすめです。
デメリットとして、事業部が持つ負債・不要な資産も丸ごと継承してしまう点が挙げられます。
事業として優良であっても負債・不要な資産が当該事業部管理となっていることは意外と多いです。
簿外債務を引き継ぐしかない可能性も含めて慎重に検討し、メリット・デメリットのどちらが大きくなるかシミュレーションしてみましょう。
事業譲渡

第二会社方式における事業譲渡とは、既存会社から新しい会社に引き継ぎたい資産・契約などをピンポイントで指定して継承する方式です。
会社分割と比較して負債・不要な資産を整理しながら継承できるのでデメリットが少なく、簿外債務を引き継ぐこともありません。
必要なものだけ継承したいときや、第二会社方式完了後の成功を最も重視したいときにおすすめです。
ただし、債権・債務・契約ごとに個別に合意しながら引継ぎ手続きを進めていく必要があり、会社分割と比較するとどうしても時間がかかります。
登録免許税や不動産所得税の軽減措置もなく、消費税も課されてしまうため注意しましょう。
第二会社方式の3つのメリット
ここからは、第二会社方式のメリット・デメリットを解説します。まず、第二会社方式のメリットは以下の3点です。
- 優良事業だけを残すので事業再生しやすい
- 税務面で有利になる
- スポンサーや金融機関の協力を得やすい
以下で詳しく解説します。
優良事業だけを残すので事業再生しやすい
第二会社方式は将来性の高い優良事業のみを継承していく手法であり、事業再生しやすいのが特徴です。
不採算事業はすっぱりと切り、反対に収益性の高い事業だけを残せるので、今後の成長可能性に大いに期待できるでしょう。
また、不採算事業に債務や不要な資産を残しておくことで事業再生を進めやすくする効果も期待できるので、赤字事業を効果的に切り捨てたいときにおすすめです。
一方、不採算事業の負担が大きくなったからといって安易に破産を選択してしまった場合、本来であれば採算が取れるはずであった優良事業も含めて全て清算する必要があります。
会社も残らなくなってしまうため従業員の雇用や社会的信用に与えるダメージも大きく、「負債も資産もゼロになる」という点に注意しましょう。
第二会社方式は後継者にとってもメリットが大きい手法であり、安心して優良事業を引き継げます。
税務面で有利になる
第二会社方式では、期限切れ繰越欠損額も利用できるため税務面で有利になるのがメリットです。
期限切れ繰越欠損額とは、「前事業年度以前から繰り越された欠損金の合計額」から「適用事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入される欠損金額」を控除した金額を指します。
通常の債務免除を受ける場合、債務免除益を計上しなくてはならず、債務免除益にも法人税が課せられます。
本来債務免除とは返済の義務を免れるための手続きですが、繰越欠損金がなく相殺できない場合、免除された債務額より支払うべき法人税額の方が上回ってしまうケースがあるため注意しましょう。
一方、第二会社方式であれば既存会社が特別清算することにより債務免除益の計上をしなくて済むため、期限切れ繰越欠損金をそのまま活用できます。
債権額をそのまま損金として計上でき、高い節税効果が得られるのです。
スポンサーや金融機関の協力を得やすい
第二会社方式では優良事業のみ継承するため、「将来的に伸びる可能性が高いだろう」「不採算事業のない健全な会社だろう」という評価を受けられます。
不採算事業で生じた偶発債務や簿外債務も引き継がずに済むため、不良債権が残るリスクもありません。
そのためスポンサーや金融機関の協力を得やすく、社会的な信用の高い会社として確立できるのがメリットです。
前述した税務面での優遇措置も受けられるメリットも加わり、スポンサーにとっての安心感にもつながります。
結果、安定した取引先を多数確保できるようになったり、金融機関から融資を受けて資金調達や設備投資ができるようになったりするでしょう。
より理想的な状態でリスタートを切りたいときにこそ、第二会社方式がおすすめです。
第二会社方式の3つのデメリット
第二会社方式には多くのメリットがある一方、デメリットもあるので注意しましょう。
- 許認可を再取得するケースが多い
- 移転や会社設立のコストがかかる
- 旧会社と同じに見られるため資金調達が難しい
ここでは、第二会社方式のデメリットをひとつずつ解説します。
許認可を再取得するケースが多い
第二会社方式を経て新会社を設立する場合、許認可を再取得しなくていけないケースがほとんどです。
許認可は「届出」「登録」「認可」「許可」「免許」の5つに細分化され、事業形態や規模に合わせて適切な手続きを踏まないと事業をスタートできません。
例えば、警備業であれば「警備業認定」を、薬局であれば「薬局開設許可」を、飲食店であれば「営業許可」を…というように業態により内容が異なる点にも注意しましょう。
国・地方自治体・保健所・税務署・警察署など届出先も異なるため、期限までに忘れず手続きすることが重要です。
なお、もし許認可を受けないまま営業した場合、各種法案に則った罰則・罰金が課せられます。
既存企業で許認可を受けていたからと安心せず、新会社は新会社として別の手続きが必要な点に留意し、早めの申請を心がけましょう。
移転や会社設立のコストがかかる
第二会社方式では会社分割または事業譲渡のスキームいずれかを選択する必要があり、移転や会社設立のコストがかかります。
優良事業を引き継ぐために新しい会社を設立する以上、登録免許税や不動産所得税が生じます。
オフィス移転に伴って発生する初期費用・引っ越し代・法人登記にかかる収入印紙代・従業員の通勤費など細かな費用も加えると、想像以上の金額になるかもしれません。
行政書士などプロの手を借りるのであれば、依頼表の見積りも取得して予算に加えておきましょう。
なお、不動産所得税と登録免許税は会社分割の場合一部軽減されますが、事業譲渡の場合は全額負担となります。
必要な金額を見落としていて資金繰りの悪化につながらないよう、正確なコストプランニングを意識しましょう。
旧会社と同じに見られるため資金調達が難しい
第二会社方式を経て新しい会社になったとしても、金融機関や取引先によっては「既存会社と母体は同じ」「経営が抜本的に変わらない限りまた債務超過に陥るのでは」と評価することがあります。
優良事業のみを引き継いでいるため安心という見方もありますが、会社の体質やこれまでの推移を詳しく知っている人の不安を払拭するには不十分かもしれません。
特に、債務免除をした歳の債権者であれば、再度同じ会社を信頼できるようになるまで相当な時間を要するでしょう。
結局第二会社方式を経てもスポンサーや資金調達先が見つからず、資金難に陥って計画通りのビジネスプランにならないケースも多いです。
新たな負債を抱えないために貸付を避けられる可能性も加味し、資金調達をある程度自社で賄えるまたは十分な資産を用意してから第二会社方式を取るのがおすすめです。
中小企業再生支援協議会による事業再生の支援を活用する
第二会社方式を利用するときは、中小企業支援協議会による事業再生支援を受けるのがおすすめです。
ここでは受けられる支援の内容や組織の概要について解説します。
中小企業再生支援協議会とは
中小企業支援協議会とは、中小企業の発展・成長を支援する組織です。
「産業活力の再生および産業活動の革新に関する特別措置法」に基づいて47都道府県に設置されている組織なので、まずは所轄の中小企業支援協議会を調べてみましょう。
支援の対象は「財務上の問題を抱えているが事業の収益性はあり、事業再生意欲を持つ中小企業」と規定されています。
例えば、事業自体は円滑に実施されているにも関わらず過去の投資等による借入金の返済額が負担となって資金繰りが悪化している中小企業や、事業存続の見通しはあるものの金融機関との調整や赤字部門の切り捨てが必要な中小企業などが該当します。
その他、融資・投資・補助金活用など各種資金調達に関するアドバイスも実施しているので、中小企業の頼もしい味方と言えるでしょう。
中小企業再生支援協議会の支援内容や適用条件
中小企業支援協議会では、第二会社方式による事業再生も支援しています。
支援対象は「財務状況が悪化して事業の継続が困難となっているか、収益性のある事業を有している中小企業」と定義されており、具体的には以下の基準が設けられているのでチェックしておきましょう。
- 会社分割または事業譲渡により第二会社へ事業を承継し、承継後2年以内に旧会社を清算すること
- 計画申請時点で有利子負債/CF(キャッシュフロー)>20であること
- 計画終了時点で①有利子負債/CF≦10、②経常収支≧0であること
- 中小企業再生支援協議会等の公正な債権者調整プロセスを経ていること
- 旧会社の承継される事業に関わる従業員のうち、8割以上の雇用を計画実施期間において確保すること
- 従業員との適切な調整(労使間での十分な話し合い等)がおこなわれていること
- 旧会社の取引先企業の売掛債権等を毀損させないこと
有利子負債の金額や経常収支についても問われるので注意しましょう。
また、従業員の雇用安定など事業再生以外にも積極的に取り組む姿勢が評価されます。
中小企業支援協議会で支援している第二会社方式に関する支援内容は、以下の通りです
- 事業上必要な許認可の承継・再取得
- 税負担軽減に向けた手続き・申請
- 日本政策公庫の特別融資や中小企業信用保険法特例適用などの支援
主に第二会社方式に関する諸手続きのサポートや税金・資金調達面に関するアドバイスをしてくれます。
第二会社方式に詳しくない事業者でも安心して相談できる体制が整っているので、無理に自社だけで進めて損するより、プロの力を借りるよう検討してみましょう。
第二会社方式を成功させるには?
最後に、第二会社方式を成功させる方法について解説します。
第二会社方式を取ることが目的ではなく、その後の企業成長が目的である点を意識しながら参考にしてみましょう。
優良事業が好調なうちに実施する
第二会社方式のメリットは、優良事業が「優良事業」である間に最大化します。
不採算事業をそのまま放置した場合、資金繰りや資金調達の状況が優良事業にまで影響をあたえてしまいます。
本来であれば伸びる可能性のある事業まで落ち込んでしまい、第二会社方式を取れなくなることもあるでしょう。
また、優良事業の状態が悪いとスポンサーや金融機関からの評価も低くなり、あえて第二会社方式を採用した後でも資金調達難が続くことが多いです。
つまり、債務超過や経営不振は放置せず、自力で事業再生するのが難しいと感じたときは早い段階で次の手を考えることが大切です。
買い手(スポンサー)がつくうちに第二会社方式を採用し、不採算事業を切り捨てながら生き残り戦略としていきましょう。
自社にあったスキームを選択してリスクを抑える
第二会社方式の効果を最大化するには、自社に合ったスキームを選択することが重要です。
同じ第二会社方式であっても、会社分割と事業譲渡とでは効果が大きく異なります。
まずは自社の現状を正しく把握して切るべき事業と残すべき事業をリスト化すること、経済情勢や業界のトレンドも加味して今後の成長性を正しく数値化することから始めましょう。
どの事業にどの程度将来性があるか判断できれば、スキーム選択時の参考となります。
専門家や公的支援を活用して適切に進める
第二会社方式の手続きは複雑であるため、なるべく専門家や公的支援を活用するのがおすすめです。
前述した中小企業支援協議会の他、M&Aに強いコンサルティングファームや民間のM&A専門仲介機関などに相談するのが近道です。
新会社を設立するときは弁護士・公認会計士・税理士・行政書士など各種士業も頼り、ミスなくスピーディーな手続きにすることも意識します。
また、そもそも第二会社方式という手法があることを知らないと実行できないため、常日頃から「困ったらプロを頼る」ことを意識しておくとよいでしょう。
第二会社方式に承継させる事業の範囲、第二会社を切り離すときのスキーム、スポンサーや金融機関の獲得、旧会社の清算など、ありとあらゆる部分で力になってくれます。
債権者の利益を保護し公平な取引をする
第二会社方式は事業再生を実現する効果的な手法ですが、今ある債務を完全にゼロにする手続きではありません。
債権者側の利益にも十分配慮し、公平・公正な取引となるよう意識しましょう。
もし第二会社方式の実行により債権者の利益が不当に損なわれた場合、債権者が取引の中止・取り消しを求めてくることがあります。
また、旧会社の倒産手続きも否認され、結果債務だけが残り続けてしまうケースもあるので注意しましょう。
旧会社に残る債務のほとんどは清算手続きのなかで回収されていくことが多く、場合によっては満額回収できずに債権者の不利になることがあります。
債務の内容次第では第二会社に引き継ぐなど配慮することを目的に、弁済の可否についてシミュレーションしておくことが大切です。
まとめ
第二会社方式は事業再生手法のひとつであり、債務超過に陥りつつも将来性の高い事業を保有している中小企業に最適な手法として確立しています。
中小企業支援協議会をはじめ、各種士業事務所やM&A会社などでも支援をしているので、破産の選択肢がよぎった事業者は一度相談してみましょう。
具体的にどの事業や債券をどの程度引き継ぎのかなど、細かな相談に乗ってもらえます。
第二会社方式とは?スキームや活用できる支援制度を解説

深刻な資金難や経営不振に悩む中小企業では、「倒産」の文字が頭をよぎってしまうこともあるでしょう。
しかし、事業再生の道を選択すれば会社を倒産させることなく事業のみを継承することも可能です。
特に第二会社方式の場合、抱えている負債や税金を軽減しながら事業を引き継げることが多いので注目しておきましょう。
本記事では、第二会社方式という制度について詳しく解説します。
第二会社方式におけるスキームやメリット・デメリット、活用できる支援制度にも触れるのでご参考ください。
目次
第二会社方式とは利益が出る事業だけを分離し会社を再生すること

第二会社方式とは、債務超過になった企業のなかから将来性の高い事業だけを抜き出し、別の会社(第二会社)を設立する手法です。
不採算事業のある既存会社は消滅させ、将来性の高い事業だけを継続させるのが特徴であり、企業再生手法のひとつとして活用されるようになりました。
中小企業庁でも、第二会社方式について以下の通り定義されているので確認してみましょう。
「第二会社方式」とは財務状況が悪化している中小企業の収益性のある事業を事業譲渡や会社分割により切り離し、他の事業者(第二会社)に承継させるとともに、不採算部門は旧会社に残し特別清算又は破産手続を通して金融機関より過剰債務相当額の放棄を受けることにより、事業の再生を図る再生手法の一つです。この第二会社方式は中小企業の事業再生に有効な再生手法です。
引用:中小企業庁「中小企業承継事業再生計画に係るQ&A」
なお、不採算事業を持つ既存会社の消滅は、特別清算または破産手続きのいずれかにするのが一般的です。
特別清算 | 破産 | |
---|---|---|
対象 | 株式会社のみ | 全ての法人 |
申立人 | 債権者、清算人、監査役、株主 | 債権者、債務者、取締役、清算人 |
同意の必要性 | 株主、債権者の同意が必要 | 不要 |
権利の違い | 否認権なし(財産管理処分権は清算人に帰属) | 否認権あり(財産管理処分権は破産管財人に帰属) |
いずれも債務超過に陥った企業の清算をする法的手続きであり、裁判所を利用するのが特徴です。
ただし、破産手続きは全ての法人が対象であるのに対し、特別清算は株式会社のみが対象である点に注意しましょう。
破産手続きに債権者の同意は不要である一方、特別清算では債権者の同意が必須である点も大きな違いです。
一見すると特別清算の方が面倒に感じられますが、その分会社が選任した清算人が財産の管理処分を実施できるなどメリットもあります。
第二会社方式で用いられるスキーム
法人を対象とするM&A等では株式譲渡や株式交換も実施されていますが、第二会社方式の場合は対象が「事業」となっているため注意しましょう。
そのため、第二会社方式で用いるスキームは2つに限定されています。
取引対象 | スキーム(手法) |
---|---|
事業 | ・会社分割 ・事業譲渡 |
法人(株式) |
・株式譲渡 ・第三者割当増資 ・株式交換 ・株式交付 ・共同株式移転 ・合併 |
以下では、事業を取引対象とする第二会社方式におけるスキームとして、「会社分割」と「事業譲渡」について解説します。
会社分割

第二会社方式における会社分割とは、既存会社における優良事業のみを新しい会社に継承する方式です。
いわゆる「包括承継」であるため契約の引継ぎ等に手間がかからず、スピーディーな手続きができるのがポイントです。
会社分割では消費税非課税となるため、登録免許税や不動産所得税の軽減措置が受けられる節税対策としてもおすすめです。
デメリットとして、事業部が持つ負債・不要な資産も丸ごと継承してしまう点が挙げられます。
事業として優良であっても負債・不要な資産が当該事業部管理となっていることは意外と多いです。
簿外債務を引き継ぐしかない可能性も含めて慎重に検討し、メリット・デメリットのどちらが大きくなるかシミュレーションしてみましょう。
事業譲渡

第二会社方式における事業譲渡とは、既存会社から新しい会社に引き継ぎたい資産・契約などをピンポイントで指定して継承する方式です。
会社分割と比較して負債・不要な資産を整理しながら継承できるのでデメリットが少なく、簿外債務を引き継ぐこともありません。
必要なものだけ継承したいときや、第二会社方式完了後の成功を最も重視したいときにおすすめです。
ただし、債権・債務・契約ごとに個別に合意しながら引継ぎ手続きを進めていく必要があり、会社分割と比較するとどうしても時間がかかります。
登録免許税や不動産所得税の軽減措置もなく、消費税も課されてしまうため注意しましょう。
第二会社方式の3つのメリット
ここからは、第二会社方式のメリット・デメリットを解説します。まず、第二会社方式のメリットは以下の3点です。
- 優良事業だけを残すので事業再生しやすい
- 税務面で有利になる
- スポンサーや金融機関の協力を得やすい
以下で詳しく解説します。
優良事業だけを残すので事業再生しやすい
第二会社方式は将来性の高い優良事業のみを継承していく手法であり、事業再生しやすいのが特徴です。
不採算事業はすっぱりと切り、反対に収益性の高い事業だけを残せるので、今後の成長可能性に大いに期待できるでしょう。
また、不採算事業に債務や不要な資産を残しておくことで事業再生を進めやすくする効果も期待できるので、赤字事業を効果的に切り捨てたいときにおすすめです。
一方、不採算事業の負担が大きくなったからといって安易に破産を選択してしまった場合、本来であれば採算が取れるはずであった優良事業も含めて全て清算する必要があります。
会社も残らなくなってしまうため従業員の雇用や社会的信用に与えるダメージも大きく、「負債も資産もゼロになる」という点に注意しましょう。
第二会社方式は後継者にとってもメリットが大きい手法であり、安心して優良事業を引き継げます。
税務面で有利になる
第二会社方式では、期限切れ繰越欠損額も利用できるため税務面で有利になるのがメリットです。
期限切れ繰越欠損額とは、「前事業年度以前から繰り越された欠損金の合計額」から「適用事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入される欠損金額」を控除した金額を指します。
通常の債務免除を受ける場合、債務免除益を計上しなくてはならず、債務免除益にも法人税が課せられます。
本来債務免除とは返済の義務を免れるための手続きですが、繰越欠損金がなく相殺できない場合、免除された債務額より支払うべき法人税額の方が上回ってしまうケースがあるため注意しましょう。
一方、第二会社方式であれば既存会社が特別清算することにより債務免除益の計上をしなくて済むため、期限切れ繰越欠損金をそのまま活用できます。
債権額をそのまま損金として計上でき、高い節税効果が得られるのです。
スポンサーや金融機関の協力を得やすい
第二会社方式では優良事業のみ継承するため、「将来的に伸びる可能性が高いだろう」「不採算事業のない健全な会社だろう」という評価を受けられます。
不採算事業で生じた偶発債務や簿外債務も引き継がずに済むため、不良債権が残るリスクもありません。
そのためスポンサーや金融機関の協力を得やすく、社会的な信用の高い会社として確立できるのがメリットです。
前述した税務面での優遇措置も受けられるメリットも加わり、スポンサーにとっての安心感にもつながります。
結果、安定した取引先を多数確保できるようになったり、金融機関から融資を受けて資金調達や設備投資ができるようになったりするでしょう。
より理想的な状態でリスタートを切りたいときにこそ、第二会社方式がおすすめです。
第二会社方式の3つのデメリット
第二会社方式には多くのメリットがある一方、デメリットもあるので注意しましょう。
- 許認可を再取得するケースが多い
- 移転や会社設立のコストがかかる
- 旧会社と同じに見られるため資金調達が難しい
ここでは、第二会社方式のデメリットをひとつずつ解説します。
許認可を再取得するケースが多い
第二会社方式を経て新会社を設立する場合、許認可を再取得しなくていけないケースがほとんどです。
許認可は「届出」「登録」「認可」「許可」「免許」の5つに細分化され、事業形態や規模に合わせて適切な手続きを踏まないと事業をスタートできません。
例えば、警備業であれば「警備業認定」を、薬局であれば「薬局開設許可」を、飲食店であれば「営業許可」を…というように業態により内容が異なる点にも注意しましょう。
国・地方自治体・保健所・税務署・警察署など届出先も異なるため、期限までに忘れず手続きすることが重要です。
なお、もし許認可を受けないまま営業した場合、各種法案に則った罰則・罰金が課せられます。
既存企業で許認可を受けていたからと安心せず、新会社は新会社として別の手続きが必要な点に留意し、早めの申請を心がけましょう。
移転や会社設立のコストがかかる
第二会社方式では会社分割または事業譲渡のスキームいずれかを選択する必要があり、移転や会社設立のコストがかかります。
優良事業を引き継ぐために新しい会社を設立する以上、登録免許税や不動産所得税が生じます。
オフィス移転に伴って発生する初期費用・引っ越し代・法人登記にかかる収入印紙代・従業員の通勤費など細かな費用も加えると、想像以上の金額になるかもしれません。
行政書士などプロの手を借りるのであれば、依頼表の見積りも取得して予算に加えておきましょう。
なお、不動産所得税と登録免許税は会社分割の場合一部軽減されますが、事業譲渡の場合は全額負担となります。
必要な金額を見落としていて資金繰りの悪化につながらないよう、正確なコストプランニングを意識しましょう。
旧会社と同じに見られるため資金調達が難しい
第二会社方式を経て新しい会社になったとしても、金融機関や取引先によっては「既存会社と母体は同じ」「経営が抜本的に変わらない限りまた債務超過に陥るのでは」と評価することがあります。
優良事業のみを引き継いでいるため安心という見方もありますが、会社の体質やこれまでの推移を詳しく知っている人の不安を払拭するには不十分かもしれません。
特に、債務免除をした歳の債権者であれば、再度同じ会社を信頼できるようになるまで相当な時間を要するでしょう。
結局第二会社方式を経てもスポンサーや資金調達先が見つからず、資金難に陥って計画通りのビジネスプランにならないケースも多いです。
新たな負債を抱えないために貸付を避けられる可能性も加味し、資金調達をある程度自社で賄えるまたは十分な資産を用意してから第二会社方式を取るのがおすすめです。
中小企業再生支援協議会による事業再生の支援を活用する
第二会社方式を利用するときは、中小企業支援協議会による事業再生支援を受けるのがおすすめです。
ここでは受けられる支援の内容や組織の概要について解説します。
中小企業再生支援協議会とは
中小企業支援協議会とは、中小企業の発展・成長を支援する組織です。
「産業活力の再生および産業活動の革新に関する特別措置法」に基づいて47都道府県に設置されている組織なので、まずは所轄の中小企業支援協議会を調べてみましょう。
支援の対象は「財務上の問題を抱えているが事業の収益性はあり、事業再生意欲を持つ中小企業」と規定されています。
例えば、事業自体は円滑に実施されているにも関わらず過去の投資等による借入金の返済額が負担となって資金繰りが悪化している中小企業や、事業存続の見通しはあるものの金融機関との調整や赤字部門の切り捨てが必要な中小企業などが該当します。
その他、融資・投資・補助金活用など各種資金調達に関するアドバイスも実施しているので、中小企業の頼もしい味方と言えるでしょう。
中小企業再生支援協議会の支援内容や適用条件
中小企業支援協議会では、第二会社方式による事業再生も支援しています。
支援対象は「財務状況が悪化して事業の継続が困難となっているか、収益性のある事業を有している中小企業」と定義されており、具体的には以下の基準が設けられているのでチェックしておきましょう。
- 会社分割または事業譲渡により第二会社へ事業を承継し、承継後2年以内に旧会社を清算すること
- 計画申請時点で有利子負債/CF(キャッシュフロー)>20であること
- 計画終了時点で①有利子負債/CF≦10、②経常収支≧0であること
- 中小企業再生支援協議会等の公正な債権者調整プロセスを経ていること
- 旧会社の承継される事業に関わる従業員のうち、8割以上の雇用を計画実施期間において確保すること
- 従業員との適切な調整(労使間での十分な話し合い等)がおこなわれていること
- 旧会社の取引先企業の売掛債権等を毀損させないこと
有利子負債の金額や経常収支についても問われるので注意しましょう。
また、従業員の雇用安定など事業再生以外にも積極的に取り組む姿勢が評価されます。
中小企業支援協議会で支援している第二会社方式に関する支援内容は、以下の通りです
- 事業上必要な許認可の承継・再取得
- 税負担軽減に向けた手続き・申請
- 日本政策公庫の特別融資や中小企業信用保険法特例適用などの支援
主に第二会社方式に関する諸手続きのサポートや税金・資金調達面に関するアドバイスをしてくれます。
第二会社方式に詳しくない事業者でも安心して相談できる体制が整っているので、無理に自社だけで進めて損するより、プロの力を借りるよう検討してみましょう。
第二会社方式を成功させるには?
最後に、第二会社方式を成功させる方法について解説します。
第二会社方式を取ることが目的ではなく、その後の企業成長が目的である点を意識しながら参考にしてみましょう。
優良事業が好調なうちに実施する
第二会社方式のメリットは、優良事業が「優良事業」である間に最大化します。
不採算事業をそのまま放置した場合、資金繰りや資金調達の状況が優良事業にまで影響をあたえてしまいます。
本来であれば伸びる可能性のある事業まで落ち込んでしまい、第二会社方式を取れなくなることもあるでしょう。
また、優良事業の状態が悪いとスポンサーや金融機関からの評価も低くなり、あえて第二会社方式を採用した後でも資金調達難が続くことが多いです。
つまり、債務超過や経営不振は放置せず、自力で事業再生するのが難しいと感じたときは早い段階で次の手を考えることが大切です。
買い手(スポンサー)がつくうちに第二会社方式を採用し、不採算事業を切り捨てながら生き残り戦略としていきましょう。
自社にあったスキームを選択してリスクを抑える
第二会社方式の効果を最大化するには、自社に合ったスキームを選択することが重要です。
同じ第二会社方式であっても、会社分割と事業譲渡とでは効果が大きく異なります。
まずは自社の現状を正しく把握して切るべき事業と残すべき事業をリスト化すること、経済情勢や業界のトレンドも加味して今後の成長性を正しく数値化することから始めましょう。
どの事業にどの程度将来性があるか判断できれば、スキーム選択時の参考となります。
専門家や公的支援を活用して適切に進める
第二会社方式の手続きは複雑であるため、なるべく専門家や公的支援を活用するのがおすすめです。
前述した中小企業支援協議会の他、M&Aに強いコンサルティングファームや民間のM&A専門仲介機関などに相談するのが近道です。
新会社を設立するときは弁護士・公認会計士・税理士・行政書士など各種士業も頼り、ミスなくスピーディーな手続きにすることも意識します。
また、そもそも第二会社方式という手法があることを知らないと実行できないため、常日頃から「困ったらプロを頼る」ことを意識しておくとよいでしょう。
第二会社方式に承継させる事業の範囲、第二会社を切り離すときのスキーム、スポンサーや金融機関の獲得、旧会社の清算など、ありとあらゆる部分で力になってくれます。
債権者の利益を保護し公平な取引をする
第二会社方式は事業再生を実現する効果的な手法ですが、今ある債務を完全にゼロにする手続きではありません。
債権者側の利益にも十分配慮し、公平・公正な取引となるよう意識しましょう。
もし第二会社方式の実行により債権者の利益が不当に損なわれた場合、債権者が取引の中止・取り消しを求めてくることがあります。
また、旧会社の倒産手続きも否認され、結果債務だけが残り続けてしまうケースもあるので注意しましょう。
旧会社に残る債務のほとんどは清算手続きのなかで回収されていくことが多く、場合によっては満額回収できずに債権者の不利になることがあります。
債務の内容次第では第二会社に引き継ぐなど配慮することを目的に、弁済の可否についてシミュレーションしておくことが大切です。
まとめ
第二会社方式は事業再生手法のひとつであり、債務超過に陥りつつも将来性の高い事業を保有している中小企業に最適な手法として確立しています。
中小企業支援協議会をはじめ、各種士業事務所やM&A会社などでも支援をしているので、破産の選択肢がよぎった事業者は一度相談してみましょう。
具体的にどの事業や債券をどの程度引き継ぎのかなど、細かな相談に乗ってもらえます。