先取特権とは?具体例を交えながらわかりやすく解説
「先取特権という言葉を聞いたことがあるがどのような意味かわからない」
「具体的にどのような事態が発生した際に先取特権の効力があるのかを知りたい」
実際に民法の学習を通じて「先取特権」について詳しく学んだことがない方にとっては、わかりづらい概念と感じてしまう方も多いのではないでしょうか。
「先取特権」のイメージは、他の債権者より先に取れる特権でその他の債権者がいたとしても、優先的に弁済が受けられる権利を指します。
先取特権は抵当権と異なり当事者の約定で設定されるものでないことから、一定の条件を満たしていれば自動的に効力が発生する権利です。
そこで本記事では、先取特権の四つの効力や3種類の先取特権と優先順位、先取特権を行使して優先的に債権を回収する方法などについて詳しく解説します。
本記事を読み終わる頃には、先取特権の知識が深まり実際に当事者となった場合でも慌てることなく対処できるでしょう。
■この記事でわかること
- 先取特権は他の債権者よりも優先的に弁済を受けられる
- 先取特権には4つの効力がある
- 先取特権は3種類ある
- 先取特権を行使して優先的に債権を回収するには弁護士に相談する
- 先取特権は事前に契約をしなくても効力を発する
目次
先取特権とは他の債権者より優先的に弁済を受けられる権利
先取特権とは債務者の財産について、他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。例えば、マンションの入居者が管理費を滞納している場合にマンション管理組合は先取特権を有しており、マンションの区分所有権等から優先的に管理費を回収できる権利があります。(建物の区分所有等に関する法律7条)
先取特権は、物の上に優先的権利を設定する「物的担保」に分類されます。物的担保は「法定担保物権」と「約定担保物権」の二つに分けられており、先取特権は「法定担保物権」に該当します。
不動産が対象となる先取特権を有している場合は、その不動産から優先的に弁済を受ける権利が取得可能です。一般の債権者が先取特権が設定された目的物を競売にかけた場合でも、売却代金から優先的に弁済を受けられる場合があります。
先取特権の四つの効力
先取特権で適用される効力は次の4通りがあります。
■先取特権の四つの効力
- 優先弁済的効力
- 物上代位性
- 対抗力
- 追及力
優先弁済的効力とは、他の債権者よりも優先して債務の返済を受けられる先取特権を代表する効力のことです。例えば、住宅ローン債権が弁済されない場合に土地や建物を競売にかけて、売却できた代金を他の債権者に優先して住宅ローン債権の弁済を受けられる事例があります。
物上代位性とは目的物が売却・滅失・損傷によって金銭やその他のものを受ける請求権を取得した場合でも、その権利は形を変えて効力が及ぶことです。例えば、AさんがBさんに貸した担保物件が火事で消失した場合に、火災保険により保険金が支払われることになりました。その保険金に対して物上代位性の効力が生じるというものです。
対抗力とは、対抗要件(登記など)を備えることによって、権利があることを第三者に主張することができる効力をいいます。例えば、抵当権を登記しておくことで、不動産をその後に買い受けた人に対しても抵当権があることを主張できるようになります。
追及力とは、担保物件の所有権が債務者または第三者に移転したとしても、第三者に対しても担保物件に関する権利を主張できる効力のことです。例えば、抵当権を設定した不動産の所有者が売買などで変わったとしても、新たな所有者に対しても抵当権を行使することができます。
3種類の先取特権と優先順位
先取特権には債務者の全財産に権利を有している一般の先取特権のほか、特定の財産に対する権利である特別先取特権があります。そして、特別先取特権の中に、債務者の動産に権利を有する動産の先取特権、債務者の不動産に権利を有する不動産先取特権の3種類があります。
通常の債権回収では訴訟や支払催促をするなど多くの時間がかかる可能性がある一方で、先取特権を有していれば直ちに担保権の実行を開始できる可能性が高いです。万が一、債務者が破産した場合に財産の一部しか受け取れない場合があるものの、先取特権を有する場合は優先的にお金を回収できる権利があります。
3種類の先取特権には優先順位が定められており、行使する場合に備えて本項でそれぞれの内容を把握しておきましょう。
■3種類の先取特権
- 一般の先取特権
- 動産の先取特権
- 不動産先取特権
一般の先取特権の種類と優先順位
一般の先取特権とは、一定の債権に対して付与されている債務者の財産から他の債権者よりも優先して弁済を受けられる権利のことです。一般の先取特権の対象となっている種類と優先順位は、次の4種類に定められています。
種類・優先順位 | 内容 |
---|---|
1.共益費用 | 債権者が自らを含めた他の債権者のために使用したお金で優先的に回収できる |
2.雇用関係 | 勤め先の会社が倒産した場合などに従業員が優先的に給料をもらえる |
3.葬式費用 | 自身や親族の葬儀を行うために葬儀会社に支払った費用 |
4.日用品の供給 | 日常生活を営むうえで必須となる光熱費や日用品などの費用 |
上記4種類の一般の先取特権には優先順位が設けられており、共益費用>雇用関係>葬式費用>日用品の供給の順で決められています。
なお、葬儀費用に関しては人が亡くなった際に葬式を挙げる文化が日本で根付いているため、資産の大小にかかわらず平等に葬儀ができるように配慮された決まりです。この決まりにより葬儀社は優先してお金を回収できる権利を有しています。
動産の先取特権の種類と優先順位
動産の先取特権とは、債務者の特定の動産に対して売却代金や利息などを含めて他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。動産の先取特権の対象となっている種類と優先順位は、次の8種類に定められています。
■動産の先取特権の対象となっている種類と優先順位
- 不動産の賃貸借
- 旅館の宿泊
- 旅客または荷物の運輸
- 動産の保存
- 動産の売買
- 種苗または肥料の供給
- 農業の労務
- 工業の労務
動産の先取特権は上記の場合に限って優先的権利を付与していることから、一般の先取特権とは異なりすべての財産が対象になるわけではありません。
例えば、第1号の不動産の賃貸借では賃料やその他の賃貸借で生じた債務に対して、賃借人の動産を差し押さえて優先的に弁済を受けられます。第2号の旅館の宿泊は旅館の宿泊者が宿泊代を滞納した場合に持参した荷物に対して、優先的に弁済が受けられる権利です。宿泊者の自宅にある高額品やブランド品などがあったとしても、回収できる対象にはなりません。
不動産先取特権の種類と優先順位
不動産先取特権とは、債務者の特定の不動産に対して他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。不動産の先取特権の対象となっている種類と優先順位は、次の3種類に定められています。
種類・優先順位 | 内容 |
---|---|
1.不動産の保存 | 不動産の修繕など価値を維持するために費用を負担した場合があるときにその旨を登記しておけば、権利が発生する |
2.不動産の工事 | 建物の工事や不動産の設計などを請負人が費用を負担した場合に工事前に費用の予算額を登記しておけば、権利が発生する |
3.不動産の売買 | 不動産の売却などで売主が買主に不動産を引き渡す際に代金の未払いがある旨を登記しておけば、代金が完済されない場合に権利が発生する |
不動産の保存・工事・売買のいずれも不動産修繕が完了した後すぐや工事に着手する前、売買契約締結と同時など、その他の債権者よりも早く登記をしなければなりません。
なお、不動産の先取特権は抵当権にも優先する場合がある権利で、強い効力を有しています。
先取特権を行使し優先的に債権を回収する方法
先取特権は、債権を他の債権者よりも優先的に回収できる権利です。本来債務者が破産などをして債務を弁済できなくなった場合は、債権者平等の原則の決まりにより財産が均等に振り分けられます。平等に振り分けられると取り分が少なくなってしまうリスクがあることから、債権者を救済するための方法として先取特権で債権の回収が可能です。
例えば、債務者が500万円の財産を保有していた場合、5人の債権者が全て同じ金額の債権を有しているときは、1人につき100万円ずつが分配されます。これに対し、1人が先取特権を有する債権者であるときは、まずその債権が完済されるまで優先することができるという違いが発生します。
先取特権を行使して優先的に債権を回収しようと思っても、方法がわからないという方も多いのではないでしょうか。本項では先取特権を行使して、優先的に債権を回収する方法について詳しく解説します。
弁護士に相談して先取特権の手続を代行してもらう
先取特権を行使して優先的に債権回収するための最も効果的な方法は、弁護士に相談して先取特権の手続を代行してもらうことです。
全国各地に弁護士が多く存在しているため、債権回収に詳しい弁護士を調べて相談してみましょう。弁護士に債権と債務の状況に関する情報を伝えるとともに、訴訟の有無にかかわらず債権者の代理人として各種手続を代行します。先取特権の行使をすると債権を回収できる可能性が発生し、債務者の財産を差押えや競売などの段階に移ります。
権利を行使するときは担保権の実行をしなければならない場合があり、裁判所の命令を得て債務者の財産を差し押さえられる可能性が高いです。債権者が債務者から財産や資産を回収できれば代金が債権者に支払われ、先取特権の行使における債権回収が完了します。
先取特権に関するよくある質問
先取特権の概要はある程度理解できたものの、実際に効力を行使する際にさまざまな疑問や不安を抱く可能性があるでしょう。そこで本項では、先取特権に関してよくある質問について詳しく回答します。
■先取特権に関するよくある質問
- 先取特権は事前に契約しないと効力を発揮しないのですか?
- 先取特権と抵当権の違いは何ですか?
法律で定められた権利や契約をすることで発生する効力など、実際に当事者になった際に困惑する可能性が高いです。先取特権に関するよくある質問をチェックしたうえで、あらかじめ疑問を解消しておきましょう。
先取特権は事前に契約しないと効力を発揮しないのですか?
先取特権は、あらかじめ契約をしていなかったとしても効力を発揮します。事前に契約をしていなくても先取特権の権利が行使できるのは、民法という法律により守られているからです。前述の通り一般の先取特権・動産の先取特権・不動産先取特権の条件を満たしていれば、他の債務権者よりも優先的に弁済を受けられます。また、契約書などをあらかじめ取り交わしておく必要もありません。
ただし、不動産先取特権の不動産の保存・不動産の工事・不動産の売買に関しては、登記をするタイミングに気を付ける必要があります。
不動産先取特権の種類 | 登記のタイミング |
---|---|
不動産の保存 | 不動産修繕などが完了した後、すぐに登記をする(民法337条) |
不動産の工事 | 工事を始める前に予算額の登記をする(民法338条) ※工事にかかった費用が予算額を超えた場合は超過額に先取特権の効力は発生しない |
不動産の売買 | 売買契約の締結と同時に不動産の売買代金または利息が未払いである旨を登記する(民法340条) |
不動産先取特権に関しては登記のタイミングに注意する必要があるものの、基本的には民法の定めにより先取特権の効力が生じることを頭に入れておきましょう。
先取特権と抵当権の違いは何ですか?
先取特権と抵当権の主な違いは次の通りです。
権利名称 | 内容 |
---|---|
先取特権 | 当事者が約束した内容に関係なく発生する権利 |
抵当権 | あらかじめ抵当権を設定する契約をしないと発生しない権利 |
先取特権は法定担保物権である一方で、抵当権は約定担保物件で民法で定められた先取特権が優先される場合があります。例えば、不動産修繕などの価値を保存するための費用を優先的に弁済が受けられる不動産保存の先取特権や、建物の工事や不動産の設計などにかかる費用を優先的に弁済が受けられる不動産工事の先取特権は、抵当権に優先します。
一方で、不動産売買の先取特権は登記をした順番により優先順位が決定することから、登記が早かった方が優先的に弁済を受けられる権利を有するのです。不動産売買に関しては先取特権と抵当権は互角の効力を有しており、先取特権を行使して優先的に弁済が受けられるとは限らないことに注意しましょう。
先取特権とは?具体例を交えながらわかりやすく解説
「先取特権という言葉を聞いたことがあるがどのような意味かわからない」
「具体的にどのような事態が発生した際に先取特権の効力があるのかを知りたい」
実際に民法の学習を通じて「先取特権」について詳しく学んだことがない方にとっては、わかりづらい概念と感じてしまう方も多いのではないでしょうか。
「先取特権」のイメージは、他の債権者より先に取れる特権でその他の債権者がいたとしても、優先的に弁済が受けられる権利を指します。
先取特権は抵当権と異なり当事者の約定で設定されるものでないことから、一定の条件を満たしていれば自動的に効力が発生する権利です。
そこで本記事では、先取特権の四つの効力や3種類の先取特権と優先順位、先取特権を行使して優先的に債権を回収する方法などについて詳しく解説します。
本記事を読み終わる頃には、先取特権の知識が深まり実際に当事者となった場合でも慌てることなく対処できるでしょう。
■この記事でわかること
- 先取特権は他の債権者よりも優先的に弁済を受けられる
- 先取特権には4つの効力がある
- 先取特権は3種類ある
- 先取特権を行使して優先的に債権を回収するには弁護士に相談する
- 先取特権は事前に契約をしなくても効力を発する
目次
先取特権とは他の債権者より優先的に弁済を受けられる権利
先取特権とは債務者の財産について、他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。例えば、マンションの入居者が管理費を滞納している場合にマンション管理組合は先取特権を有しており、マンションの区分所有権等から優先的に管理費を回収できる権利があります。(建物の区分所有等に関する法律7条)
先取特権は、物の上に優先的権利を設定する「物的担保」に分類されます。物的担保は「法定担保物権」と「約定担保物権」の二つに分けられており、先取特権は「法定担保物権」に該当します。
不動産が対象となる先取特権を有している場合は、その不動産から優先的に弁済を受ける権利が取得可能です。一般の債権者が先取特権が設定された目的物を競売にかけた場合でも、売却代金から優先的に弁済を受けられる場合があります。
先取特権の四つの効力
先取特権で適用される効力は次の4通りがあります。
■先取特権の四つの効力
- 優先弁済的効力
- 物上代位性
- 対抗力
- 追及力
優先弁済的効力とは、他の債権者よりも優先して債務の返済を受けられる先取特権を代表する効力のことです。例えば、住宅ローン債権が弁済されない場合に土地や建物を競売にかけて、売却できた代金を他の債権者に優先して住宅ローン債権の弁済を受けられる事例があります。
物上代位性とは目的物が売却・滅失・損傷によって金銭やその他のものを受ける請求権を取得した場合でも、その権利は形を変えて効力が及ぶことです。例えば、AさんがBさんに貸した担保物件が火事で消失した場合に、火災保険により保険金が支払われることになりました。その保険金に対して物上代位性の効力が生じるというものです。
対抗力とは、対抗要件(登記など)を備えることによって、権利があることを第三者に主張することができる効力をいいます。例えば、抵当権を登記しておくことで、不動産をその後に買い受けた人に対しても抵当権があることを主張できるようになります。
追及力とは、担保物件の所有権が債務者または第三者に移転したとしても、第三者に対しても担保物件に関する権利を主張できる効力のことです。例えば、抵当権を設定した不動産の所有者が売買などで変わったとしても、新たな所有者に対しても抵当権を行使することができます。
3種類の先取特権と優先順位
先取特権には債務者の全財産に権利を有している一般の先取特権のほか、特定の財産に対する権利である特別先取特権があります。そして、特別先取特権の中に、債務者の動産に権利を有する動産の先取特権、債務者の不動産に権利を有する不動産先取特権の3種類があります。
通常の債権回収では訴訟や支払催促をするなど多くの時間がかかる可能性がある一方で、先取特権を有していれば直ちに担保権の実行を開始できる可能性が高いです。万が一、債務者が破産した場合に財産の一部しか受け取れない場合があるものの、先取特権を有する場合は優先的にお金を回収できる権利があります。
3種類の先取特権には優先順位が定められており、行使する場合に備えて本項でそれぞれの内容を把握しておきましょう。
■3種類の先取特権
- 一般の先取特権
- 動産の先取特権
- 不動産先取特権
一般の先取特権の種類と優先順位
一般の先取特権とは、一定の債権に対して付与されている債務者の財産から他の債権者よりも優先して弁済を受けられる権利のことです。一般の先取特権の対象となっている種類と優先順位は、次の4種類に定められています。
種類・優先順位 | 内容 |
---|---|
1.共益費用 | 債権者が自らを含めた他の債権者のために使用したお金で優先的に回収できる |
2.雇用関係 | 勤め先の会社が倒産した場合などに従業員が優先的に給料をもらえる |
3.葬式費用 | 自身や親族の葬儀を行うために葬儀会社に支払った費用 |
4.日用品の供給 | 日常生活を営むうえで必須となる光熱費や日用品などの費用 |
上記4種類の一般の先取特権には優先順位が設けられており、共益費用>雇用関係>葬式費用>日用品の供給の順で決められています。
なお、葬儀費用に関しては人が亡くなった際に葬式を挙げる文化が日本で根付いているため、資産の大小にかかわらず平等に葬儀ができるように配慮された決まりです。この決まりにより葬儀社は優先してお金を回収できる権利を有しています。
動産の先取特権の種類と優先順位
動産の先取特権とは、債務者の特定の動産に対して売却代金や利息などを含めて他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。動産の先取特権の対象となっている種類と優先順位は、次の8種類に定められています。
■動産の先取特権の対象となっている種類と優先順位
- 不動産の賃貸借
- 旅館の宿泊
- 旅客または荷物の運輸
- 動産の保存
- 動産の売買
- 種苗または肥料の供給
- 農業の労務
- 工業の労務
動産の先取特権は上記の場合に限って優先的権利を付与していることから、一般の先取特権とは異なりすべての財産が対象になるわけではありません。
例えば、第1号の不動産の賃貸借では賃料やその他の賃貸借で生じた債務に対して、賃借人の動産を差し押さえて優先的に弁済を受けられます。第2号の旅館の宿泊は旅館の宿泊者が宿泊代を滞納した場合に持参した荷物に対して、優先的に弁済が受けられる権利です。宿泊者の自宅にある高額品やブランド品などがあったとしても、回収できる対象にはなりません。
不動産先取特権の種類と優先順位
不動産先取特権とは、債務者の特定の不動産に対して他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。不動産の先取特権の対象となっている種類と優先順位は、次の3種類に定められています。
種類・優先順位 | 内容 |
---|---|
1.不動産の保存 | 不動産の修繕など価値を維持するために費用を負担した場合があるときにその旨を登記しておけば、権利が発生する |
2.不動産の工事 | 建物の工事や不動産の設計などを請負人が費用を負担した場合に工事前に費用の予算額を登記しておけば、権利が発生する |
3.不動産の売買 | 不動産の売却などで売主が買主に不動産を引き渡す際に代金の未払いがある旨を登記しておけば、代金が完済されない場合に権利が発生する |
不動産の保存・工事・売買のいずれも不動産修繕が完了した後すぐや工事に着手する前、売買契約締結と同時など、その他の債権者よりも早く登記をしなければなりません。
なお、不動産の先取特権は抵当権にも優先する場合がある権利で、強い効力を有しています。
先取特権を行使し優先的に債権を回収する方法
先取特権は、債権を他の債権者よりも優先的に回収できる権利です。本来債務者が破産などをして債務を弁済できなくなった場合は、債権者平等の原則の決まりにより財産が均等に振り分けられます。平等に振り分けられると取り分が少なくなってしまうリスクがあることから、債権者を救済するための方法として先取特権で債権の回収が可能です。
例えば、債務者が500万円の財産を保有していた場合、5人の債権者が全て同じ金額の債権を有しているときは、1人につき100万円ずつが分配されます。これに対し、1人が先取特権を有する債権者であるときは、まずその債権が完済されるまで優先することができるという違いが発生します。
先取特権を行使して優先的に債権を回収しようと思っても、方法がわからないという方も多いのではないでしょうか。本項では先取特権を行使して、優先的に債権を回収する方法について詳しく解説します。
弁護士に相談して先取特権の手続を代行してもらう
先取特権を行使して優先的に債権回収するための最も効果的な方法は、弁護士に相談して先取特権の手続を代行してもらうことです。
全国各地に弁護士が多く存在しているため、債権回収に詳しい弁護士を調べて相談してみましょう。弁護士に債権と債務の状況に関する情報を伝えるとともに、訴訟の有無にかかわらず債権者の代理人として各種手続を代行します。先取特権の行使をすると債権を回収できる可能性が発生し、債務者の財産を差押えや競売などの段階に移ります。
権利を行使するときは担保権の実行をしなければならない場合があり、裁判所の命令を得て債務者の財産を差し押さえられる可能性が高いです。債権者が債務者から財産や資産を回収できれば代金が債権者に支払われ、先取特権の行使における債権回収が完了します。
先取特権に関するよくある質問
先取特権の概要はある程度理解できたものの、実際に効力を行使する際にさまざまな疑問や不安を抱く可能性があるでしょう。そこで本項では、先取特権に関してよくある質問について詳しく回答します。
■先取特権に関するよくある質問
- 先取特権は事前に契約しないと効力を発揮しないのですか?
- 先取特権と抵当権の違いは何ですか?
法律で定められた権利や契約をすることで発生する効力など、実際に当事者になった際に困惑する可能性が高いです。先取特権に関するよくある質問をチェックしたうえで、あらかじめ疑問を解消しておきましょう。
先取特権は事前に契約しないと効力を発揮しないのですか?
先取特権は、あらかじめ契約をしていなかったとしても効力を発揮します。事前に契約をしていなくても先取特権の権利が行使できるのは、民法という法律により守られているからです。前述の通り一般の先取特権・動産の先取特権・不動産先取特権の条件を満たしていれば、他の債務権者よりも優先的に弁済を受けられます。また、契約書などをあらかじめ取り交わしておく必要もありません。
ただし、不動産先取特権の不動産の保存・不動産の工事・不動産の売買に関しては、登記をするタイミングに気を付ける必要があります。
不動産先取特権の種類 | 登記のタイミング |
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不動産の保存 | 不動産修繕などが完了した後、すぐに登記をする(民法337条) |
不動産の工事 | 工事を始める前に予算額の登記をする(民法338条) ※工事にかかった費用が予算額を超えた場合は超過額に先取特権の効力は発生しない |
不動産の売買 | 売買契約の締結と同時に不動産の売買代金または利息が未払いである旨を登記する(民法340条) |
不動産先取特権に関しては登記のタイミングに注意する必要があるものの、基本的には民法の定めにより先取特権の効力が生じることを頭に入れておきましょう。
先取特権と抵当権の違いは何ですか?
先取特権と抵当権の主な違いは次の通りです。
権利名称 | 内容 |
---|---|
先取特権 | 当事者が約束した内容に関係なく発生する権利 |
抵当権 | あらかじめ抵当権を設定する契約をしないと発生しない権利 |
先取特権は法定担保物権である一方で、抵当権は約定担保物件で民法で定められた先取特権が優先される場合があります。例えば、不動産修繕などの価値を保存するための費用を優先的に弁済が受けられる不動産保存の先取特権や、建物の工事や不動産の設計などにかかる費用を優先的に弁済が受けられる不動産工事の先取特権は、抵当権に優先します。
一方で、不動産売買の先取特権は登記をした順番により優先順位が決定することから、登記が早かった方が優先的に弁済を受けられる権利を有するのです。不動産売買に関しては先取特権と抵当権は互角の効力を有しており、先取特権を行使して優先的に弁済が受けられるとは限らないことに注意しましょう。