債権者破産申立の要件やメリット・デメリットを解説
破産申請の申立てには、債務者が申立てる自己破産だけでなく、事案によっては債権者側が破産を申立てる債権者破産があります。
どのような場合に債権者が破産を申立てるのか、疑問に持つ方もいるのではないでしょうか。
債権者が債務者の破産を申立てすることは、一定の法律上の要件を満たせば可能です。
本記事では債権者破産の申立てにはどのような要件が必要か、またメリット・デメリットについて詳しく解説します。
債権者破産申立は債権者が破産を申立てること
債権者破産申立とは、支払いができない債務者ではなく支払いを受けられない債権者が破産を申し立てることです。
債権者が破産を申立てる場合、債務者自身ではなく第三者なので、第三者破産とも呼ばれます。
例としては、銀行が融資した債務者の返済が不可能になった状態で、銀行(債権者)が破産手続きを申立てるケースが考えられます。
しかし、破産事件において、債権者破産申立はあまり行われていません。令和4年度の破産申立て事件70,602件の内、自己破産事件は70,307件、債権者破産は295件(約0.5%)でした。これは、債権者破産の申立てには多くの時間と費用がかかり、避けられる傾向があるためです。
では、それでも債権者が手間と費用をかけて破産申請するケースは、どのような理由によるのでしょうか。
債権者が破産申立てに必要な2つの要件
まず、 債権者破産の申立は、債権者がだれでもできるわけではありません。債権者破産を申し立てるにあたり、必要な要件は次の2つです。
- 債権の存在を疎明する
- 破産手続きの原因となる事実を疎明する
詳しく見ていきましょう。
債権の存在を疎明する
債権者が破産申立てをするには、債権の存在を疎明しなければなりません。
「疎明」とは、裁判官に一応確からしいとの推測を抱かせることで、証明よりも低い程度の心証でのことです。確実でなくてもその可能性が高いという推測ができればいいのです。
債権額や支払期限の到来の証明までは必要なく、債権が存在することがわかる資料で足ります。
通常は、債権が存在することがわかる契約書や借用証書などを提出します。
破産手続開始の原因となる事実を疎明する
また、破産手続き開始の原因となる事実として、債務者が個人の場合は支払い不能であること、法人の場合は支払い不能または債務超過(総債務額が総資産額を上回る状態)であることを疎明します。
支払い不能と債務超過の疎明をするには、債務者の負債と資産について情報を集めることが必要です。
しかし、債務者からの協力が得られない状況で、債権者が申立人以外の債権の情報を集めることは難しいでしょう。
債務者が不動産を所有していれば、その不動産の登記事項証明書を取得して、設定されている抵当権の内容から、債務者の負債情報を調査することが一般的です。
債務者の資産を把握することは、債務者の協力を得ることが難しいため、自己破産の場合と異なり困難でしょう。財産開示請求を裁判所に申請するなど、可能な限り疎明資料を入手し提出します。
※不動産の登記事項証明書・・登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面(不動産登記法第119条第1項)。不動産の所有権や抵当権など権利関係を確認できる。
※財産開示手続きとは・・確定判決、和解調書、調停調書があるのに相手方が支払いに応じない場合、裁判所に申立てて、債務者が財産開示期日に裁判所に財産状況を陳述する手続。
債権者破産申立の主な流れを解説
債権者破産申立の主な流れは次のとおりです。
①債権者破産の申立
債権者は必要な申立て書類と後述の予納金などを用意し、債務者の居住地を管轄する裁判所に申立てを行います。
②裁判所の審尋
裁判所から債務者、債権者ともに審尋(事情聴取)を受けます。
債権者は申立てに至った説明、債務者には負債の状況への説明が求められます。
③保全処分
裁判所から債務者への保全処分(債務者財産の差押え)が行われます。
債務者が、破産手続き前に勝手に財産を処分(贈与、譲渡)しないための措置です。
④破産手続き開始/破産管財人の選任
破産手続き開始の決定後、法人であれば解散し、法人個人ともに破産管財人が選任されます。
破産管財人のもと、破産手続きが進行します。
⑤債権者集会/破産管財人による債権者の財産の換価処分と配当
破産管財人が債務者の財産を可能な限り現金化し、進捗状況は債権者集会で報告します。
換価処分後、債権額に応じて各債権者に配当を行います。
※破産管財人とは・・破産手続きにおいて破産者が保有する財産を管理・処分する権利を持つ者。一般的には弁護士が選任される。
参考:e-GOV法令検索/破産法第2条12項
債権者破産申立の費用は約50〜80万
債権者破産の申立て費用は、申立て手数料(印紙代)20,000円、郵送切手代6,000円~(裁判所によって異なる)および以下の予納金の合計です。負債総額が1億未満なら、約50万円超から80万円が目安になるでしょう。
予納金は、債権者への配当より優先的に申立て債権者に弁済されますが、換価処分された金額によっては弁済額が少額もしくは無配当もあり得ます
また、弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用が必要です。弁護士費用は、債務者の資産状況、債権者数などにより異なります。
負債総額(単位:円) | 法人 | 自然人 |
---|---|---|
5000万未満 | 70万円 | 50万円 |
5000万~1億未満 | 100万円 | 80万円 |
1億~5億未満 | 200万円 | 150万円 |
5億~10億未満 | 300万円 | 250万円 |
10億~50億未満 | 400万円 | 400万円 |
50億~100億未満 | 500万円 | 500万円 |
100億~ | 700万円~ | 700万円~ |
予納金は上記の表を基準とし、具体的な金額は裁判官が決定します。
債権者が破産を申立てる3つのメリット
債務者が破産すると、債権者は破産手続き後の最低限の弁済しか受けられないことになります。それでも債権者が債権者破産を申立てるメリットはどのようなものでしょうか。
債権者が破産を申立てるメリットは次の3つです。
- 債務者の総資産を回収の対象にできる
- 債務者による不当な資産処分を回避できる
- 不良債権を損金処理し節税できる
次に詳しく説明します。
債務者の総資産を回収の対象にできる
債権者破産の場合は、債務者の総資産のすべてを回収の対象にできます。
債務者破産の開始で、破産管財人は債務者の債権や動産などを含む全資産を調査し、差押え禁止財産以外を換価処分した後、各債権者に配当を行います。
裁判所を通して個々の財産を差し押さえ債権を回収する強制執行という手段もありますが、差し押さえるためには対象の財産を特定しなければなりません。財産を隠されたり、全財産を把握できなかったりする恐れがあります。
破産手続きをとると、全資産を対象にできるので、強制執行より多くの債権の回収が期待できるでしょう。
※差押禁止財産とは・・法律で差し押えることを禁止されている財産のこと。債務者が生活を営む上で必要不可欠な財産や、必要最小限の財産などが該当。給料、賞与、退職金などの4分の3又は33万円を超えない金額、国民年金や厚生年金、児童手当などの受給権、生活に必要な動産など。
参考:e-GOV法令検索/民事執行法第131条、第152条
債務者による不当な資産処分を回避できる
債権者が破産を申立てると、債務者が不当に資産処分を行うことを回避できます。不当な資産処分には、債務者所有の不動産を、換価処分前に贈与や譲渡してしまうことが挙げられます。
また、特定の債権者に対して優先して借金を弁済することも不当な資産処分です。
破産手続き開始により、債務者による不当な資産処分は、破産管財人により厳しく制限されます。
そして債権者破産の申立てを行えば、破産手続き開始前に債務者が上記のような不当な資産処分を行っても、破産手続きの中で無効にできるのです。
裁判所から選任される破産管財人が否認権を行使して、不当な資産処分行為を無効にする(贈与や特定の債権者への弁済を取り消す)手続きを行います。不当な資産処分行為が無効にされると、処分された資産は債務者の資産として回復し、換価処分の対象に戻るのです。
この否認権の行使は破産管財人によって行われるので、債権者が裁判などで流出した資産を取り戻す手間がかかりません。
※否認権とは・・一定の要件の下で、債務者またはこれと同視される第三者により手続開始前になされた債務者の財産を減少させる行為や債権者間の平等を害する弁済・担保提供等の行為の効力を手続開始後に否定し原状を回復する権利。
参考:e-GOV法令検索/破産法第160条以下
不良債権を損金処理し節税できる
債権者破産により、未回収の不良債権を損金処理でき、節税できることが最大のメリットでしょう。
債務者に対する債権は、回収できなくても売上に計上しなければならず法人税の対象となります。損金処理することで、債務者に対する債権が貸借対照表上に計上されなくなり、法人税の対象になりません。
不良債権を貸借対照表から外すことで、自己資本率も改善し、対外的な信用にもつながるでしょう。
債権者が破産を申立てる4つのデメリット
債権者破産を申立てるデメリットとしては次の4つが挙げられます。
- 裁判所への申立てに高額な予納金が必要
- 債権者も裁判所からの質問を受け時間を取られる
- 債権者の不誠実な対応で時間がかかる場合がある
- 最終的にすべての債権を回収することは難しい
それぞれを解説していきます。
裁判所への申立てに高額な予納金が必要
債権者破産を申立てる上で、大きなデメリットは高額な予納金を収めなければならないことです。
予納金は主に裁判所の選任する破産管財人の報酬などに充当されます。前述の表のとおり、負債総額が大きくなれば予納金も高額になります。
- 負債総額が5000万円未満の場合、個人では50万円、法人では70万円
- 負債総額が5000万円以上1億円未満の場合、個人では80万円、法人では100万円
予納金は、債権者への配当より優先的に申立て債権者に弁済されますが、配当額が期待できないケースも多いのです。
破産を確定させることで債権を損金処理し税金の負担を減らしても、マイナスが大きくなる可能性があります。
申立て費用とのプラスマイナスを視野に入れて、債権者破産を実行すべきかを考える必要があります。
債権者も裁判所からの質問を受け時間を取られる
債務者破産は、債務者だけでなく申立てを行った債権者も裁判所からの審尋(裁判所からの質問に答えていく)があり、時間がとられます。
本来は債務者が行うべき破産手続きを第三者である債権者が行うので、より慎重に手続きが進められるためです。
債権者には申立てに至った説明、債務者には負債の状況への説明が求められます。
債権者破産の場合は、債権者が債務者の資産状況、債務を裁判所に提示しなければいけません。この資料作成にも多くの時間が費やされます。資料を揃えるために、裁判所に対して債務者の財産開示を申し立てるなどの事前準備をする場合もあるでしょう。
債務者の不誠実な対応で時間がかかる場合がある
債権者破産は、債務者が自身でする自己破産に比べ、破産申立てから破産手続開始決定が出るまでにかなり多くの時間がとられる場合があります。
債務者が債権者による破産申立てに不服を持っている場合がほとんどだからです。破産申立てのための債務者の資産や負債の資料を集めることも、債務者の協力が得られず大変でしょう。
裁判所の債務者への審尋時に、債権者に疎明責任がある「破産手続開始の原因となる事実」について反論を行い、破産開始決定までの裁判所の審理が長引く可能性があります。
また、いざ開始決定が下りても、破産に納得していない債務者が破産管財人に非協力的だと、なかなか換価処分まで進まないことが考えられます。
最終的にすべての債権を回収することは難しい
債権者破産の申立人が、最終的に自らの債権を全て回収することは難しいでしょう。
債権を回収できない債務者は、換価対象となるような資産がほとんどないことが多く、負債総額が債務者の資産総額を上回っているケースがほとんどです。
そのため、破産管財人が全資産を調査し換価処分を実施しても、債権者に十分な配当を行えず、それどころかまったく配当を行えないことも多いのです。
また、換価処分した金額の配当は、各債権者の債権額に応じて平等に行われます。手続きを申立てた債権者が優先的に配当を受けるわけではありません。
債権者破産の申立ては、メリット・デメリットを十分考慮したうえで、行うべきでしょう。
債権者破産申立の要件やメリット・デメリットを解説
破産申請の申立てには、債務者が申立てる自己破産だけでなく、事案によっては債権者側が破産を申立てる債権者破産があります。
どのような場合に債権者が破産を申立てるのか、疑問に持つ方もいるのではないでしょうか。
債権者が債務者の破産を申立てすることは、一定の法律上の要件を満たせば可能です。
本記事では債権者破産の申立てにはどのような要件が必要か、またメリット・デメリットについて詳しく解説します。
債権者破産申立は債権者が破産を申立てること
債権者破産申立とは、支払いができない債務者ではなく支払いを受けられない債権者が破産を申し立てることです。
債権者が破産を申立てる場合、債務者自身ではなく第三者なので、第三者破産とも呼ばれます。
例としては、銀行が融資した債務者の返済が不可能になった状態で、銀行(債権者)が破産手続きを申立てるケースが考えられます。
しかし、破産事件において、債権者破産申立はあまり行われていません。令和4年度の破産申立て事件70,602件の内、自己破産事件は70,307件、債権者破産は295件(約0.5%)でした。これは、債権者破産の申立てには多くの時間と費用がかかり、避けられる傾向があるためです。
では、それでも債権者が手間と費用をかけて破産申請するケースは、どのような理由によるのでしょうか。
債権者が破産申立てに必要な2つの要件
まず、 債権者破産の申立は、債権者がだれでもできるわけではありません。債権者破産を申し立てるにあたり、必要な要件は次の2つです。
- 債権の存在を疎明する
- 破産手続きの原因となる事実を疎明する
詳しく見ていきましょう。
債権の存在を疎明する
債権者が破産申立てをするには、債権の存在を疎明しなければなりません。
「疎明」とは、裁判官に一応確からしいとの推測を抱かせることで、証明よりも低い程度の心証でのことです。確実でなくてもその可能性が高いという推測ができればいいのです。
債権額や支払期限の到来の証明までは必要なく、債権が存在することがわかる資料で足ります。
通常は、債権が存在することがわかる契約書や借用証書などを提出します。
破産手続開始の原因となる事実を疎明する
また、破産手続き開始の原因となる事実として、債務者が個人の場合は支払い不能であること、法人の場合は支払い不能または債務超過(総債務額が総資産額を上回る状態)であることを疎明します。
支払い不能と債務超過の疎明をするには、債務者の負債と資産について情報を集めることが必要です。
しかし、債務者からの協力が得られない状況で、債権者が申立人以外の債権の情報を集めることは難しいでしょう。
債務者が不動産を所有していれば、その不動産の登記事項証明書を取得して、設定されている抵当権の内容から、債務者の負債情報を調査することが一般的です。
債務者の資産を把握することは、債務者の協力を得ることが難しいため、自己破産の場合と異なり困難でしょう。財産開示請求を裁判所に申請するなど、可能な限り疎明資料を入手し提出します。
※不動産の登記事項証明書・・登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面(不動産登記法第119条第1項)。不動産の所有権や抵当権など権利関係を確認できる。
※財産開示手続きとは・・確定判決、和解調書、調停調書があるのに相手方が支払いに応じない場合、裁判所に申立てて、債務者が財産開示期日に裁判所に財産状況を陳述する手続。
債権者破産申立の主な流れを解説
債権者破産申立の主な流れは次のとおりです。
①債権者破産の申立
債権者は必要な申立て書類と後述の予納金などを用意し、債務者の居住地を管轄する裁判所に申立てを行います。
②裁判所の審尋
裁判所から債務者、債権者ともに審尋(事情聴取)を受けます。
債権者は申立てに至った説明、債務者には負債の状況への説明が求められます。
③保全処分
裁判所から債務者への保全処分(債務者財産の差押え)が行われます。
債務者が、破産手続き前に勝手に財産を処分(贈与、譲渡)しないための措置です。
④破産手続き開始/破産管財人の選任
破産手続き開始の決定後、法人であれば解散し、法人個人ともに破産管財人が選任されます。
破産管財人のもと、破産手続きが進行します。
⑤債権者集会/破産管財人による債権者の財産の換価処分と配当
破産管財人が債務者の財産を可能な限り現金化し、進捗状況は債権者集会で報告します。
換価処分後、債権額に応じて各債権者に配当を行います。
※破産管財人とは・・破産手続きにおいて破産者が保有する財産を管理・処分する権利を持つ者。一般的には弁護士が選任される。
参考:e-GOV法令検索/破産法第2条12項
債権者破産申立の費用は約50〜80万
債権者破産の申立て費用は、申立て手数料(印紙代)20,000円、郵送切手代6,000円~(裁判所によって異なる)および以下の予納金の合計です。負債総額が1億未満なら、約50万円超から80万円が目安になるでしょう。
予納金は、債権者への配当より優先的に申立て債権者に弁済されますが、換価処分された金額によっては弁済額が少額もしくは無配当もあり得ます
また、弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用が必要です。弁護士費用は、債務者の資産状況、債権者数などにより異なります。
負債総額(単位:円) | 法人 | 自然人 |
---|---|---|
5000万未満 | 70万円 | 50万円 |
5000万~1億未満 | 100万円 | 80万円 |
1億~5億未満 | 200万円 | 150万円 |
5億~10億未満 | 300万円 | 250万円 |
10億~50億未満 | 400万円 | 400万円 |
50億~100億未満 | 500万円 | 500万円 |
100億~ | 700万円~ | 700万円~ |
予納金は上記の表を基準とし、具体的な金額は裁判官が決定します。
債権者が破産を申立てる3つのメリット
債務者が破産すると、債権者は破産手続き後の最低限の弁済しか受けられないことになります。それでも債権者が債権者破産を申立てるメリットはどのようなものでしょうか。
債権者が破産を申立てるメリットは次の3つです。
- 債務者の総資産を回収の対象にできる
- 債務者による不当な資産処分を回避できる
- 不良債権を損金処理し節税できる
次に詳しく説明します。
債務者の総資産を回収の対象にできる
債権者破産の場合は、債務者の総資産のすべてを回収の対象にできます。
債務者破産の開始で、破産管財人は債務者の債権や動産などを含む全資産を調査し、差押え禁止財産以外を換価処分した後、各債権者に配当を行います。
裁判所を通して個々の財産を差し押さえ債権を回収する強制執行という手段もありますが、差し押さえるためには対象の財産を特定しなければなりません。財産を隠されたり、全財産を把握できなかったりする恐れがあります。
破産手続きをとると、全資産を対象にできるので、強制執行より多くの債権の回収が期待できるでしょう。
※差押禁止財産とは・・法律で差し押えることを禁止されている財産のこと。債務者が生活を営む上で必要不可欠な財産や、必要最小限の財産などが該当。給料、賞与、退職金などの4分の3又は33万円を超えない金額、国民年金や厚生年金、児童手当などの受給権、生活に必要な動産など。
参考:e-GOV法令検索/民事執行法第131条、第152条
債務者による不当な資産処分を回避できる
債権者が破産を申立てると、債務者が不当に資産処分を行うことを回避できます。不当な資産処分には、債務者所有の不動産を、換価処分前に贈与や譲渡してしまうことが挙げられます。
また、特定の債権者に対して優先して借金を弁済することも不当な資産処分です。
破産手続き開始により、債務者による不当な資産処分は、破産管財人により厳しく制限されます。
そして債権者破産の申立てを行えば、破産手続き開始前に債務者が上記のような不当な資産処分を行っても、破産手続きの中で無効にできるのです。
裁判所から選任される破産管財人が否認権を行使して、不当な資産処分行為を無効にする(贈与や特定の債権者への弁済を取り消す)手続きを行います。不当な資産処分行為が無効にされると、処分された資産は債務者の資産として回復し、換価処分の対象に戻るのです。
この否認権の行使は破産管財人によって行われるので、債権者が裁判などで流出した資産を取り戻す手間がかかりません。
※否認権とは・・一定の要件の下で、債務者またはこれと同視される第三者により手続開始前になされた債務者の財産を減少させる行為や債権者間の平等を害する弁済・担保提供等の行為の効力を手続開始後に否定し原状を回復する権利。
参考:e-GOV法令検索/破産法第160条以下
不良債権を損金処理し節税できる
債権者破産により、未回収の不良債権を損金処理でき、節税できることが最大のメリットでしょう。
債務者に対する債権は、回収できなくても売上に計上しなければならず法人税の対象となります。損金処理することで、債務者に対する債権が貸借対照表上に計上されなくなり、法人税の対象になりません。
不良債権を貸借対照表から外すことで、自己資本率も改善し、対外的な信用にもつながるでしょう。
債権者が破産を申立てる4つのデメリット
債権者破産を申立てるデメリットとしては次の4つが挙げられます。
- 裁判所への申立てに高額な予納金が必要
- 債権者も裁判所からの質問を受け時間を取られる
- 債権者の不誠実な対応で時間がかかる場合がある
- 最終的にすべての債権を回収することは難しい
それぞれを解説していきます。
裁判所への申立てに高額な予納金が必要
債権者破産を申立てる上で、大きなデメリットは高額な予納金を収めなければならないことです。
予納金は主に裁判所の選任する破産管財人の報酬などに充当されます。前述の表のとおり、負債総額が大きくなれば予納金も高額になります。
- 負債総額が5000万円未満の場合、個人では50万円、法人では70万円
- 負債総額が5000万円以上1億円未満の場合、個人では80万円、法人では100万円
予納金は、債権者への配当より優先的に申立て債権者に弁済されますが、配当額が期待できないケースも多いのです。
破産を確定させることで債権を損金処理し税金の負担を減らしても、マイナスが大きくなる可能性があります。
申立て費用とのプラスマイナスを視野に入れて、債権者破産を実行すべきかを考える必要があります。
債権者も裁判所からの質問を受け時間を取られる
債務者破産は、債務者だけでなく申立てを行った債権者も裁判所からの審尋(裁判所からの質問に答えていく)があり、時間がとられます。
本来は債務者が行うべき破産手続きを第三者である債権者が行うので、より慎重に手続きが進められるためです。
債権者には申立てに至った説明、債務者には負債の状況への説明が求められます。
債権者破産の場合は、債権者が債務者の資産状況、債務を裁判所に提示しなければいけません。この資料作成にも多くの時間が費やされます。資料を揃えるために、裁判所に対して債務者の財産開示を申し立てるなどの事前準備をする場合もあるでしょう。
債務者の不誠実な対応で時間がかかる場合がある
債権者破産は、債務者が自身でする自己破産に比べ、破産申立てから破産手続開始決定が出るまでにかなり多くの時間がとられる場合があります。
債務者が債権者による破産申立てに不服を持っている場合がほとんどだからです。破産申立てのための債務者の資産や負債の資料を集めることも、債務者の協力が得られず大変でしょう。
裁判所の債務者への審尋時に、債権者に疎明責任がある「破産手続開始の原因となる事実」について反論を行い、破産開始決定までの裁判所の審理が長引く可能性があります。
また、いざ開始決定が下りても、破産に納得していない債務者が破産管財人に非協力的だと、なかなか換価処分まで進まないことが考えられます。
最終的にすべての債権を回収することは難しい
債権者破産の申立人が、最終的に自らの債権を全て回収することは難しいでしょう。
債権を回収できない債務者は、換価対象となるような資産がほとんどないことが多く、負債総額が債務者の資産総額を上回っているケースがほとんどです。
そのため、破産管財人が全資産を調査し換価処分を実施しても、債権者に十分な配当を行えず、それどころかまったく配当を行えないことも多いのです。
また、換価処分した金額の配当は、各債権者の債権額に応じて平等に行われます。手続きを申立てた債権者が優先的に配当を受けるわけではありません。
債権者破産の申立ては、メリット・デメリットを十分考慮したうえで、行うべきでしょう。