会社更生法とは?要件や民事再生法との違いをわかりやすく解説

企業倒産件数のほとんどが中小企業ですが、時には大企業が倒産寸前まで追い込まれることがあります。
そんなとき、大企業の担当者はどのように対応すればいいのでしょうか。
一般的に倒産について詳しい会社員は、少ないでしょうから一から調べることになるでしょう。
それとも、法務部や企業内弁護士、顧問弁護士などに相談するかもしれません。
いずれにしても、そんなとき、利用できる法律が会社更生法です。
この記事では、会社更生法とは何かについて解説するとともに、会社更生法が適用される要件や民事再生法との違いをわかりやすく解説します。
大企業といえども、いつ何時、倒産の危機に直面するかわかりませんので、この記事を参考に会社更生法について知っておくと役に立つと思います。
会社更生法とは大企業向けの再建型倒産手続き
会社更生法とは、株式会社の経営が窮地に陥った場合に、裁判所が選任した更生管財人が作成した更生計画に従って、株式会社の維持更生を図る再建型倒産手続きのことです。
ここでは、会社更生法が適用される要件と民事再生法との違いについて解説します。
会社更生法が適用される要件は厳しい

会社更生法が適用される要件は厳しいといわれており、次の5つの適用要件があります。
それぞれについて解説します。
株式会社である
会社更生法の適用要件として、まず挙げられるのは、株式会社であることです。
会社更生法第1条に「窮境にある株式会社について」と定められているからです。
会社更生法を適用するには多額の資金が必要になるため、株式会社であることを適用要件としており、主に大企業を想定しています。
会社更生法第1条
第一条 この法律は、窮境にある株式会社について、更生計画の策定及びその遂行に関する手続を定めること等により、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする。
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
債務超過に陥っている
債務超過に陥っている場合も、会社更生法が適用されます。
債務超過に陥っているのは、返済するのが難しい状況にあるからです。
そのため、株式会社が債務超過に陥っているときは、会社更生法が適用される可能性が高いといえます。
会社更生法第17条1項1号
第十七条 株式会社は、当該株式会社に更生手続開始の原因となる事実(次の各号に掲げる場合のいずれかに該当する事実をいう。)があるときは、当該株式会社について更生手続開始の申立てをすることができる。
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
一 破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合
債務の期限内返済で事業継続できなくなる
会社更生法の適用要件として、債務の期限内返済で事業の継続ができなくなることが挙げられます。
期限内に債務を返済することによって、事業の継続が難しくなるおそれあるからです(会社更生法第17条1項2号)。
既に解説した「債務超過に陥っている」場合は支払不能なのに対し、支払いをすると、事業の継続が難しくなってしまうという適用要件です。
つまり、会社更生法では、株式会社が更生手続開始の申立てをするにあたって、支払能力について2つの適用条件を定めているのです。
会社更生法第17条1項2号
第十七条 株式会社は、当該株式会社に更生手続開始の原因となる事実(次の各号に掲げる場合のいずれかに該当する事実をいう。)があるときは、当該株式会社について更生手続開始の申立てをすることができる。
二 弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著しい支障を来すおそれがある場合
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
破産すると社会的影響が大きい
株式会社(大企業)が破産すると社会的影響が大きいことも、会社更生法の適用要件の1つです。
一般的に株式会社(大企業)が破産すると、社会的に大きな影響を与えます。
そのため、破産ではなく事業を継続することで、社会的影響をできるだけ小さくするため、会社更生法が適用されます。
会社更生法の適用にあたっては、株式会社(大企業)が破産したときの社会的影響を考慮することが重要です。
更生計画に見込みがある
更生計画に見込みがあることも、会社更生法が適用される要件です。
会社更生法を適用するには、多額の資金が必要なことから、更生計画を実行できる見込みのある資金を持っていることが適用要件です。
そのため、会社更生法は株式会社(大企業)の利用を想定しているのです。
会社更生法と民事再生法の違いは?
会社更生法と民事再生法は、同じ再建型と呼ばれる倒産手続きです。
民事再生法は、会社などを残したまま、債権を大幅に減額することによって、事業の再生や生活の再建が可能です。
そういう意味では、会社更生法と民事再生法には共通点がありますが、違いもあります。
最も大きな違いは、会社更生法が適用されるのが株式会社のみであるのに対し、民事再生法は個人や会社などの制限がありません。
また、会社更生法の場合、更生管財人が選任されるのに対し、民事再生法では選任されません。
会社更生法と民事再生法の違いをまとめると、次の表のようになります。
会社更生法と民事再生法の違い
会社更生法 | 民事再生法 | |
---|---|---|
適用対象 | 株式会社のみ | 制限なし |
対象債権者 | すべての債権者 | 担保権者を除く債権者 |
管財人の選任 | 選任される | 原則として選任されない |
経営陣 | 退任する | 継続可能 |
権利変更の対象 | ・更生債権(更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権) ・更生担保権(担保権付きの請求権) ・株主の権利 | 再生債権(手続開始前の原因に基づいて生じた債権) |
担保権の取扱い | 自由にできない 会社更生手続中、更生計画認可後は担保権を実行できない | 自由にできる 再生手続中、再生計画認可後は担保権が実行できる。ただし、競売手続の中止命令、担保権消滅制度あり |
株主の取扱い | 既存の株主は権利を失う | 株主の権利は維持される |
租税債権の取扱い | 会社再生手続中は租税の支払い禁止。滞納処分も中止される | 再生手続きがあっても、租税は免除されない。滞納分も減額されない |
債権者集会における可決の要件 | 民事再生より厳格な要件 | 議決権者の議決権の総額の1/2以上 |
計画の成立 | ・関係人集会(更生債権者、更生担保債権者、株主による更生計画案の可決 ・裁判所の認可 | ・再生債権者の決議による再生計画案の可決 ・裁判所の認可 |
会社更生法の3つのメリット
会社更生法には、次のように3つのメリットがあります。
それぞれについて、解説します。
強い法的効力で会社の再建を進められる
会社更生法のメリットとして、強い法的効力で会社の再建を進められることが挙げられます。
まず、裁判所により更生管財人が選任され、会社の経営や財産の管理・処分権など更生計画全般の責任を更生管財人が負います。
また、更生計画が認可された場合、会社法の特則が適用されるため、合併や増資、定款変更などの組織再編行為が行うことが可能になります。
さらに、債権を大幅に減額するだけでなく、担保権の実行が禁止されます。
そのため、会社更生法では、強い法的効力で会社の再建を進められるのです。
会社を存続させ事業を継続できる
会社を存続させ事業を継続できるのも、会社更生法のメリットの1つです。
会社更生法の利用者である大企業は、倒産手続きをするにしても余力があるため、会社を存続させながら事業を継続できるのです。
また、大企業は知名度が高く、ブランド力があるため、事業を継続できるという理由もあります。
いくら倒産するほど苦しい状態にあるとしても、大企業であれば、事業を再編することで会社の再建も可能です。
会社を存続させ事業を継続できるメリットは、従業員の解雇を最小限に抑え、これまで培った技術力の流出を防げることです。
このようなメリットがあるため、会社を存続させ事業を継続できることは、会社更生法のメリットになるのです。
担保権の行使をストップできるため資産を守れる
担保権の行使をストップできるため、資産を守れるのも、会社更生法のメリットの1つです。
というのは、会社更生法が適用されると、租税や担保権などの債権については、会社更生手続中の回収が制限されるからです。
この点は、租税や担保権などの債権について、原則として回収制限のない民事再生とは違っています。
この点から、会社更生法は民事再生法よりも再建しやすいといえるでしょう。
更生債権者や更生担保権者が会社更生手続において債権や担保権の弁済を受けるには、裁判所に届け出る必要があります。
届け出なかった場合は、更生債権(更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権)や更生担保権(担保権付きの請求権)は消滅します。
会社更生法の4つのデメリット
会社更生法には、次のように4つのデメリットがあります。
それぞれについて、解説します。
高額の費用がかかり終了までに時間がかかる
会社更生法のデメリットとして、高額の費用がかかり終了までに時間がかかることが挙げられます。
高額の費用がかかることが、会社更生法の適用対象が株式会社(大企業)のみとされる原因の1つです。
では、具体的に会社更生にどのくらい高額の費用がかかるのでしょうか。
会社更生の申立てには、次の費用がかかります。
項目 | 金額 |
---|---|
申立手数料 | 2万円 |
郵便切手 | 事案により異なる |
予納金 | 下記の「会社更生事件・予納金基準額一覧表」を参照 |
弁護士費用 | 弁護士事務所により異なる |
会社更生事件・予納金基準額一覧表
負債総額 | 予納金の基準額 | |
---|---|---|
自己申立て | 債権者・株主申立て | |
10億円未満 | 800万円 | 1,200万円 |
10億円~25億円未満 | 1,000万円 | 1,500万円 |
25億円~50億円未満 | 1,300万円 | 1,950万円 |
50億円~100億円未満 | 1,600万円 | 2,400万円 |
100億円~250億円未満 | 1,900万円 | 2,850万円 |
250億円~500億円未満 | 2,200万円 | 3,300万円 |
500億円~1,000億円未満 | 2,600万円 | 3,900万円 |
1,000億円以上 | 3,000万円 | 4,500万円 |
上の表は、東京地方裁判所が一応の目安として、公式サイトに掲載している予納金(手続きのために裁判所に納める費用)基準額の一覧表です。
上の表のとおりに予納金が決定されるというわけではなく、各会社ごとに「諸事情を総合的に判断して決定」されます。
この表を見ると、負債総額10億円未満で800万円の予納金が必要なので、少なくとも800万円が必要なことがわかります。
負債総額が1,000億円以上だと、3,000万円もの予納金がかかります。
この金額を見ても、会社再生が大企業向けの手続きということがわかります。
また、大企業の再建ですから、債権者が多く債権額も高額になるため、手続きも複雑です。
そのため、会社再生手続の終了までは時間がかかり、数年を要するのが一般的です。
経営陣は責任を問われ退陣しなければならない
経営陣は責任を問われ退陣しなければならないのも、会社更生法のデメリットの1つです。
会社更生法による再建を選択すると、経営陣は責任を問われ退陣しなければならないという点は、会社更生法の大きな特徴でもあります。
そのため、会社の経営から退きたくない場合は、会社更生法ではなく、民事再生法を選択するべきです。
更生手続開始の決定があった場合、会社の経営権と財産の処分権は、裁判所が選任した更生管財人に移転します(会社更生法第72条第1項)。
会社更生法第72条第1項
第七十二条 更生手続開始の決定があった場合には、更生会社の事業の経営並びに財産(日本国内にあるかどうかを問わない。第四項において同じ。)の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した管財人に専属する。
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
中小企業や個人事業主は利用できない
中小企業や個人事業主は利用できないのも、会社更生法のデメリットの1つです。
会社更生法が適用されるのは、株式会社のみだからです(会社更生法第1条)。
株式会社といっても、大企業などの大規模な会社が想定されています。
しかし、中小企業や個人事業主については、民事再生法は適用されるので、会社更生法ではなく、民事再生法を利用しましょう。
民事再生法には、会社更正法の株式会社のみといった制限はないからです。
中小企業や個人事業主は、会社更生法ではなく民事再生法が利用できるという意味では、会社更生法のデメリットではないかもしれません。
株主は権利を失い損失を受ける
会社更生法のデメリットとして、株主は権利を失い損失を受けることが挙げられます。
会社更生法の適用対象は株式会社、それも主に大企業なので、株主は「倒産なんてするわけがない」と信用しています。
しかし、会社更正法の手続きが始まると、既存の株主は権利を失い損失を受けます。
ただし、更生手続きにおいて、裁判所に届出をすれば、弁済を受けられる可能性があります。
会社更生法手続のポイントや流れを詳しく解説
会社更生法手続のポイントや流れについて、詳しく解説します。
会社更生手続の流れは、次のとおりです。
事前にスポンサーを見つけると再生の成功率UP
事前にスポンサーを見つけると、会社更生の成功率はアップします。
そもそも会社更生手続の申立てをするのは、債務超過・支払不能になったことが原因ですから、自力で再建するのはなかなか難しいといえます。
しかし、資金協力など更生会社の再建を支援してくれるスポンサーが見つかれば、大きな力になってくれます。
実際に、会社更生で成功している株式会社の多くが支援してくれるスポンサーを見つけています。
そのため、会社更生手続の申立てをする前に、スポンサーを見つけることをおすすめします。
裁判所に更生手続開始の申し立て
スポンサーが見つかったら、裁判所に更生手続開始の申立てを行います。
株式会社はもちろん、ほかにも申立権者がいます。
具体的な申立権者は、次のとおりです(会社更生法第17条第2項)。
- 株式会社の資本金額の1/10以上の債権を有する債権者
- 株式会社の総株主の議決権の1/10以上を有する株主
裁判所に更生手続開始の申立てをするにあたっては、弁護士に相談する必要があります。
弁護士と相談した上で、会社更生を利用するのか、民事再生を利用するのかなどを判断した上で会社更生を利用する場合、裁判所に更生手続開始の申立てをします。
また、更生手続開始の申立てをした場合、裁判所は利害関係人または職権で、更生手続が開始されるまでの間、保全管理人による管理を命じることができます。
保全管理人とは、株式会社の事業や財産を管理する人のことで、通常弁護士が選任されます。
更生手続開始の決定・管財人の選任
更生手続開始の申立てに対して、裁判所は更生手続開始の決定をし、更生管財人を選任します。
特に問題なければ、裁判所は更生手続開始の決定をしますが、次の4つに該当する場合、更生手続開始の決定ができないと規定されています(会社更生法第41条第1項)。
- 更生手続の費用である予納金が納められていないとき(会社更生法第41条第1項1号)
- 裁判所に破産手続き、再生手続、特別清算手続が係属しており、その手続きによることが債権者の利益になるとき(会社更生法第41条第1項2号)
- 事業の継続を内容とする更生計画案の作成もしくは可決の見込み、事業の継続を内容とする更生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき(会社更生法第41条第1項3号)
- 不当な目的で更生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものではないとき(会社更生法第41条第1項4号)
更生手続開始の決定があった場合、更生会社の経営権と財産の処分権は、裁判所が選任した更生管財人に移転します。
更生債権の届出
会社更生手続に参加したい更生債権者は、債権届出期間内に更生債権などの内容や原因、議決権の額などを裁判所に届け出なければなりません(会社更生法第138条第1項)。
債権届出期間とは、更生手続開始の決定と同時に裁判所が定めた更生債権などの届出をすべき期間のことです。
この債権届出期間内に届出がなかった場合、更生債権者は更生債権の権利を失います。
ただし、その責任を負わせることができない事由によって、届出ができなかった場合は1ヶ月以内に限り、届出ができます(会社更生法第139条第1項)。
更生管財人は、届出があった更生債権などの内容や議決権についての認否書を作成し、一般調査期間内に異議がなかった債権は、その内容や議決権の額が確定します。
更生計画案の提出・決議・認可
更生管財人は、更生計画案を作成して、更生手続開始の決定の日から原則として1年以内に裁判所に提出しなければなりません(会社更生法第184条第1項、3項)。
更生計画案の作成から提出については、従来から数年を要していたため、会社更生手続の終了までに時間がかかる要因になっていました。
しかし、2003年(平成l5年)の会社更生法改正により現在の提出期限が定められたという経緯があります。
更生管財人が裁判所に更生計画案を提出後、関係人集会が開催され、更生計画案の受諾について決議が行われます。
関係人集会とは、更生管財人、更生会社、裁判所に届出をした更生債権者、株主、スポンサーが参加する集会のことです。
関係人集会で更生計画案が可決されたら、裁判所は法定の要件に該当するかどうかを検討した上で、認可もしくは不認可を決定します。
その後は更生計画を遂行・債務を弁済し終結
裁判所により更生計画が認可されたら、更生計画に法的効力が発生します。
その後は、更生管財人主導の下、更生計画が遂行され、更生計画どおりに債務が弁済されます。
更生手続が終了したら、裁判所は更生管財人の申立てにより、または職権で更生手続終結を決定します(会社更生法第239条第1項)。
会社更生法とは?要件や民事再生法との違いをわかりやすく解説

企業倒産件数のほとんどが中小企業ですが、時には大企業が倒産寸前まで追い込まれることがあります。
そんなとき、大企業の担当者はどのように対応すればいいのでしょうか。
一般的に倒産について詳しい会社員は、少ないでしょうから一から調べることになるでしょう。
それとも、法務部や企業内弁護士、顧問弁護士などに相談するかもしれません。
いずれにしても、そんなとき、利用できる法律が会社更生法です。
この記事では、会社更生法とは何かについて解説するとともに、会社更生法が適用される要件や民事再生法との違いをわかりやすく解説します。
大企業といえども、いつ何時、倒産の危機に直面するかわかりませんので、この記事を参考に会社更生法について知っておくと役に立つと思います。
会社更生法とは大企業向けの再建型倒産手続き
会社更生法とは、株式会社の経営が窮地に陥った場合に、裁判所が選任した更生管財人が作成した更生計画に従って、株式会社の維持更生を図る再建型倒産手続きのことです。
ここでは、会社更生法が適用される要件と民事再生法との違いについて解説します。
会社更生法が適用される要件は厳しい

会社更生法が適用される要件は厳しいといわれており、次の5つの適用要件があります。
それぞれについて解説します。
株式会社である
会社更生法の適用要件として、まず挙げられるのは、株式会社であることです。
会社更生法第1条に「窮境にある株式会社について」と定められているからです。
会社更生法を適用するには多額の資金が必要になるため、株式会社であることを適用要件としており、主に大企業を想定しています。
会社更生法第1条
第一条 この法律は、窮境にある株式会社について、更生計画の策定及びその遂行に関する手続を定めること等により、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする。
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
債務超過に陥っている
債務超過に陥っている場合も、会社更生法が適用されます。
債務超過に陥っているのは、返済するのが難しい状況にあるからです。
そのため、株式会社が債務超過に陥っているときは、会社更生法が適用される可能性が高いといえます。
会社更生法第17条1項1号
第十七条 株式会社は、当該株式会社に更生手続開始の原因となる事実(次の各号に掲げる場合のいずれかに該当する事実をいう。)があるときは、当該株式会社について更生手続開始の申立てをすることができる。
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
一 破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合
債務の期限内返済で事業継続できなくなる
会社更生法の適用要件として、債務の期限内返済で事業の継続ができなくなることが挙げられます。
期限内に債務を返済することによって、事業の継続が難しくなるおそれあるからです(会社更生法第17条1項2号)。
既に解説した「債務超過に陥っている」場合は支払不能なのに対し、支払いをすると、事業の継続が難しくなってしまうという適用要件です。
つまり、会社更生法では、株式会社が更生手続開始の申立てをするにあたって、支払能力について2つの適用条件を定めているのです。
会社更生法第17条1項2号
第十七条 株式会社は、当該株式会社に更生手続開始の原因となる事実(次の各号に掲げる場合のいずれかに該当する事実をいう。)があるときは、当該株式会社について更生手続開始の申立てをすることができる。
二 弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著しい支障を来すおそれがある場合
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
破産すると社会的影響が大きい
株式会社(大企業)が破産すると社会的影響が大きいことも、会社更生法の適用要件の1つです。
一般的に株式会社(大企業)が破産すると、社会的に大きな影響を与えます。
そのため、破産ではなく事業を継続することで、社会的影響をできるだけ小さくするため、会社更生法が適用されます。
会社更生法の適用にあたっては、株式会社(大企業)が破産したときの社会的影響を考慮することが重要です。
更生計画に見込みがある
更生計画に見込みがあることも、会社更生法が適用される要件です。
会社更生法を適用するには、多額の資金が必要なことから、更生計画を実行できる見込みのある資金を持っていることが適用要件です。
そのため、会社更生法は株式会社(大企業)の利用を想定しているのです。
会社更生法と民事再生法の違いは?
会社更生法と民事再生法は、同じ再建型と呼ばれる倒産手続きです。
民事再生法は、会社などを残したまま、債権を大幅に減額することによって、事業の再生や生活の再建が可能です。
そういう意味では、会社更生法と民事再生法には共通点がありますが、違いもあります。
最も大きな違いは、会社更生法が適用されるのが株式会社のみであるのに対し、民事再生法は個人や会社などの制限がありません。
また、会社更生法の場合、更生管財人が選任されるのに対し、民事再生法では選任されません。
会社更生法と民事再生法の違いをまとめると、次の表のようになります。
会社更生法と民事再生法の違い
会社更生法 | 民事再生法 | |
---|---|---|
適用対象 | 株式会社のみ | 制限なし |
対象債権者 | すべての債権者 | 担保権者を除く債権者 |
管財人の選任 | 選任される | 原則として選任されない |
経営陣 | 退任する | 継続可能 |
権利変更の対象 | ・更生債権(更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権) ・更生担保権(担保権付きの請求権) ・株主の権利 | 再生債権(手続開始前の原因に基づいて生じた債権) |
担保権の取扱い | 自由にできない 会社更生手続中、更生計画認可後は担保権を実行できない | 自由にできる 再生手続中、再生計画認可後は担保権が実行できる。ただし、競売手続の中止命令、担保権消滅制度あり |
株主の取扱い | 既存の株主は権利を失う | 株主の権利は維持される |
租税債権の取扱い | 会社再生手続中は租税の支払い禁止。滞納処分も中止される | 再生手続きがあっても、租税は免除されない。滞納分も減額されない |
債権者集会における可決の要件 | 民事再生より厳格な要件 | 議決権者の議決権の総額の1/2以上 |
計画の成立 | ・関係人集会(更生債権者、更生担保債権者、株主による更生計画案の可決 ・裁判所の認可 | ・再生債権者の決議による再生計画案の可決 ・裁判所の認可 |
会社更生法の3つのメリット
会社更生法には、次のように3つのメリットがあります。
それぞれについて、解説します。
強い法的効力で会社の再建を進められる
会社更生法のメリットとして、強い法的効力で会社の再建を進められることが挙げられます。
まず、裁判所により更生管財人が選任され、会社の経営や財産の管理・処分権など更生計画全般の責任を更生管財人が負います。
また、更生計画が認可された場合、会社法の特則が適用されるため、合併や増資、定款変更などの組織再編行為が行うことが可能になります。
さらに、債権を大幅に減額するだけでなく、担保権の実行が禁止されます。
そのため、会社更生法では、強い法的効力で会社の再建を進められるのです。
会社を存続させ事業を継続できる
会社を存続させ事業を継続できるのも、会社更生法のメリットの1つです。
会社更生法の利用者である大企業は、倒産手続きをするにしても余力があるため、会社を存続させながら事業を継続できるのです。
また、大企業は知名度が高く、ブランド力があるため、事業を継続できるという理由もあります。
いくら倒産するほど苦しい状態にあるとしても、大企業であれば、事業を再編することで会社の再建も可能です。
会社を存続させ事業を継続できるメリットは、従業員の解雇を最小限に抑え、これまで培った技術力の流出を防げることです。
このようなメリットがあるため、会社を存続させ事業を継続できることは、会社更生法のメリットになるのです。
担保権の行使をストップできるため資産を守れる
担保権の行使をストップできるため、資産を守れるのも、会社更生法のメリットの1つです。
というのは、会社更生法が適用されると、租税や担保権などの債権については、会社更生手続中の回収が制限されるからです。
この点は、租税や担保権などの債権について、原則として回収制限のない民事再生とは違っています。
この点から、会社更生法は民事再生法よりも再建しやすいといえるでしょう。
更生債権者や更生担保権者が会社更生手続において債権や担保権の弁済を受けるには、裁判所に届け出る必要があります。
届け出なかった場合は、更生債権(更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権)や更生担保権(担保権付きの請求権)は消滅します。
会社更生法の4つのデメリット
会社更生法には、次のように4つのデメリットがあります。
それぞれについて、解説します。
高額の費用がかかり終了までに時間がかかる
会社更生法のデメリットとして、高額の費用がかかり終了までに時間がかかることが挙げられます。
高額の費用がかかることが、会社更生法の適用対象が株式会社(大企業)のみとされる原因の1つです。
では、具体的に会社更生にどのくらい高額の費用がかかるのでしょうか。
会社更生の申立てには、次の費用がかかります。
項目 | 金額 |
---|---|
申立手数料 | 2万円 |
郵便切手 | 事案により異なる |
予納金 | 下記の「会社更生事件・予納金基準額一覧表」を参照 |
弁護士費用 | 弁護士事務所により異なる |
会社更生事件・予納金基準額一覧表
負債総額 | 予納金の基準額 | |
---|---|---|
自己申立て | 債権者・株主申立て | |
10億円未満 | 800万円 | 1,200万円 |
10億円~25億円未満 | 1,000万円 | 1,500万円 |
25億円~50億円未満 | 1,300万円 | 1,950万円 |
50億円~100億円未満 | 1,600万円 | 2,400万円 |
100億円~250億円未満 | 1,900万円 | 2,850万円 |
250億円~500億円未満 | 2,200万円 | 3,300万円 |
500億円~1,000億円未満 | 2,600万円 | 3,900万円 |
1,000億円以上 | 3,000万円 | 4,500万円 |
上の表は、東京地方裁判所が一応の目安として、公式サイトに掲載している予納金(手続きのために裁判所に納める費用)基準額の一覧表です。
上の表のとおりに予納金が決定されるというわけではなく、各会社ごとに「諸事情を総合的に判断して決定」されます。
この表を見ると、負債総額10億円未満で800万円の予納金が必要なので、少なくとも800万円が必要なことがわかります。
負債総額が1,000億円以上だと、3,000万円もの予納金がかかります。
この金額を見ても、会社再生が大企業向けの手続きということがわかります。
また、大企業の再建ですから、債権者が多く債権額も高額になるため、手続きも複雑です。
そのため、会社再生手続の終了までは時間がかかり、数年を要するのが一般的です。
経営陣は責任を問われ退陣しなければならない
経営陣は責任を問われ退陣しなければならないのも、会社更生法のデメリットの1つです。
会社更生法による再建を選択すると、経営陣は責任を問われ退陣しなければならないという点は、会社更生法の大きな特徴でもあります。
そのため、会社の経営から退きたくない場合は、会社更生法ではなく、民事再生法を選択するべきです。
更生手続開始の決定があった場合、会社の経営権と財産の処分権は、裁判所が選任した更生管財人に移転します(会社更生法第72条第1項)。
会社更生法第72条第1項
第七十二条 更生手続開始の決定があった場合には、更生会社の事業の経営並びに財産(日本国内にあるかどうかを問わない。第四項において同じ。)の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した管財人に専属する。
出典:会社更生法 | e-Gov法令検索
中小企業や個人事業主は利用できない
中小企業や個人事業主は利用できないのも、会社更生法のデメリットの1つです。
会社更生法が適用されるのは、株式会社のみだからです(会社更生法第1条)。
株式会社といっても、大企業などの大規模な会社が想定されています。
しかし、中小企業や個人事業主については、民事再生法は適用されるので、会社更生法ではなく、民事再生法を利用しましょう。
民事再生法には、会社更正法の株式会社のみといった制限はないからです。
中小企業や個人事業主は、会社更生法ではなく民事再生法が利用できるという意味では、会社更生法のデメリットではないかもしれません。
株主は権利を失い損失を受ける
会社更生法のデメリットとして、株主は権利を失い損失を受けることが挙げられます。
会社更生法の適用対象は株式会社、それも主に大企業なので、株主は「倒産なんてするわけがない」と信用しています。
しかし、会社更正法の手続きが始まると、既存の株主は権利を失い損失を受けます。
ただし、更生手続きにおいて、裁判所に届出をすれば、弁済を受けられる可能性があります。
会社更生法手続のポイントや流れを詳しく解説
会社更生法手続のポイントや流れについて、詳しく解説します。
会社更生手続の流れは、次のとおりです。
事前にスポンサーを見つけると再生の成功率UP
事前にスポンサーを見つけると、会社更生の成功率はアップします。
そもそも会社更生手続の申立てをするのは、債務超過・支払不能になったことが原因ですから、自力で再建するのはなかなか難しいといえます。
しかし、資金協力など更生会社の再建を支援してくれるスポンサーが見つかれば、大きな力になってくれます。
実際に、会社更生で成功している株式会社の多くが支援してくれるスポンサーを見つけています。
そのため、会社更生手続の申立てをする前に、スポンサーを見つけることをおすすめします。
裁判所に更生手続開始の申し立て
スポンサーが見つかったら、裁判所に更生手続開始の申立てを行います。
株式会社はもちろん、ほかにも申立権者がいます。
具体的な申立権者は、次のとおりです(会社更生法第17条第2項)。
- 株式会社の資本金額の1/10以上の債権を有する債権者
- 株式会社の総株主の議決権の1/10以上を有する株主
裁判所に更生手続開始の申立てをするにあたっては、弁護士に相談する必要があります。
弁護士と相談した上で、会社更生を利用するのか、民事再生を利用するのかなどを判断した上で会社更生を利用する場合、裁判所に更生手続開始の申立てをします。
また、更生手続開始の申立てをした場合、裁判所は利害関係人または職権で、更生手続が開始されるまでの間、保全管理人による管理を命じることができます。
保全管理人とは、株式会社の事業や財産を管理する人のことで、通常弁護士が選任されます。
更生手続開始の決定・管財人の選任
更生手続開始の申立てに対して、裁判所は更生手続開始の決定をし、更生管財人を選任します。
特に問題なければ、裁判所は更生手続開始の決定をしますが、次の4つに該当する場合、更生手続開始の決定ができないと規定されています(会社更生法第41条第1項)。
- 更生手続の費用である予納金が納められていないとき(会社更生法第41条第1項1号)
- 裁判所に破産手続き、再生手続、特別清算手続が係属しており、その手続きによることが債権者の利益になるとき(会社更生法第41条第1項2号)
- 事業の継続を内容とする更生計画案の作成もしくは可決の見込み、事業の継続を内容とする更生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき(会社更生法第41条第1項3号)
- 不当な目的で更生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものではないとき(会社更生法第41条第1項4号)
更生手続開始の決定があった場合、更生会社の経営権と財産の処分権は、裁判所が選任した更生管財人に移転します。
更生債権の届出
会社更生手続に参加したい更生債権者は、債権届出期間内に更生債権などの内容や原因、議決権の額などを裁判所に届け出なければなりません(会社更生法第138条第1項)。
債権届出期間とは、更生手続開始の決定と同時に裁判所が定めた更生債権などの届出をすべき期間のことです。
この債権届出期間内に届出がなかった場合、更生債権者は更生債権の権利を失います。
ただし、その責任を負わせることができない事由によって、届出ができなかった場合は1ヶ月以内に限り、届出ができます(会社更生法第139条第1項)。
更生管財人は、届出があった更生債権などの内容や議決権についての認否書を作成し、一般調査期間内に異議がなかった債権は、その内容や議決権の額が確定します。
更生計画案の提出・決議・認可
更生管財人は、更生計画案を作成して、更生手続開始の決定の日から原則として1年以内に裁判所に提出しなければなりません(会社更生法第184条第1項、3項)。
更生計画案の作成から提出については、従来から数年を要していたため、会社更生手続の終了までに時間がかかる要因になっていました。
しかし、2003年(平成l5年)の会社更生法改正により現在の提出期限が定められたという経緯があります。
更生管財人が裁判所に更生計画案を提出後、関係人集会が開催され、更生計画案の受諾について決議が行われます。
関係人集会とは、更生管財人、更生会社、裁判所に届出をした更生債権者、株主、スポンサーが参加する集会のことです。
関係人集会で更生計画案が可決されたら、裁判所は法定の要件に該当するかどうかを検討した上で、認可もしくは不認可を決定します。
その後は更生計画を遂行・債務を弁済し終結
裁判所により更生計画が認可されたら、更生計画に法的効力が発生します。
その後は、更生管財人主導の下、更生計画が遂行され、更生計画どおりに債務が弁済されます。
更生手続が終了したら、裁判所は更生管財人の申立てにより、または職権で更生手続終結を決定します(会社更生法第239条第1項)。