代表取締役が自己破産するとどうなる?会社への影響や注意点を解説

代表取締役が自己破産するとどうなる?会社への影響や注意点を解説

会社と代表取締役の結びつきは強く、とくに中小企業では「会社=経営者」とお考えの人も多いです。

代表取締役が自己破産をしたら、会社も破産するしかないのでしょうか?

従業員や取引先、株主のことを考えると、代表取締役が自己破産したとしても、会社は存続させたいですよね。

本記事では、代表取締役が自己破産をしたときの会社や生活への影響や注意点について詳しく解説していきます。

最後まで読んで、「代表取締役が自己破産すると、会社も倒産するのか」「自己破産をした後に再起の方法はある?」といった疑問を解消してください。

目次

代表取締役が自己破産しても会社は存続できる

代表取締役が自己破産しても、会社をそのまま存続できます。というのも、代表取締役と会社はまったくの別人格だからです。

具体的にご説明しましょう。

代表取締役個人のみ自己破産できる

「会社と代表取締役は一心同体」のようなイメージがありますが、法律上「会社=法人」「代表取締役=個人」なので、まったく別人格とみなされます。

つまり、法律上代表取締役が自己破産しても、会社が共倒れする必要はありません

たとえば、代表取締役が自己破産をした場合、代表取締役個人名義の預貯金や不動産などの財産は没収され、債権者へ配当されます。いっぽう、会社名義の財産を没収されることはないでしょう。

また、中小企業では、会社の債務の保証人が代表取締役になっているケースが多いです。民法第450条には保証人について、以下のように明示されています。

第四百五十条 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。

一 行為能力者であること。

二 弁済をする資力を有すること。

引用元:e-Gov検索

自己破産をする代表取締役には返済能力がないため、保証人からはずれて返済の義務なくなります。ただし、債務はそのまま残るので、会社は返済を続けなくてはいけません。

実際は会社と個人が同時に破産するケースが多い

代表取締役の自己破産の理由が個人的な浪費や債務などの場合、代表取締役と一緒に会社が破産することはありません。

しかし、会社へのお金の貸付が原因となって代表取締役が自己破産する場合、法人だけ存続するのはかなり難しいです。

たとえば、代表取締役が会社の運営のために会社に貸し付けをしていたとしましょう。

自己破産をすると、代表取締役は債務を免除される代わりに、債権者への配当にあてるために財産を没収されます。

没収される財産のなかには、「会社に貸し付けているお金」も含まれるのです。そのため、破産管財人は、会社に対して貸付金の返済を請求します。

同時に、代表取締役の役員報酬が未払いになっている場合は、会社は未払い分の役員報酬も支払わなくてはいけません

会社の資金繰りが苦しく、破産管財人からの請求に応じられないのであれば、結局破産するしかないのです。

自己破産をしても再び代表取締役になったり起業できる?

法律上では、自己破産後にもう一度同じ会社の代表取締役になったり、新たに起業したりできます。

2006年5月に新会社法が施行されたことにより、自己破産は代表取締役の欠格事由ではなくなりました。そのため、自己破産後でも代表取締役になったり新たに起業したりできます。

とくに中小企業では、代表取締役の自己破産とともに会社も破産するケースが多いので、自己破産後に会社の設立を認めなければ経済にも影響を与えてしまうでしょう。

ただし、自己破産後の代表取締役再任や起業にはいくつかの制約があります。ここでは、実際に代表取締役再任や起業をする際の問題について見ていきましょう。

一度退任して再任される必要がある

代表取締役の地位は、会社との委任契約で成り立っています。自己破産は委任の終了事由です。

代表取締役が自己破産すると委任契約が終了となり、代表取締役を一度退任しなくてはいけません

しかし、自己破産をした人が代表取締役になることは禁止されていないので、破産手続開始決定後に株主総会で再任されれば、代表取締役に戻れます。

ただし、自己破産の際に株式の過半数以上を代表取締役が所有していた場合、代表取締役に再任するのは難しいです。

自己破産をする際、株式も財産として没収され債権者の配当に充てられます。株主総会で代表取締役に再任するには、株式の過半数が必要です。

会社法では、以下のように定められています。

第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

引用元:e-Gov検索

債権者に株式を取られると再任に必要な株式が足りなくなり、代表取締役に再任するのが難しくなってしまいます。

融資が受けにくくなることや信用の問題は残る

自己破産をすると多くの財産が没収されるため、起業するには新たな資金を調達しなければいけません。

しかし、自己破産をした後は、信用情報機関に事故情報が載ってしまいます。

信用情報は新規のクレジットカードの作成やローンの申込をする際に必ず金融機関が照会するので、「自己破産をした」事故情報の記録があると審査は通りません。

自己破産の記録は、5〜10年ほど残るため、その期間は融資が必要な大きな事業をするのは難しいです。

また、取引先への支払いを残したまま自己破産をしてしまうと、取引先の信用を失うだけでなく業界中に噂が広まってしまう恐れがあります。

今までと違う業界で事業をおこすにしても、会社同士はどこで繋がっているかわかりません。

自己破産は、今までの取引先の信頼を失っています。新しく起業するときの取引先探しは難航すると考えましょう

4つの欠格事由に該当すると代表取締役になれない

会社法第331条1項には、取締役になれない人の事由が定められています。これが「欠格事由」です。

1. 法人

代表取締役や取締役になれるのは個人のみで、法人はなれません。

2. 成年被後見人または成年被保佐人

  • 成年被後見人・・・認知症や精神障害などにより自分の財産管理といった物事の判断が難しいため、成年後見人が付されている人
  • 被保佐人・・・成年被後見人ほど症状が重くないものの、物事の判断が不十分として保佐人が付されている人

物事の判断能力が難しいと取締役としての職務をまっとうできないとして、成年被後見人または成年被保佐人は取締役の欠格事由でしたが、2019年12月4日に会社法が改正され、欠格事由ではなくなりました。

ただし、民法653条には「後見開始の審判を受けた場合」委任終了事由になると示されています。

(委任の終了事由)

第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。

一 委任者又は受任者の死亡

二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。

三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

引用元:e-Gov検索

代表取締役に再任した後に成年被後見人となった場合は委任終了となりますが、株主総会で任命されれば再再任もできるでしょう。

また、被保佐人は委任契約の終了事由や欠格事由にはなりません。

3. 会社に関連する法令の罪を犯した一定の者

会社法第331条3項には以下のように明示されています。

第三百三十一条 次に掲げる者は、取締役となることができない。

三 この法律若しくは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)の規定に違反し、又は金融商品取引法第百九十七条、第百九十七条の二第一号から第十号の三まで若しくは第十三号から第十五号まで、第百九十八条第八号、第百九十九条、第二百条第一号から第十二号の二まで、第二十号若しくは第二十一号、第二百三条第三項若しくは第二百五条第一号から第六号まで、第十九号若しくは第二十号の罪、民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百五十五条、第二百五十六条、第二百五十八条から第二百六十条まで若しくは第二百六十二条の罪、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(平成十二年法律第百二十九号)第六十五条、第六十六条、第六十八条若しくは第六十九条の罪、会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)第二百六十六条、第二百六十七条、第二百六十九条から第二百七十一条まで若しくは第二百七十三条の罪若しくは破産法(平成十六年法律第七十五号)第二百六十五条、第二百六十六条、第二百六十八条から第二百七十二条まで若しくは第二百七十四条の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者

引用元:e-Gov検索

つまり、会社法、一般法人法、金融商品取引法、民事再生法、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律、会社更生法、破産法に違反した場合、以下の期間は代表取締役になれません。

  • 刑に処されてから2年
  • 執行されてから2年
  • 執行猶予期間が終わってから2年

たとえば、執行猶予がついた場合でも欠格事由になりますが、執行猶予期間が終わって2年経過すると代表取締役に再任できます。罰金刑でも、罰金を納付して2年経てば、欠格事由はなくなるのです。

4. 会社に関連する法令以外の法令の罪を犯した一定の者

会社法第331条3項で定められている法律以外の罪を犯すと、禁固刑以上の刑(禁固・懲役・死刑)に処せられた場合に欠格事由になります。

会社法第331条4項

四  前号に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)

引用元:e-Gov検索

執行を終わるまでとは、仮出所ではなく「刑期満了」のことです。また、執行を受けることがなくなるとは「恩赦の日」を指します。

会社に関連する法令の法令の罪を犯した場合と異なり、罰金刑や執行猶予であれば欠格事由になりません。また、刑を執行してから2年経過後という縛りもないです。

破産手続き中の仕事や生活への主な影響

破産手続き中の仕事や生活への主な影響

自己破産は債務がなくなるという大きなメリットがあるかわりに、自己破産手続き中にはさまざまな生活への制限が生じます。

  • 職業制限
  • 転居・旅行の制限
  • 郵便物の受け取り制限

会社の行っている事業によっては、職業制限によってまったく立ち行かなくなってしまう恐れもあるので、注意が必要です。

就ける仕事に制限がある

自己破産をすると、破産開始決定から復権するまで就ける仕事に制限があります。復権のタイミングで一番多いのは免責許可の確定です。

制限される職業は以下のようなものがあります。

  • 銀行の取締役・執行役・監査役
  • 信用金庫等の役員
  • 貸金業
  • 警備員
  • 公証人
  • 弁護士
  • 弁理士
  • 司法書士
  • 公認会計士
  • 税理士
  • 行政書士
  • 社会保険労務士
  • 生命保険募集人
  • 宅地建物取引士
  • 土地家屋調査士
  • 不動産鑑定士

すでに上記のような職業に就いていて自己破産をするときは、法律で定められた各機関に届け出をして登録の抹消などの手続きをしなければいけません。

たとえば、弁護士は弁護士法第7条4項で以下のように定められています。

弁護士法第7条

(弁護士の欠格事由)

第七条 次に掲げる者は、第四条、第五条及び前条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない。

一 禁錮以上の刑に処せられた者

二 弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者

三 懲戒の処分により、弁護士若しくは外国法事務弁護士であつて除名され、弁理士であつて業務を禁止され、公認会計士であつて登録を抹消され、税理士であつて業務を禁止され、若しくは公務員であつて免職され、又は税理士であつた者であつて税理士業務の禁止の懲戒処分を受けるべきであつたことについて決定を受け、その処分を受けた日から三年を経過しない者

四 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

引用元:e-Gov検索

ただし、職業制限を受けている期間であっても、国家資格を受験して資格を取ることは自己破産中でも問題ありません。

転居や旅行に制限がある

自己破産では申立前に、引っ越しや旅行をするのは自由です。今後の生活を考えて居住地を移すのは、むしろ珍しいことではありません。

破産法第37条

第三十七条 破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。

引用元:e-Gov検索

裁判所が破産手続開始決定をすると、申立人は破産者になります。破産者は免責許可決定が確定されるまで、引っ越しをする場合は裁判所に許可を得なくてはいけません。

これは、破産者が逃亡することや財産を隠すことを防ぐためです。

旅行も引っ越しと同様に居住地を離れるので、裁判所の許可が必要になります。

旅行の目的が冠婚葬祭であれば、許可の出る可能性が高いですが、娯楽目的ではほとんど許可されないと考えましょう。

郵便物は破産管財人に一旦転送される

自己破産で管財人が選定されると、破産者宛の郵便物は一旦管財人に転送されるようになります。転送は早ければ債権者集会後、遅くとも免責決定確定までには解除されるでしょう。

郵便物のなかには、クレジットカードの明細や保険関係の書類などのほかにも、破産の申立書に記載されていない債権者からの書類や財産の契約書がある恐れがあります。

管財人は破産者の財産を適切に処分して債権者に配当しなければいけません。破産者の財産状況や取引について把握するために、郵便物のチェックが必要なのです。

転送の対象となるのは破産者宛の郵便物だけで、宅配便やメール便、家族宛の郵便物は転送されません。また転送された郵便物は、管財人のチェックが終われば破産者に渡されます。

代表取締役が自己破産するとその後はどうなる?

代表取締役が自己破産すると

自己破産の手続き中には、さまざまな生活の制限を受けるとわかりました。では、代表取締役が自己破産をすると、その後はどのようになるのでしょうか?

債務や財産はもちろん、家族への影響も気になるはずです。ここでは、自己破産した後の生活への影響について解説していきます。

会社と個人は債務の支払義務が免責される

債務の返済が免除されるのは、破産をするもっとも大きなメリットです。

代表取締役が自己破産をして借金返済の義務が免除されれば、今まで債務の返済に充てていたお金を生活や新たな事業の運営資金へ回せます。

負債がなくなることで、新たな生活や事業の再建へ向けて前向きに行動できるでしょう。

また、中小企業では、代表取締役が自己破産するのと一緒に会社も破産する場合も多いです。破産手続きが終了するとともに、会社は清算・消滅します。

代表取締役の自己破産とはことなり会社の破産は「会社そのもの」がなくなるため、債権者への返済義務はもちろん、滞納していた税金などもすべて支払わなくてよくなるのが特徴です。

破産後に新しい会社をおこしたとしても、前の会社とは別人格として扱われるので、債務の返済を求められることはありません。

代表取締役個人の資産は回収される

自己破産をすると、破産手続開始の際に代表取締役名義の財産は「破産財団」に組み入れされます。その後、破産管財人が破産財団を管理し、現金化して債権者への配当にする仕組みです。

財産の価値が20万円を超えると、回収の対象になります。

破産財団に組み入れられる財産は、以下のようなものです。

  • 99万円を超える現金
  • 20万円を超える預貯金
  • 自宅や土地などの不動産
  • 自動車・貴金属・高級ブランド品・絵画などの贅沢品

ただし、自動車は初回登録から7年経過しているものや中古車で「価値が20万円以下」とみなされると、手元に残せる可能性が高いです。

自己破産後も生活に自動車が必要な場合は、申立前に安い自動車に買い替えておくといいでしょう。

生活に最低限必要な財産は残せる

自己破産をすると、代表取締役の財産は原則として破産財団に回収されます。ただし生活に必要最低限な物は手元に残せます。

  • 99万円以下の現金
  • 20万円以下の預貯金
  • 破産手続開始後に支給された給料・報酬・退職金など
  • 破産手続開始後に贈与された財産
  • 衣類や寝具、家具、家電などの生活必需品
  • 各種年金
  • 破産財団が放棄した財産

財産としての価値があったとしても、「現金に換えるのが難しい財産」は破産財団から放棄されて残せる場合があります。

また、多くの生活必需品は、自己破産をしても手元に残せます。ただし、以下のようなものは、原則として1点のみしか回収の対象から外せません。

  • テレビ
  • 洗濯機
  • 冷蔵庫
  • 掃除機
  • 電子レンジ
  • ポット
  • パソコン
  • ラジオ

たとえば、テレビを3台所有している場合、1台だけ残して2台は回収の対象になります。

家族に原則影響はない

代表取締役が自己破産をしても、原則として家族への影響はないです。

  • 家族の信用情報に事故情報が記録されることはない
  • 好きな職業に就職できる
  • 結婚に法律的な制限はない
  • 近所の人に破産を知られる可能性は低い

自己破産をして信用情報に事故情報が載るのは、代表取締役本人だけです。家族は自由にクレジットカードやローンを利用できます。

自己破産をすると、代表取締役本人は職業を制限される期間がありますが、家族の職業先選択は自由です。結婚への影響もないので、自己破産を理由に家族が離婚する必要もありません。

また、自己破産をすると官報で公告されます。しかし、官報を見る人は限られているため、近所の人に知られることはほぼないでしょう。

ただし自己破産をした後は、解約返戻金が20万円を超える生命保険や学資保険が解約になったり、奨学金の保証人になれなかったりするため、家族に影響を及ぼす恐れはまったくないわけではありません。

免責されない借金もある

自己破産は、裁判所に申立をして債務を免除してもらう手続きです。しかし、自己破産をしても、免除にならない債務もあります。自己破産をしても免除されない債務を「非免責債権」といいます。

非免責債権とは、具体的に以下のようなものです。

  • 住民税・健康保険料・国民年金など公租公課
  • 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命や身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 生活費・養育費
  • 従業員への給料
  • 交通違反などの罰金等の請求権
  • 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権

税金や損害賠償金、従業員への給料など支払い義務は、自己破産をしてもなくなりません。

また、うっかりでも債権者名簿に載せていなかった債権者があった場合、その債務の返済義務も免責されないので、注意が必要です。

会社のみが破産しても代表取締役の法的責任は原則発生しない

会社が破産したことで、代表取締役が謝罪会見をしているシーンをテレビなどで見かけた経験のある人も多いのではないでしょうか。

会社が破産をした場合、代表取締役は世間的に経営責任や信用問題を問われますが、法的な責任は原則ありません。

というのも、会社(法人)と代表取締役(個人)はまったく別人格という扱いで、権利や義務はそれぞれに与えられるからです。

つまり、会社が破産をした場合、法人の資産は破産財団に組み入れられて債権者に配当されますが、代表取締役が財産を手放して債権者への配当を補う必要はありません。

また、会社が破産すると株主や取引先に大きな損害が出ます。しかし、代表取締役が法人に代わって損害賠償金を支払う義務はないのです。

代表取締役が法的責任を負う場合もある

会社と代表取締役は別人格なので、会社が破産しても代表取締役が法的責任を負うことはありません。

しかし、以下のようなケースでは、代表取締役が法的責任を負うことになります。

  • 代表取締役が連帯保証人となっている場合
  • 代表取締役が損害賠償請求される場合
  • 破産手続きで違法行為がある場合

会社の債務の連帯保証人に代表取締役がなっている場合、会社が破産すると代表取締役が残りの債務を返済していかなければいけません。

会社が破産したこと自体では、代表取締役が損害賠償請求されることはないです。しかし、代表取締役が忠実義務・善管注意義務に違反し、会社に損害を与えていた場合は損害賠償請求される恐れがあります。

また、会社の運営のなかだけでなく破産手続きで違法行為が発覚した場合も、代表取締役が法的責任を負うことになるでしょう。

以下で詳しくご説明します。

代表取締役が連帯保証人となっている場合

代表取締役が会社の連帯保証人や保証人になっているケースは、よく中小企業に見られます。

代表取締役が会社の連帯保証人になっている場合に会社が破産すると、残った債務は代表取締役が返済していかなくてはいけません。

しかし、会社は破産の時点で、すでに多額の債務を抱えている場合がほとんどです。また、長期間滞納で期限の利益を喪失しており、債権者から一括返済を求められることもあるでしょう。

代表取締役が連帯保証人になっていて債務を返済しきれないときは、代表取締役も自己破産をする必要があります。

代表取締役の状況債務への対応方法メリットデメリット
返済できる充分な資産がある自力で返済する生活に大きな影響はない財産が減少する
定期的な収入がある債権者へ分割返済する自己破産のように財産を最低限に減らさなくていい財産が減少する
定期的な収入を継続させなくてはならない
返済する能力がない自己破産する債務を返済しなくてよくなる財産を最低限に減らさなくてはならない

代表取締役が損害賠償請求される場合

代表取締役が善管注意義務に違反して、職務を怠り会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償金を支払わなくてはいけません。

善管注意義務とは民法第644条で「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」と定められており、代表取締役だけでなく幅広い委託契約で当然の義務として課されています。

会社法第423条

取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用元:e-Gov検索

善管注意義務に違反するとは、具体的には以下のようなことです。

  • 代表取締役が法令違反に加担した
  • 社内で発生した違法行為を見逃した
  • 経営判断ミスで会社に大きな損害を出した
  • 競売取引などを株主総会で開示・承認を怠った

また、代表取締役の悪意や重過失により、第三者が損害を被った場合は、第三者に対して損害賠償金を支払わなくてはいけません。第三者とは、取引先や株主、債権者、元従業員などです。

会社法第429条

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

引用元:e-Gov検索

代表取締役が第三者に対する責任を負う要件は、以下の4つです。

  • 代表取締役がその職務を行う際に義務違反があったこと
  • 代表取締役に悪意または重大な過失があったこと
  • 第三者に損害が生じたこと
  • 代表取締役の義務違反と第三者の損害に因果関係があること

代表取締役は会社が破産したこと自体に法的責任はないとはいえ、経営や職務における法的責任を問われる恐れがあります。

破産手続きで違法行為がある場合

自己破産では、財産を故意に減少させたり隠したりといった行為は許されません。これは法人破産でも同様です。

違反すると、代表取締役は「詐欺破産罪」「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」といった刑事罰に問われる恐れがあります。

詐欺破産罪になる行為は、以下のとおりです。

  • 会社の財産を隠匿、または損壊する行為
  • 会社の財産を譲渡、または債務の負担を仮装する行為
  • 会社の財産の現状を改変して、その価格を少なく見せる行為
  • 会社の財産を債権者の不利益になるように処分し、一部の債務だけを返済する行為

上記の行為があったうえで破産手続開始決定が確定した場合、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはその両方が科せられます。

また、特定の債権者に対する担保の供与等の罪にあたるのは、以下のような行為です。

  • ほかの債権者を害する目的で、特定の債権者だけに返済または担保を供与する
  • 正当な理由なく、特定の債権者だけに返済または担保を供与する

上記の行為があったうえで破産手続開始決定が確定した場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が科せられます。

自己破産後に再起するための方法

代表取締役は自己破産をしても「会社を興せない」「社長になれない」といった法律はありません。いくらでも再起が可能です。

とはいえ、自己破産後は5〜7年ほど信用情報に事故情報が登録されており、資金調達は容易ではないでしょう。

自己破産後の起業のための資金調達方法には、工夫やコツが必要です。

  • 自己破産後に築いた財産は自由に使える
  • 再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
  • 新創業融資制度

自己破産前にあった財産は、債権者の配当のために回収されてしまいますが、自己破産をした後に築いた財産は、自由に使えます。

債権者への返済もないので、再起に向けて惜しみなく活用できるでしょう。

再挑戦支援資金は、自己破産後でもすぐに利用できる融資です。融資限度額は7億2,000万円まであるので、ある程度最初の投資が大きな事業でもはじめられます。

また、新創業融資制度も再挑戦支援資金と同じく融資制度です。再挑戦支援資金よりも利用条件が厳しいものの、審査に通過すれば無担保・無保証で資金を得られます。

自己破産後に築いた財産は自由に使える

先にもご説明したとおり、自己破産をして財産を没収されるとはいっても、「自由財産」として一定の財産は手元に残せます

  • 99万円以下の現金
  • 20万円以下の預貯金
  • 破産手続開始後に支給された給料・報酬・退職金など
  • 破産手続開始後に贈与された財産
  • 衣類や寝具、家具、家電などの生活必需品
  • 各種年金
  • 破産財団が放棄した財産

自己破産後に得た収入は、債務の返済にあてる必要がないので、自由に使えます。時間はかかりますが、地道に貯金していけば起業の資金を調達できるはずです。

また、早く事業を興したい場合は、初期投資が少なくて済む事業を考えましょう。

オフィスや実店舗などのランニングコストを抑えるようにすれば、費用の負担を軽減しながら事業を進めていけます。

再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)

再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)は、日本政策金融公庫が行っている融資制度です。

利用するには、まず、以下の3つの条件すべてにあてはまっている必要があります。

廃業歴等を有する個人または廃業歴などを有する経営者が営む法人であること

廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込みなどであること

廃業の理由・事情がやむを得ないものなどであること

引用元:日本政策金融公庫「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」
融資上限返済期間
中小企業事業7億2,000万円設備資金20年以内
運転資金15年以内
国民生活事業(新規開業資金)7,200万円
(運転資金4,800万円)

返済期間が長めに設定されているので、事業を軌道に乗せられれば無理なく返済していけるでしょう。

ただし、再挑戦支援資金は、「利用できるのは自己破産(廃業)してから、7年以内」というルールがあります。

もし、7年を経過してしまっている場合は、信用情報の事故情報が消えるのを待ってから銀行の融資を受けるようにしましょう。

新創業融資制度

新創業融資制度も日本政策金融公庫が行っている融資制度で、自己破産後に利用できます。

再挑戦支援資金と比較して審査が厳しいですが、通過できれば無担保・無保証で融資を受けられるのが特徴です。

融資上限返済期間
新創業融資制度3,000万円設備資金20年以内
運転資金7年以内

しかし、新創業融資制度は2024年3月で廃止となり、以降は再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)でご紹介した「国民生活事業(新規開業資金)」を活用していく方向になりました。

新創業融資制度の廃止にともない、新規開業資金は2024年4月より内容が新しくなっています。

新規開業資金の変更点2024年3月まで2024年4月から
担保・保証人ありなし
返済期間設備資金20年以内
運転資金7年以内
設備資金20年以内
運転資金15年以内

また、新創業融資制度は創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要でしたが、新規開業資金は自己資金が必要ない点も借り手にとって改善したといえるでしょう。

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代表取締役が自己破産するとどうなる?会社への影響や注意点を解説

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会社と代表取締役の結びつきは強く、とくに中小企業では「会社=経営者」とお考えの人も多いです。

代表取締役が自己破産をしたら、会社も破産するしかないのでしょうか?

従業員や取引先、株主のことを考えると、代表取締役が自己破産したとしても、会社は存続させたいですよね。

本記事では、代表取締役が自己破産をしたときの会社や生活への影響や注意点について詳しく解説していきます。

最後まで読んで、「代表取締役が自己破産すると、会社も倒産するのか」「自己破産をした後に再起の方法はある?」といった疑問を解消してください。

目次

代表取締役が自己破産しても会社は存続できる

代表取締役が自己破産しても、会社をそのまま存続できます。というのも、代表取締役と会社はまったくの別人格だからです。

具体的にご説明しましょう。

代表取締役個人のみ自己破産できる

「会社と代表取締役は一心同体」のようなイメージがありますが、法律上「会社=法人」「代表取締役=個人」なので、まったく別人格とみなされます。

つまり、法律上代表取締役が自己破産しても、会社が共倒れする必要はありません

たとえば、代表取締役が自己破産をした場合、代表取締役個人名義の預貯金や不動産などの財産は没収され、債権者へ配当されます。いっぽう、会社名義の財産を没収されることはないでしょう。

また、中小企業では、会社の債務の保証人が代表取締役になっているケースが多いです。民法第450条には保証人について、以下のように明示されています。

第四百五十条 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。

一 行為能力者であること。

二 弁済をする資力を有すること。

引用元:e-Gov検索

自己破産をする代表取締役には返済能力がないため、保証人からはずれて返済の義務なくなります。ただし、債務はそのまま残るので、会社は返済を続けなくてはいけません。

実際は会社と個人が同時に破産するケースが多い

代表取締役の自己破産の理由が個人的な浪費や債務などの場合、代表取締役と一緒に会社が破産することはありません。

しかし、会社へのお金の貸付が原因となって代表取締役が自己破産する場合、法人だけ存続するのはかなり難しいです。

たとえば、代表取締役が会社の運営のために会社に貸し付けをしていたとしましょう。

自己破産をすると、代表取締役は債務を免除される代わりに、債権者への配当にあてるために財産を没収されます。

没収される財産のなかには、「会社に貸し付けているお金」も含まれるのです。そのため、破産管財人は、会社に対して貸付金の返済を請求します。

同時に、代表取締役の役員報酬が未払いになっている場合は、会社は未払い分の役員報酬も支払わなくてはいけません

会社の資金繰りが苦しく、破産管財人からの請求に応じられないのであれば、結局破産するしかないのです。

自己破産をしても再び代表取締役になったり起業できる?

法律上では、自己破産後にもう一度同じ会社の代表取締役になったり、新たに起業したりできます。

2006年5月に新会社法が施行されたことにより、自己破産は代表取締役の欠格事由ではなくなりました。そのため、自己破産後でも代表取締役になったり新たに起業したりできます。

とくに中小企業では、代表取締役の自己破産とともに会社も破産するケースが多いので、自己破産後に会社の設立を認めなければ経済にも影響を与えてしまうでしょう。

ただし、自己破産後の代表取締役再任や起業にはいくつかの制約があります。ここでは、実際に代表取締役再任や起業をする際の問題について見ていきましょう。

一度退任して再任される必要がある

代表取締役の地位は、会社との委任契約で成り立っています。自己破産は委任の終了事由です。

代表取締役が自己破産すると委任契約が終了となり、代表取締役を一度退任しなくてはいけません

しかし、自己破産をした人が代表取締役になることは禁止されていないので、破産手続開始決定後に株主総会で再任されれば、代表取締役に戻れます。

ただし、自己破産の際に株式の過半数以上を代表取締役が所有していた場合、代表取締役に再任するのは難しいです。

自己破産をする際、株式も財産として没収され債権者の配当に充てられます。株主総会で代表取締役に再任するには、株式の過半数が必要です。

会社法では、以下のように定められています。

第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

引用元:e-Gov検索

債権者に株式を取られると再任に必要な株式が足りなくなり、代表取締役に再任するのが難しくなってしまいます。

融資が受けにくくなることや信用の問題は残る

自己破産をすると多くの財産が没収されるため、起業するには新たな資金を調達しなければいけません。

しかし、自己破産をした後は、信用情報機関に事故情報が載ってしまいます。

信用情報は新規のクレジットカードの作成やローンの申込をする際に必ず金融機関が照会するので、「自己破産をした」事故情報の記録があると審査は通りません。

自己破産の記録は、5〜10年ほど残るため、その期間は融資が必要な大きな事業をするのは難しいです。

また、取引先への支払いを残したまま自己破産をしてしまうと、取引先の信用を失うだけでなく業界中に噂が広まってしまう恐れがあります。

今までと違う業界で事業をおこすにしても、会社同士はどこで繋がっているかわかりません。

自己破産は、今までの取引先の信頼を失っています。新しく起業するときの取引先探しは難航すると考えましょう

4つの欠格事由に該当すると代表取締役になれない

会社法第331条1項には、取締役になれない人の事由が定められています。これが「欠格事由」です。

1. 法人

代表取締役や取締役になれるのは個人のみで、法人はなれません。

2. 成年被後見人または成年被保佐人

  • 成年被後見人・・・認知症や精神障害などにより自分の財産管理といった物事の判断が難しいため、成年後見人が付されている人
  • 被保佐人・・・成年被後見人ほど症状が重くないものの、物事の判断が不十分として保佐人が付されている人

物事の判断能力が難しいと取締役としての職務をまっとうできないとして、成年被後見人または成年被保佐人は取締役の欠格事由でしたが、2019年12月4日に会社法が改正され、欠格事由ではなくなりました。

ただし、民法653条には「後見開始の審判を受けた場合」委任終了事由になると示されています。

(委任の終了事由)

第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。

一 委任者又は受任者の死亡

二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。

三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

引用元:e-Gov検索

代表取締役に再任した後に成年被後見人となった場合は委任終了となりますが、株主総会で任命されれば再再任もできるでしょう。

また、被保佐人は委任契約の終了事由や欠格事由にはなりません。

3. 会社に関連する法令の罪を犯した一定の者

会社法第331条3項には以下のように明示されています。

第三百三十一条 次に掲げる者は、取締役となることができない。

三 この法律若しくは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)の規定に違反し、又は金融商品取引法第百九十七条、第百九十七条の二第一号から第十号の三まで若しくは第十三号から第十五号まで、第百九十八条第八号、第百九十九条、第二百条第一号から第十二号の二まで、第二十号若しくは第二十一号、第二百三条第三項若しくは第二百五条第一号から第六号まで、第十九号若しくは第二十号の罪、民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百五十五条、第二百五十六条、第二百五十八条から第二百六十条まで若しくは第二百六十二条の罪、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(平成十二年法律第百二十九号)第六十五条、第六十六条、第六十八条若しくは第六十九条の罪、会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)第二百六十六条、第二百六十七条、第二百六十九条から第二百七十一条まで若しくは第二百七十三条の罪若しくは破産法(平成十六年法律第七十五号)第二百六十五条、第二百六十六条、第二百六十八条から第二百七十二条まで若しくは第二百七十四条の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者

引用元:e-Gov検索

つまり、会社法、一般法人法、金融商品取引法、民事再生法、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律、会社更生法、破産法に違反した場合、以下の期間は代表取締役になれません。

  • 刑に処されてから2年
  • 執行されてから2年
  • 執行猶予期間が終わってから2年

たとえば、執行猶予がついた場合でも欠格事由になりますが、執行猶予期間が終わって2年経過すると代表取締役に再任できます。罰金刑でも、罰金を納付して2年経てば、欠格事由はなくなるのです。

4. 会社に関連する法令以外の法令の罪を犯した一定の者

会社法第331条3項で定められている法律以外の罪を犯すと、禁固刑以上の刑(禁固・懲役・死刑)に処せられた場合に欠格事由になります。

会社法第331条4項

四  前号に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)

引用元:e-Gov検索

執行を終わるまでとは、仮出所ではなく「刑期満了」のことです。また、執行を受けることがなくなるとは「恩赦の日」を指します。

会社に関連する法令の法令の罪を犯した場合と異なり、罰金刑や執行猶予であれば欠格事由になりません。また、刑を執行してから2年経過後という縛りもないです。

破産手続き中の仕事や生活への主な影響

破産手続き中の仕事や生活への主な影響

自己破産は債務がなくなるという大きなメリットがあるかわりに、自己破産手続き中にはさまざまな生活への制限が生じます。

  • 職業制限
  • 転居・旅行の制限
  • 郵便物の受け取り制限

会社の行っている事業によっては、職業制限によってまったく立ち行かなくなってしまう恐れもあるので、注意が必要です。

就ける仕事に制限がある

自己破産をすると、破産開始決定から復権するまで就ける仕事に制限があります。復権のタイミングで一番多いのは免責許可の確定です。

制限される職業は以下のようなものがあります。

  • 銀行の取締役・執行役・監査役
  • 信用金庫等の役員
  • 貸金業
  • 警備員
  • 公証人
  • 弁護士
  • 弁理士
  • 司法書士
  • 公認会計士
  • 税理士
  • 行政書士
  • 社会保険労務士
  • 生命保険募集人
  • 宅地建物取引士
  • 土地家屋調査士
  • 不動産鑑定士

すでに上記のような職業に就いていて自己破産をするときは、法律で定められた各機関に届け出をして登録の抹消などの手続きをしなければいけません。

たとえば、弁護士は弁護士法第7条4項で以下のように定められています。

弁護士法第7条

(弁護士の欠格事由)

第七条 次に掲げる者は、第四条、第五条及び前条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない。

一 禁錮以上の刑に処せられた者

二 弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者

三 懲戒の処分により、弁護士若しくは外国法事務弁護士であつて除名され、弁理士であつて業務を禁止され、公認会計士であつて登録を抹消され、税理士であつて業務を禁止され、若しくは公務員であつて免職され、又は税理士であつた者であつて税理士業務の禁止の懲戒処分を受けるべきであつたことについて決定を受け、その処分を受けた日から三年を経過しない者

四 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

引用元:e-Gov検索

ただし、職業制限を受けている期間であっても、国家資格を受験して資格を取ることは自己破産中でも問題ありません。

転居や旅行に制限がある

自己破産では申立前に、引っ越しや旅行をするのは自由です。今後の生活を考えて居住地を移すのは、むしろ珍しいことではありません。

破産法第37条

第三十七条 破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。

引用元:e-Gov検索

裁判所が破産手続開始決定をすると、申立人は破産者になります。破産者は免責許可決定が確定されるまで、引っ越しをする場合は裁判所に許可を得なくてはいけません。

これは、破産者が逃亡することや財産を隠すことを防ぐためです。

旅行も引っ越しと同様に居住地を離れるので、裁判所の許可が必要になります。

旅行の目的が冠婚葬祭であれば、許可の出る可能性が高いですが、娯楽目的ではほとんど許可されないと考えましょう。

郵便物は破産管財人に一旦転送される

自己破産で管財人が選定されると、破産者宛の郵便物は一旦管財人に転送されるようになります。転送は早ければ債権者集会後、遅くとも免責決定確定までには解除されるでしょう。

郵便物のなかには、クレジットカードの明細や保険関係の書類などのほかにも、破産の申立書に記載されていない債権者からの書類や財産の契約書がある恐れがあります。

管財人は破産者の財産を適切に処分して債権者に配当しなければいけません。破産者の財産状況や取引について把握するために、郵便物のチェックが必要なのです。

転送の対象となるのは破産者宛の郵便物だけで、宅配便やメール便、家族宛の郵便物は転送されません。また転送された郵便物は、管財人のチェックが終われば破産者に渡されます。

代表取締役が自己破産するとその後はどうなる?

代表取締役が自己破産すると

自己破産の手続き中には、さまざまな生活の制限を受けるとわかりました。では、代表取締役が自己破産をすると、その後はどのようになるのでしょうか?

債務や財産はもちろん、家族への影響も気になるはずです。ここでは、自己破産した後の生活への影響について解説していきます。

会社と個人は債務の支払義務が免責される

債務の返済が免除されるのは、破産をするもっとも大きなメリットです。

代表取締役が自己破産をして借金返済の義務が免除されれば、今まで債務の返済に充てていたお金を生活や新たな事業の運営資金へ回せます。

負債がなくなることで、新たな生活や事業の再建へ向けて前向きに行動できるでしょう。

また、中小企業では、代表取締役が自己破産するのと一緒に会社も破産する場合も多いです。破産手続きが終了するとともに、会社は清算・消滅します。

代表取締役の自己破産とはことなり会社の破産は「会社そのもの」がなくなるため、債権者への返済義務はもちろん、滞納していた税金などもすべて支払わなくてよくなるのが特徴です。

破産後に新しい会社をおこしたとしても、前の会社とは別人格として扱われるので、債務の返済を求められることはありません。

代表取締役個人の資産は回収される

自己破産をすると、破産手続開始の際に代表取締役名義の財産は「破産財団」に組み入れされます。その後、破産管財人が破産財団を管理し、現金化して債権者への配当にする仕組みです。

財産の価値が20万円を超えると、回収の対象になります。

破産財団に組み入れられる財産は、以下のようなものです。

  • 99万円を超える現金
  • 20万円を超える預貯金
  • 自宅や土地などの不動産
  • 自動車・貴金属・高級ブランド品・絵画などの贅沢品

ただし、自動車は初回登録から7年経過しているものや中古車で「価値が20万円以下」とみなされると、手元に残せる可能性が高いです。

自己破産後も生活に自動車が必要な場合は、申立前に安い自動車に買い替えておくといいでしょう。

生活に最低限必要な財産は残せる

自己破産をすると、代表取締役の財産は原則として破産財団に回収されます。ただし生活に必要最低限な物は手元に残せます。

  • 99万円以下の現金
  • 20万円以下の預貯金
  • 破産手続開始後に支給された給料・報酬・退職金など
  • 破産手続開始後に贈与された財産
  • 衣類や寝具、家具、家電などの生活必需品
  • 各種年金
  • 破産財団が放棄した財産

財産としての価値があったとしても、「現金に換えるのが難しい財産」は破産財団から放棄されて残せる場合があります。

また、多くの生活必需品は、自己破産をしても手元に残せます。ただし、以下のようなものは、原則として1点のみしか回収の対象から外せません。

  • テレビ
  • 洗濯機
  • 冷蔵庫
  • 掃除機
  • 電子レンジ
  • ポット
  • パソコン
  • ラジオ

たとえば、テレビを3台所有している場合、1台だけ残して2台は回収の対象になります。

家族に原則影響はない

代表取締役が自己破産をしても、原則として家族への影響はないです。

  • 家族の信用情報に事故情報が記録されることはない
  • 好きな職業に就職できる
  • 結婚に法律的な制限はない
  • 近所の人に破産を知られる可能性は低い

自己破産をして信用情報に事故情報が載るのは、代表取締役本人だけです。家族は自由にクレジットカードやローンを利用できます。

自己破産をすると、代表取締役本人は職業を制限される期間がありますが、家族の職業先選択は自由です。結婚への影響もないので、自己破産を理由に家族が離婚する必要もありません。

また、自己破産をすると官報で公告されます。しかし、官報を見る人は限られているため、近所の人に知られることはほぼないでしょう。

ただし自己破産をした後は、解約返戻金が20万円を超える生命保険や学資保険が解約になったり、奨学金の保証人になれなかったりするため、家族に影響を及ぼす恐れはまったくないわけではありません。

免責されない借金もある

自己破産は、裁判所に申立をして債務を免除してもらう手続きです。しかし、自己破産をしても、免除にならない債務もあります。自己破産をしても免除されない債務を「非免責債権」といいます。

非免責債権とは、具体的に以下のようなものです。

  • 住民税・健康保険料・国民年金など公租公課
  • 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命や身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 生活費・養育費
  • 従業員への給料
  • 交通違反などの罰金等の請求権
  • 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権

税金や損害賠償金、従業員への給料など支払い義務は、自己破産をしてもなくなりません。

また、うっかりでも債権者名簿に載せていなかった債権者があった場合、その債務の返済義務も免責されないので、注意が必要です。

会社のみが破産しても代表取締役の法的責任は原則発生しない

会社が破産したことで、代表取締役が謝罪会見をしているシーンをテレビなどで見かけた経験のある人も多いのではないでしょうか。

会社が破産をした場合、代表取締役は世間的に経営責任や信用問題を問われますが、法的な責任は原則ありません。

というのも、会社(法人)と代表取締役(個人)はまったく別人格という扱いで、権利や義務はそれぞれに与えられるからです。

つまり、会社が破産をした場合、法人の資産は破産財団に組み入れられて債権者に配当されますが、代表取締役が財産を手放して債権者への配当を補う必要はありません。

また、会社が破産すると株主や取引先に大きな損害が出ます。しかし、代表取締役が法人に代わって損害賠償金を支払う義務はないのです。

代表取締役が法的責任を負う場合もある

会社と代表取締役は別人格なので、会社が破産しても代表取締役が法的責任を負うことはありません。

しかし、以下のようなケースでは、代表取締役が法的責任を負うことになります。

  • 代表取締役が連帯保証人となっている場合
  • 代表取締役が損害賠償請求される場合
  • 破産手続きで違法行為がある場合

会社の債務の連帯保証人に代表取締役がなっている場合、会社が破産すると代表取締役が残りの債務を返済していかなければいけません。

会社が破産したこと自体では、代表取締役が損害賠償請求されることはないです。しかし、代表取締役が忠実義務・善管注意義務に違反し、会社に損害を与えていた場合は損害賠償請求される恐れがあります。

また、会社の運営のなかだけでなく破産手続きで違法行為が発覚した場合も、代表取締役が法的責任を負うことになるでしょう。

以下で詳しくご説明します。

代表取締役が連帯保証人となっている場合

代表取締役が会社の連帯保証人や保証人になっているケースは、よく中小企業に見られます。

代表取締役が会社の連帯保証人になっている場合に会社が破産すると、残った債務は代表取締役が返済していかなくてはいけません。

しかし、会社は破産の時点で、すでに多額の債務を抱えている場合がほとんどです。また、長期間滞納で期限の利益を喪失しており、債権者から一括返済を求められることもあるでしょう。

代表取締役が連帯保証人になっていて債務を返済しきれないときは、代表取締役も自己破産をする必要があります。

代表取締役の状況債務への対応方法メリットデメリット
返済できる充分な資産がある自力で返済する生活に大きな影響はない財産が減少する
定期的な収入がある債権者へ分割返済する自己破産のように財産を最低限に減らさなくていい財産が減少する
定期的な収入を継続させなくてはならない
返済する能力がない自己破産する債務を返済しなくてよくなる財産を最低限に減らさなくてはならない

代表取締役が損害賠償請求される場合

代表取締役が善管注意義務に違反して、職務を怠り会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償金を支払わなくてはいけません。

善管注意義務とは民法第644条で「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」と定められており、代表取締役だけでなく幅広い委託契約で当然の義務として課されています。

会社法第423条

取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用元:e-Gov検索

善管注意義務に違反するとは、具体的には以下のようなことです。

  • 代表取締役が法令違反に加担した
  • 社内で発生した違法行為を見逃した
  • 経営判断ミスで会社に大きな損害を出した
  • 競売取引などを株主総会で開示・承認を怠った

また、代表取締役の悪意や重過失により、第三者が損害を被った場合は、第三者に対して損害賠償金を支払わなくてはいけません。第三者とは、取引先や株主、債権者、元従業員などです。

会社法第429条

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

引用元:e-Gov検索

代表取締役が第三者に対する責任を負う要件は、以下の4つです。

  • 代表取締役がその職務を行う際に義務違反があったこと
  • 代表取締役に悪意または重大な過失があったこと
  • 第三者に損害が生じたこと
  • 代表取締役の義務違反と第三者の損害に因果関係があること

代表取締役は会社が破産したこと自体に法的責任はないとはいえ、経営や職務における法的責任を問われる恐れがあります。

破産手続きで違法行為がある場合

自己破産では、財産を故意に減少させたり隠したりといった行為は許されません。これは法人破産でも同様です。

違反すると、代表取締役は「詐欺破産罪」「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」といった刑事罰に問われる恐れがあります。

詐欺破産罪になる行為は、以下のとおりです。

  • 会社の財産を隠匿、または損壊する行為
  • 会社の財産を譲渡、または債務の負担を仮装する行為
  • 会社の財産の現状を改変して、その価格を少なく見せる行為
  • 会社の財産を債権者の不利益になるように処分し、一部の債務だけを返済する行為

上記の行為があったうえで破産手続開始決定が確定した場合、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはその両方が科せられます。

また、特定の債権者に対する担保の供与等の罪にあたるのは、以下のような行為です。

  • ほかの債権者を害する目的で、特定の債権者だけに返済または担保を供与する
  • 正当な理由なく、特定の債権者だけに返済または担保を供与する

上記の行為があったうえで破産手続開始決定が確定した場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が科せられます。

自己破産後に再起するための方法

代表取締役は自己破産をしても「会社を興せない」「社長になれない」といった法律はありません。いくらでも再起が可能です。

とはいえ、自己破産後は5〜7年ほど信用情報に事故情報が登録されており、資金調達は容易ではないでしょう。

自己破産後の起業のための資金調達方法には、工夫やコツが必要です。

  • 自己破産後に築いた財産は自由に使える
  • 再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
  • 新創業融資制度

自己破産前にあった財産は、債権者の配当のために回収されてしまいますが、自己破産をした後に築いた財産は、自由に使えます。

債権者への返済もないので、再起に向けて惜しみなく活用できるでしょう。

再挑戦支援資金は、自己破産後でもすぐに利用できる融資です。融資限度額は7億2,000万円まであるので、ある程度最初の投資が大きな事業でもはじめられます。

また、新創業融資制度も再挑戦支援資金と同じく融資制度です。再挑戦支援資金よりも利用条件が厳しいものの、審査に通過すれば無担保・無保証で資金を得られます。

自己破産後に築いた財産は自由に使える

先にもご説明したとおり、自己破産をして財産を没収されるとはいっても、「自由財産」として一定の財産は手元に残せます

  • 99万円以下の現金
  • 20万円以下の預貯金
  • 破産手続開始後に支給された給料・報酬・退職金など
  • 破産手続開始後に贈与された財産
  • 衣類や寝具、家具、家電などの生活必需品
  • 各種年金
  • 破産財団が放棄した財産

自己破産後に得た収入は、債務の返済にあてる必要がないので、自由に使えます。時間はかかりますが、地道に貯金していけば起業の資金を調達できるはずです。

また、早く事業を興したい場合は、初期投資が少なくて済む事業を考えましょう。

オフィスや実店舗などのランニングコストを抑えるようにすれば、費用の負担を軽減しながら事業を進めていけます。

再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)

再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)は、日本政策金融公庫が行っている融資制度です。

利用するには、まず、以下の3つの条件すべてにあてはまっている必要があります。

廃業歴等を有する個人または廃業歴などを有する経営者が営む法人であること

廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない程度に整理される見込みなどであること

廃業の理由・事情がやむを得ないものなどであること

引用元:日本政策金融公庫「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」
融資上限返済期間
中小企業事業7億2,000万円設備資金20年以内
運転資金15年以内
国民生活事業(新規開業資金)7,200万円
(運転資金4,800万円)

返済期間が長めに設定されているので、事業を軌道に乗せられれば無理なく返済していけるでしょう。

ただし、再挑戦支援資金は、「利用できるのは自己破産(廃業)してから、7年以内」というルールがあります。

もし、7年を経過してしまっている場合は、信用情報の事故情報が消えるのを待ってから銀行の融資を受けるようにしましょう。

新創業融資制度

新創業融資制度も日本政策金融公庫が行っている融資制度で、自己破産後に利用できます。

再挑戦支援資金と比較して審査が厳しいですが、通過できれば無担保・無保証で融資を受けられるのが特徴です。

融資上限返済期間
新創業融資制度3,000万円設備資金20年以内
運転資金7年以内

しかし、新創業融資制度は2024年3月で廃止となり、以降は再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)でご紹介した「国民生活事業(新規開業資金)」を活用していく方向になりました。

新創業融資制度の廃止にともない、新規開業資金は2024年4月より内容が新しくなっています。

新規開業資金の変更点2024年3月まで2024年4月から
担保・保証人ありなし
返済期間設備資金20年以内
運転資金7年以内
設備資金20年以内
運転資金15年以内

また、新創業融資制度は創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要でしたが、新規開業資金は自己資金が必要ない点も借り手にとって改善したといえるでしょう。

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