会社の借金は誰が払う?法人破産で経営者が負う責任を解説

会社の借金は誰が払う?法人破産で経営者が負う責任を解説

会社が破産した場合、誰が負債を負うのかが気になるものです。たとえば、中小企業の場合はオーナー経営者が会社の株式をすべて保有しているケースがあります。

その場合、倒産したことですべて経営者が負債を背負うとなると莫大な借金を抱えてしまいかねません。では、会社の借金は法人破産時に誰が負担しなければならないのでしょうか。

本記事では、法人破産で経営者が負う責任について徹底解説します。特に、個人が負担好きかどうかについて詳しく紹介するので、ぜひ参考にしてください。

破産した会社の借金は原則免除される

会社が破産した場合、その責任が経営者に対して向けられるイメージがあります。会社が破産した場合、金融機関側としては連帯保証人に負債額などを請求することになります。

かつては、社長個人の財産において保証債務を返済できないケースでは、社長個人も破産する必要があったのです。最近では、経営者保証ガイドラインを使用することで、社長個人は破産を免れるケースもあります。

一方で、連帯保証人となっていない場合は会社が抱えている借金は破産手続きの終了をもって消滅します。もし破産手続きにおいて借金が残ってしまったとしても、借金を抱えている会社そのものが消滅すれば原則的に返済義務が免除されるのです。

また、実際には会社と代表者とは別人格であるという考えが大前提であり、経営者が会社の借金を肩代わりする必要はありません。個人が破産手続きをおこなった場合は、免責によって借金が免除される関係状、破産イコール借金免除と捉えがちです。

実際には、会社の破産において借金が免除されるケースでは、あくまでも会社の消滅による効果となるので個人破産の免責とは似て非なるものがあります。個人と会社においては、借金が免除される理由に争点があるので、注意が必要です。

会社の借金が返せない場合どうなる?3つのパターン

会社の借金が返せない場合どうなる?3つのパターン

会社が倒産して、破産手続きにおいて借金が返済し切れないケースもあります。もし、借金が返済できない場合は相応の対応が必要となるのです。

会社の借金が返せない場合のパターンとして、以下3つが考えられます。

  • 倒産
  • 廃業
  • 破産

3つは混同されがちがですが、明確な違いがあります。各パターンの詳細は、以下のとおりです。

倒産は事業継続できない状態

倒産とは、企業の経営が厳しくなって債務の支払いが不能となって、経営が継続できない状態を指します。倒産には法律上の明確な定義は存在せず、あくまでも会社の経営が厳しくなった状態のことです。

また、帝国データバンクでは以下のケースに該当する場合を倒産としています。

1 銀行取引停止処分を受ける※1

2 内整理する(代表が倒産を認めた時)

3 裁判所に会社更生手続開始を申請する※2

4 裁判所に民事再生手続開始を申請する※2

5 裁判所に破産手続開始を申請する※2

6 裁判所に特別清算開始を申請する※2

※1 手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けた場合

※2 第三者(債権者)による申し立ての場合、手続き開始決定を受けた時点で倒産となる

参考:倒産の定義|帝国データバンク

倒産の状態となり経済主体による、債権者に対する弁済のための処理や手続きのことを、倒産処理または倒産手続きと呼びます。これには、私的・法的の区別と清算型・再建型の区別が存在します。

法的倒産手続においては、以下のパターンが取られる場合が多いです。 

  • 破産
  • 会社更生
  • 民事再生

倒産手続きについては、債権者から申し立てられるケースと債務者自身が申し立てるケースがあります。他にも、特殊な場合として監督当局の申立てによって開始する場合もあります。

企業においては、手形や小切手の1回目の不渡りから6か月以内に2回目の不渡りが発生した場合、銀行取引停止処分となり、すべての銀行において当座取引や貸付を受けられません。

これにより、企業の資金繰りは断たれるため事実上の倒産と呼ぶケースが多いです。

廃業は自主的に事業をやめること

廃業とは、企業や個人事業主などが自らの意思をもって事業をやめることを挿します。廃業と似た性質のある言葉としては倒産や解散、休業、閉店などが存在します。

廃業については、倒産と同様に法律上では明確な定義されていませんが、一般的に異なる用語として用いられるケースが多いです。

廃業の特徴として、計画性が必要な点が挙げられます。廃業する際に必要な手続きには、会社自体を解散させる手続きと会社の財産を清算させる手続きが必要です。

上記は無計画におこなえるものではなく、時間をかけて計画的に対応しなければなりません。廃業のメリットとしては、利害関係者に対して最小限の影響に留めることができる点が挙げられます。

突然倒産してしまい、買掛金などの債務を十分に返済できないと大きな迷惑をかけてしまうことになります。その点で、廃業の場合は債務を返済した上でたためる点が最大の魅力です。

また、廃業に至るきっかけとして経営的な問題がある場合、廃業により経営者としての負担が軽減される点もメリットとなります。一方で、廃業により従業員が職を失うというデメリットがあります。

廃業は、経済的な問題だけでなく最近では後継者が不足することで当代をもって廃業せざるを得なくなるというケースも多く見られます。

破産は借金を清算する法的整理

破産とは、これ以上会社を継続的に経営していくのが困難という倒産状態にある企業が、法律に則り処理する手続きのことを指します。債務者の財産などの適正かつ公平な清算、及び債務者の経済生活の再生の機会を与えるための法的手続きという側面もあるのです。

企業などが、破産を選択しなければならないケースとして以下が挙げられます。

  • 債権者の中に話し合いに応じることなく強制執行を実施するなど強硬姿勢を崩さない者がいるケース
  • 任意整理のような私的整理手続を妨げる存在の関与があるケース
  • 債権者により破産が申し立てられるケース

企業が破産手続きをおこなうことで、企業自体が消滅すると同時に会社の債務も消滅します。ただし、企業の破産において免責という概念は存在しません。

一般的に、破産手続きにおいる免責とは、裁判所の決定で債務を免除してもらうことを指します。一方で、企業が破産した時点で会社自体が存在しなくなる関係上、免責してもらわなくても債務がなくなるのです。
また、破産と同時に滞納していた税金がある場合も、その時点で消滅します。会社が破産することで、合法的にすべての借金から開放できるメリットがあります。

メリットとしては、ほかにも借金を清算した上で新たに企業を興すこともできたり、企業活動において得られた利益に対する制限がない点も魅力的です。

一方で、デメリットとしては企業が消滅することで従業員を解雇しなければなりません。また、代表者としては信用情報に記録が残るので、今後起業した際の融資が受けにくいデメリットがあります。

他にも、破産手続きの最中は裁判所への出廷が必要となります。以上のように、メリットだけでなくデメリットも多いので、慎重に破産可否を判断する必要があるのです。

法人と経営者は別人格として扱われる

企業の中には、法人と個人が存在します。また、法人の中でも私法人と公法人に区別されるのが一般的です。

私法人とは、国家や公共団体の権力を受けない法人のことで、営利法人と非営利法人のことを指します。一般的な株式会社や合同会社などは、私法人という位置づけとなる形です。

一方で、公法人とは公の事業をおこなう法人のことで、地方公共団体や独立行政法人のことを指します。以上のように、企業は細かく分類されるわけですが、大前提の考え方として法人と経営者は別人格として扱われています。

例えば、個人事業主の場合は取引のすべての責任を個人で負わなければなりません。もし、取引において損害が発生した場合でも、事業主個人の財産をもって支払う必要があるのです。

一方で、企業では法律上社長と会社は別の人間に扱われるので、原則として経営者が取引に関する責任を負うことはありません。損害が発生した場合でも、会社の全財産で責任を負う形となり、経営者個人の財産で責任を負う必要はないのです。 

経営者が会社の借金を背負う場合

先に紹介したとおり、法人と経営者とは別人格で扱われるのが大原則です。ただし、経営者が会社の借金を背負う必要がある場合もあります。

代表的な例としては、以下のケースでは経営者側が借金を負う必要があります。 

  • 経営者が会社の連帯保証人となっている
  • 経営者が会社に借金をしている
  • 経営者の過失や悪意で損害賠償責任が生じる

各ケースについて、詳しく解説します。

経営者が会社の連帯保証人となっている

中小企業などで融資を受ける場合、連帯保証人を用意しなければならないケースが多いです。連帯保証人とは、本来の主債務者と同等の返済義務を負うことを約束している人のことを指します。

要するに、債務者と同じ立場であるといえ、もし債務者が返済しきれなくなった場合は連帯保証人が返済の義務を負う形です。

連帯保証人は複数人が設定される場合が多く、例えば2,000万円の負債があり4人が連帯保証人となっている場合、各連帯保証人が2,000万円を4等分した500万円を返済しなければなりません。

大前提として、法人と経営者は別人格と扱われますが、経営者側が個人保証と呼ばれる会社の連帯保証人となっている場合は別です。会社の破産に伴い、借金の返済が個人保証している経営者が返済しなければならないのです。

もし、経営者個人の資産において会社の債務を弁済できるケースであれば問題ないものの、返済できない場合は経営者個人が破産手続きしなければならない場合もあります。

経営者が会社に借金をしている

経営者の場合、会社から借金をしている場合もあります。もし、会社に借金がある状態で倒産した場合、会社に借金を返済する義務を負わなければなりません。

会社が破産した場合、裁判所に選任された破産管財人が会社の財産を管理して、換価などをおこなった上で債権者に分配します。債権も財産の一種となるので、経営者に対する貸金返還請求権についても破産管財人の管理に移行するのです。

よって、破産管財人より貸金の返済を要求されるケースがあります。ただし、経営者自身が個人として破産手続きをしている場合は、会社に対する借金いついて破産手続きとして処理されるケースも多いです。

経営者の過失や悪意で損害賠償責任が生じる

取引が原因により負債が発生した場合でも、個人ではなく法人としての責任となるのが一般的です。ただし、経営者の過失や悪意などによって損害賠償責任が生じるケースがあります。

会社法429条では、以下のように経営者に対する責任が規定されています。

第四百二十九条
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
 イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
 ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
 ハ 虚偽の登記
 ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役、監査等委員及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

参照:会社法| e-Gov法令検索

また、破産管財人は破産手続開始前におこなわれた第三者の行為について、無効にできる否認権を有しています。

第百六十条
次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

参照:破産法| e-Gov法令検索

例えば、破産することを把握した状況で役員報酬を受け取ったり、会社の資産を役員個人やその親族の名義に変更したりする場合、破産管財人から否認権を行使されるケースが多いです。

第百六十一条
破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

参照:破産法| e-Gov法令検索

否認権を行使された場合、企業に財産を返還しなければならず、結果として経営者自身も破産が必要になる場合があります。

経営者保証がある場合は経営者も自己破産することが多い

会社が破産した場合、経営したとして個人保証がある場合は経営者が借金を負わなければなりません。事業規模の大きな会社が破産した場合、個人では負債をカバーしきれないケースが大半です。

そこで、経営者としては個人保証がある場合は自己破産を選択しなければならない場合が多いです。ここでは、自己破産した場合の影響などについて詳しく解説します。

経営者個人の財産は回収される

経営者が自己破産する場合は、経営者個人の資産については債権者に提供しなければなりません。具体的には、経営者が所有している建物や土地については売却や換価して1点あたり20万円を超える財産については、裁判所が選任する破産管財人が回収する形です。

よって、所有している住居を失うことになるので賃貸物件などへ移り住む必要があります。なお、自己破産したとしても経営者の家族に関する財産を提供する必要はありません。

生活に必要な財産は一部残すことができる

経営者が自己破産により財産を回収される場合、回収された経営者の生活がままならなくなってはなりません。そこで、自由財産と呼ばれる以下の財産は回収されません。

  • 新得財産
  • 99万円以下の現金
  • 差押禁止財産
  • 自由財産の拡張が認められた財産
  • 破産財産から放棄された財産

新得財産とは、破産手続開始決定後に取得した財産のことです。破産財団については、破産法341項で次のように明確に定められています。

第三十四条
破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。

参照:破産法| e-Gov法令検索

新得財産の例としては、破産手続き後に発生した給与や賞与、退職金、そして贈与を得た財産などが該当します。99万円以下の現金については、あくまでも現金が対象となり預金は該当しません。

ただし、裁判所によっては自由財産の拡張という形で一定額の預金は自由財産として扱われて回収の対象外となるケースもあります。差押禁止財産とは、特定の項目について差押を禁止しているものです。

例えば、退職金を受け取る債権の4分の3に該当する部分については差押が禁止されています。他にも、以下のような生活保障のための受給金についても差押禁止財産となります。 

  • 国民年金
  • 厚生年金
  • 健康保険
  • 生活保護給付金

破産財団から放棄された財産とは、例えば処分費用が高額となるため買い手が見つからない土地や建物などについて、破産財団から放棄して破産者の手元に戻す手続きが取られます。

家族に影響する場合がありバレずにいるのは難しい

経営者が自己破産しても、その家族の財産の差し押さえなどは発生しません。ただし、家族に全く影響が及ばないわけではありません。

住居が差し押さえられると引越しが必要となるので、家族とともに新居を探さなければなりません。また、車が差し押さえられてしまうと子どもの送り迎えなどで車を使用している場合は対応できなくなります。

ほかにも、定期預金や学資保険がなくなったりクレジットカードを解約しなければならなくなったりと、家族への影響が及ぶ可能性が高いです。よって、経営者が家族にバレることなく自己破産することはまず困難です。

ブラックリストに掲載され5年はクレカ利用できない

経営者が自己破産した場合、信用情報に記録が残ります。信用情報とは、クレジットカードやローン契約や申込時に参照される情報であり、客観的な取引事実を登録した個人情報です。

信用情報を取り扱う機関における、自己破産の記録を残す期間は以下のとおりです。

  • CIC:事故の発生から5年間
  • JISS:事故の発生から5年間
  • KSC:破産開始の決定から10年を超えない期間

基本的には5年間は借入れのないクレジットカードも含め、すべて使用不可となります。また、事故記録が残るのでその期間中はクレジットカードの新規発行は難しいです

自己破産手続き中に制限が課せられる

自己破産手続きを行っている最中には、行動にも制限がかかります。主に、以下のような制限が課されます。

  • 財産の管理処分権を喪失する
  • 居住地が制限される
  • 通信の秘密が制限される

居住地については、破産管財人に対して所有する財産の内容をいつでも説明できる体制を整えなければなりません。よって、居住地を変更することや長期の旅行を勝手におこなってはならず、必ず裁判所の許可を得なければならないのです。

通信の秘密については、破産者宛の郵便物が破産管財人に転送されて、開封され内容を確認されるなどの制約がかかります。

自己破産手続きにも30100万円の費用がかかる

自己破産手続きには、費用がかかります。経営者個人が同時に自己破産をするケースでは、予納金が18,000円程度、印紙・郵券の費用で5,700円程度かかります。

さらに、会社破産と経営者の個人破産を同時に申し立てる場合の費用の相場は、以下のとおりです。

  • 裁判所に納める破産費用:24万円程度実費預り金:1.5万円程度
  • 弁護士費用(会社破産の着手金):55万円程度
  • 弁護士費用(個人破産の着手金):44万円程度

上記を合計すると、125万円程度の費用が必要です。破産の規模によっては30万円から100万円程度の費用で抑えられる場合もありますが、高い費用を負担しなければならないのは事実です。 

会社が破産するときにやってはいけない3つの注意点

会社が破産する場合、やってはならない行動として以下3つが挙げられます。

  • 会社の財産を個人名義に変える
  • お世話になっている取引先に優先して返済する
  • 会社の財産を不当に安く処分する

各行動が問題となる理由などについて、詳しく解説します。

会社の財産を個人名義に変える

企業で自己破産する場合、企業名義の財産については原則として、全て破産手続きにおいて処分の対象としなければなりません。処分対象から免れるために、会社の財産を個人名義に帰る行為は禁止されています。

破産法においては、破産手続きをおこなおうと考えた場合などで、企業名義の財産を第三者名義に変更する行為は財産を隠す行為となり、否認権の対象となるのです。また、免責不許可事由に当たる行為、詐欺破産罪にも問われる可能性があるので注意が必要です。

どうしても個人名義にしなければならない事象が発生した場合は、必ず申立代理人となる予定の弁護士に相談した上で対応を決定してください。

お世話になっている取引先に優先して返済する

破産する場合、返済先として普段お世話になっている取引先を優先したいと考えがちです。心情的には優先したい考えは理解できるものの、実際には偏頗弁済という扱いとなり、ほかの債権者の利益を害する行為となるのです。

偏頗弁済が発生した場合、破産管財人より弁済が否認されるケースが多いです。否認権が行使されると、結果として返済したものが破産財団に復帰することになります。

また、破産免責が認められなかったり破産法第266条に従い刑事罰が科されるケースもあります。

第二百六十六条
債務者(相続財産の破産にあっては相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人又は遺言執行者を、信託財産の破産にあっては受託者等を含む。以下この条において同じ。)が、破産手続開始の前後を問わず、特定の債権者に対する債務について、他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって債務者の義務に属せず又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをし、破産手続開始の決定が確定したときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

参照:破産法| e-Gov法令検索

以上より、お世話になった相手であっても定められた形で返済する必要があります。

会社の財産を不当に安く処分する

自己破産において、弁護士に依頼する前に経営者が財産をお金に替えるケースがあります。この場合、不当に安く処分してはなりません。

例えば、社有車を不当に安く自分の家族などに売却するなどの行為は絶対に行ってなりません。不当に安く処分することは免責不許可事由となり、免責を受けられなくなるリスクがあるので注意が必要です。

どうしても処分が必要になった場合は、適正な価格で処分する必要があります。 

倒産する前に会社を売却・譲渡する選択肢も検討する

企業を倒産させる前に、会社を売却したり譲渡したりすることも選択肢に入れたいものです。倒産させずに売却・譲渡することにより、以下のメリットがあります。

  • 会社を存続させることができる
  • 売却益を得られる
  • 経営者の個人保証が解除できる
  • 従業員の雇用を守ることができる

各メリットについて、詳しく解説します。

会社を存続させることができる

会社売却とは、一般的には会社の経営権を他人に譲渡して、対価を得る行為を指します。負債を抱えている企業であっても、高い技術力を保有しているなどの場合は買い手が見つかる場合が多いです。

売却や譲渡することで、自らの経営権はなくなるものの、会社自体は存続できます。特に、老舗の企業にとっては名前が残ると言うことは非常に大きな意味があり、経営者としても肩の荷を下ろせるでしょう。

売却益を得られる

企業を売却することで、企業の価値に応じて売却利益を得ることが可能です。資産価値によって価値は大きく左右されるものの、会社売却によりまとまった資金を手に入れられるのです。

売却による利益が少ないケースでも、廃業に伴に発生する建物の取り壊しや処分を考えると費用を抑える効果があります。特に、広い土地や大きな建物を保有している場合、廃棄費用が事業資金を超えてしまう場合もあるのです。

そこで、売却することで土地や建物をそのまま引き継げるので、廃棄費用を見込む必要がなくなります。

経営者の個人保証が解除できる

企業を売却したり譲渡したりすることで、経営者の個人保証が解除できます。もし倒産した場合、連帯保証人となっていることで負債を背負わなければなりません。

そこで、売却や譲渡により個人保証自体も譲渡先の企業に移行するので、個人保証による破産のリスクを回避できます。

従業員の雇用を守ることができる

倒産を回避して企業を売却したり譲渡したりすれば、従業員の雇用を守ることができます。基本的に、会社売却しても労働契約自体がそのまま引き継がれるのが一般的です。

また、最近では人材確保を理由として買収するケースがあるため、売却後に人員整理することは稀です。さらに、売却時の条件として雇用の維持を設定するケースが多いので、そのまま従業員が引き継がれることになります。

会社の借金は誰が払う?法人破産で経営者が負う責任を解説

会社の借金は誰が払う?法人破産で経営者が負う責任を解説

会社が破産した場合、誰が負債を負うのかが気になるものです。たとえば、中小企業の場合はオーナー経営者が会社の株式をすべて保有しているケースがあります。

その場合、倒産したことですべて経営者が負債を背負うとなると莫大な借金を抱えてしまいかねません。では、会社の借金は法人破産時に誰が負担しなければならないのでしょうか。

本記事では、法人破産で経営者が負う責任について徹底解説します。特に、個人が負担好きかどうかについて詳しく紹介するので、ぜひ参考にしてください。

破産した会社の借金は原則免除される

会社が破産した場合、その責任が経営者に対して向けられるイメージがあります。会社が破産した場合、金融機関側としては連帯保証人に負債額などを請求することになります。

かつては、社長個人の財産において保証債務を返済できないケースでは、社長個人も破産する必要があったのです。最近では、経営者保証ガイドラインを使用することで、社長個人は破産を免れるケースもあります。

一方で、連帯保証人となっていない場合は会社が抱えている借金は破産手続きの終了をもって消滅します。もし破産手続きにおいて借金が残ってしまったとしても、借金を抱えている会社そのものが消滅すれば原則的に返済義務が免除されるのです。

また、実際には会社と代表者とは別人格であるという考えが大前提であり、経営者が会社の借金を肩代わりする必要はありません。個人が破産手続きをおこなった場合は、免責によって借金が免除される関係状、破産イコール借金免除と捉えがちです。

実際には、会社の破産において借金が免除されるケースでは、あくまでも会社の消滅による効果となるので個人破産の免責とは似て非なるものがあります。個人と会社においては、借金が免除される理由に争点があるので、注意が必要です。

会社の借金が返せない場合どうなる?3つのパターン

会社の借金が返せない場合どうなる?3つのパターン

会社が倒産して、破産手続きにおいて借金が返済し切れないケースもあります。もし、借金が返済できない場合は相応の対応が必要となるのです。

会社の借金が返せない場合のパターンとして、以下3つが考えられます。

  • 倒産
  • 廃業
  • 破産

3つは混同されがちがですが、明確な違いがあります。各パターンの詳細は、以下のとおりです。

倒産は事業継続できない状態

倒産とは、企業の経営が厳しくなって債務の支払いが不能となって、経営が継続できない状態を指します。倒産には法律上の明確な定義は存在せず、あくまでも会社の経営が厳しくなった状態のことです。

また、帝国データバンクでは以下のケースに該当する場合を倒産としています。

1 銀行取引停止処分を受ける※1

2 内整理する(代表が倒産を認めた時)

3 裁判所に会社更生手続開始を申請する※2

4 裁判所に民事再生手続開始を申請する※2

5 裁判所に破産手続開始を申請する※2

6 裁判所に特別清算開始を申請する※2

※1 手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けた場合

※2 第三者(債権者)による申し立ての場合、手続き開始決定を受けた時点で倒産となる

参考:倒産の定義|帝国データバンク

倒産の状態となり経済主体による、債権者に対する弁済のための処理や手続きのことを、倒産処理または倒産手続きと呼びます。これには、私的・法的の区別と清算型・再建型の区別が存在します。

法的倒産手続においては、以下のパターンが取られる場合が多いです。 

  • 破産
  • 会社更生
  • 民事再生

倒産手続きについては、債権者から申し立てられるケースと債務者自身が申し立てるケースがあります。他にも、特殊な場合として監督当局の申立てによって開始する場合もあります。

企業においては、手形や小切手の1回目の不渡りから6か月以内に2回目の不渡りが発生した場合、銀行取引停止処分となり、すべての銀行において当座取引や貸付を受けられません。

これにより、企業の資金繰りは断たれるため事実上の倒産と呼ぶケースが多いです。

廃業は自主的に事業をやめること

廃業とは、企業や個人事業主などが自らの意思をもって事業をやめることを挿します。廃業と似た性質のある言葉としては倒産や解散、休業、閉店などが存在します。

廃業については、倒産と同様に法律上では明確な定義されていませんが、一般的に異なる用語として用いられるケースが多いです。

廃業の特徴として、計画性が必要な点が挙げられます。廃業する際に必要な手続きには、会社自体を解散させる手続きと会社の財産を清算させる手続きが必要です。

上記は無計画におこなえるものではなく、時間をかけて計画的に対応しなければなりません。廃業のメリットとしては、利害関係者に対して最小限の影響に留めることができる点が挙げられます。

突然倒産してしまい、買掛金などの債務を十分に返済できないと大きな迷惑をかけてしまうことになります。その点で、廃業の場合は債務を返済した上でたためる点が最大の魅力です。

また、廃業に至るきっかけとして経営的な問題がある場合、廃業により経営者としての負担が軽減される点もメリットとなります。一方で、廃業により従業員が職を失うというデメリットがあります。

廃業は、経済的な問題だけでなく最近では後継者が不足することで当代をもって廃業せざるを得なくなるというケースも多く見られます。

破産は借金を清算する法的整理

破産とは、これ以上会社を継続的に経営していくのが困難という倒産状態にある企業が、法律に則り処理する手続きのことを指します。債務者の財産などの適正かつ公平な清算、及び債務者の経済生活の再生の機会を与えるための法的手続きという側面もあるのです。

企業などが、破産を選択しなければならないケースとして以下が挙げられます。

  • 債権者の中に話し合いに応じることなく強制執行を実施するなど強硬姿勢を崩さない者がいるケース
  • 任意整理のような私的整理手続を妨げる存在の関与があるケース
  • 債権者により破産が申し立てられるケース

企業が破産手続きをおこなうことで、企業自体が消滅すると同時に会社の債務も消滅します。ただし、企業の破産において免責という概念は存在しません。

一般的に、破産手続きにおいる免責とは、裁判所の決定で債務を免除してもらうことを指します。一方で、企業が破産した時点で会社自体が存在しなくなる関係上、免責してもらわなくても債務がなくなるのです。
また、破産と同時に滞納していた税金がある場合も、その時点で消滅します。会社が破産することで、合法的にすべての借金から開放できるメリットがあります。

メリットとしては、ほかにも借金を清算した上で新たに企業を興すこともできたり、企業活動において得られた利益に対する制限がない点も魅力的です。

一方で、デメリットとしては企業が消滅することで従業員を解雇しなければなりません。また、代表者としては信用情報に記録が残るので、今後起業した際の融資が受けにくいデメリットがあります。

他にも、破産手続きの最中は裁判所への出廷が必要となります。以上のように、メリットだけでなくデメリットも多いので、慎重に破産可否を判断する必要があるのです。

法人と経営者は別人格として扱われる

企業の中には、法人と個人が存在します。また、法人の中でも私法人と公法人に区別されるのが一般的です。

私法人とは、国家や公共団体の権力を受けない法人のことで、営利法人と非営利法人のことを指します。一般的な株式会社や合同会社などは、私法人という位置づけとなる形です。

一方で、公法人とは公の事業をおこなう法人のことで、地方公共団体や独立行政法人のことを指します。以上のように、企業は細かく分類されるわけですが、大前提の考え方として法人と経営者は別人格として扱われています。

例えば、個人事業主の場合は取引のすべての責任を個人で負わなければなりません。もし、取引において損害が発生した場合でも、事業主個人の財産をもって支払う必要があるのです。

一方で、企業では法律上社長と会社は別の人間に扱われるので、原則として経営者が取引に関する責任を負うことはありません。損害が発生した場合でも、会社の全財産で責任を負う形となり、経営者個人の財産で責任を負う必要はないのです。 

経営者が会社の借金を背負う場合

先に紹介したとおり、法人と経営者とは別人格で扱われるのが大原則です。ただし、経営者が会社の借金を背負う必要がある場合もあります。

代表的な例としては、以下のケースでは経営者側が借金を負う必要があります。 

  • 経営者が会社の連帯保証人となっている
  • 経営者が会社に借金をしている
  • 経営者の過失や悪意で損害賠償責任が生じる

各ケースについて、詳しく解説します。

経営者が会社の連帯保証人となっている

中小企業などで融資を受ける場合、連帯保証人を用意しなければならないケースが多いです。連帯保証人とは、本来の主債務者と同等の返済義務を負うことを約束している人のことを指します。

要するに、債務者と同じ立場であるといえ、もし債務者が返済しきれなくなった場合は連帯保証人が返済の義務を負う形です。

連帯保証人は複数人が設定される場合が多く、例えば2,000万円の負債があり4人が連帯保証人となっている場合、各連帯保証人が2,000万円を4等分した500万円を返済しなければなりません。

大前提として、法人と経営者は別人格と扱われますが、経営者側が個人保証と呼ばれる会社の連帯保証人となっている場合は別です。会社の破産に伴い、借金の返済が個人保証している経営者が返済しなければならないのです。

もし、経営者個人の資産において会社の債務を弁済できるケースであれば問題ないものの、返済できない場合は経営者個人が破産手続きしなければならない場合もあります。

経営者が会社に借金をしている

経営者の場合、会社から借金をしている場合もあります。もし、会社に借金がある状態で倒産した場合、会社に借金を返済する義務を負わなければなりません。

会社が破産した場合、裁判所に選任された破産管財人が会社の財産を管理して、換価などをおこなった上で債権者に分配します。債権も財産の一種となるので、経営者に対する貸金返還請求権についても破産管財人の管理に移行するのです。

よって、破産管財人より貸金の返済を要求されるケースがあります。ただし、経営者自身が個人として破産手続きをしている場合は、会社に対する借金いついて破産手続きとして処理されるケースも多いです。

経営者の過失や悪意で損害賠償責任が生じる

取引が原因により負債が発生した場合でも、個人ではなく法人としての責任となるのが一般的です。ただし、経営者の過失や悪意などによって損害賠償責任が生じるケースがあります。

会社法429条では、以下のように経営者に対する責任が規定されています。

第四百二十九条
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
 イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
 ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
 ハ 虚偽の登記
 ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役、監査等委員及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

参照:会社法| e-Gov法令検索

また、破産管財人は破産手続開始前におこなわれた第三者の行為について、無効にできる否認権を有しています。

第百六十条
次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

参照:破産法| e-Gov法令検索

例えば、破産することを把握した状況で役員報酬を受け取ったり、会社の資産を役員個人やその親族の名義に変更したりする場合、破産管財人から否認権を行使されるケースが多いです。

第百六十一条
破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

参照:破産法| e-Gov法令検索

否認権を行使された場合、企業に財産を返還しなければならず、結果として経営者自身も破産が必要になる場合があります。

経営者保証がある場合は経営者も自己破産することが多い

会社が破産した場合、経営したとして個人保証がある場合は経営者が借金を負わなければなりません。事業規模の大きな会社が破産した場合、個人では負債をカバーしきれないケースが大半です。

そこで、経営者としては個人保証がある場合は自己破産を選択しなければならない場合が多いです。ここでは、自己破産した場合の影響などについて詳しく解説します。

経営者個人の財産は回収される

経営者が自己破産する場合は、経営者個人の資産については債権者に提供しなければなりません。具体的には、経営者が所有している建物や土地については売却や換価して1点あたり20万円を超える財産については、裁判所が選任する破産管財人が回収する形です。

よって、所有している住居を失うことになるので賃貸物件などへ移り住む必要があります。なお、自己破産したとしても経営者の家族に関する財産を提供する必要はありません。

生活に必要な財産は一部残すことができる

経営者が自己破産により財産を回収される場合、回収された経営者の生活がままならなくなってはなりません。そこで、自由財産と呼ばれる以下の財産は回収されません。

  • 新得財産
  • 99万円以下の現金
  • 差押禁止財産
  • 自由財産の拡張が認められた財産
  • 破産財産から放棄された財産

新得財産とは、破産手続開始決定後に取得した財産のことです。破産財団については、破産法341項で次のように明確に定められています。

第三十四条
破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。

参照:破産法| e-Gov法令検索

新得財産の例としては、破産手続き後に発生した給与や賞与、退職金、そして贈与を得た財産などが該当します。99万円以下の現金については、あくまでも現金が対象となり預金は該当しません。

ただし、裁判所によっては自由財産の拡張という形で一定額の預金は自由財産として扱われて回収の対象外となるケースもあります。差押禁止財産とは、特定の項目について差押を禁止しているものです。

例えば、退職金を受け取る債権の4分の3に該当する部分については差押が禁止されています。他にも、以下のような生活保障のための受給金についても差押禁止財産となります。 

  • 国民年金
  • 厚生年金
  • 健康保険
  • 生活保護給付金

破産財団から放棄された財産とは、例えば処分費用が高額となるため買い手が見つからない土地や建物などについて、破産財団から放棄して破産者の手元に戻す手続きが取られます。

家族に影響する場合がありバレずにいるのは難しい

経営者が自己破産しても、その家族の財産の差し押さえなどは発生しません。ただし、家族に全く影響が及ばないわけではありません。

住居が差し押さえられると引越しが必要となるので、家族とともに新居を探さなければなりません。また、車が差し押さえられてしまうと子どもの送り迎えなどで車を使用している場合は対応できなくなります。

ほかにも、定期預金や学資保険がなくなったりクレジットカードを解約しなければならなくなったりと、家族への影響が及ぶ可能性が高いです。よって、経営者が家族にバレることなく自己破産することはまず困難です。

ブラックリストに掲載され5年はクレカ利用できない

経営者が自己破産した場合、信用情報に記録が残ります。信用情報とは、クレジットカードやローン契約や申込時に参照される情報であり、客観的な取引事実を登録した個人情報です。

信用情報を取り扱う機関における、自己破産の記録を残す期間は以下のとおりです。

  • CIC:事故の発生から5年間
  • JISS:事故の発生から5年間
  • KSC:破産開始の決定から10年を超えない期間

基本的には5年間は借入れのないクレジットカードも含め、すべて使用不可となります。また、事故記録が残るのでその期間中はクレジットカードの新規発行は難しいです

自己破産手続き中に制限が課せられる

自己破産手続きを行っている最中には、行動にも制限がかかります。主に、以下のような制限が課されます。

  • 財産の管理処分権を喪失する
  • 居住地が制限される
  • 通信の秘密が制限される

居住地については、破産管財人に対して所有する財産の内容をいつでも説明できる体制を整えなければなりません。よって、居住地を変更することや長期の旅行を勝手におこなってはならず、必ず裁判所の許可を得なければならないのです。

通信の秘密については、破産者宛の郵便物が破産管財人に転送されて、開封され内容を確認されるなどの制約がかかります。

自己破産手続きにも30100万円の費用がかかる

自己破産手続きには、費用がかかります。経営者個人が同時に自己破産をするケースでは、予納金が18,000円程度、印紙・郵券の費用で5,700円程度かかります。

さらに、会社破産と経営者の個人破産を同時に申し立てる場合の費用の相場は、以下のとおりです。

  • 裁判所に納める破産費用:24万円程度実費預り金:1.5万円程度
  • 弁護士費用(会社破産の着手金):55万円程度
  • 弁護士費用(個人破産の着手金):44万円程度

上記を合計すると、125万円程度の費用が必要です。破産の規模によっては30万円から100万円程度の費用で抑えられる場合もありますが、高い費用を負担しなければならないのは事実です。 

会社が破産するときにやってはいけない3つの注意点

会社が破産する場合、やってはならない行動として以下3つが挙げられます。

  • 会社の財産を個人名義に変える
  • お世話になっている取引先に優先して返済する
  • 会社の財産を不当に安く処分する

各行動が問題となる理由などについて、詳しく解説します。

会社の財産を個人名義に変える

企業で自己破産する場合、企業名義の財産については原則として、全て破産手続きにおいて処分の対象としなければなりません。処分対象から免れるために、会社の財産を個人名義に帰る行為は禁止されています。

破産法においては、破産手続きをおこなおうと考えた場合などで、企業名義の財産を第三者名義に変更する行為は財産を隠す行為となり、否認権の対象となるのです。また、免責不許可事由に当たる行為、詐欺破産罪にも問われる可能性があるので注意が必要です。

どうしても個人名義にしなければならない事象が発生した場合は、必ず申立代理人となる予定の弁護士に相談した上で対応を決定してください。

お世話になっている取引先に優先して返済する

破産する場合、返済先として普段お世話になっている取引先を優先したいと考えがちです。心情的には優先したい考えは理解できるものの、実際には偏頗弁済という扱いとなり、ほかの債権者の利益を害する行為となるのです。

偏頗弁済が発生した場合、破産管財人より弁済が否認されるケースが多いです。否認権が行使されると、結果として返済したものが破産財団に復帰することになります。

また、破産免責が認められなかったり破産法第266条に従い刑事罰が科されるケースもあります。

第二百六十六条
債務者(相続財産の破産にあっては相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人又は遺言執行者を、信託財産の破産にあっては受託者等を含む。以下この条において同じ。)が、破産手続開始の前後を問わず、特定の債権者に対する債務について、他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって債務者の義務に属せず又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをし、破産手続開始の決定が確定したときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

参照:破産法| e-Gov法令検索

以上より、お世話になった相手であっても定められた形で返済する必要があります。

会社の財産を不当に安く処分する

自己破産において、弁護士に依頼する前に経営者が財産をお金に替えるケースがあります。この場合、不当に安く処分してはなりません。

例えば、社有車を不当に安く自分の家族などに売却するなどの行為は絶対に行ってなりません。不当に安く処分することは免責不許可事由となり、免責を受けられなくなるリスクがあるので注意が必要です。

どうしても処分が必要になった場合は、適正な価格で処分する必要があります。 

倒産する前に会社を売却・譲渡する選択肢も検討する

企業を倒産させる前に、会社を売却したり譲渡したりすることも選択肢に入れたいものです。倒産させずに売却・譲渡することにより、以下のメリットがあります。

  • 会社を存続させることができる
  • 売却益を得られる
  • 経営者の個人保証が解除できる
  • 従業員の雇用を守ることができる

各メリットについて、詳しく解説します。

会社を存続させることができる

会社売却とは、一般的には会社の経営権を他人に譲渡して、対価を得る行為を指します。負債を抱えている企業であっても、高い技術力を保有しているなどの場合は買い手が見つかる場合が多いです。

売却や譲渡することで、自らの経営権はなくなるものの、会社自体は存続できます。特に、老舗の企業にとっては名前が残ると言うことは非常に大きな意味があり、経営者としても肩の荷を下ろせるでしょう。

売却益を得られる

企業を売却することで、企業の価値に応じて売却利益を得ることが可能です。資産価値によって価値は大きく左右されるものの、会社売却によりまとまった資金を手に入れられるのです。

売却による利益が少ないケースでも、廃業に伴に発生する建物の取り壊しや処分を考えると費用を抑える効果があります。特に、広い土地や大きな建物を保有している場合、廃棄費用が事業資金を超えてしまう場合もあるのです。

そこで、売却することで土地や建物をそのまま引き継げるので、廃棄費用を見込む必要がなくなります。

経営者の個人保証が解除できる

企業を売却したり譲渡したりすることで、経営者の個人保証が解除できます。もし倒産した場合、連帯保証人となっていることで負債を背負わなければなりません。

そこで、売却や譲渡により個人保証自体も譲渡先の企業に移行するので、個人保証による破産のリスクを回避できます。

従業員の雇用を守ることができる

倒産を回避して企業を売却したり譲渡したりすれば、従業員の雇用を守ることができます。基本的に、会社売却しても労働契約自体がそのまま引き継がれるのが一般的です。

また、最近では人材確保を理由として買収するケースがあるため、売却後に人員整理することは稀です。さらに、売却時の条件として雇用の維持を設定するケースが多いので、そのまま従業員が引き継がれることになります。