「支払不能」が認められる判断基準をわかりやすく解説

「支払不能」が認められる判断基準をわかりやすく解説

破産とは、①支払不能または債務超過に陥った債務者の財産の適正で公平な清算②債務者の経済生活の再生の機会を目的とする法的手続のことです。

破産をすれば借金などの債務が全額免除され、貸金業者などの債権者は債務者から取り立てできなくなります。債務者から取り立て不能ということは、給料差押えなどの強制執行もできません。

「支払不能」と証明されたら破産手続が開始できる

破産手続とは、裁判所が破産手続開始を決定し、破産管財人を選任し、破産管財人が債務者の財産を競売などにより金銭に換えて債権者に配る手続を指します。

破産手続は、債務者や債権者、債務者に準ずる者が裁判所に申立てて行いますが、破産開始手続きが決定されるためには、一定の要件をクリアーしなければなりません。その要件とは個人であれば支払不能であること、法人であれば支払不能または債務超過であることです。本章では支払不能について詳しく解説します。     

破産法上の定義は一般的・継続的に債務を返済できない状態

破産法では「支払不能」を下記の状態と定義しています(破産法2条11項)。

「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」

裁判所が支払不能と認めるためには、債務者の現状が下記の3要件にすべて該当していなければなりません。

  1. 支払能力を欠いていること
  2. 弁済期が到来している債務を弁済できないこと
  3. 弁済期が到来している債務を一般的かつ継続的に弁済できないこと

「支払停止」とは「支払不能」を証明するための債務者の行為

「支払停止」とは、債務者が支払不能状態にあることを明示的または黙示的に外部に対し証明するための債務者の行為です。支払停止自体は破産手続開始原因ではありませんが、支払停止に基づいて「債務者が支払不能である」と推定できます。

明示的な支払停止とは、「債務の弁済ができなくなったことを知らせる行為」を指します。金融機関や貸金業者などの債権者に直接連絡することまでは要求されておらず「自社の店舗や事務所などに、支払いできなくなった旨を記載した書面を貼りつける行為」も明示的な支払停止にあたるとされています。「運転資金を削って返済にあてることができなくなったとして、金融機関に対し書面により支払いの猶予を請求したこと」が支払停止にあたると裁判所が認めた判例もあります(東京地判平成9年4月28日)。

黙示的な支払停止の具体的ケースとしては、例えば「店舗や事務所の閉鎖」「廃業したこと」「債務の弁済期が到来する前に入金をしていなかったこと」などが挙げられます。また、弁護士が債権者一般に対して、受任通知を送った行為が破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たると認めた最高裁判例もあります(最判平成24年10月19日)。受任通知とは、債務者が債務整理を行う旨を弁護士や司法書士から債権者に知らせる通知のことです。

「支払不能」と「支払停止」の違い

支払不能とは債務者の客観的状況であり、支払停止は債務者の行為を指します。また支払不能は自己破産の条件に該当しますが、支払停止は自己破産の要件には該当しません。

支払停止とは、支払不能であることを明示的または黙示的に外部に表明する債務者の主観的な態度を指し、一般的かつ継続的な弁済の停止をいうと解されています。支払停止の例として、弁済を停止する旨の通知を債権者に送付することや、銀行取引停止処分の前提となる不渡手形を発生させること、夜逃げなどが挙げられます。支払停止はそれ自体では破産手続の開始原因ではないのですが、支払不能を推定させる事実とされています。

支払不能が認められる判断基準とは?客観的状況が必要

支払不能が認められる3つの要件

裁判所が支払不能を認める際の判断基準は次の3つです。

  1. 支払能力を欠いていること
  2. 弁済期にある債務を弁済できないこと
  3. 債務を一般的かつ継続的に弁済することができないこと

客観的にみて、債務者が支払能力を欠くことにより、弁済期が到来している債務について、一般的かつ継続的に弁済をすることができない状態であることを「客観的な状態であること」と言います。つまり、債務者が「もう自分は弁済できない」と判断しても、公正にみて支払能力がある場合には、裁判所は支払不能とは認めません。

また客観的にみて一般的かつ継続的に弁済できると判断された場合も、裁判所は支払不能とは判断しません。

逆に、仮に債務者が主観的に「自分は弁済できる」と考えていても、客観的にみて支払能力を欠くために一般的かつ継続的に弁済できないと判断されれば、支払不能であると評価されることもあり得ます。

支払い能力を欠いていること

支払い能力を欠いていることとは、支払能力の欠如です。

支払能力とは債務者の経済的力量を意味し、その構成要素は債務者の①財産と②信用、③労務(労力・技能)の3要素です。すなわち支払能力の欠如とは財産、信用、労務のいずれによっても債務の履行ができない状態を指します。債務者が支払能力の欠如に陥っているか否かを判断する場合は、財産状態だけでなく信用や労務も考慮しなければなりません。

したがって仮に債務を弁済する資金が不足していたとしても債務者の信用力あるいはノウハウや技能などの労務により弁済資金を調達できるのであれば、支払い能力を欠いていることにはなりません。逆に時価の高い不動産を所有していたとしても、その不動産を現金化できないときは債務を弁済できないため、支払い能力を欠いているとみなされることもあり得ます。               

弁済期にある債務を弁済できないこと

支払不能であるか否かは、弁済期が到達している債務を弁済できるかできないかで決まります。現時点で弁済期が到来していない債務に関しては、弁済ができなくなることが確実であったとしても、弁済期が到来している債務を支払えるのであれば支払不能とは認められません。

ここで注意してほしいのは、支払不能とは債務を弁済できないことであり、債務を弁済しないことではないのです。たとえば、債務を弁済できるだけの資金を有しながら正当な理由があり債務を弁済しないケースは、支払不能には該当しません。なぜならこのケースでは債務を弁済できるからです。

債務を一般的かつ継続的に弁済することができないこと

債務者が支払不能と認められるには、債務を一般的に弁済できないことと債務を継続的に弁済できないことが必要です。

債務を一般的に弁済できないとは、すべての債務を弁済するだけの資金が不足しているため、すべての債権者に対しすべての債務を通常通りに弁済できないことを指します。債権者の一部にだけ通常の債務を弁済できたとしても他の債権者に弁済できなければ、通常通りに弁済したとはいえません。

債務を継続的に弁済できないとは、連続して弁済期にある債務を弁済できないことです。たとえば、やむを得ない事情や突発的な事情で一時的に資金不足に陥り5月分の債務を弁済できなかったとしても、6月の弁済期には通常通りに弁済できるのであれば、継続的に弁済することができないことには該当しません。

一時的な弁済不能は支払不能ではなく継続して弁済できないときに支払不能とみなされます。

支払停止により支払不能が推定される

債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定すると破産法15条2項に規定されています。そして債務者が支払不能にあるときは、裁判所は申立てにより、決定で破産手続を開始すると同法同条1項に規定されています。支払不能という状態を外部から判断することは、一般的に困難です。そのため破産法では債務者が支払不能であることを証明するために、債務者の支払停止があったときには支払不能状態にあると推定するとしているのです。支払停止により支払不能が推定され、支払不能は破産手続開始原因になるわけです。

ただし支払停止があるときに支払不能が推定されるため、支払不能ではないと反証された場合は支払不能と認められません。

法人の場合は「債務超過」が証明理由になることも

法人(合名会社、合資会社を除く)の破産手続開始原因には支払不能の他に債務超過も挙げられます(破産法16条)。債務超過とは、債務者が自己の財産で債務を完済できない状態のことで、言い換えると弁済期にあるか否かを問わず負債額が資産額を上回っている状態を指します。債務者である法人の信用や労務は考慮されず、負債額には弁済期の到来していない債務も含まれます。法人の場合は貸借対照表の資産額と負債額を下記の計算式にあてはめれば、債務超過に陥っているか否かは一目瞭然です。

資産額-負債額=純資産額 純資産額がマイナスになっていれば、法人は債務超過状態にあるといえます。債務超過であるか否かの判断の基準時点は破産手続開始決定の時点となります。

支払不能が認められるケースを具体的な事例で解説

前章では支払不能と認められる3要件を解説しましたが、現実には債務者の弁済能力があるか否かはさまざまな事情や背景をふまえて裁判所が判断するため、「これが支払不能と認められるケースだ」と言い切ることは困難といえます。

判例で支払不能が認められたケースを2つ紹介します。

支払不能が認められるケース

①債務者が弁済期にある債務を支払っていても、返済見込みのない借入や商品の投げ売りなどにより債務の返済資金を調達しているケースは糊塗(こと)された支払能力に基づいて一時的に支払ったにすぎないとして裁判所は支払不能を認めました(高松高裁平成26年5月23日判決)

②債務者が弁済期の到来している債務を支払っていても返済の当てがない借入などにより資金調達し延命を図っているような状態にあるケースは支払不能と裁判所は認めました(東京地裁平成22年9月16日判決)。

①と②のケースに共通していることは、弁済期が到来した債務を債務者が無理算段して支払うことは支払不能にあたると裁判所が認めたことです。

支払不能が認められないケース

財産・信用・労務のいずれかにより、債務者が債務を弁済可能なのであれば、支払不能とは認められません。支払不能が認められるか否かは、債務者の資産や負債の状況、収入などで判断されますが、債務者の信用も考慮されます。

したがって、現在の資産や収入で債務の弁済が困難と一見思われる場合でも、債務者に十分な信用があり、借入や返済猶予を得ることが可能と考えられるケースでは、支払不能とは認められないことも十分あり得ます。

また、失業者や専業主婦など現時点で収入のない人でも、親や配偶者の死亡により相続した資産が借金の額を上回るようであれば、基本的に裁判所は支払不能とは認めません。

支払不能が認められた後にやってはいけないこと

支払不能が認められた後にやってはいけないこと

支払不能が認められた後やってはいけないことは、次の4つです。

  • 借入れ
  • 偏頗弁済(へんぱべんさい)
  • 家や自動車など高額財産の処分(弁護士許可分を除く)
  • 浪費やギャンブル

それぞれ見ていきましょう。

借入れ

そもそも支払不能とは、支払能力を欠き弁済期が到来している債務を一般的かつ継続的に弁済できない客観的状態のことです。このような状態で新たな借入をすることは、「返済する見込みがないにもかかわらず借入をしている」とみなされ、詐欺罪に問われ10年以下の懲役に処せられる可能性があります(刑法246条1項)。

偏頗弁済(へんぱべんさい)

偏頗弁済(へんぱべんさい)とは、特定の債権者にだけ弁済や担保の提供、あるいは抵当権の設定などをすることです。偏頗弁済が見つかった場合は破産申請に影響を及ぼすこともあり得ます。支払不能や破産手続き申立ての後で偏頗弁済して一定の要件を満たした場合、免責不許可事由に該当し破産免責が認められない可能性が発生します(破産法252条1項3号)。偏頗弁済を悪質であると裁判所が判断したときは、債務が免責されずに借金が残ってしまう可能性があるため、偏頗弁済は絶対にしないでください。

家や自動車など高額な財産の処分(弁護士許可分は除く)

自己破産は、債務者の所有財産を金銭に換価して債権者に分配し、残った債務を免除してもらう手続であるため、一般的に20万円以上の高額な財産は処分されることになります。したがって、基本的に家や自動車などの高額財産は処分されることになります。ただし弁護士の許可を得て適正価格で売却するのであれば差し支えありません。

20万円という基準は、あくまでも東京地方裁判所で自己破産をするときの基準です。その他多くの裁判所でも採用されているため一つの目安ではありますが、絶対的な基準ではありません。東京地方裁判所以外の裁判所で破産手続きを行う際には弁護士にご相談ください。

浪費やギャンブルなどをしない

浪費やギャンブルも免責不許可事由である「浪費又は賭博その他の射幸行為(しゃこうこうい)」に該当する可能性があります(破産法252条1項4号)。免責不許可事由があったときも裁判所により裁量免責されるケースはあるのですが、極力無駄遣いやギャンブルは控えましょう。

裁量免責とは、たとえ免責不許可事由に該当する場合であったとしても、破産手続き開始の決定に至った経緯その他すべての事情に鑑み免責を許可することが相当であると裁判所が認めれば、免責を許可決定できる制度です。

破産法第1条には、破産法の目的は「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ること」と定められています。

「支払不能」が認められる判断基準をわかりやすく解説

「支払不能」が認められる判断基準をわかりやすく解説

破産とは、①支払不能または債務超過に陥った債務者の財産の適正で公平な清算②債務者の経済生活の再生の機会を目的とする法的手続のことです。

破産をすれば借金などの債務が全額免除され、貸金業者などの債権者は債務者から取り立てできなくなります。債務者から取り立て不能ということは、給料差押えなどの強制執行もできません。

「支払不能」と証明されたら破産手続が開始できる

破産手続とは、裁判所が破産手続開始を決定し、破産管財人を選任し、破産管財人が債務者の財産を競売などにより金銭に換えて債権者に配る手続を指します。

破産手続は、債務者や債権者、債務者に準ずる者が裁判所に申立てて行いますが、破産開始手続きが決定されるためには、一定の要件をクリアーしなければなりません。その要件とは個人であれば支払不能であること、法人であれば支払不能または債務超過であることです。本章では支払不能について詳しく解説します。     

破産法上の定義は一般的・継続的に債務を返済できない状態

破産法では「支払不能」を下記の状態と定義しています(破産法2条11項)。

「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」

裁判所が支払不能と認めるためには、債務者の現状が下記の3要件にすべて該当していなければなりません。

  1. 支払能力を欠いていること
  2. 弁済期が到来している債務を弁済できないこと
  3. 弁済期が到来している債務を一般的かつ継続的に弁済できないこと

「支払停止」とは「支払不能」を証明するための債務者の行為

「支払停止」とは、債務者が支払不能状態にあることを明示的または黙示的に外部に対し証明するための債務者の行為です。支払停止自体は破産手続開始原因ではありませんが、支払停止に基づいて「債務者が支払不能である」と推定できます。

明示的な支払停止とは、「債務の弁済ができなくなったことを知らせる行為」を指します。金融機関や貸金業者などの債権者に直接連絡することまでは要求されておらず「自社の店舗や事務所などに、支払いできなくなった旨を記載した書面を貼りつける行為」も明示的な支払停止にあたるとされています。「運転資金を削って返済にあてることができなくなったとして、金融機関に対し書面により支払いの猶予を請求したこと」が支払停止にあたると裁判所が認めた判例もあります(東京地判平成9年4月28日)。

黙示的な支払停止の具体的ケースとしては、例えば「店舗や事務所の閉鎖」「廃業したこと」「債務の弁済期が到来する前に入金をしていなかったこと」などが挙げられます。また、弁護士が債権者一般に対して、受任通知を送った行為が破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たると認めた最高裁判例もあります(最判平成24年10月19日)。受任通知とは、債務者が債務整理を行う旨を弁護士や司法書士から債権者に知らせる通知のことです。

「支払不能」と「支払停止」の違い

支払不能とは債務者の客観的状況であり、支払停止は債務者の行為を指します。また支払不能は自己破産の条件に該当しますが、支払停止は自己破産の要件には該当しません。

支払停止とは、支払不能であることを明示的または黙示的に外部に表明する債務者の主観的な態度を指し、一般的かつ継続的な弁済の停止をいうと解されています。支払停止の例として、弁済を停止する旨の通知を債権者に送付することや、銀行取引停止処分の前提となる不渡手形を発生させること、夜逃げなどが挙げられます。支払停止はそれ自体では破産手続の開始原因ではないのですが、支払不能を推定させる事実とされています。

支払不能が認められる判断基準とは?客観的状況が必要

支払不能が認められる3つの要件

裁判所が支払不能を認める際の判断基準は次の3つです。

  1. 支払能力を欠いていること
  2. 弁済期にある債務を弁済できないこと
  3. 債務を一般的かつ継続的に弁済することができないこと

客観的にみて、債務者が支払能力を欠くことにより、弁済期が到来している債務について、一般的かつ継続的に弁済をすることができない状態であることを「客観的な状態であること」と言います。つまり、債務者が「もう自分は弁済できない」と判断しても、公正にみて支払能力がある場合には、裁判所は支払不能とは認めません。

また客観的にみて一般的かつ継続的に弁済できると判断された場合も、裁判所は支払不能とは判断しません。

逆に、仮に債務者が主観的に「自分は弁済できる」と考えていても、客観的にみて支払能力を欠くために一般的かつ継続的に弁済できないと判断されれば、支払不能であると評価されることもあり得ます。

支払い能力を欠いていること

支払い能力を欠いていることとは、支払能力の欠如です。

支払能力とは債務者の経済的力量を意味し、その構成要素は債務者の①財産と②信用、③労務(労力・技能)の3要素です。すなわち支払能力の欠如とは財産、信用、労務のいずれによっても債務の履行ができない状態を指します。債務者が支払能力の欠如に陥っているか否かを判断する場合は、財産状態だけでなく信用や労務も考慮しなければなりません。

したがって仮に債務を弁済する資金が不足していたとしても債務者の信用力あるいはノウハウや技能などの労務により弁済資金を調達できるのであれば、支払い能力を欠いていることにはなりません。逆に時価の高い不動産を所有していたとしても、その不動産を現金化できないときは債務を弁済できないため、支払い能力を欠いているとみなされることもあり得ます。               

弁済期にある債務を弁済できないこと

支払不能であるか否かは、弁済期が到達している債務を弁済できるかできないかで決まります。現時点で弁済期が到来していない債務に関しては、弁済ができなくなることが確実であったとしても、弁済期が到来している債務を支払えるのであれば支払不能とは認められません。

ここで注意してほしいのは、支払不能とは債務を弁済できないことであり、債務を弁済しないことではないのです。たとえば、債務を弁済できるだけの資金を有しながら正当な理由があり債務を弁済しないケースは、支払不能には該当しません。なぜならこのケースでは債務を弁済できるからです。

債務を一般的かつ継続的に弁済することができないこと

債務者が支払不能と認められるには、債務を一般的に弁済できないことと債務を継続的に弁済できないことが必要です。

債務を一般的に弁済できないとは、すべての債務を弁済するだけの資金が不足しているため、すべての債権者に対しすべての債務を通常通りに弁済できないことを指します。債権者の一部にだけ通常の債務を弁済できたとしても他の債権者に弁済できなければ、通常通りに弁済したとはいえません。

債務を継続的に弁済できないとは、連続して弁済期にある債務を弁済できないことです。たとえば、やむを得ない事情や突発的な事情で一時的に資金不足に陥り5月分の債務を弁済できなかったとしても、6月の弁済期には通常通りに弁済できるのであれば、継続的に弁済することができないことには該当しません。

一時的な弁済不能は支払不能ではなく継続して弁済できないときに支払不能とみなされます。

支払停止により支払不能が推定される

債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定すると破産法15条2項に規定されています。そして債務者が支払不能にあるときは、裁判所は申立てにより、決定で破産手続を開始すると同法同条1項に規定されています。支払不能という状態を外部から判断することは、一般的に困難です。そのため破産法では債務者が支払不能であることを証明するために、債務者の支払停止があったときには支払不能状態にあると推定するとしているのです。支払停止により支払不能が推定され、支払不能は破産手続開始原因になるわけです。

ただし支払停止があるときに支払不能が推定されるため、支払不能ではないと反証された場合は支払不能と認められません。

法人の場合は「債務超過」が証明理由になることも

法人(合名会社、合資会社を除く)の破産手続開始原因には支払不能の他に債務超過も挙げられます(破産法16条)。債務超過とは、債務者が自己の財産で債務を完済できない状態のことで、言い換えると弁済期にあるか否かを問わず負債額が資産額を上回っている状態を指します。債務者である法人の信用や労務は考慮されず、負債額には弁済期の到来していない債務も含まれます。法人の場合は貸借対照表の資産額と負債額を下記の計算式にあてはめれば、債務超過に陥っているか否かは一目瞭然です。

資産額-負債額=純資産額 純資産額がマイナスになっていれば、法人は債務超過状態にあるといえます。債務超過であるか否かの判断の基準時点は破産手続開始決定の時点となります。

支払不能が認められるケースを具体的な事例で解説

前章では支払不能と認められる3要件を解説しましたが、現実には債務者の弁済能力があるか否かはさまざまな事情や背景をふまえて裁判所が判断するため、「これが支払不能と認められるケースだ」と言い切ることは困難といえます。

判例で支払不能が認められたケースを2つ紹介します。

支払不能が認められるケース

①債務者が弁済期にある債務を支払っていても、返済見込みのない借入や商品の投げ売りなどにより債務の返済資金を調達しているケースは糊塗(こと)された支払能力に基づいて一時的に支払ったにすぎないとして裁判所は支払不能を認めました(高松高裁平成26年5月23日判決)

②債務者が弁済期の到来している債務を支払っていても返済の当てがない借入などにより資金調達し延命を図っているような状態にあるケースは支払不能と裁判所は認めました(東京地裁平成22年9月16日判決)。

①と②のケースに共通していることは、弁済期が到来した債務を債務者が無理算段して支払うことは支払不能にあたると裁判所が認めたことです。

支払不能が認められないケース

財産・信用・労務のいずれかにより、債務者が債務を弁済可能なのであれば、支払不能とは認められません。支払不能が認められるか否かは、債務者の資産や負債の状況、収入などで判断されますが、債務者の信用も考慮されます。

したがって、現在の資産や収入で債務の弁済が困難と一見思われる場合でも、債務者に十分な信用があり、借入や返済猶予を得ることが可能と考えられるケースでは、支払不能とは認められないことも十分あり得ます。

また、失業者や専業主婦など現時点で収入のない人でも、親や配偶者の死亡により相続した資産が借金の額を上回るようであれば、基本的に裁判所は支払不能とは認めません。

支払不能が認められた後にやってはいけないこと

支払不能が認められた後にやってはいけないこと

支払不能が認められた後やってはいけないことは、次の4つです。

  • 借入れ
  • 偏頗弁済(へんぱべんさい)
  • 家や自動車など高額財産の処分(弁護士許可分を除く)
  • 浪費やギャンブル

それぞれ見ていきましょう。

借入れ

そもそも支払不能とは、支払能力を欠き弁済期が到来している債務を一般的かつ継続的に弁済できない客観的状態のことです。このような状態で新たな借入をすることは、「返済する見込みがないにもかかわらず借入をしている」とみなされ、詐欺罪に問われ10年以下の懲役に処せられる可能性があります(刑法246条1項)。

偏頗弁済(へんぱべんさい)

偏頗弁済(へんぱべんさい)とは、特定の債権者にだけ弁済や担保の提供、あるいは抵当権の設定などをすることです。偏頗弁済が見つかった場合は破産申請に影響を及ぼすこともあり得ます。支払不能や破産手続き申立ての後で偏頗弁済して一定の要件を満たした場合、免責不許可事由に該当し破産免責が認められない可能性が発生します(破産法252条1項3号)。偏頗弁済を悪質であると裁判所が判断したときは、債務が免責されずに借金が残ってしまう可能性があるため、偏頗弁済は絶対にしないでください。

家や自動車など高額な財産の処分(弁護士許可分は除く)

自己破産は、債務者の所有財産を金銭に換価して債権者に分配し、残った債務を免除してもらう手続であるため、一般的に20万円以上の高額な財産は処分されることになります。したがって、基本的に家や自動車などの高額財産は処分されることになります。ただし弁護士の許可を得て適正価格で売却するのであれば差し支えありません。

20万円という基準は、あくまでも東京地方裁判所で自己破産をするときの基準です。その他多くの裁判所でも採用されているため一つの目安ではありますが、絶対的な基準ではありません。東京地方裁判所以外の裁判所で破産手続きを行う際には弁護士にご相談ください。

浪費やギャンブルなどをしない

浪費やギャンブルも免責不許可事由である「浪費又は賭博その他の射幸行為(しゃこうこうい)」に該当する可能性があります(破産法252条1項4号)。免責不許可事由があったときも裁判所により裁量免責されるケースはあるのですが、極力無駄遣いやギャンブルは控えましょう。

裁量免責とは、たとえ免責不許可事由に該当する場合であったとしても、破産手続き開始の決定に至った経緯その他すべての事情に鑑み免責を許可することが相当であると裁判所が認めれば、免責を許可決定できる制度です。

破産法第1条には、破産法の目的は「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ること」と定められています。