黒字倒産とは?事例を元にわかりやすく解説
企業は利益を出し続けて成長しないと、いずれは「倒産」の憂き目を見ることになりかねません。
しかし、世の中には「企業の業績は黒字なのに倒産するケースがある」ということはご存じでしょうか。
そこで今回は、黒字企業なのに倒産してしまう企業について解説します。
黒字倒産とは利益が出ても資金が尽きて倒産すること
「黒字倒産」とは、損益的には決算で黒字が出ている、つまり利益がプラスであるにも関わらず、営業資金が不足することによって倒産してしまう事例のことです。
一般的に「倒産する」と聞くと、利益が出ていなくて会社の存続が難しくなるケースを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際、過去に倒産した有名企業の中には、事業上の失敗が原因で利益を出せなくなり、「債務超過」の状態に陥り、最終的に倒産および自己破産等の手続きをすることで会社が消滅してしまうケースが少なくありません。
事業的に起死回生の手があれば別ですが、債務超過に陥ってしまうほどの状況では取り返しがつかない場合も多く、やむなく倒産という選択肢を選ぶケースが多いです。
このようなパターンは、「利益が出せなくなった」つまり赤字であるケースが多いです。
しかし、利益が出ていて黒字の状態であるのにも関わらず、倒産しなければならないケースも存在します。それが一般的に「黒字倒産」と呼ばれるものです。
では、「なぜ利益が出ている状態にも関わらず倒産になるのか?」という疑問が出てくるのではないでしょうか。
建設業・運送業は黒字倒産しやすい業種
黒字倒産とは、決算上では利益が出ているにもかかわらず、手元に現金がない状態で倒産することを指します。
たとえば、1本50円でボールペンを仕入れて、これを100円で販売します。
この場合、仕入原価が50円で販売価格が100円なので、1本あたり差額の50円の利益が得られます。
ただし、実際には販売員の人件費や店舗の家賃などもかかるので、この形式にはならないですが、赤字前提の商売でもない限り、基本的にはこのように利益は発生します。
ですが、「販売形式上で利益が出ること」と「その商売で得られた利益が手元にある」ことは別なのです。
たとえば、建設業のようなビジネスを見てみましょう。
建設業では、建設に携わる工員の人件費、建設に必要な資材費のように、さまざまな費用が発生します。
その費用は最終的にクライアントからの報酬で賄うことになりますが、その報酬は多くの場合が工事完了後に支払われます。
つまり、工事の完了までのかかる費用については建設業者が負担する必要があるのです。特に大型の建物を工事する場合には、工事開始から完了までに相当な期間が発生するでしょう。
運送業についても同様のことが発生し、「事業に必要な費用の発生期間」と「報酬が発生する時期」にズレが生じることがあります。そうなると、事業的には将来的にプラスの利益になることが確定していても、事業を継続するのに必要な資金が手元にない資金不足が発生するのです。
手の業種と比べて経費が大きく支払いサイトが長い
黒字倒産しやすい業種の特徴として、まず「経費が大きい」ことが挙げられます。
前述したように、50円で仕入れたペンを100円で売れば50円の利益を得られますが、売れるまでの期間が長いと50円の仕入れがいつまでも重くのしかかってしまうのです。
仕入額などの経費が比較的軽く、また経費を回収できるまでの期間が短かければ、黒字倒産のリスクは少ないでしょう。
しかし、経費を利益で回収できる機会が少ない場合、会社存続の危機を乗り越えられるかどうかはかなり難しいラインになります。
さらに、「支払いサイトが長い」ことも黒字倒産の原因となります。業種によって経費の大きさや支払いサイトの長さは異なるので、これから起業する場合は、そのようなリスクが大きい業種についてはきちんと精査したうえで起業するようにしてください。
黒字倒産する会社と赤字でも倒産しない会社の違い
ビジネスの世界では、同じ業種でも企業ごとに経営状況は大きく異なります。
利益が黒字なのに倒産してしまう企業もあれば、赤字なのに会社が続けられる企業もあるのです。
その違いはさまざまな要因が考えられますが、わかりやすい例としては「使える現金が多いかどうか」という点が挙げられます。
利益がない赤字状態であることと、手元に現金がないことはイコール関係にはなりません。
たとえば、過去に黒字状態が長くて内部留保が多い場合だと、短期間での赤字状態で現金が枯渇することはありません。
そのため、赤字でも現金が豊富な場合は、取引先への支払いが滞るリスクが少ないため、倒産を避けられます。
企業にとって利益を出し続けることも重要ですが、キャッシュフローを健全化して倒産のリスクを回避することも重要です。
黒字倒産はなぜ起こる?よくある事例を解説
黒字倒産が発生する要因はさまざまです。
経営者として黒字倒産のリスクを抑えるためには、「どのような事態に陥ると黒字倒産のリスクが高まるのか」ということを理解する必要があります。
支払いサイトが長い売掛金があり現金が手元にない
よくあるケースとしては、「売掛金」の存在が大きな要因となっている場合です。
売掛金とは、商品やサービスの代金を月末や決算期などにまとめて受け取る仕組みであり、
それは資産として計上されますが、現金のようにすぐに使えるわけではありません。
売掛金が支払われるタイミングは取引先ごとに異なり、場合によっては長期にわたって現金化されないケースもあります。
このような場合、商品の仕入れなどに費用が掛かっているにも関わらず、その代金が手元にない状態が続きます。
企業としては、取引先への支払いや従業員への給料の支払い、家賃などの事業費の支払いなどに現金が必要なため、十分な金額が使える状態にしておきたいところです。
しかし、売掛金の支払いが遅い場合、なかなかキャッシュフローが安定しないのが現実です。
売掛先の入金遅れも黒字倒産の原因になりかねない
もっと厄介なのは、売掛金の入金が「遅れる」場合です。
売掛金は事前に約束した期間内に支払われるのが健全な状態であり、期間を定めることでスケジュールが組みやすく、キャッシュフローをコントロールできるようになります。
しかし、突発的に売掛金の入金が遅れてしまった場合、事前に組んでいたスケジュールが崩れてしまい、予定外に手元の現金が枯渇するリスクが高まるのです。
もちろん、掛金の入金遅れはその企業の信用を落とすので避けたいところですが、相手企業の経営状況が悪化したり、その企業が持つ売掛金の入金が遅れて支払えないケースも珍しくありません。
結果、経営状態は黒字で良好でありながら、現金不足に陥って黒字倒産してしまうのです。
設備投資・人件費などの固定費にかかるお金が増えた
ほかに考えられるケースとしては、予想していた費用が増えてしまうケースです。
企業がビジネスを展開する場合、さまざまな設備やツールを購入・リースしたり、従業員を雇う必要があります。
このようなものには必ずお金がかかるので、利益を出すために必要な費用と得られる利益のバランスを事前に精査して、ビジネスとして成り立つことを確認したうえで事業をスタートすることが重要です。
発生する費用は事前に試算できますが、予想外に費用が高騰するケースも珍しくありません。
たとえば、事業のために必要な設備や建物にかかる費用が、資材費や人件費の高騰により当初予想した金額の数倍になってしまう場合があります。
これらの支払いにも当然ながらお金が必要になり、手元にある現金だけで賄えない場合、黒字でありながら事業の継続が困難になるのです。
税金・社会保険の未払いが積み重なった場合のケース
企業がビジネスで支払うお金は、取引先や従業員への支払いだけではなく「税金」や「保険料」といった支払いも含まれています。
企業はその利益に応じて法人税などを支払う必要があり、従業員を雇用する場合には社会保険料を負担しなければなりません。
しかし、現金が手元になくて支払い能力がない場合、これらを滞納する企業も珍しくありません。
すぐに致命的な状態になるわけではありませんが、納税は国民の義務であり、企業も法人格を持つ以上は法人税の支払いは必須です。
これらを滞納し続けると、企業に対して税務調査が実施され、最終的には保有する資産を差し押さえられてしまいます。
その中にビジネスの継続に重要な資産が含まれている場合、差し押さえられてしまうと現金がない状況に陥って事業の継続が困難になるでしょう。
遅延利息で当初の負担額より支払う額が増えた
税金等の未払いに対しては、「遅延利息」などの名目で本来の納税額よりも高い金額を納めなければなりません。
納税が遅れているということは、納税するために必要な現金資産が手元にない状態であり、これにさらに遅延利息が加わるとさらに支払いが難しくなるでしょう。
金融機関に追加融資の申し込みをしても断られた
納税するための現金が手元にない場合、売掛金の支払いを早めてもらうなどの方法もありますが、手っ取り早く現金を手に入れる方法としては「融資を申し入れる」という手段があります。
そもそもビジネスにおいては多額の現金が必要であり、創業者の保有資産だけで起業できるケースもありますが、多くの場合は金融機関に融資を申し込み、起業や事業の継続に必要な現金を手に入れるのです。
しかし、銀行などの金融機関も利益を出す必要がある以上、返済の見込みが薄い企業に対しては多額の融資はできません。
多くの場合はその企業の経営状態や返済能力を金融機関側で確認し、それに基づいて融資額を決定したり、融資を断る判断を行います。
仮に黒字状態であったとしても、その規模が小さい場合や事業の将来性が評価されない場合は、融資を断られることも多いです。
累積した未払い金の支払いにより経営企画が崩壊
税金や社会保険料の未払いが続くと、延滞にかかったペナルティも累積していくことになります。
税金や保険料の未払いは企業の社会的信用を落とすことにもなるので、取り引き先が離れてしまうリスクを高めるでしょう。
そして、最終的には企業に対して財務調査が実施され、保有する資産を差し押さえられてしまいます。
ここまで来ると、仮にこれまで黒字の実績を積み重ねてきたとしても、ビジネスの継続が危ぶまれる事態に追い込まれてしまうのです。
これほどの事態になる前に、経費の見直しや融資先を探すなどして、支払い能力を常に余裕のある範囲で確保し続けることが重要になります。
黒字倒産の回避は財務の管理と適切な資金繰りが重要
黒字倒産は、経営者としては極めて悔しい結果となってしまいます。
そのリスクを回避するためには「財務の管理」と「適切な資金繰り」を心がけて、手元に現金を多く残せる状態を継続することが重要です。
では、経営者としては具体的に何をすることで、黒字倒産のリスクを避けられるのでしょうか。
キャッシュフロー経営を心掛けて手元の現金を意識する
黒字倒産を避けるためには「キャッシュフロー経営」を意識し、常に手元にどれだけの現金が残っているのかを把握しておくことが重要です。
「キャッシュフロー」とは日本語で「現金収支」という意味があり、一定期間内の現金の流れ、つまり「収入」と「支出」のことを意味しています。
上場企業の場合は、「キャッシュフロー計算書」の作成および開示が義務付けられており、非上場企業においても現金の流れを把握するために重要な資料です。
古典的などんぶり勘定をしている企業の場合、経営者でありながら「自社に今どれだけ使える現金があるか」ということを把握できていないケースもあります。
このような状態では、いざという時にお金が使えなくなってしまい、重要な支払いが滞って企業としての信用を失うだけでなく、取引先や融資元を失って事業継続が困難になってしまうのです。
キャッシュフローを意識することは、企業として、経営者として当然の姿勢であることを念頭に置いておきましょう。常日頃から自社のお金の流れを把握することで、黒字倒産に陥るような事態はさけられるでしょう。
支払いサイトが長い売掛先には取引条件の見直し交渉を行う
支払いサイトの長い売掛金がキャッシュフローを悪化させている場合には、その取引先と交渉をして支払いサイトの見直しをしましょう。
特に、長く続いている会社を受け継いだ場合、過去の経営者が取引を結んだ取引先の中に、現状では考えられないような長い支払いサイトの取引先が存在している場合もあります。
取引を開始した当時であれば問題なかったような支払いサイトでも、経営状態や市場が変化したことにより、負担が大きくなっている場合もあるでしょう。
特に、大口の取引先の場合は、売掛金の金額ばかり大きくなって、手元の現金が不安定な状態が続いてしまいます。
取引先にもよりますが、今までの慣習からその長い支払いサイトに落ち着いたケースもあるので、交渉の余地は十分にあるでしょう。
ただし、あまりしつこく交渉を粘ってしまうと、取引先の心証を悪くする可能性もあるので、「可能であれば」という前提で交渉を持ち掛けてみてください。
場合によっては、その取引を始めた経営者や担当者に、交渉の場に同席してもらうことも検討しましょう。
資金調達の選択肢を増やす!税金等の支払い遅延には要注意
現金を手元に置いておくためには資金調達が重要ですが、その選択肢が少ないと現金が枯渇するリスクを高めるので、資金調達の選択肢を増やすことも検討しましょう。
一般的に企業が融資を受けるための方法としては、「金融機関からの融資」が挙げられますが、それ以外にも方法はあります。
たとえば、株式会社化して投資家や他企業からの出資を募ったり、他企業との合併等で支援を受ける、あるいは親族に資産家がいれば融資を依頼する方法があります。
特に、大企業では、取引先金融機関を複数にする方法も一般的です。
自社の力だけで現金を確保することは決して簡単なことではなく、そのためにはビジネスの原動力となるお金を集める方法を確保しておくことが重要です。
また、資金調達の方法を増やしておくことは、納税等が遅れるリスクを抑えることにもつながります。
納税の遅れは、延滞による支払いの負担を増やすだけでなく、企業としての信用を落として取引先からの心証が悪化し、ビジネスにおいて大きなダメージを負う原因となるのです。
過度な在庫を抱えない!適正水準を常に意識して在庫を発注
ビジネスにおいては、商品を販売するために「仕入れ」を行う必要がありますが、仕入れを慎重に行って過剰在庫をなくし、在庫を適正水準に抑えることが重要です。
何らかの影響によって需要が爆発的に発生する事態を予測できれば別ですが、それでも過剰な仕入れは企業の経営状況を圧迫する事態に変わりありません。
場合によっては、賞味期限などの理由から廃棄処分しなければならない商品が出て、利益を出すどころの話ではなくなってしまいます。
必要量を仕入れることがビジネスとしては重要ですが、「過剰」なレベルの仕入れをしないように常に心掛けておく必要もあります。
市場のニーズは常に変動しているので、「ニーズが減れば仕入れを抑える」といった機微な目線をもって適正在庫を維持するようにしましょう。
黒字倒産とは?事例を元にわかりやすく解説
企業は利益を出し続けて成長しないと、いずれは「倒産」の憂き目を見ることになりかねません。
しかし、世の中には「企業の業績は黒字なのに倒産するケースがある」ということはご存じでしょうか。
そこで今回は、黒字企業なのに倒産してしまう企業について解説します。
黒字倒産とは利益が出ても資金が尽きて倒産すること
「黒字倒産」とは、損益的には決算で黒字が出ている、つまり利益がプラスであるにも関わらず、営業資金が不足することによって倒産してしまう事例のことです。
一般的に「倒産する」と聞くと、利益が出ていなくて会社の存続が難しくなるケースを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際、過去に倒産した有名企業の中には、事業上の失敗が原因で利益を出せなくなり、「債務超過」の状態に陥り、最終的に倒産および自己破産等の手続きをすることで会社が消滅してしまうケースが少なくありません。
事業的に起死回生の手があれば別ですが、債務超過に陥ってしまうほどの状況では取り返しがつかない場合も多く、やむなく倒産という選択肢を選ぶケースが多いです。
このようなパターンは、「利益が出せなくなった」つまり赤字であるケースが多いです。
しかし、利益が出ていて黒字の状態であるのにも関わらず、倒産しなければならないケースも存在します。それが一般的に「黒字倒産」と呼ばれるものです。
では、「なぜ利益が出ている状態にも関わらず倒産になるのか?」という疑問が出てくるのではないでしょうか。
建設業・運送業は黒字倒産しやすい業種
黒字倒産とは、決算上では利益が出ているにもかかわらず、手元に現金がない状態で倒産することを指します。
たとえば、1本50円でボールペンを仕入れて、これを100円で販売します。
この場合、仕入原価が50円で販売価格が100円なので、1本あたり差額の50円の利益が得られます。
ただし、実際には販売員の人件費や店舗の家賃などもかかるので、この形式にはならないですが、赤字前提の商売でもない限り、基本的にはこのように利益は発生します。
ですが、「販売形式上で利益が出ること」と「その商売で得られた利益が手元にある」ことは別なのです。
たとえば、建設業のようなビジネスを見てみましょう。
建設業では、建設に携わる工員の人件費、建設に必要な資材費のように、さまざまな費用が発生します。
その費用は最終的にクライアントからの報酬で賄うことになりますが、その報酬は多くの場合が工事完了後に支払われます。
つまり、工事の完了までのかかる費用については建設業者が負担する必要があるのです。特に大型の建物を工事する場合には、工事開始から完了までに相当な期間が発生するでしょう。
運送業についても同様のことが発生し、「事業に必要な費用の発生期間」と「報酬が発生する時期」にズレが生じることがあります。そうなると、事業的には将来的にプラスの利益になることが確定していても、事業を継続するのに必要な資金が手元にない資金不足が発生するのです。
手の業種と比べて経費が大きく支払いサイトが長い
黒字倒産しやすい業種の特徴として、まず「経費が大きい」ことが挙げられます。
前述したように、50円で仕入れたペンを100円で売れば50円の利益を得られますが、売れるまでの期間が長いと50円の仕入れがいつまでも重くのしかかってしまうのです。
仕入額などの経費が比較的軽く、また経費を回収できるまでの期間が短かければ、黒字倒産のリスクは少ないでしょう。
しかし、経費を利益で回収できる機会が少ない場合、会社存続の危機を乗り越えられるかどうかはかなり難しいラインになります。
さらに、「支払いサイトが長い」ことも黒字倒産の原因となります。業種によって経費の大きさや支払いサイトの長さは異なるので、これから起業する場合は、そのようなリスクが大きい業種についてはきちんと精査したうえで起業するようにしてください。
黒字倒産する会社と赤字でも倒産しない会社の違い
ビジネスの世界では、同じ業種でも企業ごとに経営状況は大きく異なります。
利益が黒字なのに倒産してしまう企業もあれば、赤字なのに会社が続けられる企業もあるのです。
その違いはさまざまな要因が考えられますが、わかりやすい例としては「使える現金が多いかどうか」という点が挙げられます。
利益がない赤字状態であることと、手元に現金がないことはイコール関係にはなりません。
たとえば、過去に黒字状態が長くて内部留保が多い場合だと、短期間での赤字状態で現金が枯渇することはありません。
そのため、赤字でも現金が豊富な場合は、取引先への支払いが滞るリスクが少ないため、倒産を避けられます。
企業にとって利益を出し続けることも重要ですが、キャッシュフローを健全化して倒産のリスクを回避することも重要です。
黒字倒産はなぜ起こる?よくある事例を解説
黒字倒産が発生する要因はさまざまです。
経営者として黒字倒産のリスクを抑えるためには、「どのような事態に陥ると黒字倒産のリスクが高まるのか」ということを理解する必要があります。
支払いサイトが長い売掛金があり現金が手元にない
よくあるケースとしては、「売掛金」の存在が大きな要因となっている場合です。
売掛金とは、商品やサービスの代金を月末や決算期などにまとめて受け取る仕組みであり、
それは資産として計上されますが、現金のようにすぐに使えるわけではありません。
売掛金が支払われるタイミングは取引先ごとに異なり、場合によっては長期にわたって現金化されないケースもあります。
このような場合、商品の仕入れなどに費用が掛かっているにも関わらず、その代金が手元にない状態が続きます。
企業としては、取引先への支払いや従業員への給料の支払い、家賃などの事業費の支払いなどに現金が必要なため、十分な金額が使える状態にしておきたいところです。
しかし、売掛金の支払いが遅い場合、なかなかキャッシュフローが安定しないのが現実です。
売掛先の入金遅れも黒字倒産の原因になりかねない
もっと厄介なのは、売掛金の入金が「遅れる」場合です。
売掛金は事前に約束した期間内に支払われるのが健全な状態であり、期間を定めることでスケジュールが組みやすく、キャッシュフローをコントロールできるようになります。
しかし、突発的に売掛金の入金が遅れてしまった場合、事前に組んでいたスケジュールが崩れてしまい、予定外に手元の現金が枯渇するリスクが高まるのです。
もちろん、掛金の入金遅れはその企業の信用を落とすので避けたいところですが、相手企業の経営状況が悪化したり、その企業が持つ売掛金の入金が遅れて支払えないケースも珍しくありません。
結果、経営状態は黒字で良好でありながら、現金不足に陥って黒字倒産してしまうのです。
設備投資・人件費などの固定費にかかるお金が増えた
ほかに考えられるケースとしては、予想していた費用が増えてしまうケースです。
企業がビジネスを展開する場合、さまざまな設備やツールを購入・リースしたり、従業員を雇う必要があります。
このようなものには必ずお金がかかるので、利益を出すために必要な費用と得られる利益のバランスを事前に精査して、ビジネスとして成り立つことを確認したうえで事業をスタートすることが重要です。
発生する費用は事前に試算できますが、予想外に費用が高騰するケースも珍しくありません。
たとえば、事業のために必要な設備や建物にかかる費用が、資材費や人件費の高騰により当初予想した金額の数倍になってしまう場合があります。
これらの支払いにも当然ながらお金が必要になり、手元にある現金だけで賄えない場合、黒字でありながら事業の継続が困難になるのです。
税金・社会保険の未払いが積み重なった場合のケース
企業がビジネスで支払うお金は、取引先や従業員への支払いだけではなく「税金」や「保険料」といった支払いも含まれています。
企業はその利益に応じて法人税などを支払う必要があり、従業員を雇用する場合には社会保険料を負担しなければなりません。
しかし、現金が手元になくて支払い能力がない場合、これらを滞納する企業も珍しくありません。
すぐに致命的な状態になるわけではありませんが、納税は国民の義務であり、企業も法人格を持つ以上は法人税の支払いは必須です。
これらを滞納し続けると、企業に対して税務調査が実施され、最終的には保有する資産を差し押さえられてしまいます。
その中にビジネスの継続に重要な資産が含まれている場合、差し押さえられてしまうと現金がない状況に陥って事業の継続が困難になるでしょう。
遅延利息で当初の負担額より支払う額が増えた
税金等の未払いに対しては、「遅延利息」などの名目で本来の納税額よりも高い金額を納めなければなりません。
納税が遅れているということは、納税するために必要な現金資産が手元にない状態であり、これにさらに遅延利息が加わるとさらに支払いが難しくなるでしょう。
金融機関に追加融資の申し込みをしても断られた
納税するための現金が手元にない場合、売掛金の支払いを早めてもらうなどの方法もありますが、手っ取り早く現金を手に入れる方法としては「融資を申し入れる」という手段があります。
そもそもビジネスにおいては多額の現金が必要であり、創業者の保有資産だけで起業できるケースもありますが、多くの場合は金融機関に融資を申し込み、起業や事業の継続に必要な現金を手に入れるのです。
しかし、銀行などの金融機関も利益を出す必要がある以上、返済の見込みが薄い企業に対しては多額の融資はできません。
多くの場合はその企業の経営状態や返済能力を金融機関側で確認し、それに基づいて融資額を決定したり、融資を断る判断を行います。
仮に黒字状態であったとしても、その規模が小さい場合や事業の将来性が評価されない場合は、融資を断られることも多いです。
累積した未払い金の支払いにより経営企画が崩壊
税金や社会保険料の未払いが続くと、延滞にかかったペナルティも累積していくことになります。
税金や保険料の未払いは企業の社会的信用を落とすことにもなるので、取り引き先が離れてしまうリスクを高めるでしょう。
そして、最終的には企業に対して財務調査が実施され、保有する資産を差し押さえられてしまいます。
ここまで来ると、仮にこれまで黒字の実績を積み重ねてきたとしても、ビジネスの継続が危ぶまれる事態に追い込まれてしまうのです。
これほどの事態になる前に、経費の見直しや融資先を探すなどして、支払い能力を常に余裕のある範囲で確保し続けることが重要になります。
黒字倒産の回避は財務の管理と適切な資金繰りが重要
黒字倒産は、経営者としては極めて悔しい結果となってしまいます。
そのリスクを回避するためには「財務の管理」と「適切な資金繰り」を心がけて、手元に現金を多く残せる状態を継続することが重要です。
では、経営者としては具体的に何をすることで、黒字倒産のリスクを避けられるのでしょうか。
キャッシュフロー経営を心掛けて手元の現金を意識する
黒字倒産を避けるためには「キャッシュフロー経営」を意識し、常に手元にどれだけの現金が残っているのかを把握しておくことが重要です。
「キャッシュフロー」とは日本語で「現金収支」という意味があり、一定期間内の現金の流れ、つまり「収入」と「支出」のことを意味しています。
上場企業の場合は、「キャッシュフロー計算書」の作成および開示が義務付けられており、非上場企業においても現金の流れを把握するために重要な資料です。
古典的などんぶり勘定をしている企業の場合、経営者でありながら「自社に今どれだけ使える現金があるか」ということを把握できていないケースもあります。
このような状態では、いざという時にお金が使えなくなってしまい、重要な支払いが滞って企業としての信用を失うだけでなく、取引先や融資元を失って事業継続が困難になってしまうのです。
キャッシュフローを意識することは、企業として、経営者として当然の姿勢であることを念頭に置いておきましょう。常日頃から自社のお金の流れを把握することで、黒字倒産に陥るような事態はさけられるでしょう。
支払いサイトが長い売掛先には取引条件の見直し交渉を行う
支払いサイトの長い売掛金がキャッシュフローを悪化させている場合には、その取引先と交渉をして支払いサイトの見直しをしましょう。
特に、長く続いている会社を受け継いだ場合、過去の経営者が取引を結んだ取引先の中に、現状では考えられないような長い支払いサイトの取引先が存在している場合もあります。
取引を開始した当時であれば問題なかったような支払いサイトでも、経営状態や市場が変化したことにより、負担が大きくなっている場合もあるでしょう。
特に、大口の取引先の場合は、売掛金の金額ばかり大きくなって、手元の現金が不安定な状態が続いてしまいます。
取引先にもよりますが、今までの慣習からその長い支払いサイトに落ち着いたケースもあるので、交渉の余地は十分にあるでしょう。
ただし、あまりしつこく交渉を粘ってしまうと、取引先の心証を悪くする可能性もあるので、「可能であれば」という前提で交渉を持ち掛けてみてください。
場合によっては、その取引を始めた経営者や担当者に、交渉の場に同席してもらうことも検討しましょう。
資金調達の選択肢を増やす!税金等の支払い遅延には要注意
現金を手元に置いておくためには資金調達が重要ですが、その選択肢が少ないと現金が枯渇するリスクを高めるので、資金調達の選択肢を増やすことも検討しましょう。
一般的に企業が融資を受けるための方法としては、「金融機関からの融資」が挙げられますが、それ以外にも方法はあります。
たとえば、株式会社化して投資家や他企業からの出資を募ったり、他企業との合併等で支援を受ける、あるいは親族に資産家がいれば融資を依頼する方法があります。
特に、大企業では、取引先金融機関を複数にする方法も一般的です。
自社の力だけで現金を確保することは決して簡単なことではなく、そのためにはビジネスの原動力となるお金を集める方法を確保しておくことが重要です。
また、資金調達の方法を増やしておくことは、納税等が遅れるリスクを抑えることにもつながります。
納税の遅れは、延滞による支払いの負担を増やすだけでなく、企業としての信用を落として取引先からの心証が悪化し、ビジネスにおいて大きなダメージを負う原因となるのです。
過度な在庫を抱えない!適正水準を常に意識して在庫を発注
ビジネスにおいては、商品を販売するために「仕入れ」を行う必要がありますが、仕入れを慎重に行って過剰在庫をなくし、在庫を適正水準に抑えることが重要です。
何らかの影響によって需要が爆発的に発生する事態を予測できれば別ですが、それでも過剰な仕入れは企業の経営状況を圧迫する事態に変わりありません。
場合によっては、賞味期限などの理由から廃棄処分しなければならない商品が出て、利益を出すどころの話ではなくなってしまいます。
必要量を仕入れることがビジネスとしては重要ですが、「過剰」なレベルの仕入れをしないように常に心掛けておく必要もあります。
市場のニーズは常に変動しているので、「ニーズが減れば仕入れを抑える」といった機微な目線をもって適正在庫を維持するようにしましょう。